HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

転売防止の本気度。

2021-03-31 06:52:45 | Weblog
 昨年、このコラムで提起したヤフーオークションやメルカリでの「転売」問題。11月に販売されたユニクロの「+J」では販売店に早朝から行列ができ、オンラインでもアクセスが集中した。ともに午前10時から発売にも関わらず12時半過ぎにはヤフーオークションに出品され、メルカリでも同日には多数の高額出品が見られた。

 「転売ヤー」と言われる輩が転売目的で購入したのは明らかで、一般客が正価で購入できないことに不満の声が上がった。この問題は転売の場所を提供する二次流通事業者だけでなく、転売される可能性がある商品を販売する一次流通事業者にも、対策の必要性を問いかけた。

 あれから4ヶ月経った3月17日、メルカリとファーストリテイリングは、メルカリのマーケットプレイス上で、ファーストリテイリンググループの商品が、より安心・安全に取引できる環境の構築を目指し、両社が共同で様々な取り組みを実施する「マーケットプレイスの共創に関する覚書」を締結したと、発表した。(https://about.mercari.com/press/news/articles/20210318_fastretailing_mou/)

 ファーストリテイリングは、ユニクロ各店で3月19日から+J復活第2弾の春夏コレクションを発売するため、これを前にメルカリと協定を結び、両社で安心で安全な取引環境を作り上げ、転売目的での購入、購入直後の転売規制に取り組む姿勢を示した形だ。


転売目的かはあくまでメルカリが判断

 ただ、問題はその内容である。果たして、転売規制にどこまで実効性を伴うのか。両社の対応を見てみよう。まずメルカリが取り組む以下の2点についてである。

◯ファーストリテイリングからの情報提供に基づいた、「メルカリ」アプリ上や公式ブログでの特定の新商品に関する注意喚起
◯ファーストリテイリングと協議の上、合意した特定の商品について、「メルカリ」の利用規約に違反する出品への削除対応の実施

 1項目に挙げられた特定の新商品に関する「注意喚起」程度では、転売を目的とした出品が止まるとは思えない。だから、2項目の「利用規約に違反する出品への削除対応の実施」で規制することになる。では、具体的に利用規約に違反する出品とは何かだ。



 規約の第9条第2項は「出品禁止商品」として、メリカリガイドの「禁止されている出品物」に記載された商品の出品ができない、と定めている。(写真)また、該当する商品を出品した場合は、出品者の故意又は過失に関わらず、本規約違反行為とみなす、とある。

 ただ、出品禁止商品に「転売を目的とした商品」という項目はない。転売は新品だけに限らず、新古品や中古品もあり得る。そこまで明確に規制すると、メルカリのビジネスモデルが成り立たなくなるわけだ。32項目には「メルカリ事務局で不適切と判断されるもの」とあり、ここには「利用規約に抵触するとみなされるもの」と記載されるだけで、堂々巡りになってしまう。

 規約の第9条第6項は「出品に関する本規約違反」として、「出品に関して弊社が本規約又は加盟店規約に違反する又は不適切であると合理的な理由に基づき判断した場合、弊社は第5条に定める措置のほか、その出品やその出品に対して発生していた購入行為等を弊社の判断で取消すことができるものとします」と、している。

 つまり、転売を目的とした出品は利用規約に違反するわけではない。あくまでメルカリが合理的な理由に基づいて、その可否を判断するということだ。ファーストリテイリングと合意した特定の商品ということなので、出品者が登録する「ブランド名」やタグの「型番」などがわかるのであれば、メルカリ側が転売目的のための「発売直後の商品」か、あるいは「価格が高額で不適切」かどうかを判断することになると思われる。

 それで転売目的で購入した商品の出品を100%防げるかどうか。おそらく難しいだろう。現に3月19日にユニクロが発売した+J春夏コレクションの商品はすでにメルカリ出品が散見される。もちろん、価格は売価より高値がついている。

 メルカリが転売阻止に本腰を入れる気があるのなら、AIが出品商品の写真を見て転売かどうかを判断するようなアプリの開発が不可欠だ。さらに出品者には服に縫い付けてあるタグの写真掲載や型番の登録を義務付けるべきである。専任チームが人海戦術でそれらとファーストリテイリングから提供された商品情報とを照合して製造発売日などを確認し、出品に関する本規約違反となれば削除するしかない。果たしてそこまでやる遂げる本気度があるかである。


ユニクロの本音は在庫ロスを出さなければいい

 一方、ファーストリテイリングが取り組む項目は以下になる。

◯メルカリに対する、特定の新商品発売情報や商品情報、商品画像などの提供
◯Webサイト等での注意喚起の実施
◯店舗で混乱が起きると予想される場合、入場制限を行うなど、必要な措置の実施

