マスメディアは、「反戦平和」を叫ぶ市民運動に関してはフレームアップに近い報道をする。たとえば、平成27年夏の安全保障関連法案への反対運動を彼らはどう伝えたか。
≪「廃案、ハイアン」、世代超えNOの波 国会前に集結≫という見出しの「朝日新聞」(デジタル版・平成27年8月30日)記事には、こう書かれている。
<8月最後の日曜日となった30日、安全保障関連法案に反対する人々が国会前に集まった。大学生、1960年安保の運動家、戦争体験者――。世代を超えた人の波は主催者発表で12万人となり、国会議事堂前や周辺を取り囲んだ。抗議のうねりは全国各地にも広がった。
午後2時すぎ、国会議事堂の正面前。「戦争NO!」「9条壊すな」などと記された、赤や青、黄色のプラカードを手にした市民で、東西に延びる幅50メートル近い車道が埋め尽くされた。拡声器から流れる「戦争法案いますぐ廃案」のかけ声に合わせ、「ハイアン・ハイアン」と声を上げる。(略)この日の国会周辺の人出を、警察側は約3万3千人と発表した。>
<抗議行動が終わった後、SEALDsの中心メンバー、奥田愛基さん(23)は話した。「日本が70年間、一人も戦死しなかったのはずっと声を上げてきた人たちがいたからなんだなと今日思った。それって本当にすごいことだと思う」>
『朝日新聞』のこの記事を読むと、まさに安保法制をめぐって国民各層の怒りが一堂に集結し、安倍政権を打倒しそうな勢いが感じられる。が、これは「事実に基づいた報道」とは言い難い。
「主義・主張」に基づく朝日新聞の願望の表明でしかない。
参加人数がリード部分で12万人、本文中で3万3千人となぜ大きな差があるのか。前者は主催者側発表の数字で、後者は警視庁調べと断っているが、最初に大きな数字を持ってきたのは「大集会」であることを印象づけたいとの考えからだと想像する。これを編集方針というなら、はっきり「朝日新聞は主義・主張でつくっています」と読者に宣言すべきである。
そして実数はどうだったのか。それを自社で確認しようとはしないのか。こうした報道の仕方は朝日新聞に限らないが、もはやこの手の操作は通用しない。
(なぜSEALDsを「普通の学生」としか伝えないのか)
新聞や地上波のテレビが普通の市民のように報じる「運動家」の正体が雑誌メディアやインターネットを通じて次々と明らかにされている。
たとえば、参議院特別委員会の中央公聴会にも呼ばれ、安保法制反対運動で最も有名になった学生組織「SEALDs」のリーダーの一人、奥田愛基氏は、あたかも普通の学生が「安倍政権の暴走」に対し、やむにやまれず声を上げたかのような伝えられ方をした。
だが実際には、彼は福岡県で「反天皇主義」と「ホームレス支援」活動で名を知られた牧師の父のもとに生まれ育ち、SEALDsは、平成24年に自身が結成した反原発グループの「一時的自主管理区域」が発端で、翌平成25年に「特定秘密保護法に反対する学生有志の会」(サスプル、SASPL)に衣替えし、解散を経て名称変更した組織というのが実体である。
もちろん、人はどのような思想信条を持とうが自由である。奥田氏の父親が小泉元首相靖国神社参拝に対する福岡山口訴訟の原告の一人で、反天皇主義者であることもかまわない。
私が問題にしているのは、まったくの私人ではなく、公的な意味を持つ活動に参加し、一定の影響力を持つ存在となったら、その人物の背景についても伝えるのがメディアの仕事であり、それを「普通の学生」としか伝えないとすれば、そこにはメディアにとっての“不都合な真実”があるからではないか。
SEALDsは「自由と民主主義のための学生緊急行動」の英訳の略称で、奥田氏をはじめとする若者たちが、我が国の未来に危機を感じて国家と国民のために立ちあがったとするなら、その心意気やよしである。
SEALDs主催の国会前デモで別の団体に所属する福岡の大学生が「そんなに中国が戦争を仕掛けてくるというのであれば、そんなに韓国と外交がうまくいかないのであれば、アジアの玄関口に住む僕が、韓国人や中国人と話して、遊んで、酒を酌み交わし、もっともっと仲良くなってやります。僕自身が抑止力になってやります。抑止力に武力なんて必要ない。絆が抑止力なんだって証明してやります」などと発言して、注目を浴びたが、そもそも自由と民主主義を守るためには日本の独立と安全を確保することが大前提で、その意味では彼らは現実の国防問題や抑止力の意味をあまり知らず、感情の奔流(ほんりゅう)だけで国際的な視野が決定的に欠けていた。
メディアがそれを伝えてこなかった責任は大きいが、きちんと学ぼうとしなかった彼らにも問題がある。
さらにメディアの責任に言及すれば、彼らはSEALDsの背後関係を知らなかったのか。そうではあるまい。知っていて報じなかったに違いない。
メンバーの中に日本共産党の若手の下部組織である民主青年同盟(民青)関係者がいたことを、どれほどのメディアが報じたか。「日本共産党綱領を学び」「日本共産党を相談相手に、援助を受けて活動する」ということが「民青」の規約には記されている。SEALDsは街宣活動で日本共産党直系の全労連の宣伝カーを使ったことがあり、両者が無関係でないことを示している。
これに関して、メディアの多くが、「綱領や規約がなく代表もおいていない。特定組織とは一線を画し、ネットで集会参加などを呼び掛け、自主的に集まってくる若者たちとラップ調の音楽や踊りで活動をしている」というSEALDsの言い分をそのまま伝えていた。
たしかにSEALDsは共産党だけでなく民主(当時)、維新(同)、社民、生活の党(同)とも共同で街宣することがあったが、ノンセクトを装った民青の強い影響下で一般の若者たちの動員を図っていた可能性について分析があってしかるべきだった。それがメディアの仕事である。
---owari--
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