HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

着歩くお洒落。

2020-01-29 04:16:53 | Weblog
 先日、トヨタ自動車が米国ラスベガスで開催された世界最大規模のエレクトロニクス見本市(CEO 2020)で、静岡県にある自社工場跡地に「ウーブンシティ(Woven City)」と呼ばれる実験都市を開発するプロジェクトを発表した。https://toyotatimes.jp/insidetoyota/047.html?padid=from_t-times_top_new_insidetoyota047_190101


 ウーブンとは織る、組み立てる、考案するを意味するweave(英)の過去分詞で、直訳すれば「組み立てられた街」。実験ではロボットやAI、自動運転、MaaS(モビリティ・アズ・サービス/マイカー以外の交通手段をICTでつなぐ仕組み)、パーソナルモビリティ(次世代自動車)、スマートホームといった先端技術を人々の生活を通して検証していく。

 場所は2020年末に閉鎖する同社東富士工場(静岡県裾野市)敷地の東京ドーム約15個分、約70.8万㎡。着工開始は2021年の予定で、初期には自社従業員や関係者など2,000名程度の入居を予定し、将来的には一般入居者も募集するという。



 実験では網の目のように織り込まれた「道路」が舞台となる。一つは、速度が速い車両専用の道路。電動化やコネクティッドカーを活用した「e-Palette」など、完全自動運転かつ二酸化炭素や窒素酸化物などを排出しないモビリティのみが走行する。二つ目は、歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存する道路。そして、三つ目が公園内にあるような歩行者専用道路になる。



 この3つの道が人の身体を通る血管のように交通や物流において重要な役割を担う。また、SDGs(持続可能な開発目標)にも注力し、建物はカーボンニュートラルな木材で建設、屋根には太陽光発電パネルを設置するなど、環境との調和にも配慮する。住民は室内用ロボットなどの新技術を体験する他、センサーのデータを活用するAIで健康状態をチェックする。街の中心や各ブロックには、住民同士のコミュニティ形成やその他様々な活動をサポートする公園や広場も整備される。

 まさに、これまでのモーターショーで公開されてきたコンセプトカーや万国博覧会で必ず見かける未来都市が現実のものとなり、直に体験、体感できるのだ。そして、それが人々の生活にどう影響し、暮らしをどう変えていくか。様々なデータがとられて、未来の暮らしとはどんなものなのか、具体的なプロトタイプが示されるのである。

 プロジェクトを主導するトヨタ自動車では、様々なパートナー企業や研究者と連携する。技術やサービスの開発・実証を繰り返し、人々の暮らしを支えるモノやサービスがICTで繋がることで生まれる、新たな価値やビジネスモデルを見出してくという。実験データをもとにウーブンシティを人口減少が続く地方都市に生かせば、再び人口の流入が始まり、地域再生の糸口が掴めるのかもしれない。マイカーがないと生活できないという価値観が変わり、高齢ドライバーの暴走事故を防ぐ手段にもなると思う。

 では、 ウーブンシティへのアパレルの関わりはどんなものか。あるとすれば、先端技術をもつ衣服「ウェアブル」だろうか。例えば、小さな子供は道路の真ん中で発作によって倒れ、不慮の事故に遭遇するかもしれない。そのような時にウェアブル技術を生かせば、体調の変化を家庭や走行中の車が未然に検知し、事故を防ぐことができる。

 さらに身につけたウェアブル端末で高精度の生体情報を得られれば、企業が従業員の体調管理(実験ではセンサーのデータを活用するAIで健康状態をチェック)を行うことも可能だ。ウェアブルはモビリティやスマートホーム、インテリジェントオフィスとは親和性は高く、実証実験がウーブンシティで行われる可能性は十分にある。


車と衣服の需要は反比例?

 ただ、個人的には次世代の自動車や住宅、オフィスとアパレルとの関係については、悲観的である。すでにITがビジネス社会の浸透し、仕事のやり方は大きく変わった。テレワークなどで外出や対面せずに仕事をこなせるようになり、オフィスではカジュアル化が一気に浸透。それがスーツ需要を激減させた一因でもある。

 ウーブンシティのイメージビデオに登場する人間もスーツや重衣料は着ていない。スマートホームでの仕事が増えると、オフィスへの通勤が減り、オフィシャルウェアの需要は減っていく。外出するにしてもモビリティは自宅やオフィスビルに格納されることも考えられるので、そのまま乗り込めば目的地に行けるだろう。電車などを利用した長時間の通勤がなくなれば、アウターは要らなくなる。散歩やレジャー、旅行など外出がなくなるわけではないがオケージョンが変われば、必要とされないアイテムやスタイリングも出てくる。

 もっとも、こうしたケースは以前からあった。単純に考えて、車とファッションは利用者の嗜好や感覚、行動パターンで取捨選択される。そのため、需要の相関関係は反比例しがちだ。車にお金をかける層は、ファッションにはあまり関心がない。また、環境的に地方では車で移動する分、コートを着なくて済む。穿った言い方をすれば、ジャージを着てベンツに乗るお方もいる。すべてがそうとは言い切れないが、どちらかへの投資は減ってくる。収入が限られる若者ではなおさらだ。

 昨今は若者の車離れが激しい一方、衣料品の低価格化でファッションへの関心も薄れている。一方で、改造車の展示イベント「東京オートサロン」は、今年の入場者数が3日間で33万6000人と過去最高を更新。また、アニメとゲームの市場規模は、経済産業省の調べでは3兆円(2017年度)にも及ぶ。つまり、その人の嗜好によって、投資するモノやコトの違いが際立っているのだ。そこで、トヨタは自動車メーカーとして、若者の車離れの中でどう市場を確保するか。それには街づくりの中で次世代の移動手段やコネクテッドからアプローチしていくしなかいと、考え始めたのだろう。

