『植田実の編集現場――建築を伝えるということ』
『都市住宅』編集長(~1976)、「住まい学大系」編集長(1987-1999)を経て現在もフリーで活躍する編集者・植田実氏が、2003年度日本建築学会賞文化賞を受賞したのをきっかけに企画され、花田佳明氏によってまとめられた本。「植田は批評そのものを扱うのではなく、自らの『夢』を巧みに編集することにより、雑誌や本そのものに別のかたちの『批評』力をもたせることに成功したといえるだろう」。植田さんを追った著者の「夢」が紙面に溢れる。
冒頭で著者が「植田実像が揺らぐ事件」としてあげた『真夜中の家』の読書体験と似たことが、わたしにもあった。「揺らぐ」ほど植田さんを知らないけれど、北園克衛をめぐる研究誌「kit.kat +」第2号(2003)での<還元的イメージと生のつぶやき>や、故・森原智子さんの個人誌「TOUCH」no.6(1988)での<傷>をお書きになっている植田実というひとが、あの植田さんなのだろうかと。その後「TOUCH」を持ってご本人にお会いする機会があった。なつかしい!森原さん、お元気ですかと聞かれた。亡くなったことを伝えた。
あとがきに森原さんはこう記した。「建築が芸術的要素の頂きにあるということは、植田実さんのあらゆる事物へのフレキシブルな接近が、どの様に大きな環をもっていられるのか知るのと同じことだ。」
この本のデザイン・装幀も手掛けた山口信博さんが、「住まい学大系」のブックデザインについて寄せた文章も貴重。「ハーフ・ジャケット」の誕生、製本屋さん泣かせの背タイトルのデザイン、それを記した表紙やカバーの指定書も収録。なお、前見返しは赤、後見返しはピンクです。
発行元はラトルズ社で、シェアード出版による。制作に関わるひととラトルズ社の株主から制作費を募り、売上に応じて利益分配するという仕組み。パソコン関係書籍が多いとのことだが、他分野から参加する機会を広める一冊にもなるだろう。
・
ラトルズ/シェアード出版について