昨日あのトレバー・ジョーンズさんからメールがあったそうです。次回作の作曲スケジュールを調整して下さり、7月27日のジャパン・プレミアに出席いただけるとのご連絡。そしてその際、以前から興味のあった「大相撲」をご覧になりたいとのこと。
「そのあたりは名古屋場所だぁね。いい席押さえなきゃ」と、いそいそとどこかへTELし始めたP氏の顔もとても嬉しそうです。しかし、その横顔を見ているうちに・・・私の脳裏には、絶対に思い出したくなかったあの日の、「あのP氏の顔」がまざまざと蘇って来ました。ああっ、思い出したくなかったのに・・・。
ここでちょいと「戦国自衛隊1549」ばりに、 タァーーーィム・スリップッ!!
ここは、あのロンドンはアビーロードスタジオの3スタ。時刻は朝の6時すぎ。トレバーさん、阪本監督と一緒に、最終作業を終えたサウンドトラックをハードディスクにコピー中。終了次第、遙か彼方ハリウッドで待ち続けている録音監督、橋本文雄大明神のもとへ、一刻も早くこのハードディスクを届けなければならない状況・・・なのに、このコピーがとにっかく時間がかかる。いつまで経っても終わりゃあしない。
「あのぅ、あと、どのくらい?」とめっちゃ丁寧に訊くP氏に、ミキサーのアンドリューは、「んーー、2時間くらいかな。でも正確なとこはマックにしか分かんない」とウインク。しかも両目。やっぱり眠いんだな相当に・・・。
まあでも、あと2時間で終わってくれれば8時過ぎにスタジオを出て、9時過ぎには空港着。飛行機の出発時刻は10時だから何とか間に合う。国際線慣例の2時間前チェック・インはハナっから無理だけど、一時間弱もあればいくら厳重警戒のヒースローでもなんとかなる、はず。
ところがその日、何の祟りかアンドリューのマックは機嫌が悪かった・・・。トレバーさんファミリーに早口で別れを告げてスタジオを出たのは既に8時30分過ぎ。大急ぎでローバーに飛び乗りいざ空港へ。運転はロンドンのナンバー1コーディネーターの林さん。この人超のつくインテリタカ派で、スタジオ内ではP氏と日本とアジア諸国の将来について激論を交わしてましたっけ(笑)・・・なんて悠長な話をしている間もなく、やがて幹線道路を突っ走るローバーの行く手に予想外の大渋滞が・・・。
林 「事故ですね・・・これはどうにも・・・」
阪本 「・・・」
P氏 「・・・」
その時、同乗していた音楽コーディネーターの深山さんから提案が。
深山 「プロデューサー、10時の便はあきらめましょう。3時間後のBA(英国航空)に空席が少々ありました。最悪一人だけでもハードディスクを持ってその便でLAに飛びましょう」
林 「それが確実ですね。直ぐBAのカウンターへ連絡します」
深山さんが肯き、林さんが携帯を取り出したその時・・・ずっと黙っていたP氏がおもむろに口を開きました。
P氏 「乗るよ」
一同 「え?」
P氏 「10時のに乗るよ、みんな一緒に」
一同 「・・・!?」
P氏 「だってまだ時間あるじゃん。予定は簡単に変更しちゃダメだよ。最後までガンバル・・・約束は守らなきゃ」
一同 「・・・」
その言葉を聞いた時、きっとみんな、ロサンゼルスでひとり夜を徹してプリミックスをしながら我々の到着を待ち続けている橋本御大の姿を思い描いていたと思います。
次の瞬間、林さんはいきなりタイヤを鳴らしてローバーをUターンさせました。そして少しでも近道をと、幹線道路から片側一車線の一般道へ猛スピードで飛び込んでいきます。
人間はヤバい時2通りのタイプに分かれるらしい。じっと黙したままの阪本監督。その横で「ヒャッホー、怖ぇーー!」と騒いでるP氏(笑)。
そんなこんなでとにかく着いたヒースロー。空港の時計はなんと9時45分!しかしここから映画屋の動きは早かった。荷物を阪本さんと当方に預けて全員分のチケットを握って走り出したP氏と深山さんの背中はアッという間に人混みに消えた。我々はその後を追って荷物が山積みの台車を押して走る。前方でP氏がこっちこっちと手を振ってる。傍らのカウンターでは深山さんが、いつもの冷静な口調で「とにかく乗せて下さい。飛行機はまだ飛んでませんよね」と交渉のラストスパート。そして交渉成立!よしっと全員大特急で手荷物検査へ。ふー、これで一安心、と思いきや・・・甘かった。
このときの我々4人の身なりなんですが・・・4人とも黒いハーフコートに黒のズボン。その上全員が黒いサングラス。LAへ出発間際にそんな「なんちゃってマトリックス」なやつらが4人、これまた黒いスーツケースを山のように機内へ持ち込もうとしてる図をどうぞ想像してみてください(笑)。警戒レベルはレッドゾーンになって当たり前。もしここにあのサンダース軍曹がいた日にゃ、ためらうことなく我々に引き金引いてたでしょうね(笑)。
というわけでこの時間のないときに、みんなコートばかりか服まで脱がされて身体検査。そうです、あの変な丸い輪のついた棒で体中を触られました。P氏に至っては人相が災いしてかズボンも脱がされ、「こんなん、あり?」とブ然としてましたっけ(笑)。本来は個室でのチェックなハズですが、なんせ出発時刻まであと10分。贅沢は言えません。