 まあ、車とファッションとの関係をライフスタイルから振り返ると、米国西海岸のテイストが流行した70年代後半には、「丘サーファー」なるものが出現していた。レアもののアロハシャツを着てVWビートルなんかにサーフボードを乗せて街中を走り回るが、実際には波乗りはしない連中を揶揄したものだ。それ以外ではF1などのレースチームのユニフォームやシューズ、バイク好きの革ジャンスタイル、アメ車マニアのオールディーズファッションくらいか。クラシックカーレースに出場するドライバーの懐古ファッションは、異例だろう。

 自動車用品のオートバックスセブンは、オーストラリア人と日本人のカップルが愛する「Café×Nature×Car life」をコンセプトにした新業態「JACK&MARIE」を開発した。西オーストラリアにあるサーファーの聖地を舞台にしたアウトドア&カーライフをベースにアパレルや雑貨を販売するものだが、背景にはファッション同様に車に対する価値観が変わったことがある。地方ではマイカーが生活の足として求められる反面、都会では若者を中心に車を持たない層が増えていることへの危機感からだ。しかし、狙い通りに行くかはわからない。



 AIやICTによってコントロールされる新しい街が住みよさや働きやすさ、快適性をもたらせば、人々の行動範囲はより限定的となり本来、自然や四季と対峙して身体を保護し、体調を維持する衣服の役割も大きく変わっていく。かつてはそれがファッションスタイルを生み出したのだが、そうした文化的な価値さえ注目されなくなるのではないか。


人間は外出したい動物

 ニューヨークにいた90年代半ば、現地で外食チェーンを展開する経営者と話す機会があった。その方曰く、「人間は外出したい動物なんだ」「人間が外出する限り、外食ビジネスがなくなることはないよ」。それまでレストランや料理の撮影は何度も行ったが、そんなことを言う経営者は一人も居らず、まさに金言だった。ちょうど、日本の「オタク」文化が米国にも伝播していた頃で、そうした風潮が外食にもたらす影響を意識しての発言だったのかもしれない。それにしても、ニューヨークには3万軒を超える飲食店があり、新陳代謝を繰り替えながらも絶対数が維持されることを考えると、頷ける話だった。

 あれから四半世紀。生活の基本である「衣」「食」「住」のビジネスは凄まじい変化を遂げた。特に衣は市場の縮小に歯止めがかからない。トヨタ自動車が進める新しい街で人々の行動範囲が限定的となれば、外出のパターンは大きく変わるだろうし、アウターを着る機会も確実に少なくなる。それでなくても暖冬で重衣料が売れなくなっている。颯爽とコートをなびかせて、冬の街を闊歩するというスタイルは、無くなってしまうのかもしれない。

 産業革命以降、英国には工場が建ち並び、煙突から出る煙はスモッグとなって、ロンドンの街は霞んだ。だが、英国人はそれを詩的に解釈し「霧の都」と呼んだ。そこでは外套を着て帽子を被り、ステッキをもつ英国紳士のスタイルが実に絵になった。得てして環境の変化がファッション文化にもたらす影響は、多大との証しでもある。ただ、皮肉にもこれからは先端技術による環境変化で「粋なスタイル」さえ、奪っていくおそれもある。

 時代が変わるのだから仕方ないと言っても、アパレルに携わってきた人間としては、やはり寂しい。人間が外出したいのは間違いないと思うし、人間は動物の中で唯一お洒落ができる存在だ。時代の変化、先端技術の定着は否定しないが、お洒落できる環境を残す意味でも、適度に抗いながら、生きていこうと考える。

 そして、これからもマイカーには頼らず歩いて事足りる都会暮らしを続ける考えだ。幸い、筆者が暮らす「福岡市中央区」は昨年、大東建託が全国1896自治体に住む18万4193人を対象にした満足度調査で、「第1位」となった。https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1912/18/news123.htmlニューヨークから戻り24年目に入ったが、支店都市の性格から人の出入りは激しいものの、生活に必要なものがすべてコンパクトにまとまっている。ヒューマンスケールというか、ウォーキングタウンというか、一度住めばそれだけ暮らしやすいと感じる証左だろう。だから、これ以上、人為的な街づくりは必要としない。

 これから高齢になるに従って、自分の行動パターンや範囲がどうなるのか。仕事はともかく、買い物ではドローンによる宅配が可能になる日もそう遠くはないだろう。ただ、歳をとってもリアル店舗で直に物を見て買い物する方を選択したい。なぜなら、自分は外出したいからだ。リタイアすれば、またパリやニューヨークにも行けるだろうし。 これからも着歩くお洒落を楽しもうと思う。
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勝因は素材にあり。

2020-01-22 07:06:58 | Weblog
 商業界オンラインのルポ「ファッションPLUS」は、主要衣料品チェーンの月間売上げと概要をまとめている。それによると、秋冬衣料は暖冬の影響で一昨年に続き、売れ行きが芳しくない。

 ただ、中には売れているブランドや企画が奏功したアイテムもある。それが「無印良品」だ。昨年10月は消費増税がスタートし、真夏日、台風や大雨と天候不順が続いて、衣料品には逆風だったにも関わらず、運営会社の良品計画は、既存店の衣料部門が対前年比で105.4%の増収。客数も114.8%と伸ばしている。 http://shogyokai.jp/articles/-/2200

 消費増税に対する施策は、店頭のポスターやPOPで「無印良品は10月1日以降も価格を変えません。これからも消費税込み価格」と、アピール。ルポにはそれが効いたかどうかの記述はないが、増税の影響をできる限り抑える「期間限定価格」を10月8日までと同15日までの2回に渡って導入している。