 
 1、2項目はメルカリの対応と呼応する内容だから、こちらでも転売目的の商品購入を防ぐことはできない。3項目の入場制限は昨年発売の+Jでも行われていた。商業施設への入館自体を制限しても、屋外の歩道に行列ができ、開店と同時にお客が殺到すればかえって混乱を招く。転売ヤーは早朝からSCの共用部分では認められる行列の最前列に並ぶわけで、開店と同時に購入されてしまえば何の意味もない。



 そこで、ユニクロは公式オンラインサイトで、+Jについては以下のような規制を設けている。
◯店舗・オンラインストアともにおひとり様1商品につき1点、+Jコレクション合計5点までの購入に制限させていただきます。
◯オンラインストアでは、購入制限を超えたご注文は予告なくキャンセルさせていただきます。
◯転売目的のご購入は固くお断りします。弊社が転売目的と判断した場合、ご購入商品の返品はお受けいたしません。


 一人当たりの購入点数は、昨年発売の+Jでも1点に制限されていたが、転売ヤーは最高10倍がけで売り捌くのだから、転売のための購入を止まらせるとまではいかなかった。そのため、今回は2項、3項の規制を設けたようだ。ただ、「転売目的の場合は返品を受け付けない」の基準が何なのかは明確でなく、実効性があるかどうかはわからない。

 転売ヤーが商品が売れなかったから返品しようとする時、ユニクロが拒否できるのはメルカリなどの出品情報と履歴が残るユニクロのオンライン購入情報とが一致する場合だ。つまり、個人情報が共有されることになるわけで、これは別の問題が発生する。また、転売ヤーが店舗で現金で購入すれば、個人情報が残らないこともある。とすれば、ユニクロ側は転売目的で購入されたとは証明できず、返品を拒否できないのではないか。抜け道は色々ありそうだ。


ヤフーオークションは公序良俗違反かで判断

 本音のところでは、メルカリは手数料収入を上げるために売価は高い方がいい。ファーストリテイリングは正規購入だろうと転売目的だろうと、在庫ロスを出さずに完売すればいいのだ。それでも今回、両社が転売防止に向けて協定を結んだのは、メルカリは東証マザーズ、ファーストリテイリングは東証1部の上場企業であることから、転売という公正な取引を妨害する行為に目を背けることはできない事情からだと思われる。

 表立って転売防止に向けて動き出したのは、メルカリとファーストリテイリングの2社だ。ヤフーオークションは「公序良俗に反するもの、またはそれらの可能性があると当社が判断した商品等」と、公の秩序(著しく不公平なもの)に反する物は出品禁止にしているものの、販売事業者と協定を結ぶまでには至っていない。+Jの出品は昨年よりは減っているが、ゼロではない。






 ただ、今回出品されている+Jに関して言えば、前回のような強気の高額転売とはいかないようだ。わずか3000円くらいの利益上乗せで落ち着いているし、中には正規の販売価格より値崩れしている商品もある。ヤフー側が対策を取ったというより、オークションを閲覧する側が入札に慎重になる市場原理が働いた結果と思う。転売ヤーの思惑通りにはいかないのだ。




 出品者の論理ではネットで購入したが、「イメージとは違った」とか、「サイズが合わなかった」とかの理由でオークションで販売するケースもある。だが、落札されずに終了した場合にユニクロ側がこれを転売行為と見なせば、返品を受け付けられないということになる。オークション転売に対する善意、悪意を問わず消費者のことを考えれば、サンプルでいいから実店舗で現物を確かめ、試着できるようにすることも販売事業者の役目ではないか。

 もっとも、その他のネット事業者は何ら具体的な動きは見られない。転売ヤーに高値販売の場所を提供している事業者全体が連携しないと、転売のための商品購入も転売そのものの防止も進まないだろうが、要はその気があるかどうかである。

 前回のコラムでも書いたが、やはり二次流通の事業者任せでは、公正な取引の妨害は無くせない。激しい競争下にあるネット事業者は悠長なことは言ってられないのだから、儲かることをやめるはずはない。

 とどのつまり、消費者庁やデジタル庁がが法規制を持って取り締まることが不可欠と思われる。まさか大臣や官僚がメルカリやヤフーの幹部から接待を受けているわけでもなかろう。だが、法整備が一向に進まないということになれば、無きにしも非ずか。

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利権を得る公職。

2021-03-24 06:50:50 | Weblog
 以前に複数の関係者から聞いた話として、「福岡アジアファッション拠点推進会議」がこの3月26日の総会をもって解散すると書いた。事業費の大半を拠出した福岡市、予算支援した福岡県や福岡商工会議所は、推進会議が掲げた「福岡のファッション産業の振興」「人材の育成」を実現すべき事業が委託先によって形骸化された事実を知らないはずはない。

