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街角の映像制作下請け零細業者のブログ




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シャイニングを初めて見たときのことは今も覚えている。夜中の2時くらいに独りでDVDを見て、当時は喫煙者だったのだが死ぬほど吸いまくり、最後まで見てあまりの恐怖に「もう二度と見ない」と誓った。だけどやっぱりあの映画は覚えてるんですよね。なんでだろう?脳裏に焼き付くというのはこのことなのか。。そんなこんなで、シャイニングはたびたび弊ブログでも話題にしてきたのだが、かのオープニング・シーケンスについてニワカの知識が蓄積されてきたのでここらでまとめてみた。

 

先日挙げたエントリーで俄然興味が出てしまったので、自分なりに消化してみる。シャイニング未見の方はそっと閉じてください。なんの予備知識もなくあの体験をしてほしい。

 

 

 


有名なオープニングシーケンス

改めて見ました。

空撮部分、ホテルに到着するまでこのYouTube動画で2分47秒。全部で8カット。撮影はグレッグ・マクギリブレイが担当。彼の作品履歴を見るとネイチャー系の第一人者。短編ドキュメンタリー部門で2度アカデミー賞にノミネートされている。

当時はジャイロもなく、ブレに相当気を使わないといけなかったということ。季節がら虫が多く、飛んでるとすぐにカメラに虫がついたりしてカメラが汚れてしまうこと、ヘリポート以外で降りることを許されていなかったので、ホバーして下からカメラレンズを拭いたこと、などそれだけで面白エピソード満載だ。

 

 


オープニングシーケンスをカットごとに考察

以下、空撮でつなげられたオープニング8カットを分解してみる。

1)湖の上スレスレを飛ぶ、中の島の横をすり抜ける。ここだけディゾルブで次のカットへ。(約18秒)

 

2)真俯瞰。小さくビートルが走っている。前回のエントリでクイズになっていたのはこれ。ヘリ後ろからの太陽で長い木の影が印象的。(約19秒)

 

3)草原を走るビートル。背景に山々が見えてくる。(約18秒)

 

4)崖添いに走るビートル。さきほどと類似するアングルだが山の中に入ってきたことが分かる。ヘリコプターはぐーーーっとビートルに寄って行き、ビートルの全景を見せる。そしてヘリはそのままビートルを通り越し森の上へ。タイトルが出てくる。(約31秒)

 

5)ビートルを追いかけるようなカット。トンネルに入るのが印象的。ここで2台別の車が出てくる。1台は止まっており、1台は向こうから帰ってくる車。逆光になっており、フレアがカメラに入る。(約31秒)

 

6)さらに山奥になってきたことが分かる。湖沿いに走っていたが湖はもう見えない。向こうからまた1台の車が帰ってくる。(約23秒)

 

7)一転、雪景色に。雪山に入ってきていることを示唆。これは、物語に重要な舞台設定だ。(約10秒)

 

8)ホテルの全景。ここでオープニングが終わり、ここが舞台になることが分かる。(約16秒)

 


オープニングシーケンスにまつわる逸話

このオープニングはあまりにも有名で、あちらこちらでいろんな解釈がされているはず。文芸的な意味での評論はここでは避けたい。そこで映像制作者の端くれとしてオモシロイと思った逸話をここでまとめてみた。

 


1)ロケ地はグレイシャー国立公園

キューブリックはロケ場所をモンタナ州グレイシャー国立公園と決める。実際に撮影が行われたのはGoing-to-the-Sun Roadという道らしい。僕は昔、カナダのエドモントンというところに住んでいたことがあり、バンクーバーまで車で行ったことがある。あちらの山は本当にデカい。バンクーバーまで3日かかったんだが、あのとき感じた巨大さと似たような感じだなとこのシーケンス見てて改めて思う。

さらに余談だけど、留学していたエドモントン大学構内でバンクーバーまで同乗で旅費折半する人を募集していたので応募して乗せてもらった。最後バンクーバーに着いて別れるときに「君のような学生からお金を取ることはできない。将来日本にカナダから学生が来たらその彼らに恩返ししてほしい」と言われ、旅費折半の約束だったのにガソリン代も宿代もメシ代も全部おごってくれた。名前も覚えてないが、いまそれを書いてて泣けてきた。

