じじい日記

日々の雑感と戯言を綴っております

ポカラ 旅情異聞 其の弐

2014-01-31 12:25:39 | ネパール旅日記 2013

 そうか,やはりそう来たか。
うつ伏せから仰向けはマッサージとしては自然な流れなのだが、この場の状況と雰囲気からはそれだけでない事はなんとなく伺い知れた。

 しかし,まあ,推測は間違っているかも知れないとも考えられるのでパンツ一丁の無防備な姿のまま仰向けになった。

 仰向けになって目を開ければ彼女の姿が見える。
自分は,先ほど上着を脱ぐ所以後彼女の姿は見ていなかったが,目をつむっていても衣擦れの音や空気感から大体の想像はついていたが,はたして、彼女は上半身が下着姿だった。

 彼女は仰向けになった自分の胸にニベアの乳液を垂らし相変わらずのマッサージを施していた。

 胸の辺りから腹部へ,そして,やはり予想通りの展開になり,彼女が自分のパンツに手をかけた。

 そこで自分は彼女の動きを制し上半身を起こして時計を見た。
この部屋に入ってから25分が経過していた。

 彼女は私の言いたい事がすぐには分からなかったのか,パンツの上から股間に手を伸ばして来たが,それをやんわりと外し,手を振って「ノー ノー」と言うと何を思い違いしたのか,今度は自分のスボンを脱ぎに掛かった。
自分は慌てて再度「ノー ノー」と言いながら彼女の手を取って動きを制し,ベットに座るようにと身振り手振りを試みた。

 彼女の顔にほっとした様子の笑みが浮かび,身繕いをしてベットの端に腰を下ろした。
自分が身支度を整えていると彼女の方から辿々しい英語で名前と歳を訊ねて来た。
こんな時自分は「Oyazi」と名乗る事にしている。
歳は、君の二倍くらいだと言って誤摩化した。
チャイニーズと言うのでジャパニーズと答えると頷いた。
英単語のいくつかは知っているようだったので、試しに「ユー ネパーリィー?」と語尾を上げて言ってみた。
すると理解したらしく「ノー ムスタン」と言った。
ムスタン地方、チベットとの国境近くから出て来ているのか、あるいはチベット人なのかも知れないと思ったがそれを訊く事は出来なかった。

 彼女が新聞紙をゴミ箱に捨てコンドームをポケットに仕舞ってドアを開けた。
彼女に続いて急な階段を下りると外の光が眩しく暖かくて少しほっとした。

 一階に下りると誰もいなかった。
彼女はカウンターの内側の椅子に座り自分に背を向けていた。
自分との仕事は既に終わり,存在さえ無い者として扱われているのが如実に伝わって来る。
出来ればお茶かビールなど呑みながらもう少し話しをしたかったのだが、仕方なく外に出た。

 店から出た自分は外でも無視される存在だった。
既に事を終えて出て来た者は客にもなり得ないので無用なのだろう。
先にこの通りを通った時に感じた、誰も見ていないのに何処からか強烈な視線を感じたあの気配は既に失せていた。

 成る程,興味と好奇の目で眺めれば少し変わった雰囲気に見えなくも無いが,こうして完全に無視されて眺めた時の通りは,何の変哲も無い路地でしかなかった。
派手な娘達と見えた者も,今時の若い娘として見直せばどうと言う事も無く見えた。

 タクシーの運転手は隣の路地の茶店に居て、自分が彼を見つけると手招きして呼んだ。
「どうだった、ここは安いがあんまり可愛い娘は居なかっただろう?」とにやけた顔で言った。
そして「なんなら違う場所に案内するぜ。そこはツーリストも行くところなんで値段も良いが美人が多くてサービスが良い」とはしゃぎながら言った。
そんなものはもう沢山だからマーケットのようなものがあったら見に行きたいが,と言うと,野菜の露端のマーケットしか無いぞ,と答えた。
それもそうだ、肉屋と魚屋がほとんど無い野菜が主食の国だものな,自分が想像するマーケットは無くて当たり前だと思った。

 ホテルの戻ってくれ,と言って自分と運転手のお茶代を払って立ち上がった。

 ポカラ 旅情異聞 完

コメント
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