風を紡いで

旅の記録と料理、暮らしの中で感じた事などを綴っています。自然の恵みに感謝しながら…。

「母の私書箱」

2006年05月08日 | アート(本 美術 映画 音楽etc)
内海隆一郎著「人びとの旅路」(新潮文庫)から

21の短編を集めていますが、なかでも「母の私書箱」は、何度読んでも胸に迫り涙がこぼれてしまいます。いつ読んでもそうなのです。息子夫婦と母親の話なのですが。息子は母親の真意に気付かず、長い間誤解しているのですが、母の入院を機に真実を知ることになります。私書箱の秘密と母の本当の気持を…。

「(略)相手のために尽くすということを前提にしていただきたいのです。尽くされることだけを望んで、幸せ……」-便箋に書かれた母親の手紙の一部ですが、心に響く言葉です。これ以上書いてしまうとまだ読んでいない方の興味が失せてしまうと思いますので…この辺で止めておきます。

私の母は、大正生まれでしたが芯の強い人でした。経済的には恵まれたほうでしたが、嫁ぎ先(私の実家)ではいろいろあり、精神的な苦労は並大抵ではありませんでした。私は親になり、初めて母親の気持ちが理解できたものです。誤解していた部分が多く、寂しい思いをさせたのではないかと悔やまれます。

その母が脳血栓で半身不随になりました。入院中は付き添い、退院後、休日には見舞いに行っていました。お盆や正月には、夫の理解もあったので私たちの家に呼んで一緒に過ごしたものです。仕事をしながら、できる限りの介護はしたものの、母が亡くなった今では、「もっと親孝行をしていれば良かった」と母の日が近づくと思うのです。


内海氏を知ったのは、10年以上も前になります。会社の先輩にいただいて読んだのが始まりでした。どこにでもあるような、身近な話なのですが、とても温かいのです。普通の人々の日常を淡々と切り取っているのですが、なんともいえず爽やかな気持ちになる作品ばかりです。

「人びとの旅路」の中の「彼女の初恋」もまた、涙なくして読めません。切ない恋心がじっとくるのです。ほかにも好きな作品がたくさんあるのですが、またの機会に紹介したいと思います。

(写真はロベリア)
コメント (6)
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