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「ロシア軍のウクライナ侵攻」で、首都キエフが制圧されるシナリオとは

2022年02月25日 | 政治・経済
緊迫したウクライナ情勢について、国際関係アナリスト・北野 幸伯さんのダイヤモンド・オンラインの記事からお伝えします。

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ロシア軍がウクライナへの侵攻を開始した。ロシアは2月21日、ウクライナ東部ルガンスク、ドネツクの独立を承認。そして、両地域に「平和維持部隊」を送ることを宣言した。筆者は『ウクライナ侵攻をもくろむプーチンの「本当の狙い」はどこにあるか』で、「ロシア軍がウクライナに侵攻すれば、その目的は『ルガンスク、ドネツクのウクライナからの完全独立を達成すること』だろう。そして、事実上、ロシアの属国となる」と書いたが、悪い予想通りになってしまった。プーチンの目的は、何なのか?ロシア軍は、ルガンスク、ドネツクを越えて、ウクライナの首都キエフを目指すのだろうか?(北野幸伯)

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(プーチンがこのタイミングでウクライナ侵攻を決めた理由)
まず、これまでの流れを振り返ってみよう。
10万人といわれるロシア軍が、ウクライナ国境近くに集結したのは、昨年11月だ。そして、プーチンは、「ウクライナをNATOに加盟させない法的保証」などを、米国と北大西洋条約機構(NATO)に求めた。

なぜこのような事態となったのか?

世界は戦後、米国を中心とする資本主義陣営とソ連を中心とする共産主義陣営に分かれた。
欧州も、米国側の西欧と、ソ連側の東欧に二分された。そして、両者の境界となるドイツは、米国側の西ドイツ、ソ連側の東ドイツに分断された。

しかし1989年にベルリンの壁が崩壊し、1990年には、「東西ドイツを再統一しよう」という動きが活発になってくる。
こうした中、米国は、「東西ドイツの統一を認めるか」とソ連に尋ねた。
すると、ソ連のゴルバチョフ大統領は、「統一ドイツより東にNATOを拡大しない」という条件を提示。そこで米国は、NATOの不拡大を約束した。

だが、1991年12月にソ連が崩壊すると、ゴルバチョフとの約束はあっさり破られ、米国は「反ロシア軍事同盟」NATOを拡大していく。
ソ連崩壊時に16カ国だったNATO加盟国は、現在30カ国まで増えた。
新しい加盟国には、かつてソ連領(ロシア人に言わせるとロシア領)だったバルト三国も入っている。

そして米国は、ロシアの西の隣国で旧ソ連の国ウクライナや西南の隣国で同じく旧ソ連のジョージアも、NATOに加盟させようとしている。

そのため、プーチンは、反ロシア軍事同盟の膨張を止めようとしているのだ。
だが、NATOの拡大は今に始まったことではない。
にもかかわらず、なぜプーチンは、今になって大軍をウクライナ国境に送ったのだろうか?

プーチンの狙いは、本人と側近以外は誰にもわからないだろうが、筆者は「米中覇権戦争が激化していることと関係がある」と見ている。
米国は、中国との戦いで忙しい。
中国とロシア、両国を同時に敵に回すことはできないから、「今なら譲歩を勝ち取れる」と予想したのだろう。

そして、ロシアは米国のみならず、欧州、NATOとも交渉を始めた。
昨年12月8日にバイデンとプーチンのオンライン会談が行われた後、幾度となく交渉が繰り返されてきた。
しかし、プーチンの望む結果、すなわち「ウクライナをNATOに入れない法的保証」を得ることができていない。

(ウクライナ軍による攻撃激化が、ロシア軍侵攻の口実になる恐れ)
そして2月18日、プーチンは動き始めた。
「ウクライナ軍の攻撃が激化して危険だから」との名目で、ウクライナ東部のドネツク、ルガンスクから、住民の避難を始めさせたのだ。
女性、子ども、高齢者を中心に、これまで6万人以上がロシア領に避難したと報じられている。
「攻撃が激化して危険」というのは事実だ。