 商品では、レディスの「新彊綿フランネルシャツワンピース」(税込4990円)、同「縦横ストレッチチノイージーセミフレアスカート」(税込4990円)、メンズの「新彊綿フランネルスタンドカラーシャツ」(税込2990円)が天候不順が重なっても堅調に売れ、増収に貢献した。

 一方、他社は軒並み、昨対割れだ。 ユニクロ(既存店+EC)の売上高は98.1%、アダストリア(既存店)は同94.8%、ユナイテッドアローズ(既存店+ネット通販)は同91.9%、しまむら(既存店)は同91.3%。ライトオンにいたっては、既存店の売上げが82.7%と、減収が著しい。

 この傾向は冬物のセールが始まった12月も変わっていない。 http://shogyokai.jp/articles/-/2382 良品計画は既存店の売上高が108.4%だったのに対し、ユナイテッドアローズ98.0%、アダストリア95.9%、ユニクロ94.7%、しまむら91.0%、ライトオン79.9%と、すべて減収。ルポも書いているが、良品計画の一人勝ちだ。


 12月は、「ヤク入りウールワイドリブ編みモックネック」(税込み4990円 期間限定割引)や「首のチクチクをおさえた天竺洗えるタートルネックセーター」(税込み2990円 期間限定割引)といったニットアイテムが牽引している。いかにも無印良品らしい企画で、素材から着心地の良さが伝わって来る。

 では、なぜこのような差が生じたのか。ルポには書かれていないので、筆者なりに分析してみたい。まず良品計画の増収要因は、商品企画の巧さがある。一般に秋物は8月下旬から展開され、レディスでは第一弾に薄手のウールニットや合繊のブラウス、羽織ものなどがラインナップする。だが、9月どころか10月でも真夏日が続き、さらに台風の襲来でジメジメと蒸し暑い日が続けば、消費者はこのようなアイテムを購入する気にはならない。

 その点、無印良品は秋口には布帛のシャツワンピースやスタンドカラーシャツを打ち出した。素材に用いた「コットンフランネル」は柔らかで肌触りが良く、汗をかいても吸収してくれ、洗濯も利く。残暑や湿度、そして急な気温低下のすべてに順応できる素材なのだ。12月に売れたウールワイドリブ編みモックネック、洗えるタートルネックセーターも、肌寒くなると体温調整には都合がよく、柔らかなヤクや綿天竺は肌触りも群を抜から、消費者がつい着たくなるのだ。

 売れているアイテム、注目の商品を生み出せたのは、過去の天候不順から学習し、暖冬傾向に合致するよう素材から企画(布帛のフランネルとか)した成果だと思う。もちろん、自然素材にこだわる無印良品らしさが30代以上の消費者に受け入れられるのは当然だし、アイテムに共通する色・柄は大人のデイリーカジュアルに相応しく、シャツワンピースやスタンドカラーと適度なファッション性も打ち出している。

 無印良品は西武セゾングループの一員として誕生したこともあり、立ち上げからコピーライターの小池一子氏が参画。NBが乱立する中で、ブランドコンセプトをいかに打ち出すかは至上命題だった。だから、まずは日常で使ってもらうために商品特性首のチクチクをおさえたとか)を消費者にわかりやすく伝える必要があった。以来、商品名そのものにどれも特長が盛り込まれている。広告コピーの原点でもあり、それが消費者を惹き付けてやまないのだ。

 それに対し、他社はどうだろう。ユニクロも無印良品っぽい表記をしているが、商品そのものは秋口に裏毛のトレーナーやパーカー、ウール合繊やポリエステル混のパンツ、デザイナーコラボのフリースと、相変わらずワンパターン。これだけ気温が高ければ、素材的に10月に動くとは考えにくい。ヒートテックはなおさらだ。これはライトオンに言えること。いくらブランドのパーカーやトレーナーと言えど、残暑が続けば形無しだっただと思う。

 アダストリアもグローバルワークの店頭では10月にはトレーナーやニットが並んでいたが、やはり動きは鈍かった。他にもボアやコーデュロイ、裏毛といった素材も、11月が暖冬だったことで苦戦したはずだ。ユナイテッドアローズにいたっては、フラノやダブルクロスは完全冬素材だから、かなり厳しかったのではないか。数字が取れるアイテムを投入したい意図はわかるが、これだけ暖冬が続いているのだから、体温調整が利くコットン系、綿の混紡率を上げたアイテムを増やさないと、お客のつなぎ止めは容易ではないと思う。

 数年前に「ワッフルの長袖ニット」がヒットした。これは残暑厳しい秋口を意識したもので風通しの良さが受けたわけだが、編み目が粗い分、冷気を通しやすい。だから、冬場のコーディネートではアウターの重ね着が必要になる。無印良品が企画したフランネルなら細番手糸を密に打ち込むことから、目が詰まっていて風を通しにくい。ウールニットを重ね着したり、インナーにカットソーを合わせたりと自由な組み合わせが楽しめる。 また、綿天竺のカットソーも薄過ぎず厚過ぎないからインナーはもちろん、レギンスになれば冬場のボトムにもいける。

 これらはデイリーカジュアル向けの素材だから、売れたと言うこともできる。ただ、オンシーズンに着てもらえるアイテムを仕掛けないと、数字は取れない。その意味で、コットンフランネルや綿天竺こそ、暖冬が続く気象条件には向く素材だと思う。打ち込みを強くした厚手なら、冬場のジャケットやパンツにもいい。色を明るめにすれば、梅春のシーズンまで引っ張れる。春先の天候不純でも冬素材だから、2%ほどのポリウレタン混で柔らかくすれば、スプリングコート風のジャケットも企画できるのではないか。

