映像の仕事をやっていると必ず出てくるコンサート撮影。これには結構なノウハウが必要で、なかなか一朝一夕にはうまくやることはできない。僕のディレクターとしての初仕事はもう10年ほど前、とある洋楽大物アーティストの日本初ライヴの撮影と編集だったのだが、編集だけで徹夜で丸々3日ほどかかったのを覚えている。VHSでオフラインと言っても新しく業界に入った人にはさっぱりだと思うが、当時はライヴの編集はほんと大変だった。今はリアルタイム×3くらいで終わる。今回はライヴ撮影の技術的なことを書いてみたい。
■ ライヴ撮影のカメラ配置 ■
ライヴ撮影は基本複数台のカメラを入れ、独りで撮ることはない。もちろん上手いカメラマンなら引き一台だけでも相当楽しめる映像を撮れるものだが、それでも限界がある。最低でも寄り引き2台、できることなら3台入れると、ほぼ問題ないライヴ映像が撮れるだろう。
カメラ位置は、センターのPA近くに1台。舞台下の上手と下手に1台ずつ、というのがオーソドックスな配置となる。さらに増やすなら、舞台後方から客席向け1台、会場2階に1台、引きカメ望遠1台、というふうに増やすとよい。ただし引きカメ望遠は、クラシックでないかぎり会場はかなりの確率で揺れるので、イントレ組んでデッカイ三脚を置かないと難しい。
■ ライヴ撮影の最重要課題~音声 ■
ライヴ撮るのに音がヘナチョコでは意味がない。しっかりと音を撮ることが最も重要な課題だ。
基本は、引きの1台にPAからLRの2MIXのフィードをもらい、ミキサーをかましてカメラに突っ込む。ラインアウトなので+4dBで来ているからマイク入力しかないカメラの場合はミキサーをかますかのは必須だ。ライン入力があるカメラなら直接突っ込んでも大丈夫だが、たいていカメラ側で目いっぱい上げることになるだろう。僕の感覚では7~10dBくらい上げることが多い。

もし可能であればマルチトラックレコーダーなんかを持ち込んで、パラで録音できれば後々の細かい修正できるのでそうしたほうがいいんだが、そこまでやる必要が出てくることは商品にでもしないかぎりないだろう。
さらに、PAアウトだけだとクリーンな音過ぎてライヴ感が全く出ないので、いわゆるワーキャーと僕らがいうオーディエンスノイズも収録しなければならない。これは後でラインアウトの音とMIXすることになる。
これは集音マイクを立てるか、ステージ前のカメラのカメラマイクを使うかである。ただし、ステージ前のカメラマイクはモニターの返しの音を盛大に拾うので、集音マイクを立てたほうが無難である。
ちなみに音声のこともあるのだが、音楽ライヴをHDSLRで撮るのは結構ナンセンスだ。ズーム倍率の大きいビデオカメラで撮る方が絶対にいい。ライヴに被写界深度の浅さは必要ない。何が起きるか分からないのがライヴ。パンフォーカスでしっかり押さえておくことは重要だし、そもそもパンフォーカスのほうがかっこいい。
■ パラ撮りのときは役割分担をしっかり ■
ライヴ収録の理想はディレクターがすべてのカメラを監視しインカムで指示を出しながらスイッチングしていくスイッチング方式だが、そんなのは予算がある場合に限られていて、たいていはバラバラで各々が好きな絵を撮るパラ撮りだ。そのときに重要なのは各カメラが何を撮るかの決め事をしておくこと。
できればすべてのカメラマンがライヴの曲順、曲の中身、ステージの演出を頭に叩き込んで何を撮るべきか把握してる状態で撮影ができればいいのだが、それもたいていは難しい。なので、「お前寄り」「お前引き」「こっちにいるときはこっちを」「オレが拍子の裏で動くから、お前は表で動く」みたいな大まかなルールを設定すると後で編集しやすい。そのときのコツは、やたらめったらズームしたりパンしたりしないこと。一度サイズを決めたら少なくとも4小節は同じサイズをキープする。これはどんな撮影でも同じことなんだけど。。
あと注意したいのは、サビになると人情としてズームしたくなる、ということ。ときどき3カメともサビ直前でズーム、サビ中同じサイズでボーカルを撮ってるなんてことも起こりかねない。寄り引きの役割分担は重要である。
■ その他の準備すべきこと ■
ステージ前のカメラは手持ちで結構しんどいので1脚を用意しておくと楽な場合がある。1脚にムービー用のヘッドをつけると完璧だ。三脚が置けるスペースがあればタイヤドリーも便利だし、床がスムーズな場所だとそのままドリーショットも撮れる。