 解散の背景には、いったい何があるのか。予算支援してきた自治体側が13年間に拠出した「費用(公金)」に対し、「効果(事業目的の達成)」が低ければ、無尽蔵に拠出できないと判断しても的外れではない。それとも、推進会議が「事業の目的はほぼ達成したから」と、任意団体の特有の常套句を発して、解散という幕引きに至らしめたのか。

 どちらにしても、結果的に見れば、推進会議が目指した福岡のファッション産業の振興や人材の育成が利害関係者の思惑通りにうまく利用されたことは間違いない。その一人が推進会議の事業を行う「企画運営委員会」の名簿案のトップに掲載され、そのまま「企画運営委員長」のポストを得た人物である。

 この御仁、所属先は「大村ファッション専門学校」、職位は「学校長」(後にファッション部長)とある。設立総会では登壇し、パワーポイントを使って推進会議の設立の経緯から事業趣旨、目的、福岡の可能性などを説明した。他の企画運営委員は所属や肩書きからして、東京五輪組織委員会の理事と同様に名誉職と見られる。

 だが、この御仁は企画委員長として事業スタート以降、事業のオリエンテーション、プレゼン審査や講演会など事あるごとに取り仕切ってきた。そこまでは職責上、良しとしよう。しかし、次第に委員長の特権を生かし、公益財団法人のトップの如く事業を差配し、さまざまな案件の最終決定権に口を出して、「自校」を優先して事業に参加できるようにしていった。




 例えば、推進会議が募集したイオン九州の「ROUTE(ルート)80」(正確にはイオン本社が手がけたSPA「トップバリュコレクション」のヤングブランド名)とFACoのコラボ企画募集でも、自校の学生が商品企画に任に当たったのはたまたまではないだろう。その他にも、国の緊急人材育成支援事業では、自校に社会人対象カリキュラムを開講して奨励金を得ている。これら推進会議関連の事業を自校に誘導した点では、私物化が非常に懸念される。




 また、2014年のファッションウィーク福岡で開催された「ファッションマート」では、出店条件に「バザーではありません。洋服・雑貨・アクセサリーなどのファッション発信の場となります」と規定されたにも関わらず、自校のブースでは堂々と「着」を販売するなどルール無視も甚だしく、誰も意見できなかったのかと思わせたほどだ。しかし、やることは所詮専門学校の学芸会レベルで、自校満足の域を出ずビジネス振興には遠く及ばないものだった。

 それもそのはずである。この御仁のプロフィールを見ると、大分の片田舎出身で学生時代は長崎で過ごし、業界経験は小売業しかない。日本のアパレル業界、特に福岡特有のファッション土壌についての知見など知れたものだ。ファッション専門学校のトップとしては地元のアパレルメーカーにインターンシップを要請したり、業界誌に自校のロールプレイングコンテストを報道させたりと、各方面に取り入る術には長けていたようだ。

 商工会議所や自治体にも近づいて企画運営委員長のポストを得ると、その立場を最大限に活用した。福岡のファッション専門学校では格下と評価される自校のために、事業を学校PRの道具として精一杯利用したと言ってもいい。もっとも、地元SPAの社長は、同校出身の社員から「あの人の言うことは、あまり聞かない方がいい」と、クギを刺されたと明かす。卒業生の冷静な評価は、そのまま企画運営委員長としての手腕にも当てはまる。


RKB子会社制作のサイトは4年で閉鎖

 推進会議が事業企画で提示した項目には、「その他のファッション産業振興に効果的な企画・運営実施」があった。しかし、委託先のRKB毎日放送は福岡アジアコレクション(FACo)に費用のほとんどを費やしたため、他の事業では東京などから講師を呼んでの講演会やセミナーを催すくらいだった。それも近年は予算不足から、休止に追い込まれていた。

 RKB本体のサイトに組み込まれたFACoの公式サイトでは、商品を購入することはできた。だが、それは別会社が運営するNB主体の通販サイトにリンクするだけで、肝心な地元ファッションのビジネスに結びつけるまでには踏み込んでいなかった。その時点で、問題にならないのもおかしな話だが、情報発信サイト制作には別の予算が下りることになった。

 推進会議の旗振り役でもあった麻生元福岡県知事は2010年、プログラム言語「Ruby」を使用した「福岡県ファッションビジネス情報発信システム」の基本計画を発案。事業費として国の「緊急雇用創出事業臨時特例基金23,931,000円が用意され、地元ファッションビジネスの情報発信はこのシステムが肩代わりすることになった。



 福岡県の事業で商工部の中小企業振興課が所管し、委託先は「企画書」のみで選定されることになった。推進会議の情報発信システムも兼ねることから、審査には県の商工部だけでなく、推進会議の役員を務める福岡商工会議所の職員も当たった。これについてはFACoを仕切るRKBも承知していたはずだ。委託先は、「(株)ティーアンドエス」というWeb制作会社に決まった。