 こうした素材、アイテムを営業政策にどう絡めていくか。 無印良品がこの秋冬に一人勝ちしたのは、ターゲットとする客層に合致したアイテムを企画し、確実に販売したこと。だから、冬物偏重の政策を修正すべきとなる。そうすれば、売れなかった場合に12月、1月のセール、クリアランス頼みを緩和できる。オンシーズンアイテムを売ることで、端境期に少しでも数字を伸ばし、期末の値引きや残品ロスを抑えれば、収益は改善するのだ。



 月別の売上げをなるべくフラットするには、一年中通用するアイテムを仕掛けること。それにはメンズ、レディスとも奇を衒った企画より、ニットやカットソー、パンツ、レディスならワンピースや羽織もの(コーディガンなど)に重点を置いた方が消費者にも着回しが利くから、買ってもらえる公算は高い。筆者が知るヨーロッパのメーカーはメンズ向けのロング丈のカーディガンをコットン80%、ウール20%で企画している。ウールオンリーよりもロングシーズンで引っ張れるからだ。

 良品計画は1月10日に発表した通期業績予想で、営業収益4437億円(対前年比8.7%増)、営業利益378億円(同15.5%減)と、増収減益に下方修正した。レポートでは東アジアの一部の国や地域で情勢不安や価格施策の増加により、売上総利益が計画を下回ったとしている。国内事業はアパレル部門の綿フランネルがヒットした他、雑貨ではリュックサックやサコッシュ、食品ではレトルトカレーやバウムが売れており、概ね堅調に推移している。

 ただ、客単価が上半期(2019年3月〜8月)で5.6%、9〜11月で10.8%、12月は12.0%低下。販売管理費は19年2月期は33.1%(うち人件費は11.4%で1.2%増)は上昇(1.3%増)するなど不安要素は拭えない。せっかく「素材」でヒットアイテムを出せたのだから、これをヒントに原価率を上げて質感をもう1、2ランク上げれば、商品はさらに売れて在庫負担は軽くなると思う。それには短サイクルで回していける生産ラインをもつ商社や納入業者と取引すれば、商品にはさらに磨きがかかり、秋冬を不安なく乗り切れるのではないか。秋冬に苦戦した他社にしても良品計画を他山の石として、取り組むべきことは多いと思う。

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サスティナブルは幻想か。

2020-01-15 04:59:36 | Weblog
 昨年以来、業界では何かにつけて「サスティナブル」が引き合いに出されている。もともとは2015年の国連総会で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)が始まりだが、その内容は働く人々の平等や成長、ダイバーシティー(多様性)の確保、地域との共生、フェアトレード、地球環境の保全、若い才能への支援、NPOやNGOとの連携など、それらの利害関係者すべてと将来にわたって持続可能な関係を築いていくことを意味する。

 アパレル業界も原料から製造、販売まで行うサプライチェーンを構築しており、その過程ではSDGsに関わる様々な問題点が指摘される。生産コストが安価な海外工場に製造委託するあまり、労働者が不当に扱われたり、雇用環境を著しく悪化させていたのだ。2013年にはバングラデシュのダッカ近郊で縫製工場が入居していたビルが倒壊し、1100人を超える死者を出した。この事故はファストファッションがいかに劣悪な環境で製造されているかを白日のもとにさらし、SDGsやエシカル(倫理的)について考える契機となった。

 以来、国際団体やNGOによって縫製工場の安全のための国際合意が創設され、社会や環境への負荷を軽減し、「サスティナブルアパレル連合」や「テキスタイルエクスチェンジ」などの活動が始まっている。グローバルアパレルにとっては国際的に主導し、認証を受けることがSDGsへの取り組みの第一歩という認識のようだ。だが、売れ残った服の焼却処分や海洋投棄されたプラスティックゴミなど、まだまだアパレル業界の課題は少なくない。

 日本でもサスティナブルが注目され、企業活動に取り組むところが出始めている。具体的には、まず「素材」がある。リサイクルできるものを使用したり、オーガニックコットンやフェイクファーに切り替えたりだ。「資材」では、キャリーバッグを有料化し、再生が可能な紙製に戻すところがある。「サブスク」「シェアリング」といった流れの中では、所有からレンタルに移行。服についても持たずに借りるというスタイルが浸透させ、無駄な商品製造を減らしていこうという発想だ。

 また、店舗や売場でも動きがある。新店では什器や棚などの8割以上でリサイクル可能な素材を使用するところが出始めた。アパレルのブランドや店舗には、成長のサイクルがある。一般的に誕生や出店直後が導入期、それらが成長期に入り、成熟期を経て、やがて衰退期を迎える。成熟や衰退の過程では売上げが鈍化したり、減少したりする。そのため、企業はテコ入れでリブランディングや店舗の改装を施す。この時に不要となった什器や棚などをリサイクルに回せるようにするものである。

 もっとも、ここまでの取り組みでは、SDGsは緒に就いた程度に過ぎない。前にも書いたが、 小島ファッションマーケティングの調査によると、「2017年、衣服の供給量は約28億点だったのに対し、消費量は半分の約14億点。約14億点が余剰在庫となり、過去最高に達した」というデータがある。最大の懸案である「余剰在庫の削減」、つまり「無駄の無いもの作り」に踏み出さない限り、素材のリデュースは進まないし、資材も使われ続けるのだ。

 服が2枚に1枚は消費されず処分されるのは、需要もないのに供給されているからと言える。その要因は止まらない新規出店とネット通販の増加もある。東京では再開発事業が目白押しで、そこでは商業施設が抱き合わせて開発される。当然、器ができれば、物を入れるから店舗は増え、在庫が積まれていく。首都圏ではいくら流入人口が増えていても、消費者の行動パターンは決まっている。新店が集客できるのはあくまで一時的で、店を出したからと無尽蔵にファッション消費が進むとは、考えにくい。結果、14億点もの余剰在庫を生むのである。