欧州安全保障協力機構(OSCE)によると、1日1000~2000件の銃撃が行われている。
だが、ウクライナ側は、「ドネツク、ルガンスク側が攻撃をしかけている」と主張している。真相は分からないが、ウクライナ側には攻勢を強める動機はない。

なぜか?
ウクライナは、ドネツク、ルガンスクの後ろに、(国境を隔ててはいるが)10万人のロシア軍が控えていることを知っているからだ。
ウクライナ軍が攻撃を激化させれば、ロシア軍に侵攻の口実を与えてしまう。
したがって、ドネツク、ルガンスク側が意図的に戦闘を激化させ、「ウクライナ軍が攻撃している」と主張することで、ロシア軍が侵攻しやすい環境を整えたのではないかと、筆者は考えている。

実際、プーチンは、「ドネツク、ルガンスクでジェノサイドが起きている」と主張し、2月21日に、親ロシア派勢力が支配する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認した。さらに、平和維持部隊を送ることを決めた。

(ロシアに独立承認された、親ロシア派地域の2つの「国」)
ところで、「ドネツク」「ルガンスク」とは、どういう地域なのか?
ロシアと国境を接するウクライナ東部に位置しており、ウクライナでは、「ドネツク州」「ルガンスク州」と呼ばれている。ドネツク州の人口は約460万人、ルガンスク州は、約240万人である。

2014年3月、ロシアが、ウクライナからクリミアを奪い、併合した。
当時、ロシア系住民が多いドネツク州、ルガンスク州では「クリミアに続け!」という機運が高まった。

そして、ドネツク州の親ロシア派は2014年4月、ドネツク人民共和国の建国を宣言。ドネツク州460万人のうち、半数にあたる約230万人がドネツク人民共和国内に住んでいる。

ルガンスク州の親ロシア派も同時期に、ルガンスク人民共和国の建国宣言を行った。ルガンスク州240万人のうち、約150万人がルガンスク人民共和国内に住んでいる。

一方のウクライナは、当然ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国の独立を認めず、内戦が勃発。
だが、2015年2月、「ミンスク2停戦合意」が成立し、以後大規模な戦闘は抑えられてきた。
こうした中で今回、ロシアが世界で初めてドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を国家として承認したのだ。

(ウクライナの首都キエフをロシア軍が制圧する可能性)
さて、ロシア軍が、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国に入った。
プーチンは22日の段階では、「軍を派遣するかは現地の状況次第」と語り、派兵を公式には認めていない。しかし、欧米は「すでに入った」とみている。たとえばEUのボレル外相は22日、「ロシア軍がドンバス地域(=ドネツク、ルガンスク)に入った」と断言した。ロシア軍の動きは人工衛星から把握できるので、ボレル外相の言葉は事実だろう。

両地域については、ウクライナのみならず国際社会も「ウクライナの一部」と認識しているので、「ロシアがウクライナへの侵攻を開始した」といえる。
問題はこの後のロシア軍の動きである。

ロシア軍はドネツク、ルガンスクで止まるのか、それとも、ウクライナの首都キエフまで進むのか?
『ウクライナ侵攻をもくろむプーチンの「本当の狙い」はどこにあるか』
にも書いたが、「ドネツク、ルガンスクをウクライナから完全独立させて、ロシアの属国にする」のは、「予想通りの展開」だった。

ただし、「キエフ侵攻」は、現時点での可能性は低い。
もしもロシア軍がキエフを侵攻すれば、プーチンは、「現代のヒトラー」として、その悪名を歴史に残すことになるだろう。

