じじい日記

日々の雑感と戯言を綴っております

本当のような「じつわ・・・」

2013-03-24 11:35:34 | 日々の雑感
あれは2月の寒い夜、やっと十四になった頃・・・では無くて、今から20年と一寸前頃。
友人宅で昼間から酒など呑んでいた時にピンポーンと鳴って、二人して玄関のドアを開けて・・・ドラマはそこから始まった。

玄関を開けると、すらりとした少し背の低い女の子が一人でうずくまるようにして立っていた。

友人が、アレっ・・・ドーしたの?お腹でも痛いの?と女の子に聞くと「北海道の方から珍味を持って来ましたぁ」と、弱々しい声で元気に答えた。

ヘェ~・・・珍味かぁ・・・どれ、見せてみろやぁ、と俺が言うと、友人は、そこじゃ寒いからまず上がれ、なっ、俺ら悪者じゃないから、見てくれで判断しちゃダメだぞ、まず上がれ、と、半ば強引に引きずり込むように招き入れた。

こたつの前に座布団を一枚充てがい「まず座れっ」なっ「悪いようにはいないから」と友人は座布団をひっくり返してパンパンと叩いて女の子を座らせた。

おれはその間に湯のみ茶碗に菊正宗をなみなみと注いで女の子の前に突き出し「ツマミは無ぇから、乾き物が有ったらイカでもタコでも出してくんねぇ」と言って女の子が持っていた籐で編んだカゴ逆さにしてぶちまけた。

友人は「まず呑めぇ~寒かったベェ・・・温まっからさ、まず呑め」と酒を勧めながら「どこら来たの?」「北海道の方からって、歩いて来たの?」と、猫なで声で問いかけていた。

おれはぶちまけたカゴの中から「すきみたら」を見つけ「こまいは無ぇんだなぁ~」と言いながら袋をブチっと開けた。

石油ストーブの上にすきみたらを並べると香ばしい匂いが部屋中に充満し臭かった。

おれは軽く炙ったすきみたらをグチャグチャと齧りながら「ねぇちゃん、なんでこんな物売ってんの?」とスケベ心と興味の入り交じった目で女の子を舐め回しつつ尋ねた。

「ほらねえちゃん、遠慮してねぇで酒呑めぇ~」「北海道なら酒は嫌いじゃあんめぇ?」と湯呑み茶碗をぐいっと彼女の前に押し出した。

「ところで、ねぇちゃん、ナンボやっ?」と俺が言うと「1000円です」と、女の子はか細い声で力強く答えた。

「いや、そんなことじゃ無くてよぉ、ねぇちゃんの歳はナンボだと聞いたのよぉ」とおれが言うと、女の子は「21です」ときっぱりと蚊の鳴くような声で言った。

「ほぉ~21なぁ、若い身空でなぁ」「それにしてもおめっ、ふざけてんな~、これっぽっちの一袋が1000円だとぉ~」とおれは語気を強めた。

すると友人が「あいや、分ったわぁ~、おめ、宗教だべ」「ほれ、なんつったっけなぁ、あの、洗脳されるっつう宗教だべ」「あれなっ、珍味だの雑巾だの売って歩いてんだべっ」「壷売ってんのはまた違う系統ナンダベっ?」「んでねっけこんなメンコイねぇちゃんが昼日中に家庭訪問で珍味なんか売っかょ」と一気に捲し立てた。

おれは「んだよなぁ~バイトにしちゃ似合わねぇしなぁ、品があるもんょ、ねぇちゃんはよっ」と言った。

すると女の子は「わたし帰りますからお金払ってください」「それから、ホタテの貝柱を除いて干物はどれでも好きな物三袋で2000円になりますから、そちらがお得だと思います」とおれと友人を交互に見据えて消え入るような声で怒鳴った。