 また、需要が減退しているのは、若年人口の減少や高齢者の増加もあるが、海外工場での量産による商品価値の低下もあると思う。大手、中小を問わずアパレルは企画から外部に丸投げし、それによってブランド名は違っても似たような素材、色、デザインが大量に市場に出回る。お客は商品が似通ってくれば、好みのブランドだけで十分だ。そのため、店舗が新たな顧客を開拓できるはずもなく、余剰在庫がどんどん膨れ上がっていく。

 アパレルがSDGsへの取り組みを声高に叫ぶのなら、まずは無駄な在庫を生まないもの作りをするのが先決ではないか。そうでなくて、素資材の手当てや所有しない価値創造のレベルに甘んじているのなら片手落ちというか、焦点がぼけているように思えてならない。さらに言うなら、サスティナブルへの取り組みを単に企業価値やブランドの向上=お客の目を引く手段に利用しているだけではと、突っ込みたくなる。

 やはり売れる商品を必要とされるだけ作るという意味では、「今のブランドを半分に削減する」「AIを活用して需要予測を徹底」「C2M、完全受注生産に切り替える」くらいのドラスティックな施策を公言しなければ、信憑性はない。というか、SDGsはそれだけ劇的な変化をしなければ、なし得ないのではないだろうか。オンワードHDは、子会社のオンワードパーソナルスタイルを通じ「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」を手がけている。SDGsを宣言しなくても、在庫を持たないビジネスに踏み込んだ点では、こちらの方が評価されるべきと思う。

 もちろん、売れる商品づくりに従来のような企画スタイルやマーケティング手法は通じない。服の2枚に1枚は売れていないという市場環境をより詳細なデータに置き換えて考えることが必要だ。そして、デジタル技術を活用してお客や市場のニーズを分析し、必要とされるだけの商品を作っていく。そのために経営者には業務フローはもちろん、組織体制や仕事のプロセス、企業文化や風土までのすべてを変えていく覚悟が求められる。

 「衣料品はもう、そんな求められていない」ということを前提に、販売ロス、機会ロスを封印し、残るほどの商品を作らない。完全売り切り、受注生産へ舵を切らなければ、アパレルにとってのSDGsなんて幻想に過ぎなくなってしまう。

 アパレル以外の業種を見てみよう。昨年はセブンイレブンが何かと話題になったが、24時間営業はそれだけエネルギーを使用し、CO2を排出する。地球環境に負荷をかける点で、店ごとに営業時間の選別は重要な課題かもしれない。それ以上に問題なのは食品の廃棄だ。セブンイレブンジャパンでは会計上、同社の売上げにつなげるため、本部のスーパーバイザー(SV)が店舗オーナーに断りも無く勝手に商品を発注していたことが発覚した。本部が見切り販売を認めても、売れなければ廃棄されることに変わりない。端から廃棄ロス分を価格に乗せて、売価を決定しているとの指摘もある。それだけ売価が高ければ、値引きしても売れない可能性は高いのだ。

 先日、ファミリーマートでも、同じことが行われていたと報道された。それまで澤田貴司社長は「私が経営している中では、無断発注は起きていない」と豪語していたが、経済誌ダイヤモンドが店舗コーナーに取材をして明るみに出たのだ。しかも、このオーナーによれば、17年の開業当初から、SVが商品の発注方法を詳しく教えないまま、無断発注を繰り返していたというから、悪辣さは極まりない。澤田社長はどう弁明するのだろうか。売上げのために廃棄を承知で仕入れさせているのだから、コンビニはアパレルよりもSDGsにはほど遠いということになる。

 アパレルやコンビニに限らず、スーパーでも大量に陳列されていた年末年始向けの食品は完売することはなく、売れ残りは廃棄処分されたと思う。筆者も料理をするので、廃棄には胸が痛む。肥料などにリサイクルされるとは言っても、SDGsに照らせば飢餓に苦しむ人々もいるわけだから、食べられずに捨てられる食品がこれほど多いのは、あまりに不平等と言わざるを得ない。

 せめて服くらいは大切に長く着ていこうと年頭に誓う。自分がとことん気に入るには既成服では限界があるので、オリジナルで作るようになった。もちろん、既成服も2〜3シーズンで着古すものには手を出さず、オリジナルと同様に長く着つづけられるものを探したい。手持ちのアイテムでも購入から20年以上のニット、15年を超えたジャケットやパンツもある。まだまだ十分着れるし、穿ける。SDGsこそ、まず隗より始めよだ。微力ながら、お気に入りの服は死ぬまで着ることで、余剰在庫の削減に貢献したい。

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組み合わせで勝機を。

2020-01-08 06:39:00 | Weblog

 今回は2020年のビジネスについて考えてみたい。業界系メディアでは、ビジネストレンドというか、成功する要件がいろいろ挙がっている。

 総括すれば、今年もECがアパレルの主流になるようだ。消費者が使用する端末はスマートフォンが主役だから、ECサイトは商品が選びやすく、購入に誘う工夫が不可欠になる。もちろん、配送がスピーディで、送料や負担をどうするかも懸案事項。また、店舗受け取りやそこでの試着、返品OKなどのサービスを充実するところが競争力を持つところが、ECをリードしていくと思われる。

 売り方はECが支えても、根本は商品やもの作りだ。アパレルメーカーではEC専用のブランドに注力ところもある。しかし、店舗や販売スタッフが不要=コストカット、現物を細かく確認しないから売りやすいとの理由だけで、参入するのであれば疑問符がつく。リアルでもネットでも、原価をかけた商品を見抜いて購入するお客はいるわけで、その意識が大きく変わることはないからだ。