それからライヴの現場は暗い!客席が暗くなると何も見えないので、小型の懐中電灯を必ず持っていくこと。何があるか分からないのでバッテリーの予備とテープやカードの予備も必須。現場は客で埋まって身動きが取れなくなるので予備は必ずポケットに入れておく。ロック系だと汗だくになるので、タオルもあるとよい。
■ ノリと酔いが重要。ただし酔いすぎない ■
ファインダーをのぞきながら涙が出てくるくらいの絵が撮れればもうそのライヴ撮影は成功なんだけど、ときどき「やりすぎ」てしまうことがあるので注意。とにかく「動きすぎるな!」というのを撮るときに肝に銘じておくべき。
ノリノリになってくるとカメラ動きすぎちゃうんだよね。見せるべきものは、しっかり見せよう。
というわけで、知ってる人にはうざいけど、ライヴ撮影の基本中の基本のことを備忘録的に書いてみた。
※追記(2012.11.9)
一つよくある注意点を追記しておく。引きのカメラにPA卓からLR 2MIXのフィードをもらうと同時に、いわゆる「ワーキャー」を収録する集音マイクをカメラそばに立てた場合、PAアウトの音と集音マイクの音は同期しない。

便宜上こう書いたけど実際は3ch以上収録できるカメラは少ない。
それはなぜかというとPAからのフィードはリアルタイムで絵と同期するのに対し、集音マイクはスピーカーからの距離があるため遅れて収録されてしまうからだ。
僕の経験上、武道館の一番後ろにカメラを構えた場合4フレ遅れる。ZeppやAX規模だと1フレから2フレ程度だと考えておけば大丈夫。もちろんMAでしっかり合わせて欲しい。
また時と場合によってはPAからのフィードをもらえず集音マイクオンリーのこともある。その場合、絵と集音マイクの音がまったく合わなくなるので要注意だ。
なんだかあんまり目立ってもいけないし
でも前に出て行かないといい映像撮れないですしね…
いつの日かこんなノリノリな撮影してみたいっす
http://www.youtube.com/watch?v=V_4cRefqkjA&feature=channel
音楽撮影のマニュアルとして非常に分かりやすかったので、僕のblogで紹介させて頂きました。特にパラ撮りの役割分担は重要だと思いました。
ライヴは大変ですね。僕も失敗の経験が何度もあります。今でもライヴが始まる前は緊張します。テープは?バッテリは?明るさは大丈夫?予備は?どこでロール換える?でも、あの緊張がクセになるんですよね、けっこう。
ZEROさま
リンクありがとうございます。ちゃんと指示をしないとたいてい似たり寄ったりの絵を撮っちゃうんですよね。引きだっつってるのに、サビで寄っちゃうのは典型です。特に、編集をしないカメラマンはそういう傾向にあるので、ちゃんと指示しないといけないです。
全カメ結線してモニタ出しすればいいんだけど、そんな予算があるライヴ撮影はなかなかないし、インカムしても会場がうるさすぎて聞こえない、、、
スイッチングは無くインカムで楽器を言っていますが、やはり先を読んで指示を出すと言うのはタイミングもあり、かなり叩き込んでおかなければ出来ないと思っています。
何か効率良く出来る方法として良いアドバイスがありましたら宜しくお願いします。
カメラマンの方にも 曲は知っておいてもらっていた方が良いでしょうか?
皆さん事前にどのような事をされているのか教えて頂けたら幸いです。
仰る通り何度もリハーサルして叩き込むしか方法ありません。音楽番組をご覧になれば分かると思いますが、カメラワークの割り振りの決め事があって、その通りにスイッチングしていく、というのが最適な方法です。
それができない場合は、せめてソロパートがいつどのタイミングで来るか、というのさえ覚えておけば、いちおうなんとかなるかと。。。覚えきれない場合は、メモなどを見ながらやるのがいいかと。たいてい歌詞カードですが歌詞がない場合は譜面がいいのかもしれません。
ライヴ会場では照明さんミキサーさんなど、撮影以外でも同じことが要求されます。みなさん歌詞カードなどを置いて、いつどのタイミングで何をするのか、計算してやってらっしゃいますよ。もちろんツアーとかだとみんな慣れてるし何も見ずにやってるけど。