「おっ、おっかねぇな~信心深いって言うのは強いからな、気違いと一緒だからな・・・ンダベっ!!!」と友人も声を荒げた。

「そもそもオラぁ買うなんて言って無ぇんで」「おいねぇちゃん、菊正宗の茶碗一杯が1000円だぁ~」「おれが酒を出しておめがつまみを出して、これが持ちつ持たれつって言うもんだべ」「んだべっ?」「ねぇちゃんも損しねぇようにグイっと空けてけっ、なっ」とおれが半ば笑いながら言うと女子は突然立ち上がってセーターの下のブラウスの首に手をかけ力一杯引きちぎった。
その勢いでボタンが二つか三つ飛び胸元があらわになり、そして鎖骨が見えた。

おれはその鎖骨を美しいと思ってみとれた。

友人も唖然として立ちつくし女の子を見ていた。

女の子はどこからその声が出るのかと思うほどの大声で「助けてぇ~」と叫んだ。

すると間断なく玄関のドアが開いて若い男が3人土足のまま飛び込んで来ておれと友人に襲いかかった。
一人は女の子を抱え込むように抱きすくめ「大丈夫か?」と声を掛けていた。

どういう訳か女の子は力なく倒れ込むような格好になっていた。

おれと友人は咄嗟の事態が呑み込めず、羽交い締めにされたまま女の子の様子に見とれていた。

友人は事態の云々は別にして土足で踏み込まれた事に憤ったらしく「なんだおめぇら?」「てめぇら土足でひとんちに上がり込んで何を息巻いてんだこらぁ~」と言うなり後から羽交い締めにしていた男の顎を肘でかち上げ一発で倒し、続いて女の子を抱えて中腰になっていた男の顔面に蹴りを入れ、これも一発で沈めた。

おれは羽交い締めを解く事が出来ずにもがいていたが友人が拳を振り上げて残りの一人を殴る体制に出た時、そいつは頭を抱えて座り込み一瞬で事態は沈静化した。

友人の腕力の圧勝だった。

友人は男3人に「てめぇら、まず靴を脱げ、なっ、ひとんちなんだから靴は脱げよなっ」と言った。

二人が鼻血を出していたのでおれはティッシュボックスを投げてやって「垂らすなよぉ~鼻に詰めとけ」と言った。

女の子はこの事態に怯える様子も無く引き千切って飛んだボタンを探していた。

「おめぇら、まず座れ」「狭い所だけど、まず座れ」と男3人を睨みつけた。
そして、湯呑み茶碗に菊正宗をなみなみと注いで「まず呑め」と3人の前に突き出した。

3人は黙ったまま俯いていて、その姿からは既に戦意の欠片も伺えなかった。

「こらっ、おめぇら、人が親切に出してる酒を呑めねぇって言うのかこらぁ」とそこそこドスの聞いた声で言って自分も茶碗の酒を一気にあおって「呑めこらぁ」と言葉を続けた。

「おい、ねぇちゃん、糸と針なら引き出しに有んぞ」「隣の部屋に行って脱いで縫って来い」「心配すんなぁ覗かなぇから」と言って高笑いをした。

「ほれっ、すきみたら齧って酒呑めぇ」と友人が促した所で一人が湯呑み茶碗に手を出した。

続いて残りの二人も茶碗を手にしてそれぞれが菊正宗を口に含んだ。

その時、隣の部屋でボタン付けをしていた女の子がふすまを開けた。

3人の若い男の位置から部屋の奥がよく見え、そして唖然とした。
そこには神棚が祭られ、そして、壁には何やら厳めしい家紋を印した旗のような物が飾られていた。
それは映画やテレビドラマで見るヤクザの事務所や親分の家にあるそれそのままであった。

友人は言った「神棚の前でおれが注いだ杯を呑んだと言う事がどー言う事か、分るか?」「おれんちはなぁ神道なんだよ」「邪教は赦さねぇんだよ」と湯呑み茶碗を啜りながら静かに低い声で言った。

ああ、あ、開けちゃ行けない扉を開けちまいやがって、とおれは4人に同情した。

その後延々と友人の説教は続き、菊正宗の一升瓶が二本空いた。

彼と彼女が「おとしまえ」と言う名目で友人の神棚に玉串料を供えさせられて解放されたのは殆ど夜中だった。


これは、実際にあった話をおっさんが脚色しないで書いた作り話です。





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