柏木のために弁護すれば、当時、男女関係はほとんどレイプによって成立した。その典型は、「物語」の正編の後半、玉鬘が黒髭大将に犯されて結婚にいたる過程が如実に示している。普通、姫を取り巻く女房たちが手引きするのが、前提だから、それが制度化されていたとも言える。若き源氏の華やかな恋の遍歴もその発端はほとんどレイプであり、女の同意の上での密通は、稀と言ってよい。ついでに記せば、宇治十帖における匂宮――源氏の孫にあたり、次の東宮候補の一人――などは、源氏のようなスケールの大きさが見られないところから、好色な、あくどいレイプ魔と現代的には言える。今井源衛氏が『源氏物語への招待』(小学館ライブラリー)で密通という言葉で強姦という実態を忘れてはならないと指摘したのは、事態を曖昧にしないためにも適切であろうが、制度化された貴族社会において、一人柏木を責めるのは酷であろう。
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