 


2)送られたセカンドユニット

キューブリックはこの山にセカンドユニットを送る。セカンドユニットは数日間撮影してキューブリックにこう連絡してきたそうだ。

Art of the Titleより引用)

I sent a second-unit camera crew to Glacier National Park to shoot the title backgrounds but they reported that the place wasn’t interesting. When we saw the test shots they sent back we were staggered. It was plain that the location was perfect but the crew had to be replaced. I hired Greg McGillivray, who is noted for his helicopter work, and he spent several weeks filming some of the most beautiful mountain helicopter shots I’ve seen.

セカンドユニットのカメラクルーをグレイシャー国立公園に送りこんで、タイトルバックの撮影をさせた。そうすると彼らは「興味深いロケーションではありません」とレポートしてきた。彼らがテスト撮影してきたフッテージを見て、私はめまいがした。ロケーションは完璧で、クルーを変えなければならないということは明らかだった。そこでグレッグ・マクギリブレイを雇うことにした。彼はヘリコプター空撮の専門家だ。彼は何週間もかけて、当時私が見た中で最も美しい山々の空撮を撮ってきてくれた。


セカンドユニット涙目、、、、

 


3)ヘリコプターの影の謎

オープニングシーケンスにヘリコプターの影が映り込んでいる。実は上にキャプチャーした画像にもヘリの影が映っている。YouTube動画だと57秒にその影が見える。

さて、このヘリコプターの影に関していくつか説があるらしい。

 

  • キューブリックがわざと残した説
  • 公開時の画角と撮影素材の画角が違うから説
  • ビデオ編集していたから説

以下解説

・キューブリックがわざと残した説

これはその名の通りだが、完璧主義者のキューブリックがこんな明らかなミスを見逃すわけがない。わざと何かを示唆するために残したのだろう。という議論。ちょっと無理があるか?

 

・撮影素材の画角と上映の画角が違うから説

以下編集助手だったGordon Stainforthの話

シャイニングはアカデミー規格である1.375:1で撮影された。しかし劇場の上映画角は1.85:1だ。それが当時の劇場で映写できる唯一の画角だからだ。当時の編集機はSteenbeckだったのだが、モニターは1.85:1の画角になるようにマスキングされていた。ヘリコプターの影はそのマスクの下にあったのでギリギリ見えなかった。さらにいうと、編集の最後の段階で、音楽に合わせるためオープニングシーケンスを8フレーム伸ばしたという僕自身のノートが残っている。そのときにあのフレームが忍び込んだのかもしれない。

ホテルの上空を飛ぶ最後のカットでヘリコプターのローターが一瞬映るが、それはキューブリックは気にしなかった。

のだそうだ。この記事によると、オープニングシーケンスは完成まで何度も再編集されていたのだが、最初は全カット、ディゾルブでつながれていたそうだ。途中からカット編になったということだ。

こちらヘリカメラのオペレーターだったJeff Blythも同じことを言っている

当時はジャイロもない時代だったので相当ワイドアングルレンズで撮っていた。モニタは上映時の1.85:1に合わせるためにマスキングしていた。フルフレームのまま撮っていたのは編集時に上下に多少リサイズできるような余白を作るためだった。だから劇場公開当時にはあの影は見えなかったはずだ。画角が違うビデオリリース時に初めて出てきたのだと思う。

最後のヘリコプターのローターが一瞬映るホテルのカットは我々のチームが撮ったものではない。

 

・ビデオ編集していたから説

これはグレッグ・マクギリブレイの話

私はスタンリーと編集のRay LovejoyとともにSteenbeckでフッテージを試写していた。あまりにも膨大だったためどうやって編集しようかと相談していた。そこで当時は長編映画でまだ誰もやったことがないビデオ編集を採用することにした。すべてのフィルムはビデオ化して編集された。ビデオにコピーされる際に画角がかわり、ヘリの影が編集時には見えなかったのではないか。

