一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『マスカレード・ホテル』 ……長澤まさみの姿勢と佇まいに魅了される……

2019年01月30日 | 映画
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今年(2019年)になっても、
(佐賀では遅れて公開される映画が多いので)
昨年(2018年)公開の映画ばかり見ていた。
先日、ようやく昨年公開の映画を見終わり、
今年公開された映画にやっと目がいくようになった。(笑)

今、最も話題になっている映画は、『マスカレード・ホテル』(2019年1月18日公開)。
東野圭吾の同名小説(シリーズ第1作)を映画化したもので、


木村拓哉が初の刑事役に挑んでいる。
ヒロインとなるホテルマンの尚美役に長澤まさみ。


長澤まさみは好きな女優なので、
彼女の出演作は、なるべく見るようにしている。
ここ数年、
『海街diary』(2015年)
『散歩する侵略者』(2017年)
などの傑作映画で素晴らしい演技を見せているし、
ミュージカル『キャバレー』(2017年)
『メタルマクベス』disc3(2018年)
など、舞台でも非凡な才能を発揮している。
今の長澤まさみからは目が離せないのだ。

「HERO」シリーズの鈴木雅之がメガホンをとり、
「ライアーゲーム」シリーズの岡田道尚が脚本を担当している。
この二人なら、それほど悪い作品にはなっていない筈だ。
それでも、期待半分、不安半分で、映画館へ向かったのだった。



都内で起こった3件の殺人事件。
すべての事件現場に残された不可解な数字の羅列から、


事件は予告連続殺人として捜査が開始された。
警視庁捜査一課のエリート刑事・新田浩介(木村拓哉)は、


その数字が次の犯行場所を示していることを解読し、
ホテル・コルテシア東京が4番目の犯行場所であることを突きとめる。


しかし犯人への手掛かりは一切不明。
そこで警察はコルテシア東京での潜入捜査を決断し、
新田がホテルのフロントクラークとして犯人を追うこととなる。
そして、彼の教育係に任命されたのは、
コルテシア東京の優秀なフロントクラーク・山岸尚美(長澤まさみ)。


次々と現れる素性の知れない宿泊客たちを前に、












刑事として「犯人逮捕を第一優先」に掲げ、利用客の“仮面”を剥がそうとする新田と、
ホテルマンとして「お客様の安全が第一優先」のポリシーから、利用客の“仮面”を守ろうとする尚美はまさに水と油。


お互いの立場の違いから幾度となく衝突する新田と尚美だったが、
潜入捜査を進める中で、共にプロとしての価値観を理解しあうようになっていき、
二人の間には次第に不思議な信頼関係が芽生えていく。
そんな中、事件は急展開を迎える。
追い込まれていく警察とホテル。
果たして、仮面(マスカレード)を被った犯人の正体とは……




「期待半分、不安半分で、映画館へ向かった」
と書いたが、正直、
〈大味な作品になっているのではないか……〉
と、かなり心配していたのだ。
ホテルのような一つの大きな場所に、
様々な人間模様を持った人々が集まって、
そこから物語が展開する……という方式は、
1932年に公開(日本では1933年に公開)された映画『グランド・ホテル』にちなみ、
「グランドホテル方式」と呼ばれているが、
この方式の作品は、登場人物が多い上に、ストーリーも入り組んでいるので、
脚本がしっかりしていないと収拾がつかないし、
脇役にいたるまで豪華俳優陣なので、バランスも難しい。
本作『マスカレード・ホテル』でも、
渡部篤郎、石橋凌、松たか子、鶴見辰吾、生瀬勝久、高嶋政宏、笹野高史、小日向文世、梶原善、篠井英介、宇梶剛士、濱田岳、前田敦子、菜々緒、橋本マナミ、田口浩正、勝地涼、石川恋、泉澤祐希、東根作寿英など、
日本映画界に欠かすことのできない総勢20名の錚々たる豪華キャストが、
刑事、ホテルマン、そして、個性豊かな宿泊客として登場する。
おまけに、ミステリーなので、「犯人捜し」の要素も組み込まれている。
心配は尽きなかったのだが、
映画を見た感想はというと……これがかなり良かったのだ。
完成度の高い作品に仕上がっていて驚いた。
登場人物が多いにもかかわらず、
そして、いくつものエピソードを盛り込んでいるにもかかわらず、
すっきりまとまっており、
上映時間133分、たっぷり楽しむことができた。
脚本を担当した岡田道尚と、
演出を担当した鈴木雅之監督は、かなり良い仕事をしていると思った。

