文豪の書いたミステリーの中に、この『オカアサン』も入っている。
赤子の声で「オカアサン」と鳴くオウムのお話である。
日常的で平穏な生活を送る夫が、オウムの元の飼い主の境涯を推理する話で、以前読んだときは正直つまらなかった。
本日、再読してこの短篇の真価に初めて気づいた。
佐藤春夫の人や動物を見る眼差しのやさしさ、細やかさにやっと気づいたのである。
新しく家族の一員となったオウムはローラと名付けられていた。
名付け親の元の飼い主は事情があって手放したという。
悪さをする訳でもない、懐っこくて、自然に言葉を覚えてお喋りする賢いペットだ。
子供のない夫婦は、たいそう気に入った。
主人はこんな可愛いローラをなぜ手放したのか、不思議に思うのだった。
ローラの話す言葉や動作の豊かさから、元の飼い主の家庭が透かして見える。
すると、夫が航海士の留守宅を守る妻と子供たち、明るい団欒の姿しか浮かばない。
その内、主人はやっと気づいた。
元の飼い主の「オカアサン」は、自分の赤ん坊を死なせてしまったのだ。
赤ちゃんそっくりの声で「オカアサン」と鳴くローラを飼うのが、辛くなったのではないか?
年月は辛い体験を忘れさせてはくれないが、徐々に傷を塞いでくれるものだ。
そして、今の家に馴染んだローラは、そこで愛され、別のローラになっていくのである。
優しい語り口が、かえって物悲しさの余韻を伝える。
読書後に、久しぶりに蒸しパンを作りました。
小麦粉とベーキングパウダーと砂糖、卵、牛乳で、容器に入れて、レンジでチンするだけです。
母の好物で、よく作っていた昔がとても懐かしくなりました。