 緊急雇用創出事業であるため、サイト制作に従事するスタッフは新規雇用が条件だった。商工部が示した雇用人員の内訳は、プログラマー10人(雇用期間60日)、翻訳対応者4人(同60日)、掲載勧誘従事者3名(同40日)、Webデザイン・制作者3人(同40日)。Web制作会社が県に提出した業務報告書によると、上記のほぼ条件通りの雇用契約や給与明細などが記されていた。



 一方で、雇用予定には、「注意:ホームページ作成の行程に合わせ順次募集する予定です」との条件にもかかわらず、ハローワークでの求人募集は1ヶ月程度で取り下げられるなど不可解な点もあった。ところが、運用が開始されたポータルサイト「Fashion Site Fukuoka」は、目も疑うような代物だった。(写真)

 トップページには、FACoのステージを引きで撮った写真を掲載。肖像権の絡みから出演タレントが映る写真が使えないのは制作者なら誰でもわかる。だが、トップページのど真ん中に「染み抜き」や「靴磨き」のバナー広告を堂々とレイアウト。ファッションビジネスのサイトにしてはあまりに稚拙で駄作なデザインで、業界の人間からすれば見るのも恥ずかしかった。

 下にスクロールすると、いかにも専門学校生がリサーチしたような「天神白書」なるデータが掲載されている。これには前出の企画運営委員長の学校や学生が絡んだのではないかと思わせる。もちろん、こんなポータルサイトを内外のファッション関係者が利用する気になるはずもない。

 肝心な情報については多言語対応にしたと言っても、スタート時のコンテンツがあまりに手薄で全く発信能力を欠いた。時間をかけてページを増やすにしても、実際には2年、3年経ってもほとんど更新されず、2014年にはサイト自体が閉鎖された。Ruby言語の機能を実証し、国の雇用基金でスタッフを雇用したと言い訳できても、福岡のファッションビジネスにとって何ら利用価値がないのだから、2400万円をドブに捨てたようなものである。

 さらに調べると、このWeb制作会社は「RKBの子会社」であることがわかった。県の商工部だけでなく、推進会議の役員が企画書の審査に当たり、自校の参画を含め企画運営委員長の力が働いたとすれば、是が非でもこの制作会社に事業を委託するためではなかったのかとさえ思えてしまう。推進会議のファッション事業と同じく、これも出来レースだったのか。

 県が情報公開した企画書には「ブランディング」だの「インテグレーション」だのと、いかにもWeb業界が使いそうな麗句が並んでいた。だが、肝心なサイトは福岡ファッションの情報蓄積はおろか、ファッション業界について何ら知見がないことが明らかで、これではブランドもクソもない。


情報開示されないFACo関連のDVDとパンフ



 2011年には、同じく県商工部が「FACoブランド販売力強化事業」を公募し、「RKB映画社」が「紹介パンフレットとDVDの作成」を請け負った。こちらも国の「雇用創出事業」であったため、委託事業者はスタッフとして10名を雇用し、制作期間は15日との条件付きだった。RKB映画社が正当な手続きを踏んでいれば、何ら問題はない。

 ただ、制作物がどう運用されたかは、2012年度の時点でも情報公開されなかった。関係者を通じて商工部に訊ねると、担当課長から「(当該事業は)FACoの海外向けの資料になり、英語、中国語、ハングル、タイ語でのみ制作している。海外からの問い合わせあったときや、海外に行ったときに使用するものなので、HPなどで公表をしていない」と返答があった。

 しかし、推進会議は発足時に「官民が一体となって福岡ファッションのを積極的に世界に発信する」と、公言している。その意味で、FACoは「イベントによって福岡ファッションのプロモーションを行なう」目的なのに、事業資金を拠出している県側がたとえ外国語版でも、「パンフレット及びDVD制作」を積極的に内外に公開しない意図がわからない。

 「パンフレットやDVDの在庫には限りがあるから、問い合わせや申し込みが殺到すると困る」と言うなら、費用をかけてわざわざ「完パケ」や「プリント物」にする必要はない。2700万円もの費用をかけ多言語対応にしたFashion Site Fukuokaに動画機能を付けたり、ジャンプページは増やせばいいだけの話だ。その方が世界中から気軽にアクセスできるし、保存管理の手間もなくなる。

 結局、福岡県も雇用基金を使わないといけないから、事業を作っただけではないのか。それに業者が群がり、利権にする。ポータルサイトにしても、DVDやパンフレットにしても、それは福岡のファッションの世界に発信する「手段」なのに、事業費を得て制作することが「目的」になっている。しかも、業者は福岡のファッション産業の振興などに与する必要はないのだから、制作された媒体が機能するはずもないのだ。

