一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『奇跡』 ……家族が一緒に暮らせること、そのことこそが奇跡……

2011年06月05日 | 映画


この作品は、
6月11日公開の映画であるが、
九州(福岡・熊本・鹿児島)が舞台の作品ということもあって、
全国公開よりも1週間早く、
6月4日より、
九州での先行上映が始まった。

本作は、九州新幹線の開通に合わせたJRとのタイアップ企画ということで、
私としては、正直、あまり見たいとは思わなかった。
これまでにも企業とタイアップした作品は多く作られているが、
あまり成功作はない。
〈この作品も宣伝臭プンプンの作品なのではないか……〉
と一抹の不安を持っていた。
それに、いかにもという感じの『奇跡』というタイトルにも引っ掛かりがあった。
今年だけでも、「奇跡」という文字が入ったタイトルの映画が、すでに、
『太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男』
『阪急電車 片道15分の奇跡』
の2作があるし、
過去にも、『四日間の奇蹟』(2005年)など、数多くの作品がある。
明るいことの少ない生き辛い時代なので、「奇跡」を連発したくなる気持ちも解るが、
そのものずばりの『奇跡』というタイトルはいかがなものか。
そんなこんなで、見る気が失せていたのだが……
……でも、
『誰も知らない』『歩いても 歩いても』で知られる是枝裕和監督作品であるし、
キャストも素晴らしいので、
一応、見ておくべきだと判断した。
で、そのキャストだが、以下のような豪華キャスト。

前田航基(大迫航一・役)
前田旺志郎(木南龍之介・役)
大塚寧々(大迫のぞみ・役)
オダギリジョー(木南健次・役)
夏川結衣(有吉恭子・役)
阿部寛(坂上守・役)
長澤まさみ(三村幸知・役)
原田芳雄(山本亘・役)
樹木希林(大迫秀子・役)
橋爪功(大迫周吉・役)
磯邊蓮登(磯邊蓮登・役)
林凌雅(福元佑・役)
永吉星之介(太田真・役)
内田伽羅(有吉恵美・役)
橋本環奈(早見かんな・役)


監督の是枝裕和は、『誰も知らない』で、子役の柳楽優弥に、カンヌ国際映画祭主演男優賞受賞をもたらした実績があり、子供の演出にかけては定評がある。
今回の作品には、お笑いコンビ【まえだまえだ】の兄弟コンビ、前田航基・前田旺志郎を大抜擢。
大塚寧々、オダギリジョー、長澤まさみ、橋爪功、
それに、『歩いても 歩いても』に出演したメンバーであった、
夏川結衣、阿部寛、原田芳雄、樹木希林、林凌雅も出ていて、
文句なしの出演陣。
この他、
熊本の老夫婦役で、
高橋長英とりりィも出ている。(この二人がとてもイイ)

九州新幹線が全線開業の朝、
博多から南下する“つばめ”と、
鹿児島から北上する“さくら”、
二つの新幹線の一番列車がすれ違う瞬間に奇跡が起きて願いが叶う……。
そんな噂を耳にした小学6年生の大迫航一(前田航基)は、
離れて暮らす4年生の弟・木南龍之介(前田旺志郎)と共に奇跡を起こし、
家族4人の絆を取り戻したいと願う。


二人の両親は離婚し、
航一は母・のぞみ(大塚寧々)と祖父・周吉(橋爪功)、祖母・秀子(樹木希林)と鹿児島で、


龍之介は父・健次(オダギリジョー)と福岡で暮らしているのだ。


兄弟は、友達や両親、周りの大人たちを巻き込んで、壮大で無謀な計画を立て始める。
そしてその計画は、様々な人々に奇跡を起こしていくのだった……。
(ストーリーはパンフレットより引用し構成)

いや~なかなかの作品だった。
「宣伝臭プンプン」は杞憂に終わった。
さすが是枝監督、JRが気の毒になるほど(笑)、
監督独自の世界を創り上げていた。
見事と言っていいだろう。

最初は、鹿児島と福岡で暮らす兄と弟の日常生活をじっくり撮っている。
この部分はやや退屈なのだが、
兄弟両方の日常生活をしっかり描写することによって、
後半の部分を上手く引き立てている。
二つの新幹線の一番列車がすれ違う瞬間に立ち会い、
奇跡を起こそうと、
鹿児島から3人、福岡から4人の子供たちが熊本のある場所を目指して動き始めるのだが、その後半部分が実にイキイキしているのだ。
見ている私もワクワクさせられた。


子供たちが主役の映画だが、その中でも【まえだまえだ】の二人の演技は凄かった。
是枝監督の演出術のなせるワザか、
それとも前田航基と前田旺志郎が天才なのか……
この作品は、この二人の演技で成り立っていると言っても過言ではない。
二人の演技こそが、ある意味「奇跡」なのかもしれない。

この作品には、
樹木希林の孫で、
本木雅弘・内田也哉子夫妻の長女である、
内田伽羅(うちだ・きゃら)も出ている。
樹木希林みずから孫にオーディションを受けることを勧めたそうで、
子役たちの中にあって、もうすでに動かしがたい存在感があった。
11歳だそうだが、とても11歳には見えないほど大人びていて、
他の共演者の子供と比較すると、その違いはあきらか。
小学5、6年生の頃は、女子の方が身長も高かったりして、
男子よりも大人びているものだが、
内田伽羅の場合は、中学生といってもおかしくないほどであった。
本当に将来が楽しみな女優の誕生である。


※追記
「奇跡の一枚」で有名になった橋本環奈も、
本作『奇跡』のオーディションを受け映画初出演している。





九州新幹線が全線開業したのは、2011年の3月12日であった。
だが前日の3月11日に、あの東日本大震災が起こった。
この大震災によって、
日本のすべての人々が、
いや、世界中の人々が、
人とのつながり、家族の大切さを、あらためて実感させられたのではないだろうか。
家族が一緒に暮らせるということ、
いままで当たり前と思っていたことこそが「奇跡」である……
そのことを再認識させられたのではないだろうか。
多くの人に見てもらいたい作品である。

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