 それは伊勢丹のセールを見れば、一目瞭然である。今年は本館とメンズ館で合わせて約1万1,600人が並んだという。暖冬とは言え、早朝の寒さも厭わず、お客は行列を作ったわけだ。EC台頭の時代にあっても、リアルを象徴する出来事。「婦人服は例年通り3階のトゥモローランドとサカイ、 メンズ館では2階に出店しているサカイやヨウジヤマモトに人気が集中」とのメディア報道もある。判で押したような記事内容ではあるが、国内外のデザイナーブランドやセレクト系アイテムがお客のお目当てなのは、不変の構図ということだ。

 創造性のあるデザインや確かなもの作りは、プロパーでもお客を惹き付けるが、それらが1円でも安く買えるのなら、なおさら多くが反応する。お客は現物が確認できること、ECでは販売されないブランドなど、ネットとリアルを使い分けている。いくらECが浸透しようと、この構図は底堅い。つまり、ECは販売の手段に過ぎず、実店舗とうまく融合させることで、優劣が決まる。その辺に成功のヒントがありそうだ。

 もっとも、自らECインフラを整備し、充実させて顧客を集めるには、コストも時間もかかる。だから、Amazonや楽天に頼りきるのだろうが、今年はプラットフォーマーも選別しなければならないのではないか。昨年はヤフーがZOZOを買収したが、その狙いは「フルフィルメント」の仕組みを手に入れることだった。ヤフーはECモールを運営していても、単なる販売代行に過ぎない。自社では出店者に対する商品の保管から注文処理、ピッキングや梱包、配送、返品までのサービスは行っていなかったのだ。

 一方、 ZOZOに出店してきたアパレル系のブランドは、 ヤフーの傘下入りでヤフーが抱える某大な会員から自社の顧客を獲得できる可能性はある。ただ、スマホ決済のPayPayを全面的に押すヤフーだから、ZOZOARIGATOのような「割引サービス」によるブランドの毀損や利益減少の畏れもある。必ずしもウィンウィンの関係になれるとは言い難いのである。



 一口にECモールと言っても、いろんなタイプがある。ZOZOが行ってきたのはフルフィルメント型だ。これはモール側に商品を預け、在庫管理から受注、決済、出荷まですべて代行してもらうので、手数料が売上げ対比の30%〜40%とバカにならない。手数料が同15%〜20%で済むのは「場所貸し型モール」だが、こちらは販促やポイント負担のコストはかかる。手数料は同20%未満に収まる「マーケットプレイス型」は、モール側がサイトの設定やデザイン、受注、決済を行ってくれるが、在庫管理や出荷は出店者で行わなけれならない。

 フルフィルメント型のように手数料が40%もかかるのであれば、単純に考えて中小零細企業では、ほとんど利益が出ないと考えるべきだ。逆に手数料が20%程度と安くなれば、その分の自社サイトの誘導する販促や在庫管理や出荷の手間がかかる。ECがますます浸透するとは言っても、モール出店には一長一短があるのだ。

 企画に力を入れ、素資材や縫製にコストをかけ、創造性のある商品を売りたいのなら、どこに潜在顧客がいるのかわからないから、市場を広げなければならない。ECは格好のツールではあるが、自社の立ち位置や体制もあり、EC用の業務が増えることを考えると、一概にどのタイプがいいとは言えない。注視すべきポイントは、ECそのものより購入してもらえるサービスに移っていると考えた方がいいと思う。


受取拠点の展開がカギ

 自社で画期的なビジネスシステムや商品を簡単に生み出せるわけがない。ならば、既存のものをうまく組み合わせていくというのもある。例えば、ECにショールーム(共同で展開する場合も)や受け取り拠点(試着、返品を実店舗が代行する場合も)を組み合わせる手法だ。ところが、店舗等に取り寄せて試着、購入、返品ができるところはベイクルーズなど少数派だ。

 前澤ZOZOもそれを行わないまま、ヤフー傘下となった。今のところ、ヤフーもスマホ決済のPayPayばかりに前のめりで、本当にお客が必要としている現物確認や「試着」、その場で「返品」可能といったサービスを充実させる気配は見えない。だから、ショールームや実店舗を持たない中小のアパレルなら、宅配事業者と共同で受け取り拠点などの開設に乗り出してもいいのではないか。それがECでリードできるチャンスなのだ。

 話はズレるが、1月4日付けのネット報道で、「徳島県が日本初の百貨店ゼロ県に」「行き場失う上顧客」が目を引いた。地方百貨店の閉店は後を絶たないが、ついに受け皿となるところもなくなり、地元の上顧客への対応が憂慮され始めた。店売りを止めて外商部隊が対応することも考えられるが、人海戦術によるペイラインの高さを考えると、それに代わるのはECしか無いと思う。

 百貨店の上顧客である富裕層や中高年が購入してきた高級ブランドのアパレルやバッグ、宝飾品や輸入時計、あるいは百貨店の包装紙を重視する中元やお歳暮。百貨店の閉店でこれらの市場が手つかずの状態になれば、近隣の大手百貨店が受け皿となって対応していくしかないと思う。もちろん、上顧客ほど高額商品あるがゆえにネット販売に二の足を踏むだろうから、商品のお試しや受け取り、返品などのサービスがより重要になる。

 地方百貨店が閉店すると、その跡地利用が心配されるが、ならばショールームというか、上顧客へのサービス拠点というか、何らかの形でフォローできる業態を整備してもいいのではないか。これもEC+αというか、ECにリアルな拠点機能を組み合わせることで、勝機を見いだすものだ。ところが、昨今の百貨店は大手であっても採算が合わないブランドはカットし、空いた部分にテナント誘致することで生き残りを図ろうという施策しかない。

