てつりう美術随想録

美術に寄せる思いを随想で綴ります。「てつりう」は「テツ流」、ぼく自身の感受性に忠実に。

現代美術に肩まで浸かる ― 国立国際美術館私記 ― (1)

2008年02月07日 | 美術随想

中之島にある国立国際美術館

 いきなりだが、国立国際美術館という名前は、変である。ずっと前から、そう思いつづけてきた。

 だいたい、これではどこにあるのかが皆目わからない。国立西洋美術館と、最近できた国立新美術館は、どちらも首都東京にあるので、わざわざ地名をつけなくてもおおよそ見当がつくが、国立国際美術館は大阪にある。しかし、名前だけでそれを予測することは、まあ不可能に近い。さらに、ここが主に現代美術をコレクションしているということも、さっぱり伝わってこない。細かいことをいえば、国という字が2回出てくるのも、何だか妙である。

 もともとは、大阪は大阪でも市内ではなく、千里丘陵にある大阪万博の跡地に、太陽の塔の後塵を拝するようなかたちで、建っていた。万博の期間中に「万国博美術館」という名前で使用されたパビリオンを、そのまま流用して、1977年に再オープンしたのである。

 ぼくは小学4年生ぐらいのころに、北陸の福井からわざわざ大阪へとやってきて、太陽の塔の前に立って写真を撮ったことがあったが、そのときにはすでにその変てこな名前の美術館になっていたはずだ。だがぼくは、万博開催当時のガイドブックしか持っていなかったので(ぼくが生まれる前に親が買った古いものだったが)、アルバムに「背後に見えるのは万国博美術館」などと間違ったことを得々と書いたりしていた。

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 18歳になって大阪に越してきてから、はじめて美術館の内部に入ったわけだが、例のガイドブックで存在だけは知っていたミロの陶板壁画『無垢の笑い』を観たときは、ちょっと戸惑った。その壁画は、万博のパビリオンのひとつ「ガス・パビリオン」のために、「笑いの世界」という展示テーマに沿って制作されたもので(「ガス」と「笑い」がどう結びつくのか今ひとつはっきりしないが、建物も人が大口を開けて笑ったような姿をしていた)、万博終了後、この美術館に所蔵され、恒久展示されることとなったのである。

 エントランスに入ってすぐ左側に、それはあった。圧倒されるぐらい大きな壁画だったが、そこに描かれているのは笑いというよりも、不気味な目玉の群がりのように見えた。前にも他の記事で書いたように、ぼくはミロが好きだし、彼の絵を眺めていると本当に楽しくなってくるのだが、正直いって『無垢の笑い』だけはいまだに好きになれない。

 美術館の建物に関しても、ぼくはあまりいい印象をもたなかった。全体に古びていて、ちょっと陰気くさかった。中庭へ出ると、野外彫刻がほとんど朽ちかけたまま転がされていたりした。地下にあった喫茶コーナーも、やがて無人の休憩所へと姿を変え、撤去された公衆電話の土台だけが生々しく残されていた。誰の眼にも、この建物は限界が近づいているらしく見えただろう。

 やがて美術館は、万博公園のなかから中之島へと移転することになった。精巧に作られた模型がロビーに置かれ、すべての展示室が地下にあるというそのつくりにぼくは驚いたが、2004年に引っ越しは完了し、すでに中之島の新しい名所として定着しているようである。美術館自体は地下にあるが、地上には竹林とも鳥の翼とも波涛ともつかない不思議なかたちのオブジェが聳えていて、いやでも人目を引く。

 『無垢の笑い』も、地下1階の内壁に新たな安住の地を得た。地下は3階まであるのだが、地上にあった旧館よりも明るく感じられるのは、何とも不思議だ。レストランも併設され(ただしやや高級だが)、居心地のよい場所として生まれ変わった。

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 このたび、国立国際美術館が昨年で30周年を迎えたことを記念して、所蔵品だけの大規模な展覧会が開かれた。現代美術ばかり400点ほどを並べた、本来ならあまり集客に期待できない企画である。しかしぼくが出かけたときは、意外なほど賑わっていた。展示されていた作品がすべて、お客の理解を得られていたとは思わないけれど・・・。

 たまさか、思いっきり現代美術と向き合ってみるのもいいものだ。難解なものも多いし、正直な話「なんだくだらねぇ」と吐き捨てたくなるようなものもないではないが、そういった表現の迷いがすべて、美術のひとつのあり方である。時の流れにまだ淘汰されていない、玉石混交ともいえる作品のかずかずが、そこにはごろごろしていた。それを見極め、評価を下すのは、ぼくたち自身の眼であり、感受性であるのだろう。

 それでは、ぼくなりの切り口で、いくつかの作品を取り上げてみたいと思う。

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