読書の森

家庭の幸福

花村絵里は結婚十年になる兼業主婦である。
勤め先は中堅保険会社、業務のベテラン社員と言えば聞こえはいいが、
十年一日の如く、上から命じられた書類作りと、営業社員のヘルプに明け暮れる。
つまり、戦力とは見られていない。

夫の文哉は製造会社の係長、毎日忙しく働いている。
ガタイが大きく、男らし気な風貌をしているが、かなり植物男子である。
というより、十年という月日が、情熱的な動物から植物に変化させてしまった。

それとは関係なく、二人の間に子供は出来ない。
「清い間柄なの」と友人をケムに巻きながら、「清い」のじゃなく「きもい」
のかも知れないと絵里は思ってしまう。

40にして係長であるから、出世が早いとは言えない。
絵里は文哉の地位をどうのこうの言う気はない。
ただ浪費癖を改めて欲しい。

お互いに同額の生活費を出し、余分を出来るだけ貯蓄に回す。
そして夢のマイホーム取得を果たそう。
新婚間もない頃二人真顔で誓ったはずなのに。

「呑む打つ買う」というのじゃなく、ダブルインカムだからと気前よく、部下や友達に
奢ったり、人に勧められてとんでもなく高価で不要な品物を買ったりする。
貯金が出来ないどころか、生活費まで手を出す。

殆ど夫の浪費癖は病気だ、「あなた、私のひもなの?」と言ってやりたい。
絵里は最近、家事と仕事で身体が疲れて仕方ない。
退職して、楽なパート勤務をしたくても、今の仕事を続けないと生活の
基盤が崩れてしまう。

かって、素敵に背が高くて頼もしかった夫は、場所塞ぎのひも男となり果てた。
切れる寸前の絵里は、ジャージャーと水を盛大に流し、台所をこれでもかと
磨くことで憂さ晴らしをしているのである。

(続く)
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