鈴木雅之監督は、「HERO」シリーズでもそうであったが、
シンメトリーを多用する監督である。


今回もホテルのフロントやエレベーター、階段などのセットをシンメトリーに撮影できるよう作りました。基本的には作っている人間が気持ちのいい画を撮るということなのですが、シンメトリーには強さがあるんですね。物語には大して影響のないことですが、映画とというのはそうやっていろいろとアイディアを考えることが楽しい。物語だけではない面白さというのが、我々作る側にはありますよね。(『キネマ旬報』2019年1月下旬号)

鈴木雅之監督が語るように、
シンメトリーの構図には強さを感じるし、見ていて安心できる。


そのしっかりした構図の中で、複雑な人間模様が描かれるので、
解かりやすいし、見ている方は心地良ささえ感じるのだ。
よく工夫されていると思った。



ホテルという大きな器、大勢のキャスト、複雑な物語。
その中で主役を張るには、かなり強い個性を持っていなければならない。
その点、
初の刑事役に挑んだ木村拓哉と、
ヒロイン・長澤まさみには、
合格点が与えられると思った。

もちろん犯人検挙を目的とする刑事であることを、(新田の)モチベーションに置いてはいますが、今回の自分を包む環境というか、舞台の8割以上はホテル。つまり自分の身を包んでいるものはホテルマンであり、中身は刑事である。ですから、通常のホテルマンや刑事とは一味違った気の張り方も求められていたように思います。(『キネマ旬報』2019年1月下旬号)

こう木村が語るように、
刑事・新田は、


早い段階で、ホテルマン・新田に変身する。
髪型も変わるが、正直(見慣れていないからかもしれないが)、似合っていない。(笑)


〈この髪型で2時間は辛いな~〉
と思っていたが、(コラコラ)
物語が進むにつれて、この髪型が次第に目に馴染んでくる。
違和感がなくなってくる。
最初は、刑事としての目つき、姿勢、動作が強調され、ホテルマンには見えない。
だが、徐々に、目つきがやや柔らかくなり、姿勢が正され、動作もキビキビとしてくる。
ホテルマンに見えてくるのだ。


この微妙な変化を演じて魅せた木村拓哉は、賞賛されていいと思う。



一方、刑事・新田の教育係であるフロントクラーク・山岸尚美を演じた長澤まさみはどうであったか?


これが、期待以上に素晴らしく、
新田と衝突を繰り返しながら事件の真相に近づいていくヒロインを、
見事に演じ切っていた。


姿勢、佇まい、動作……すべてが格好良く、魅了された。


木村拓哉と相性も良く、
男女のバディものとしては、かなり上位にランクされる作品になっていたと思う。



ところで、「犯人捜し」だが、
渡部篤郎、石橋凌、松たか子、鶴見辰吾、生瀬勝久、高嶋政宏、笹野高史、小日向文世、梶原善、篠井英介、宇梶剛士、濱田岳、前田敦子、菜々緒、橋本マナミ、田口浩正、勝地涼、石川恋、泉澤祐希、東根作寿英に、木村拓哉、長澤まさみを加えた22名の中に犯人はいる。


原作は読んでいなかったので、
映画を見る前に、配偶者から、
「犯人は誰だと思う?」
と訊かれ、
私は、ある俳優の名を挙げた。
……そして、私のその予想は、なんと、当たっていたのだ。(笑)
結末は言えないけれど、
〈いろんな楽しみが詰まっている作品だな……〉
と思った。
映画館で、ぜひぜひ。



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