それが終わると次はスーツケースの中味の取り調べ。しかしここでもまた足を引っ張るんですよ! P氏が!!(笑)。美術助手の経験もある阪本さんのスーツケースはピシッと綺麗に整理整頓されていて、係官のチェックも瞬時に終了。それに引きかえP氏のそれは、まあもう、ひっくり返したおもちゃ箱状態で係官もア然・・・。おかげでイチイチ荷物を取り出さなくてはならず時間のかかることかかること・・・。その荷物の中で、M越の愛娘へのおみやげのぬいぐるみが恨めしそうにこっちを見てる。やっとこさ全員無罪放免となったのは定刻の10時を5分以上過ぎた頃。息つく暇もなく、4人の中年マトリックスは、またもや搭乗ゲートへひた走る・・・。
P氏「しかしどこが紳士の国なんだよ。ほとんどスッポンポンにされたじゃねーか。それも若いオネーチャンの係官に」って怒ってる道理はない。遅れたこちとらが悪いのだ。ようやく機内へ。乗り込んでいく我々を見る他の乗客の視線が冷たかったこと・・・。席に着き、やっとほっとしたその時、今度は阪本監督がポツリ。
阪本 「遅れますわな、遅いんだから・・・」
一同 「は・・・?」
阪本 「ここはヒースロー。ヒー スロー。HE SLOW・・・」
一同 「・・・」
と,まあいろいろなことがありましたが・・・(笑)、しかし、あの渋滞に巻き込まれた時、P氏の一言がなければ我々はこの便に乗ることをあきらめていたでしょう。ちょっとだけ見直した思いでP氏に目をやると、離陸する前からガーガーと爆睡していました(笑)。
12時間のフライトでLA着。早速大事な大事なハードディスクをミキサーのテリー・ロッドマンに渡し、その後、橋本御大を囲んでやっと一安心の夕食となりました。
阪本さんも一息ついたのか、美味そうに赤ワインを飲んでいます。でもその席にP氏の姿がありません。
現場アシスタントの「ゲロ川」ことY川(「THANK YOU ジェーン」の回参照)に尋ねてみると、P氏は大切な用事で遅れるらしいとのこと。それを聞いて感心してしまいました。いつもバカばっかり言ってますが、予定の行動を遵守し、いかなることがあろうと約束を守る。きっと今もP氏はドロドロに疲れた身体に鞭うって、他の「約束」のために走り回っているんだろう。映画というのはそうやって作られてるのか・・・そう思うとこの映画に密着できて本当によかった・・・。そんな風に気持ちよく酔っていると、しばらくしてP氏が現れました。さぞや疲れているだろうと思って見ると・・・ん?なんだかやけにスッキリ、サッパリしてる・・・。
阪本 「どこいっとったんでっか?」
P氏 「マッサージ。しかもフィンランドマッサージっていうやつ。ここんとこほら、徹夜も続いたでしょう。肩も凝ったしね。そんでロンドンから予約しといたの」
一同 「・・・」
P氏 「いんや~凄いのよフィンランド・・・毛むくじゃらの大男が強力なマッサージやってくれるんだけど、こっちはパンツもなしのスッポンポンなわけ、でっかいタオルにくるまってさぁ」
一同 「・・・」
P氏 「しかし、マイッタねぇー、ロンドンでもスッポンポン、ハリウッドでもスッポンポン。これじゃ日本に帰ってからみんなでスッポン鍋でも食らわなきゃなんないっつーの。いやー参った、参った、なんちって」
一同 「・・・」
その時、スリッパがあればP氏の後頭部を思いっきり引っ叩いてやりたいと思ったのは、絶対私だけではなかったはずです。P氏が言っていた簡単に変更してはならない「予定」や守らなくてはならない「約束」とは、『予約』・・・それもマッサージの『予約』だったんですよ! フィンランドが一体何だって言うんだ! おまけに言うに事欠いて「なんちって」だとぉぉぉ!? ・・・あー情けない! ホント情けない! 彼の仕事に対する姿勢に感心してしまった自分が誰よりも情けないっ!!・・・阪本さんもさすがに何か言いたそうにしていましたが、それより先にP氏が、マッサージで体と一緒に口まで軽くなったのか、ペラペラとやたら陽気にしゃべり出しました。
P氏 「あれっ?監督、ワインのボトルがカラでっせ・・・今日はおつかれさん。どんどんイカなあきまへん。ワインの栓を抜きまひょ、スッポンっと! キャハハハハハハ」
7月27日。トレバー・ジョーンズが日本にやってきます。これが彼にとって初めての日本だそうです。偉大な映画作曲家の目に私たちの国はどのように映るのでしょうか。
そして彼と一緒に、いよいよ今年の「夏」がやってきます。
そうです。待ちに待った「日本の夏 イージスの夏」です。
その夏の始まり、すなわちこの映画の公開初日=「約束の日」に向けて、P氏もM越氏もひたすらに走り続けています。このブログを盛り上げてくださっているみなさんと一緒に。
7月30日、「亡国のイージス」公開日まであと47日!
で、公開しちゃったら・・・思いっきりスリッパだ! そん時ゃ手加減はいらないぞ! 素振りやっとけよ! なっ! ペンギンっ!
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