読書の森

伊坂幸太郎 『僕の舟』



男性作家によるアンソロジー『最後の恋』はそれぞれ持ち味が違った作品で面白かった。
共通するのは、女性の立場から描かれている事と、主人公が充分若い事だ。

例外は伊阪幸太郎の『僕の舟』の主人公若林絵美である。
彼女は70近い平凡な主婦である。
ガンで寝たきりになった夫を介護して疲れ切っているが、何処かに少女のあどけなさを残している。

絵美は夫が最早意思の疎通が出来ない状態になった時、ある調査を依頼する。
それは、50年前に4日間だけ会った謎の男の正体を調査する事だった。
お互いに惹かれあったのに第三者の妨害によって敢え無く消えた恋である。

妻として大きな波乱も無く過ごせたのだ。その夫が死に瀕しているのに、戻らない若い時の夢を再現して何になるのだろう。

しかし彼女は堅実な見合いで結ばれて、切ない苦しみもときめきもなかった事に密かに不満を抱いていた。
一見貞淑な女性の残酷さとも思える。

ところが、調査の結果、意外な事実が判明する。
絵美はその憧れの人とハプニングで知り合った。
二人きりで会う事だけでも我を失っていたのだ。
その人は眼帯をしていて、しかも夜の薄明かりで見て顔立ちも朧だった。

50年後調査員が伝手を頼って調べると、男は実は夫と同一人物だった。

夫婦は同じ舟に乗り二人で協力して波を越える。
絵美は夫の「舟」に最初から最後まで同乗していたのである。
私にとって、絵美はとても幸せな人に思えるが、彼女が追われている介護の現実は過酷である。

人生の暮れ方、貞淑な妻は現実には決して出来ない最後のアバンチュールを楽しみたかったのだろう。




最後の恋をする年齢に原則制限はありません。
とはいえ、目の色を変えて恋にしがみつく老人は見っともないです。
きっと、若くないからこそ、その瞬間歳も忘れ、現実を忘れて、甘い夢に酔ってしまうのでしょう。


歳を重ねなくても、恋は甘やかだけでは終わらない様です。
胸弾ませて、一つの舟に乗って気がついたら、無人の場合もあります。

どんなに現実でも、自分一人で対処していかねばなりません。
今までこんなに頑張ってきたのに、と言っても、誰も昔の自分を見てくれはしません。

ですから、人生の暮れ方「最後の恋」を夢見るのかも知れません。
男女を問わず、年齢を重ねる程に、人は同じ一つところで安らぎたくなります。
ちょうど同じ故郷を求める様にです。

私にとっての最後の恋は故郷に帰る気持ちに似ています。
日々厳しくなる世の中を渡りながら、心の中に生きる思い出の故郷を懐かしむ気持ちです。
そんなものなのです。

本当に何度も内容変更して申し訳ありませんでした。
気候の変化の激しい昨今、どうか呉々もご自愛ください。

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