ビデオで編集されたというのも面白い。

 


4)使われなかったフッテージがブレードランナーに使われた

前回のエントリーでも書いたが、このオープニングシーケンスのショットはブレードランナーでも使われている。

こちらにその経緯が詳しい。リドリー・スコットの面白話。

Ridley Scott: I used footage from Kubrick's 'The Shining' in 'Blade Runner' 

ブレードランナーの完成試写は悲惨だった。出資者からは非難轟々だった。「こんなあいまいな終わり方では訳が分からない!」「こういうのをフィルム・ノワールというのです」「なんだそのノワールというのは!食えるのか!!」。彼らはハッピーエンドを望んでいて、「森の中に逃げ込んで二人で暮らすという話にしろ!」というオーダーだった。

そこでキューブリックに電話した。「あのシャイニングのオープニングで山の空撮やっただろ?使わなかったフッテージっていっぱい残ってるよね?貸してくれないか」と聞いたんだ。キューブリックは4か月半もあの撮影にかけていた。17時間分という途方もないフッテージだ。だが、全てのテイクでビートルが映っていた。

キューブリックはこう聞いてきた。「その新しく挿入するシーンに車は入るのか?」。私は「そうなんだよ。」と答えた。「どんな車だ?」「長い車さ」「それじゃダメだ。あのフッテージには全テイクにビートルが映ってる」。そして彼はこういうんだ。「ちょっと待て。ブレードランナーは何で撮影をしてるんだ?」「アナモルフィックだけど。」「じゃあ大丈夫だ!あのフッテージを横に引き延ばして使え。車が長くなって問題ないはずだ。」

 

うわーー面白すぎる!!まあでも最後の話は冗談だよね(笑

この書き起こしのもとのビデオはこちら

 


 

というわけで興味の向くままに「シャイニング」オープニングシーケンスにまつわるあれこれを書いてみた。名作映画ってオープニングだけでご飯が何杯も食べられますね。

 



コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
つづいて (「出」の字で寝てみた)
2016-03-09 18:40:12
"Ex Machina"に続いてお邪魔します。
 このフラ~っと漂う映像は『パニック・ルーム』でフィンチャーが意識していそう。『シャイニング』×『ブレードランナー』話はメイキング"Dangerous Days"やキューブリック研究書でも見ています。名撮影者の没カットが映画で使われるなど映画本編の映像と素材映像の曖昧さを感じさせるエピソードでした。
 ストックフッテージのページで書くべきかも知れません。高間賢治さんの本で読みましたがコダックがウィリアム・フレイカー(ジョン・アロンゾだったか?)など名撮影監督にテストフィルムを撮ってもらう事があったそうです。今でもそうかな。『マッドマックス』昨年の新作では没カットが470時間分以上あるとか。人知れぬそれらのフィルムも、誰かがどこかで流用するのでしょうか。

 紹介の動画の面白さには負けるかも。『博士の異常な愛情』みたいな円卓で隣に座っているのがタラちゃんとか。ワケ判り過ぎるくらい判る人達が揃ってこうした打ち明け話を聞けば話す方も楽しいでしょうし、全員腹の底に響くようなインパクトがあるに違いない。

 観ている方が集まりそうなので書きます。"Ex Machina"には『シャイニング』そっっっくりな画がありますよね。またオスカー・アイザックはネイサンの役作りのモデルにした人物としてボビー・フィッシャーとスタンリー・キューブリックの二人を挙げています。ネイサンが「才能あるクソッタレ」だった理由(笑)
 
 
 
没カット (3RD EYE(管理人))
2016-03-09 22:28:31
「出」の字で寝てみたさん

没テイクの使いまわし、面白いですよね。確かトランスフォーマーでもマイケル・ベイ監督はバッドボーイズのフッテージを使いまわしたっていう検証を見たことあります。しかも没テイクじゃなくてOKテイクを!

