羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

いつかこの恋を~ 5

2016-02-10 22:28:24 | 日記
構わないように降りようとしていた練は驚いてバスの中に戻った。
音の施設では朝陽が事務所で父と兄が揃って『親子の絆』等としてインタビューに答えている雑誌を手に取っていたが、そこへ本社が人員を減らす意向を示しているという神部とシフトも組めなくなると食い下がる丸山が入ってきた。朝陽が雑誌から顔を上げていると内線が入り、朝陽はロビーに走った。倒れた音が運び込まれていた。連れてきた人物は既に去っていた。朝陽は朦朧として「おはようございます」と言ってくる音を抱えて医務室に運んだ。朝陽はその足で某所の駐車場に急行し、和馬がドアを開けた車に乗ろうとしていた征二郎に頭を下げた。
「なんだ? こんな所まで来て」やや呆れた様子の和馬。「今でさえギリギリ、もう破綻しているんですっ」施設の経営について訴える朝陽。「これ以上人を減らされたら、全員倒れます」「倒れたら、新しい人材を雇え」征二郎の代わりに答える和馬。「人は消耗品じゃありません!」「不満があるなら代案を出せ、理想があるなら自分の会社を作ればいい」諭す和馬。あくまで同じ土俵で言ってくる兄の正しさにため息をつく朝陽は征二郎に向き直った。「僕は敵じゃありません、あの施設をより良くする為に」朝陽に笑顔で近付く征二郎。
「中々いい靴履いてるじゃないか」朝陽は簡素な介護作業用のスリッポンを履いていた。「こんなことが、俺に逆らってまでしたかったことか?」「僕は」「俺の前に出てくるなっ」車に向かう征二郎。「失敗作を見るのは哀しい」征二郎は車に乗った。「勝ってから言え」後部席のドアを閉め、改めてこの期に及んで父を頼ってきた弟を諭し、和馬は運転席に乗り込み車を出して行った。朝陽はその場に取り残された。
「この部屋、寒過ぎ」音を連れ帰った船川は暖房の無い音の部屋に呆れていた。
     6に続く

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