 商品を買取らない=在庫を管理していないので、店間で商品を移動させてのピックアップや試着、その場で返品などが難しいのはわかるが、顧客に対するサービスを充実させないまま、生き残れるとは思えない。その辺の取り組みを考える年にもなると思う。

 アパレルも小売りも自社ECに注力するだろうが、サイトに掲載する商品情報において、個人的には「生地」のディテール=「どんな生地を使っているか」をビジュアル化してはどうかと思う。インポートブランドでは、文章で長々と説明しているものもあるが、EC購入のメーンツールがスマートフォンになっているのだから、視覚に訴える方が伝わりやすいはずだ。

 一例をあげると、これまで生地の特長は、「厚い⇔中くらい⇔薄い」と、アナログな図式で抽象的な説明に終始するものが多数派だった。これでは受け取り方によって、いろいろ解釈できてわかりづらい。確かにデニムやカットソーを「オンス」で表示しても、よほどのマニアでない限り厚みを理解することはできない。ならば、カットソーや革、こしやハリがある生地については、生地厚を「ゲージ測定」して写真表記してもいいのではないかと考える。(写真)

 アイテムにもよるのは十分に承知の上だが、冬場のレザーウエアなんかは革がどのくらいの厚みかを表示してくれると、購入の選択肢が断ぜん増える。買ってもらうための情報を一つでもプラスすることで、それが顧客にとって優良なサービスとなるし、差別化にもつながる。新しい売り方に一喜一憂するよりも、アナログでは可能な手段をECにも上手く組み合わせることが重要と思う次第である。果たして、今年はどこが勝機を見いだすのだろうか。

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文化を見つめる年に。

2020-01-01 04:54:47 | Weblog
 2020年が明けた。昨年5月に年号が代わり、令和ニ年である。アパレル業界について言えば、あまりにネガティブな要素が多く、先行きは見通せない。「ITによる効率化が加速」「単価は低下したまま」「増税による購買意欲の減退」「ECからC&C、D2C、C2Mへ」「オフプライスストアの参入」等々。今年も続くであろう不安は、挙げればきりがない。

 昨年9月、デイリー新潮に以下のような記事が掲載され、注目を集めた。小島ファッションマーケティングの調査によると、「2017年、衣服の供給量は約28億点だったのに対し、消費量は半分の約14億点。約14億点が余剰在庫となり、過去最高に達した」と。

 記事は余剰在庫が増え続ける理由として、「バブル崩壊以降、景気の悪化やファッションへの関心の低下にともない、とにかく価格の高い商品は年を追うごとに売れなくなっています。(中略)アパレル企業が採った対策として、値段の安い服を大量生産&販売することで売り上げを維持、拡大しようとしたのです」と、識者の解説を載せている。

 アパレルは昨今、安さを追いかけるあまりに、原価率を圧縮してきた。その結果、同じような企画になってしまい、素材や色、デザインによるテイストはほぼ似通っている。ブランド名は違えど、同質化した商品が店頭に並べば、お客さんは選択肢が限られる。いくら安いからと言って、価格の他に魅力がなければ、何枚も購入しない。余剰在庫が膨れ上がるのは当然である。

 年間で14億点もの商品が売れ残っているのは、もはや常軌を逸している。アパレル業界ではこれまで「ABC分析」や「クイックレスポンス」など、経営指南はあまたあった。にも関わらず莫大な余剰在庫を出しているのは、それらが全く機能していないことを意味する。経営論もクソもあったものではない。

 記事では詳しく触れてはいないが、どんな商品が大量に売れ残っているかは、細かく分析しなければならない。「原価率の圧縮」「市場ニーズとのギャップ」「慢性的な供給過剰」「膨大なロスの価格転嫁」等々。大量に売れ残るのは何が理由で、どこに問題があるのか。アパレルが平成時代から抱える数々の課題はあまりに重たいが、令和ではこうした構造的な問題からの脱却を宣言する企業の登場が待たれる。

 でも、「どこから手を付ければいいのか難しい」が率直のところだろう。ならば、まずは大量生産による売れ残りロスを減らすことから始めるべきないか。イージーな企画で他社も作れるような商品はこれ以上作らないか、減らしていくべきだ。 少しでも余分な在庫を減らすことで、値引き販売が抑えられる。その分を原価に乗せれば、商品のクオリティが上がるから、お客さんが買ってくれる公算は高い。

 また、春先の天候不順や夏の猛暑、暖冬などから、従来の企画サイクルでは通用しなくなったのも明らかだから、機会ロスより残品ロスを考えるべきなのだ。これはエンドユーザーだけではなく、卸先の小売店やバイヤーが何より敏感に感じるはずだ。


受注生産に舵を切る勇気

 世界的にはエコやSDGsに取り組むアパレルもある。いろんなブランドが乱立し、ファストファッションが幅を利かせる中で、売れ残りロス抑制の実現可能性をいぶかる声は多い。1社が10%でも残品処分を減らせれば、地球環境への負荷は大きく低減する。それが結果的にアパレルの収益を好転させるのだ。

 消費者の立場では、ECで商品を購入するようになって20年ほど。そこで切実に感じるのは、自分が欲しくなる上質で高感度な商品は、他の人もそう考えて購入するのか、欠品や完売が多い。しかも、値ごろ感のあるものは、ほとんどプロパーで売り切れている。そんな商品は、メーカー側も売れ筋にはならないと端から生産を抑えている。お客としては中々、手に入れることができず歯がゆい思いをするが、ビジネスとして考えれば残品処分ロスを抑えているのだから、いいことでもある。

