読書の森

再びの道



真鍋靖子が木下透と別れたのは20年前の冬である。
共に21歳の法科の学生だった。

靖子は硬いりんごを思わせるきりりと締まった容姿をしていた。
その純潔そうなところに惹かれたと透は言った。

1995年1月15日、靖子のアルバイト先のスナックの前で二人は慌ただしく立ち話をしてた。
彼は靖子がスナックでバイトをするのを辞めろと頼んだ。
淫らなアルバイトだと怒るのに、靖子は辟易としていた。

「バイト代位僕が出すから」
「それで私に何をしろと言うの?」
「何も要求しないさ!何誤解してんの?」

透の顔が怒りのために紅潮してきた。
靖子は、謝ろうとしたが時既に遅かった。

くるりと背を向けて振り返りもせず、透は去っていった。
帰り際に「神戸へ行く」とポツンと漏らした。
靖子が聞いた彼の最後の言葉だった。
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