 福岡アジアファッション拠点推進会議が大々的に発足して13年。推進会議の会長は福岡商工会議所の会頭が名誉職として務め、会頭が替わるたびに会長も交代した。ところが、企画運営委員長は何年も同じ人物が務め、FACoはRKBの自社事業として継続され、サイト制作などの関連事業もRKBの子会社の手に堕ちた。



 ここまで事業が独占されると、推進会議とRKBは完全に癒着していたのではと、言われるのも当然だろう。数年前に事務局を務めた副会頭は県外メディアの取材に対し、「徐々に実績が出始めていると手応えを語る一方、国内外での認知度が課題。福岡から世界に発信できるよう地道に活動していきたい」と、語っている。

 しかし、事業に巨額な資金を投下したところで、行く先はローカル放送局や代理店、その先にある芸能界に流れただけ。認知度の向上だの、情報発信だのと言っても、作られた媒体はほとんど目的を果たさず、メディアと関連業者が利するだけで、地元ファッション業界には何らメリットはなかったのが実態だ。取材に応じた副会頭のコメントとは裏腹に、「解散」という虚しいオチが何よりの証左と言える。

 果たして、利害関係者は次はどんな手練手管で、名ばかりのファッション事業をゾンビの如く復活させるつもりだろうか。

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リ・ダイは流行するか。

2021-03-17 06:37:55 | Weblog
 いよいよ新年度に入るが、コロナ禍の終息が見えない中では、自由気ままな行動は憚れるようだ。完全な巣ごもりからは解放されたのの、変異株の増殖も見られるし、いちばん最後になるワクチン接種まではまだまだ我慢の日々が続く。

 昨年の自粛期間中には、レザーブルゾンやウールのジャケットをリメイクして気分新たに着こなし楽しんだ。そこで、今シーズンはくすんだり、色あせたたりしたアイテムを「リ・ダイ/Re dye」=染め替えしてみようかと考えている。

 振りかえると大学時代、画材店で見つけた染料「DYLON」でTシャツやジーンズを染めたことはあるが、汗などの皮脂分が十分に抜けないまま染料液に浸してもムラが出ることがわかった。そんな経験を生かして、その後も何度か染めたが、上手くいったとは言い難い。

 個人向けに染め直してくれる業者はいないかと思っていたら、昨年のちょうど今頃、京都の「フォーラム」が衣類などを「黒」に染めるサービスを開始したとの記事を目にした。同社が大阪で運営する古着店「森」が染色加工業者の「京都紋付」の協力を得て行うというもの。(https://www.k-rewear.jp)汚れがついたり、色あせてしまったなどの服を染め替えることで、着続けられるようにしてくれるのだ。

 半年後の10月にも「染色加工の京都紋付 黒染めの衣類再生事業を拡大」との続報があった。おそらく京都紋付の染め替えサービスにかなりの反響があったのではないか。「小売業やその他業種が協力しやすいプラットフォームを整備。新たに協力企業向けに専用URLを発行するなど、外部から参画しやすい仕組みを用意」したという。

 染め替え料金はアイテムや素材によって異なるが、Tシャツや帽子なら綿、麻が2000円(シルクやウールは3000円)からで、パンツやトレーナーは5000円(7500円)。



 ちょうど15年ほど前に購入した厚手のカットソージャケットが洗濯で多少色褪せたので、この記事を読んだ時、染め直し(漆黒)できるかどうか相談してみようと思った。だが、いざ問い合わせると、職人さんから「現物を見ないと何とも言えない」などやりとりの面倒さが不安視され、保留にしたまま1年が過ぎてしまった。

 ところが、先日、今度は広島で染色卸や個人向け染色キット販売などを手掛ける「岩瀬商店」が服を新たな色に染め直す「染め替えサービス」を本格展開すると報道された。(https://www.somelabo.shop/product-list/78)同店も個人向けの染め替えなら、自店のノウハウでも可能だと踏んだのではないか。



 こちらは、「『日本一気軽に相談できる染め替え・染め直しサービス』を目指し、LINEで簡単に見積もりや申し込みができるなど利便性を向上させた」という。「依頼品が今どの段階なのか、どのような仕上がりなのかといった進捗状況が確認できるサービス『染めの進捗追跡サービス・ココマデ染メーター』も開発。黒染めなら1キロまでで3600円という価格設定」という。やはり、やりとりのハードルを下げることがお客をサービスに誘うには重要だ。

 当方にとっても、染色業者がいろいろあると、手法や作業工程、工賃などを確認して比較検討できるので、ありがたい。これで完全に踏ん切りがついた。リフォーム、リメイクに次いで、今年はリダイがマイトレンドにするが、一般にも広がるのだろうか。


着色廃水という新たな課題も発生

 世の中では、環境負荷を抑えるために各方面でリサイクルが進んでいる。筆者の場合はそれを自ら実践するというより、ほしい商品がなかなか見つからない中で、気に入った手持ちのアイテムを長く着続けたいだけ。間接的には環境負荷の抑制に貢献にしていると思う。