 やはり、リアル、ネットを問わずに商品を探すお客さんは目が肥えている。だから、どこも作るような売れ筋には飛びつかない。購入するにしても、店頭受け取りなどで商品を確かめて決定している。現物を見て、原価をかけてきちんと企画し、しっかり作った商品かどうかをを見極めている証左だ。そうしたブランドは、小売りにとっては1着当たりの利益は決して多くない。しかし、お客さんはそうした商品を求めているからこそ、売れるのである。

 それでも、完売しなければ在庫は残るわけだが、それを解消する究極のビジネステクノロジーが登場した。昨年から多方面で言われている既成服から転換した「C2Mcustomer to manufactory)」である。直訳すれば、工場からダイレクトに消費者に商品を届けるというもの。現状ではまだメンズスーツを主体としたパターンオーダーに止まるが、英国調やクラシコイタリアなどの基本パターンと、A、B、Yの体形別、3サイズをデジタルデータに落としんでおり、採寸から納品まで1週間の早業で商品を提供する。

 小売り側は在庫を持たず受注生産できるので、ロスを出さない。お客さんは自分で素材やデザインを選べるので、納得いくスーツが購入できる。何より価格に売れ残りロス分が転嫁されていないから、自分の体形にあったものを値ごろな価格で入手できる。一般のアパレルや小売りにもこうした仕組みが少しずつ浸透していくのではないかと思う。

 デザイナーが考えた構図をサイズ別の基本パターンに落とし込むこと。これはデジタル化が図られるようになった。つまり、布帛アイテムは反つぶしだからサンプルのみ作って、あとはお客さんから受注をとって生産すれば、売れ残りロスは抑えられる理屈になる。ニットではすでに基本のデザイン、色、素材を決めて、後はお客さんがそれらの中から自由に選んでセーターをオーダーする仕組みができ上がっている。一般の布帛アイテムにも導入されるのは、そう遠くないと思う。

 アパレル=量産=売上げという化石のような理屈から決別する。受注生産に舵を切る勇気をもつこと。そんな新しいビジネスモデルを確立できて、お客さんに認められたところが、世界をリードしていくのかもしれない。少なくとも前向きに考えていくことが業界全体を活性化させるのではないか。令和2年はそんな糸口をつかむ年にしたいものである。


服が人の心を豊かにする

 一方で、こうした仕組みを「ファッション文化」の側面から考えていくことも必要だ。どうしてもビジネスで考えると、コストだの、効率だの、ロスだのといった要件が絡んで来る。それでは中々、前に進めない。だから、カネが絡む売上げや儲けを抜きにした「文化」として捉え、自由な発想の「もの作り運動」を起こしてもいいのではないかと思う。

 人は誰しも想像する。「こんな服があったら、着てみたいな」。そんな夢を国や業界を挙げて叶えてあげるプロジェクトとでも言おうか。一例として、小学生から中学生、高校生、専門学校、大学生、大学院生、そして主婦やOL、マチュア、シニアと年齢や階層別に「こんな服が着てみたい、作ってみたい」という「企画アイデア」を募集する。その中から選考の上に採用された企画に添って実際の服に仕上げるのだ。

 ポイントは応募者が考えたアイデアや特長を「糸」から「染め」「テキスタイル」「資材」「加工」「縫製」まで服づくりの各工程で際立たせること。例えば、小学生ならアニメのキャラクターが着るような服を着てみたいと思う。それはそれでいい。そこで、素材がエナメル系なのか、動き回っても窮屈に感じないストレッチ系か、はたまた通気性を持たせるのか。いろいろ試作しながら企画者本人に試してもらい、本当に面白くて、カッコ良くて、着やすい服を完成させていくのだ。



 これが大学院生レベルになると、素材開発からしてみたいのではないか。例えば、縫製を必要としない=端切れが出ない究極の服の開発とかだ。3Dプリンターで、繊維屑を吹き付けて作る服もあるかもしれない。縫わないでいいシームレスのウエアを開発したい学生もいるだろう。メーカーが一緒に参画して開発し、国は補助金を出せばいい。実際、米国のMITとFITではすでに研究が進んでいる。

 シニアになれば、ユニバーサルデザインも考えられるが、終末を迎えるとなれば、自分が若かりし頃、お金がなくて買えなかった服を死ぬ前に一度着てみたいとのメモリアルクローズもあるかもしれない。着やすくて、動きやすくて、体温調整も効くといった機能性に加え、「着心地がいい」「カッコいい」「お洒落」などのエモーショナルな要素がプラスされて、服は文化の一部となる。

 こうした夢や自己実現に対し、各工程に携わる企業が全面的にバックアップすることで、それぞれがもつ技術や技能がクローズアップされると思う。そのプロセスは継続してネットで公開すればいい。「本当に着てみたい服を作るには、これほどの企業や人々の助けがいるんだ」。服が人間の技と英知が生んだテクノロジーで生産されていくことを多くの人々が認識すれば、アパレル業界が今一度見直されるはずだ。

 それは低コストで安く作ることが企業や働く人、持てる技術をいかに疲弊させているか。SDGsという流れに対し、自戒をこめて見つめ直すきっかけにもなる。服を作りたい側も、服を作る側も、本当に納得いくものに出会えてこそ、ファッションが多くの人を喜ばせ、心を豊かにするという文化的な一面に気づくのだ。こうした取り組みや活動が実現できてこそ、新しい時代に相応しいファッション文化が醸成されるのではないかと思う。

 「また、夢のようなことを言って」と。いや、初夢では終わらせない気概があってこそ、もの作りの楽しさや達成感が味わえる。それが文化であり、ファッションの良さだ。ビジネスとは別の次元で考えながら、携わる人々の苦労や力を改めて見つめ直す1年にしないといけないと思う。

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