野に撃沈

多摩地区在住の中年日帰り放浪者。ペンタックスK10Dをバッグに野山と路地を彷徨中。現在 野に撃沈2 に引越しました。

田代山③―下山の難しさ

2006-09-05 | 登山
 弘法沼から南西へ弘法大師堂のある辺りまでやってきた。ここから1時間ほど樹林帯の尾根を歩くと鬼怒川と利根川の分水嶺となっている帝釈山までいくことが出来る。予定でもその積りでいた。

 が、今回は重大な忘れ物をしてしまっていたのだ。ザックに入りきれない荷物をビニール袋に入れたのは良いが、それをそっくり家に置き忘れてきた。中には厚めの靴下3足と地図、非常食と登山には欠かせないものばかり。しかも気づいたのは登山口についてから。一瞬暗然としたが、しょうがない何とかなるだろうとハイキング用のサンダルでここまで登ってきた。

 そういう次第で、楽しみにしていた帝釈山までの稜線歩きは断念し、避難小屋から再び木道の敷かれた湿原に戻ってきた。1時近くになったので昼食をとることにした。先ほどまで吹いていた風がいつの間にか止んでいる。足元には盛期を過ぎたキンコウカが群生している。タンポポのような愛嬌のあるウサギギクも見える。

 
 合間に見える小さな花はイワショウブだ。薄小豆色の花被に白い花を咲かすので5分咲きぐらいが一番きれいに見える。見た目は可憐で美しい花なのだが、数カット撮っても上手く撮れなかった。こんな時、きれいに撮れなくて花に申し訳ないと思ってしまう。青紫色の花はオヤマリンドウ、蕾から花弁を開ききることがない。満開になっても僅かに花芯を覗かせているだけなのが何とも奥ゆかしい。


 弁当を使いながら花たちを何時までも眺めていた。山の花は見ていて飽きることがない。費やした時に応じて色や形や趣が変幻自在に変わっていく。小さな驚きや思いがけない発見の絶えることがない。

 至福の時の流れに身を置いていると、そこから抜け出すのが難しい。山に登るのは体力的には辛いものがあるのだが、下山には精神的な辛さが付きまとう。何時までもこのゆったりした時の流れを味わっていたい。きっかけがつかめないので、いつも僕は「ちょっと下へ降りてくるよ」そして「じきに戻ってくるさ」と自分に言い聞かせながら下山を始めるのだ。