だが、状況次第では、キエフ侵攻が起こる可能性もある。
問題は、自国領にロシア軍が侵攻してきたと認識しているウクライナ政府とウクライナ国民の動きだ。

ウクライナのゼレンスキー大統領は2月22日、国民に向けた演説で、「ロシアは、2014年からドンバス地方(=ドネツク、ルガンスク)にいたロシア軍を合法化した」と語った。
ロシア軍は2014年からドネツク、ルガンスクにいたが、ロシアはその存在を認めていなかった。だが、プーチンは「これから平和維持軍を送る」と宣言し、「元からいたロシア軍」が「公に活動できるようにした」ということだ。

ゼレンスキーが冷静さを保ち、ウクライナ国民の怒りを鎮めることに成功し、ドネツク、ルガンスクへの攻撃を自制できれば、ロシア軍のキエフ侵攻は起こらないだろう。
だが、ウクライナ国民の怒りをコントロールできず、「ドネツク、ルガンスクからロシア軍を追い出す!」ということになれば、全面戦争に突入する。

そうなれば、プーチンはキエフ侵攻の命令を下すだろう。
そう考えると、ウクライナはロシア軍と戦うことを自制したほうがいいと、筆者は思う。だが、それは他国の話だからでもあろう。

たとえば中国が尖閣に侵攻したとき、「日本は中国軍と戦うな」とは言えないだろう。
ウクライナ国民から見れば、ロシア軍が自国内に侵攻してきたのだから、「戦って追い出そう」となるのは当然だ。
それでも筆者は、ウクライナとロシアの戦いがここで鎮静化することを願う。

(戦術家プーチンは、ロシアを地獄に連れていく)
国のトップに「戦術家」がいるとロクなことがない。ナポレオンもヒトラーも、優秀な戦術家だったが、結局敗北した。
プーチンは、間違いなくすぐれた「戦術家」だ。だが、「戦略家」ではない。

彼は2014年、ほぼ無血でクリミアを奪ったし、今回も、ほぼ無血でドネツク、ルガンスクを奪った(プーチンは、両人民共和国を「併合しない」としているが、実質支配していることに変わりはない)。

ロシアにとってはいずれも「戦術的大勝利」である。しかし、「戦略的勝利」とはいえない。
2000年から2008年、すなわちプーチンの1期目と2期目、ロシアのGDPは年平均7%成長していた。当時は非常に勢いのある国だったのだ。

しかし、2014年にクリミアを併合した後、経済は全く成長しなくなった。2014年から2020年までのGDP成長率は、0.38%にとどまっている。
成長が止まった最大の理由は、欧米日の経済制裁だ。

プーチンとロシア国民は、「クリミアを奪った罰」を受けている。
それは、「貧困」という罰だ。
ロシアの1人当たりGDPは2008年の1万2464ドル(約143万4000円)から、2020年には1万115ドル(約116万4000円)にまで減少している。

また、CEIC DATA(マクロ経済統計データ)によると、ロシア人の平均月収は2021年11月時点で、767ドル(8万8205円)にすぎなかった。
そして今回、プーチンは、同じ過ちを繰り返している。

日米欧からさらに強い制裁が科され、ロシア経済はボロボロになるだろう。
「戦術家」プーチンは、ウクライナ国民を不幸にするだけでなく、ロシアを孤立させ、貧困に突き落とし、LOSE-LOSEの道をばく進する。

1月末、「全ロシア将校協会」のイワショフ会長(退役上級大将)は、ウクライナ侵攻の結果について、公開書簡の中で「ロシアは間違いなく平和と国際安全保障を脅かす国のカテゴリーに分類され、最も厳しい制裁の対象となり、国際社会で孤立し、おそらく独立国家の地位を奪われるだろう」と書き、「プーチン大統領の辞任」を要求した。

ロシアが「独立国家の地位を奪われる」とは思わない。
しかし、国際社会で孤立し、最も厳しい制裁の対象になるのは、間違いない。
プーチンは、ウクライナだけでなく、ロシアも破壊することになるだろう。

---owari---
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