桜庭一樹については、思春期の少女の心を生き生きと描く達人という印象があります。
以前、『じごくゆきっ』を紹介した事がありますが、残酷さも含めて大人より遙かに敏感な思春期の心理描写がリアルでした。
著者は1971年生まれ、ですが、かなり長い間少女時代を引きずった感があります。これはとても失礼な表現になりますが、小説家にとって、青春期の傷つきやすさ、感受性を失わないという点は、マイナスどころか大いにプラスになると私は勝手に思ってます。
人間的に出来上がってしまったと感じる文学は、私にとってはあまり面白くないからなんですけど。
さて、この本は著者が最初に世に出したもので、小説として無理があったとしても、非常に瑞々しい息吹に満ちてます。
孤独な中学生の少女二人が、大人の男を二人殺害(実際に)してしまう話です。
思春期は傷つきやすく激しやすく、人への愛憎がごまかせずに発露しがちな時期です。
そして又やたらと金欠になって、とはいえ実際に稼ぐことはできませんからよけいに、身分不相応なお金への妄想も膨らむ時です。
というところから、気に食わない(?)男の殺害を妄想するのですが、空想と実行とは雲泥の差でございます。
殺しておいて「助けてちょうだい」も無いものですが、物凄く傷ついてしまう、そんな見た可憐で非常に怖ーい乙女を描いて出色です。
以前にも書きましたが、どうしようもない憎しみを抱えた時に、フィクションの中で殺人を犯せば何の罪にもなりません。
実際と設定をまるきり変えればいい筈なので、お勧め(危険でしょうか)いたします。
などと、コロナストレスでかなり恐ろしい人間になり果ててしまいました。
私は中学はミッションの女子校、高校が共学の公立高校で、その当時は殺人という妄想はつゆ程も持った事は無かったです。
傷つき易いくせに能天気な将来への夢を持ってたお陰でございましょうか?
全然可愛くない老女に成り果ててから、この未成熟な女子の気持ちがよく分かるなんて、退化の一途を辿ってるのか。
自分としてはそれが一番怖いです。
外に出て満開の「玉縄桜」を見つけました。
この桜はソメイヨシノを神奈川県大船植物園で品種改良して早咲きにしたものです。
一重が慎ましいのに、時期が早めなためか、おませな少女を連想させました。
これも『少女には向かない職業』を読んだお陰でしょうか?