ORIZZONTE

君が僕を信じてる。

金曜のラプソディ(小説)

2006年06月24日 | 小説
茜さんが俺を呼び出したのは、ある金曜の夜のことだった。

俺が中古のポンコツ車を走らせていくと、彼女は街頭の下一服していた。

片手にはタバコ、片手にはビール。

彼女がタバコを吸っているということは…

「何か、あったんですか。」

俺は、わかりきってることをきいてみた。

彼女は根っからのスモーカーではない。

辛いことがあると、吸う。

彼女は、何も言わずに俺の腕をつかみ額をおしつけた。
赤い顔の、火照りが伝わってくる。

「まさきぃ。」

「なあに。」

「部屋で飲んでると、気持ち悪くて。外で飲むと、なんか気持ちいいの。」

「そう。」

「いろんなこと、泣けてきた。でもどこか、あったかいの。」

「うん。」

「でもやっぱ、悲しいし。でもなんか、すぐ酔えて。そうすると少し、世界はぐらぐらと揺れるの。」

俺は、もってきたコンビニ袋をがさごそと探った。

「嫌な今日を、はやく終わらせたいよ。ここに、いたくないよ。ぐらぐら揺れて、はやくかわっちゃいたい。」

「…茜さん。」

俺は、タバコに火をつけてビールの缶をあけた。

「つきあいますよ。」

悪くないと思った。

タバコもビールも、彼女を守ろうとする自分も。

変に理由はいらない。

そんなのなくても、そばにいてあげるから。


月のない夜。

街頭の光は、意外と優しく穏やかで。

茜さんは泣いていたけど、それでもなんとかなるような気がした。

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