読書の森

町田そのこ 『追放のイブ』



侘しい地方の駅に、際立って垢抜けた男女が降り立った。
女はモデルの様に美しい。
男はどうも堅気に見えない。

彼らはこの地方きっての旧家、今は住む人も無く荒れ果てた家、に向かう。
実は女はこの家の娘だった。
そして男もこの土地に住んでいた。

共に15年前に起きた惨殺事件の真相を知っている。
高校生だった女はその為に整形手術をした。
子供だった男はその為に辛酸を舐めた。

二人は暗い過去と決別出来るのだろうか?


この作品は小説すばるの9月号に掲載されている。

作者町田そのこのデビューは2年前である。
その為か、荒っぽい部分が目立つが、非常に私の心に迫るものがあった。

田舎町の美しく澄んだ自然と裏腹にある濃すぎる人間関係が分かるからだ。
高校生はその中で虐待に苦しみ、現実から逃避したいと思う。
若い繊細な心と身体に受ける苦しみは永遠に続くかの様である。

今や、眼が覚める様な美女に変身した彼女は「終わらない事なんて何一つない」と悟った。
そう気づくのが遅かったようであるが。



若い時は性急で待つ事が出来ない場合が多い。
その為に失うものがある。
ただ、失ったからこそダイヤモンドの原石の様に思える事もある。

この作品を読むと遠い昔を思い出す。
過疎地の旧家、家柄を守る事に生き甲斐を持つ老人、嘘の様に美しく豊かな自然。
それらがどんなに重荷だろうと二度と戻らないのだ。

終わって欲しいと苦しみもがいていた時をとんでもなく懐かしむ時が来るのではないか。
その時が青春なのかも知れない。

読んでいただき心から感謝します。 宜しければポツンと押して下さいませ❣️

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