デジタルになってアーカイブも残しやすくなったので、撮影素材って今後膨大に蓄積されていくのでしょうか。


> キューブリック研究書

面白そうですよね。本文で引用したサイトでもほとんどが研究書からの引用だったので(僕のが孫引き)、ほんとさんざん研究されてるんだろうなあ。

> 映画本編の映像と素材映像の曖昧さ

芸術性ってなんだろうか、ということに行きついていくのでしょうね。「ストックフッテージのレベルの高さが上がっているが、さすがにスタンリー・キューブリックのレベルには到達していない」ということを言いたくて前回のエントリーを書いたのですが、3分弱のシーケンスのために17時間ものフッテージがあった、、と聞いたらそりゃレベルが違うわな、と思いました。

本文に書いた座談会でも17時間のフッテージとリドリー・スコットが言った瞬間、歴戦の大監督たちがみんな「まぢで!」って感嘆の声を上げてましたから。

マッドマックスの没テイクもどこかで再利用されることがあるのでしょうかね。

> 判る人達が揃ってこうした打ち明け話

ほんとこういうのをサラっとできちゃうアメリカは本当にうらやましい。

リドリー・スコットの話に「知らなかった!」と驚いているタランティーノ。

いやあ、こんなネット番組ができるの本当に本当にうらやましい。。

> 「才能あるクソッタレ」

そんな裏話が!!知りませんでした。有名どころでは、ダークナイトのヒースレジャーがシド・ヴィシャスをイメージしたっていうのがありましたね。

やはり演者も監督も何かリファレンスがあるとイメージしやすいというのはあるのでしょうか。

その意味ではシャイニングは膨大な影響を監督たちに与えているんだろうなあ。。と。
 
 
 
素材の画角 (Toshi)
2016-03-14 04:03:46
3RD EYEさま

いつも拝見しています(ツイッターのほうも)。

2014年のブログ記事は興味深く拝見し、自分のゼミで紹介させて頂きました。参考映像もスクリーンで映しながら学生達と見て議論しました。さすがにキューブリックの先行研究・批評の類は沢山ありますね。学生も議論の整理に四苦八苦していました。

おかげさまで、作品構造の複雑さに興味を持った女子学生がいて、結局、The Shining Light on the Overlooked Pastという題で卒論を書き、今月末に無事に卒業する予定です。


オープニングのヘリの機影は、ずっと引っかかっていたのですが、素材の画角の影響説は説得力があると思いました。腑に落ちました。

個人的には、作中に残った機影で、映画が人工物である、と改めて思いながらDVDを視聴したため、引きこむような恐いストーリー展開と、批評的距離とを同時に感じたのは、とても面白い体験でした。
 
 
 
おおすごい。 (3RD EYE(管理人))
2016-03-14 15:14:01
Toshiさん

どもです!

前の記事でToshiさんとコメントのやり取りをしていろいろ教わったことが今回書いたことのベースにありましたので、ほんとうにありがとうございました。

ちなみにまだ見られてません(笑


しかし卒業論文でシャイニングの研究って凄い!うらやましいですね。よく怖くなかったですね(笑 その勢いで時計仕掛けのオレンジとか(そういえば上のコメントで書きましたダークナイトのヒース・レジャーは時計仕掛けのオレンジも役作りの参考にしたという話でしたね)、理解不能な2001年とかもぜひ研究していただければ!!


ヘリの機影ですが、劇場公開時に劇場によっては見えて1980年にすでに指摘した人はいたらしいです。なので画角が違ったからわからなかったという説を否定する人は多いそうでして、、

まあその喧々諤々がキューブリック作品の魅力ということでしょうかね。


僕としてはそういう議論が巻き起こることによってさまざまな人が当時の撮影の状況を語ってくれていることがすごく面白いです。

ホバーしてカメラのレンズを下から拭いた、って驚きでした。しかも拭いたのはビートルを運転していたグレッグ・マクギリブレイ自身だそうでして(笑 

にしてもこのオープニングだけで素材17時間分ってほんと基地外です。考えられません。


 
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