本年5月21日(土)14:20、我々はカンヌ映画祭のすべての日程を終え、ニース空港のキャフェテリアにいた。チェックインをすべて済ませ、あとは飛行機に乗り込むだけ。窓際のテーブルで、窓際にはだいだらぼっち氏、その隣には私、出雲あきら、だいだらぼっち氏の目の前にはS常務、その隣にはだいだらぼっち氏のお供の二人が座っていた。この5人のフライトスケジュールを見てみよう。
だいだらぼっち氏一行&S常務:
14:55ニース発(AF7705)→16:30パリ着、
17:45パリ発(JL416)→翌日12:35成田着
出雲あきら:
15:30ニース発(BA345)→ 16:30ロンドン着
19:45ロンドン発(JL402)→翌日15:00成田着
キャフェテリアでは無事に仕事を終えた5人が、かなり声高にしゃべっていた。もちろん、話題は往きでなぜ乗り遅れたかを蒸し返し、大笑いしながらの会話で、はっきり言って周囲からは浮いていた。だが、今回は出雲あきらがいる限り、乗り遅れなどさせる訳はない。出雲は海外に行く場合は2ウェイの時計を必ず持っていき、下は日本時間、上は現地時間、当然、往きではスチュワーデスの「無事着陸しました。ただいまの時間は○○です」のアナウンスで時計は瞬時にあわせていた。そう、出雲の行動には隙はない。
14:25、出発の30分前である。ギリギリにのればいいと思っているだいだらぼっち氏一行に「さあ、行こう」と出雲は言った。しぶしぶ立ち上がろうとするだいだらぼっち氏。左を見てだいだらぼっち氏が叫んだ。「上着がない!」だいだらぼっち氏は自分の左側のイスと窓との間にいつもの黒の上着を置いていた。(ちなみにだいだらぼっち氏の服装は常に黒の上下に黒のワイシャツ黒のネクタイである)そして、その上着のポケットには自慢のアメックスブラックカードなどがぎっしり入ったサイフ、パスポート、搭乗券が入っていた。盗まれたのである。窓とイスの間は隙間などなく、前にはS常務が座っており盗られるはずがなかった。しかし本当にないのである。我々はパニック状態になった。あの普段表情を変えないだいだらぼっち氏も動揺をかくせない。
諸々議論をし、だいだらぼっち氏のお供の1名(A氏)が残り、後は予定通りに帰国することに。出雲は出発まで若干時間があったので、だいだらぼっち氏と二人で空港内の警察に。残ることになったA氏はチェックインした自分の荷物をとりあえず機内から取り戻すためにエアフラのカウンターへ行った。(パスポートが発行されるまでフランスに滞在しなければならないからである)警察では形式的な質問のみ。だいだらぼっち氏も出雲も英語があまり得意ではないのであるが、とにかく二人でなんとか盗まれた状況を説明、判子がおされたペラペラの紙を1枚くれた。(盗難証明書のようである。)次は盗まれたカード等を止めなければならない。まずアメックスへ電話。さすがに自慢のブラックカード、パリのホテルの手配から現金まで手配してくれ、なんでも言ってくれという対応。そこにA氏がエアフラの職員を連れて戻ってきた。その職員は胸を張って言った。「エアフラは責任をもってパリまでお連れします」。出雲はほっとした。これで何とかなる。パリに行き、日本領事館でパスポート再発行してもらえば帰ってこられる。だいだらぼっち氏は言った「もう大丈夫だから行ってくれ」。さすがのヒトデナシの出雲も数少ない友人のひとりであるだいだらぼっち氏を置いてひとりで帰るなんてと思ったものの、実は一人だけロンドン経由で帰る理由はロンドンで買物の予定があったためで、友情よりもやはり買物優先。15:10、多少後ろ髪を引かれる思いでゲートへ。但し、ロンドン便は国際線のため、別のターミナル。田舎の空港とはいえ海外の空港は広い。とにかく走る走る、これで乗り遅れたらシャレになりません、ブログに逆に書かれてしまうかもしれない。でも、何とかギリギリで間に合い、帰国の途につくことに。
とはいっても、その後、二人はどうなったか心配で心配で、一緒に残ればよかったと後悔する出雲でありました。約3時間のロンドンでのトランジットと12時間のフライトを終え、無事に成田に到着。入国審査所のところで、日本の携帯電話の電源を入れ、パリのだいだらぼっち氏に電話をいれようとします。その時、電話がなりました。着信は何とだいだらぼっち氏、それも日本の携帯電話の番号です。幽霊か?恐る恐る電話に出ます。「今、どこ?」「イヤー、いろいろあったけど、もうとっくに成田に着いて、もう車で東京に向かっているところさ」「えーっ」。
私のショックはそれはそれは大変なものであった。いったい何がおきたのか、軍用機でもチャーターしたのであろうか?
ここからは、後日だいだらぼっち氏に取材した話。
出雲あきらを見送った二人。その後は、パスポートの再発行のため、パリの日本領事館と連絡をとることに。運悪くその日は土曜日で領事館は休み。あの往きで自分の責任を棚に上げて、強気の交渉をした二人はめげるはずはなかった。領事館員の自宅の電話番号を入手し、翌日朝8:00に会うことを約束させた。さあ、今回こそパリ滞在だと少し喜ぶだいだらぼっち氏。エアフラが用意してくれた16:35発シャルルドゴール行きAF7715便に乗り込んだ。シャルルドゴール空港に18:10に到着。まずはJALのカウンターに行ってみようということになり、カウンターに。そこでベテランの女性地上職員にニース空港からの出来事を説明した。一通り説明を聞いたベテラン職員が静かに言った。
「お客様、このまま東京にお帰りになるつもりはありますか?」「はあ?」「今、パスポートを盗まれた証明書をお持ちですよね。加えて、お一人がこの方の身分を保証してくださいますね」。A氏「もちろんです」。「それではゲートまで走ってください」。JALはもう一便東京行きがあったのです。406便の搭乗券を渡された二人。思わず二人で抱擁を交わしてしまったとか。「早く走ってください」の声に現実に戻った二人。シャルルドゴール空港の中を走る走る、機内に乗り込んだとたんに扉が閉まった。
JAL406便は19:05にパリを出発し、成田には13:55に到着した。出雲あきらの到着1時間5分前であった。
成田での入国審査も例の証明書とA氏の身分保障で滞りなく終了したとのこと。さて、これだけでは終わらないのはだいだらぼっち氏一行。少々ややこしい話だが、先に帰したお供のM嬢。成田空港で荷物を出てくるのを待ち続けるものの、やはり荷物は出てきません。そうです、だいだらぼっち氏の名前でまとめて荷物をチェクインしてしまっていたのです。当然、お供のA氏がニース空港のカウンターで自分の荷物だけを降ろす手続きをした際に、お供のもう一人のM嬢の荷物はロストの憂き目にあったようです。往きに続いて帰りも荷物を手に出来なかったM嬢。おそらく今後の人生ではこんなにひどいことはおきないでしょう。
さて、「亡国のイージス」の公開まで3週間余り。映画には運というものがあります。カンヌでだいだらぼっち氏がこれだけ厄落としをしてくれたので、大丈夫です。そして、いよいよ私、出雲あきらもキャンペーンに同行します。どこに行くのか、誰に同行するのかは、乞うご期待!!(誰も期待していないか・・・。)