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明日の朝のJALで「イージス」海外チームは帰国の途に着く。
年明けから4ヶ月に渡る「編集」「サウンドトラック」そして、「最終録音・仕上げ」の旅もようやく終わろうとしている。
今さっきLAのスタッフとの打ち上げを終えてホテルに戻って来たが、橋本御大も阪本監督もそしてプロデューサーもいつもとは違って口数も少なく、静かに酔っていたのが印象的だった。
事件は立て続けに勃発。プロデューサー、監督、そして記者がロンドンからLAにたどり着いた翌日、まず制作進行のY川が皆を乗せた車を運転中、突然嘔吐したままハンドルに突っ伏した。車の速度は50マイルは超えていたのでかなりきわどい危機一髪。で、彼を救急メディカルセンターへ。
一旦診察は受けたが、大特急の急患でなければ検査は後・・・という訳で夜の10時過ぎから4時間待ったが、一向に呼ばれる気配なし。P氏が椅子で眠っていたY川を見て「真っ青だった顔に赤みが差してきたな・・・。よし帰って寝かせよう」
朝一で日本人医師に診てもらう段取りをしてから他のスタッフはスタジオへ。ミキサーのテリーとクリス、そして音響効果のもう一人のクリスと橋本御大を中心にセッションが始まったが、皆Y川を心配してか、どーも「なんだかなぁ」な感じ。うまく行かない。
翌日、強行軍がたたって今度は監督が39度の熱。でも休むことは出来ない。言葉とニュアンスの壁も影響して、スタジオには重苦しさが漂い始めた。
そして4日が過ぎて今度は橋本御大がダウン。ご自身でフェーダー(音量調節のツマミと思って下さい)を動かせないもどかしさと、決して短期ではない今回の滞在の疲れからか、御大はめっきりやつれてとうとう食事がアウト。P氏が検査結果の早く出る病院(もちろん日本人医師)を探し回る。記者も取材どころではなくダビングの段取りやスタジオの雑事に追われる毎日。
やはり海外は無謀だったのだろうか・・・。皆がそう思い始めていた時、ついに4度目の事件。
今度の主役はP氏。その日突然現れたポスプロのボスは、今までの通訳S女史を押しのけて流暢な日本語を駆使して日米の間に割って入った。
ボス 「ですから、銃声を消さないのなら俳優の息づかいを残しておくのはおかしい、と言ってるのです」
監督 「オレの映画ではよくやるんやけどね・・・」
ボス 「ですから、そんなことはおかしいのです」
監督 「・・・」
P氏 「・・・」
ボス 「ですから・・・」
彼が言い終わらないうちにP氏が立ち上がった。
ボスに悪気がないのは分かっていたが、まぁなんとも間が悪かった。
その日は作業を止め、LAスタッフが帰ったスタジオでボーッとしていた我々に「3時のおやつよ!」とクッキーを持って彼女が現れた。
名前はジェーン。このスタジオのフロントデスクで皆に笑顔をふりまいているキュートなお嬢さんなのだが、こうして毎日「3時のおやつ」を届けてくれる。
もちろん飛びっきりの笑顔も忘れずに。
ジェーン 「どーお、上手く行ってる?」
P氏 「あぁ、何とか」
ジェーン 「たまには休まないとダメだよ」
一同 「・・・」
ジェーン 「サウンドマンのマイケルが言ってたけど、みんなの映画は凄いって。ハリウッドでも全然負けないって」
一同 「・・・」
ジェーン 「疲れて、コンフューズして、せっかくの映画台無しにしちゃダメだよ」
一同 「・・・」
ジェーン 「明日も待ってるね」
彼女は僕らの事情を知っていた。
監督 「プロデューサー・・・」
P氏 「うん?」
監督 「もう一回最初からやりましょか・・・」
P氏 「・・・」
監督 「せっかくの映画ダメにしたらあきまへんわ」
橋本御大 「よっしゃ、ほならやり直しや。テリーとクリスともういっぺん腹割って話そやないか。相手も同じ映画人や」
P氏 「・・・そうですね。分かり合えますよね」
橋本御大 「当たり前やないか。お互いのクセが分かったところでアタマっから話し合いや!」
監督 「そうでんな・・・」
P氏 「そうですね・・・」
翌日からこのチームはシステムを変えた。何のことはない。日本サイドは「こうして欲しい」から「こうしたいのだが、どう思う?」と言い方を変えた。ただそれだけ。
しかし、確実に流れが変わった。
そして怒涛の7日間が過ぎ、今夜の打ち上げではみんな肩を抱いて泣いた。
監督「僕は皆さんと仕事が出来たことを誇りに思います。日本に帰って皆さんのことを自慢したい。でも言いません。何故なら、こんな素晴らしいスタッフを誰にも渡したくないから・・・」
本心だったのだろう。阪本順治は下を向いたまま顔を上げなかった。
そしてホテルへの帰路。運転は回復したY川。
通訳S女史 「すご~い!さすがプロデューサー。ジェーンのメールアドレスちゃんとゲットしてるんだぁ?」
P氏 「なんでそう人聞きの悪い言い方するかなぁ~ 記念写真送らないといけないでしょう?ハッハッハッ・・・」
Y川 「じゃ、すんません。僕の撮った写真も送ってもらっていいっすか?」
P氏 「おい、Y川。お前、今何てったぁ?」
Y川 「いや、あの、ジェーンの写真・・・。」
P氏 「このゲロ野郎が、ジェーンの写真だぁ?誰が撮っていいって言った?」
Y川 「いえ、あの・・・」
P氏 「カメラ貸せっ!こらっ!データ消したる!」
Y川 「やめて下さいよぉ~」
P氏 「首絞めてやる。さぁ吐け、だいたいなぁ、なんで野菜ジュースを冷蔵庫に入れないんだよ?しかも10日もだぁ?そんなん飲んだら吐くに決まってんだろ!おまけにジェーンの写真を撮っただとおおおおお!」
一同 「・・・」
先週に続き、大丈夫か?「亡国のイージス」!公開まであと3ヶ月(約)!!
イザヤ 拝