 新たな付加価値をつけるアップサイクルも、特段意識しているわけではなく、手を加えるのが好きだから結果的にそうなっていく。周りの目を気にするより、自分が気に入ったデザインや色に生まれ変わることで、長く着続けられるのであれば、好都合だ。

 もっとも、リユースで環境負荷を抑えられても、染め替えでは「着色廃水」の問題が危惧される。専門家ではないので詳しくはわからないが、染料を交換したり、機械を点検する時の洗浄で、高濃度の着色廃水が出ると言われる。環境基準では希釈するルールがあり、それに則って放水されているとは思うが。実施にはどうなのだろうか。

 大学などの研究機関では、すでに特殊な吸着剤によって着色廃水から染料を吸着し、その後吸着剤から離脱させた染料のみを取り出せる技術が開発されているとか。そこでは汚泥の発生をゼロにできるとともに染料のリサイクルも可能になるという。環境負荷を減らしながら、原料のコストダウンも目指せるわけだ。

 服を長く着るために染め直しという手法を取ることで、着色廃水という新たな環境負荷を発生させるのでは元も子もない。リダイやアップサイクルも周囲の賛同を得るだけのスローガンに堕ちてしまう。あちらを立てればこちらが立たず。環境に配慮するにも一長一短がある。今は吸着技術が実用化され、装置が広く行き渡るのを待つばかりだ。

 染め替えができる素材は、基本的にコットンやウールでも100%のピュア素材だと思う。染めにくい合繊素材はそのまま着ていると、今度は「プラスチックゴミ」が洗濯排水を通じて海洋に流れ出る問題が懸念される。さらにそれを食べた魚を人間が食するという食物連鎖があるわけで、人体への影響も考えなくてはならない。

 小泉進次郎環境大臣はプラスチックゴミを捨てずに、リサイクルして循環利用するための仕組みを強化することを打ち出した。プラスチック製造時にリサイクルしやすい設計とする指針、民間企業に使い捨てプラスチックの使用抑制やリサイクルを義務付ける規定を法案に盛り込んだが、海洋に流れ出ているプラスチックゴミについては、どうするつもりだろうか。

 筆者は静電気が苦手なので、100%のコットンや麻、ウールばかりを着てきたが、最近はコストダウンの関係から「エラスタン」などが数%加わったものが主流になっている。多くの人々は何ら躊躇うことなく平気で着て洗濯していると思うが、プラスチックゴミによる海洋汚染についても、小泉大臣の法案提出を受け議論されるべきではないか。

 プラスチックゴミは排水処理の段階でナノ技術を生かしたセラミック系のフィルターが開発されている。また、自然に還せるセルロース系のプラスチックも開発されているのだから、合成繊維に転用できなくはないだろう。あとはコストとの兼ね合いだろうか。繊維メーカーも環境負荷を考えると避けて通れないテーマだろうし、それを利用するアパレルもメーカーと一体で考えていかなければならない。

 筆者はエコやSDGsについて、声高に賛同や拒否を論う気はない。欧米が提唱したから反対というわけでもないし、あからさまに敵視することもない。巷ではオフプライスストアが大流行りだが、むしろシーズンごとに売れ残る服を大量に出し、それがお得だと購入する方がよほど資源の無駄や環境負荷に加担しているのではないか。

 すごく上質で素敵だったからほしかったけど高価で購入できなかった。それが割引されてお買い得になったので購入した。それならともかくも、売れずにパッキン単位で処分された服をメディアに「タグを切り取ったブランド品」と煽られ飛びつくことが、賢い買い物とは言えないだろう。まして長く着続けるとは思えない。

 個人的にできるのは、巷に溢れる安い服を購入しなこと。そして、できる限り手持ちの服を大事に長く着続ける工夫をすることくらいしかない。染め替えもその一つだ。プロの職人さんが行う染め替えについて、ビフォー、アフターを比較しながら、次の機会にこのコラムで論じることにする。
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現金払いに敵なし。

2021-03-10 06:50:35 | Weblog
 政府は「親事業者から下請け事業者への支払い」について、2026年に「約束手形」の利用を廃止する方針を決定した。アパレル業界では親事業者、下請け事業者は、川上から川下までの契約でそれぞれの立場が変わってくるが、この方針がどのような影響をもたらし、取引条件が改善するのか。また、経営のやり方を見直さざるを得ないのか。気になるところだ。

 約束手形を廃止する理由に、政府は「約束手形では、支払い期日までの期間(サイト)が長い(最長120日)場合あり、中小零細事業者にとってなかなか現金化されないので、資金繰りに窮している」を挙げた。

