緑のカーテンとゴルわんこ

愛犬ラム(ゴールデンレトリバー)との日々のあれこれと自然や植物、
本や映画などの勝手な独り言を書き留めています

トマス・アクィナスの「神学大全」訳書全45巻

2014年04月14日 | 
トマス・アクィナスは 13世紀の中世ヨーロッパの神学者、哲学者として有名な人です。大部な「神学大全」はキリスト教徒のためだけに書かれたものではなく、もっと幅広く人間にとって幸福に生きることは可能なのか?、神を信じるということはどういうことか?などの根源的な問いに答える優れた歴史的な書物だと言われています。

私が初めて職に就いた学術書出版社の「創文社」という会社は、哲学書、歴史学、宗教学、経済学などさまざまな学術書を出版していました。ハイデッガー全集やキルケゴールの著作集、柳田謙十郎著作集、西谷啓治著作集、刑法学の団藤重光東大名誉教授の法律書などが有名でしょうか。

その創文社からトマス・アクィナスの「神学大全」全45巻が出版され、第67回の毎日出版文化賞(企画部門)を受賞したそうです。長年にわたった素晴らしい仕事を成し遂げられたのだなと心から嬉しく思っています。



私が働いていた頃は、編集部には大洞正典編集長のもとに私を含めて4人の編集委員しかいず、営業部を入れても15人もいないような小さな会社でした。きっと今も規模はそんな変わらないのではないかと思います。

出版社は、本当に出したい本を出し続けたいなら所帯を大きくせずに、これくらいの規模がいいのだと昔、聞いたことがあります。京都の弘文堂という出版社から独立した久保井理津男社長と大洞編集長が全てに目を通した本しか出版していなかったと当時も思っていました。
兄弟会社というか、同じ弘文堂から出てきた出版社には未来社があります。やはり同じような規模の出版社だと思います。

トマス・アクィナスの「神学大全」の出版に創文社が取り組み始めたのは1960年(昭和35年)で、全巻の完成が2012年(平成24年)、なんと52年間をかけて出版された本です。想像を超える長く忍耐強い仕事ぶりですね。



当初からの編集責任者である久保井社長は、最終巻の校正を終え、あと少しで本の形になるという時にガンで亡くなられたとのことです。しかし、52年の歳月をかけ「神学大全」が完成することを確信しての旅立ちだったので、きっとお心を休められてのご逝去だったことと思います。

先ごろ、訳書全巻完成を記念して、ローマ法王庁へ全45巻を贈呈し、その際の映像をまとめたDVDが元社員である私のもとにも送られてきました。森永エンゼル財団の作成したDVDです。

なかなかDVDの内容を見ることができなかったのですが、やっと今日、パソコン画面で拝見できました。懐かしい久保井社長のお姿や創文社内での仕事ぶりなども画面に出てきます。小柄な身体にエネルギーを一杯詰め込んだ久保井社長の在りし日の姿が記憶の中に浮かび上がり、麹町一番町の古い洋館にあった社屋の1階の営業部から階段を駆け上がってきて2階にある編集部に「大洞くん!」と呼びかけながら入ってくる久保井社長を思い出していました。

そして、社内の様子を映し出した画面になんと20歳そこそこの私自身の姿も映っていました。びっくりしてパソコンを見ながら、思わず「あら?私だ!」と声を出して、そばにいたラムパパをびっくりさせてしまいました。
画面の手前に横顔ですが、はっきり写っているので本人にはすぐわかりました。社内での仕事風景などは、写真でも持っていないので、何とも懐かしい自分自身に出会えた瞬間でした。

「神学大全」の出版完成をめぐるそのDVDの内容は、YouTube にもアップされているので、誰でもみることができるようです。
「学問と出版 トマス・アクィナス「神学大全」全訳の歩み」というタイトルで検索できます。社内の風景が映し出されるのは、全30分のDVDの19分くらいからでしょうか、一瞬だけですが。

なんという時代になったことでしょう。久保井社長もさぞかし驚いていることでしょう。どうせYouTube にアップされるなら、もっと元気な様子を映像にしてほしかったなと笑っているかもしれません。
52年間、こつこつと1本1本活字をひろい、組版にしてゲラ刷りをだし、真っ赤に赤字訂正された校正原稿を見ながら、また活字をひろっていった印刷所の様子も紹介されています。

日本で最高の活版印刷の会社、精興社という有名な印刷所での作業です。活版印刷所のあのインクのにおい、活字の鈍い光、最終校正がおせおせになり、印刷所の校正室でゲラ刷りを待っていたり、植字工のおじさんのそばで、「ここの文字のかすれを直して。この字は旧字でお願い!」などと注文をつけていた私の姿も目に浮かんできました。タイムスリップしたような今日の午後でした。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