 今年1月、中小企業庁などが開いた「第1回中小企業等の活力向上に関するワーキンググループ」でも、約束手形の将来的な廃止を目指し、24年をめどに「支払いサイトの60日間への短縮」と「割引料の親事業者による負担」を産業界に徹底する方針を決めていた。政府が約束手形の廃止を取り上げたのは、これについてさらに踏み込んだものと言える。

 確かに下請け事業者は手形を受け取ると、支払い期日まで待たないと現金化されない。当座の資金が必要な場合に、手形割引や銀行借り入れを行うと手数料や金利がかかり、額面は目減りしてしまう。一方で、会社を経営していれば家賃や給料、借金の返済があり、月末にはまとまった現金が必要になる。約束手形は取引先への支払いを数ヶ月先の後払いにできるため、経営者にとって非常に助かる面がある。

 今後、約束手形の廃止で最短60日で現金払いされ、取引先への請求額が満額で受け取れるのなら、メリットがあるように感じる。ところが、良いことばかりとは言えない。政府は約束手形の廃止と並行して「ペーパーレス化」「デジタル化」を促す狙いを掲げている。つまり、紙の約束手形は無くす一方で、「電子手形」を中小零細事業者にも浸透させる考えなのだ。

 では、約束手形と電子手形の違いはあるのだろうか。これについては紙か、デジタルか、あとは印紙や印鑑の有無くらいで、大差はないと思う。つまり、電子手形を利用すれば、支払いサイトはそのまま維持されるわけで、支払いの数ヶ月後払いを維持したい経営者なら、電子手形に移行しようと考えるはず。そんなところに政府の思惑が見え隠れする。

 約束手形が廃止になることで、本当に現金払いが進むのか。それとも、電子手形が浸透して従来通りの決済スタイルが存続するのか。問題は中小零細事業者がどちらを選択するかである。現状では何とも言えないが、業種とか、経営者の世代で変わってくると思う。


フリーランスの取引条件は改善されている?

 「約束手形の利用を廃止」「支払いサイト60日短縮」「電子手形を促進」をそのまま解釈するどうなるのか。例えば、親事業者から電子手形(サイト:最長120日)を受け取った下請け事業者が電子手形を利用しない場合には、孫請け事業者に現金で支払わなければならない(同最短60日)ことは、無きにしもあらずだ。

 つまり、現金化されるには最長120日かかるのに、締日後60日後には現金で支払わないといけないという理屈だ。下請け事業者がこれを理不尽と見るか。仕方ないと見るか。政府が2026年というインターバルを設けたのも、「それまでに中小零細企業も手形のペーパーレス化、デジタル化に移行してくださいね」ということではないか。

 一方で、約束手形が電子手形になれば、紛失や盗難の防止から支払日や金額の確認、そして銀行への手続きなどの事務処理が全てデジタル化されるので、管理が楽になる。(ハッカーに攻撃されるリスクを避けるためにセキュリティ投資が必要だが)政府は支払いサイトの60日間短縮を徹底すると明言しているのだから、手形を受け取った側が貸倒リスクを低減できることにはなると思う。

 ただ、支払いサイトの60日短縮は手形を受け取る側にはメリットだが、振り出す側はそれだけ資金計画が短期になる。決済用にキャッシュを確保しておかなければならないから、銀行から短期で借り入れせざるを得ない。そうなると、融資条件や担保などを細かく精査され、最悪の場合は決済されないこともある。資金繰りに窮するところも出てくるだろう。



 もっとも、下請け事業者の取引条件は改善されている。2016年には中小企業庁と公正取引委員会から親事業者に「支払いは可能な限り現金」で、「手形等による場合は、割引料等を下請事業者に負担させることがないよう、下請代金の額を十分に協議する」「手形等による場合は、割引料等を下請事業者に負担させることがないよう、下請代金の額を十分に協議する」という通達がなされていた。

 この通達を受けて、筆者の事務所にもクライアントから取引条件を改定する旨が通知された。その内容は実に有難いものだった。過去にはクライアントから請求金額上で手形をもらったことはあるが、回すことも割引することもなく支払日まで寝かせて現金化した。逆に仕事を発注するイラストレーターやカメラマンには納品の月末締めで請求してもらい、翌末現金払いを徹底してきた。個人事業主だからそれができる部分はある。

 支払いサイトの60日短縮は、下請け事業者が「代金を請求した締日の翌々月の同日」には親事業者が入金してくれることだ。小規模事業者やフリーランスからすれば、仕事の代金は請求した日の後、なるべく早く現金で支払ってもらいたい。筆者が取引するクライアントには、その意は汲んでもらっていると感じる。


下請け事業者が被る不利を無くすこと

 アパレルメーカーなどは素資材を仕入れて商品を製造するから、完成品ができ上がるまでに何ヶ月もの期間を要する。完成した商品を卸販売して現金が手元に入ってくるまでにはさらに時間がかかるため、なるべく支払いを先延ばししたい。しかし、銀行から借り入れて支払おうものなら、金利分を載っけなければならずコスト高になってしまう。今後も手形を利用せざるを得ないところはあるはずだ。

 また、親事業者の中には中小企業者も含まれる。アパレル業界では商品を仕入れてもらう側のメーカーは、卸先の小売店との関係では下請け事業者的な弱い立場にある。現金取引への圧力で、店側から商品代金を減額要求されないとも限らない。それでもなくても、店側がキャッシュを確保しておかなければならなくなると、資金繰りに影響が出る可能性がある。だから「現金で払うから、値引きしてよ」と、今まで以上に言われるかもしれない。

 小売り側もテナント出店すると、カードの無金利やポイント還元で負担を強いられている。一専門店は百貨店に比べるとクレジットの金利も高く、利益を確保するのも容易ではない上、現金払いを負わせられるのは非常に厳しい。どちらにしても、アパレル業界では川上から川下までいろんな事業者が介在し、それぞれ親事業者にも下請け事業者にもなる。だからこそ、下請法を厳格に運用して、弱い立場の事業者が理不尽な要求を受けるのは無くすべきだ。

 角度を変えて見るならば、小売事業者は仕入れた商品を確実に売って収益を稼ぎ、業者への支払い、銀行への返済、スタッフへのサラリーをきちんとするなど、健全な経営態勢のもとで与信管理を行うことがますます重要になる。それが川中のメーカーや卸業者、川上の縫製・加工、テキスタイルなどの事業者への支払いに対し、いい循環となることを願ってやまない。

 今後は「日本で初めてセレクトショップを作った」とか、「〇〇というレアなブランドを扱っている」といったメディア評価より、「あの店は支払いがいい」というのが真の評価になっていくのではないか。なんのかんの言っても、取引において現金払いに優るものはないのだ。

 百貨店が長年行なってきた「委託販売」や「消化仕入れ」についても、現金払いに対応するキャッシュフロー経営を進めていかざるを得ない状況では、改めるべきという方もいる。依然として百貨店の経営改善が進まない中、大手、地方を問わずトップの首をすげ替えることより、よほど重要なことではないかと思う。


 余談だが、約束手形の廃止で思い出したことがある。小学校時代、同級生にマドンナ的存在のお嬢様がいた。彼女の親が「〇〇倉庫」という社名で、手形割引の会社を営んでいた。電子手形となっても割引の利ざやで稼いでいくとなると、新たにデジタル投資の負担が増すのではないか。余計なお世話かもしれないが、彼女に会う機会があれば、その辺について聞いてみたい気もする。

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僕作る人、私食べる人。

2021-03-03 06:56:19 | Weblog
 新型コロナウィルスのワクチン接種が始まった。だが、専門家の話では、ワクチンで感染拡大を抑えることはできても、感染症の特効薬ではないという。だから、引き続き手洗いや除菌などの対策は取り続けなければならない。また、緊急事態宣言が解除されてもリバウンドを避けるには、以前と同様にソーシャルディスタンスで三密を避けた方がいいようだ。




 コロナ禍がこのまま終息に向かうにしても、世の中は以前とは大きく変わるだろうし、新しいライフスタイルが定着すれば、暮らしの態様は変わっていく。その態様が変われば当然、行動が変わり、行動が変われば習慣が変わっていく。野村監督語録を持ち出すまでもなく、この流れは真理と言っても過言ではない。

 アパレルは以前から構造的な不振に陥っているが、コロナ禍でいちばん影響を受けたのは「外食」だ。営業時間の短縮で客足が遠のき、売上げ減で閉店や廃業に追い込まれるところが出ている。大手も例外ではない。ジョイフルは直営店だけで咋年6月から12月末までに全店舗の約2割に当たる約110店舗を閉店した。ロイヤルHDは2021年末に約90店、すかいらーくHDも同時期に約200店(新規出店は約80店舗)を閉店する。

 「セネコンはラーメン屋と同じくらいある」と揶揄されるが、飲食業界自体がオーバーストアの状態にあった。しかし、日本は高齢社会で人口減少にあり、これ以上、胃袋は増えない。そんな中でコロナ禍に見舞われた。今後も新業態は登場するだろうが、その分、他が店を閉めることになるし、消費者の習慣が変れば自ずと適正規模まで淘汰されていく。

 一方で、衣服や住居はレンタルできても、食はそうはいかない。そこで注目されるのが「中食」や「内食」である。テレワークの浸透で通勤・帰宅の時間がセーブされる分、在宅やシェアオフィスで食事をとる余裕が生まれたからだ。緊急事態宣言下では、レストランが作る弁当をUber Eatsなどが配達する姿が見られたが、日本ではまだまだエリアが限られる。

 中食とは「調理された麺飯や惣菜を自宅などに持って帰って食べるもの」で、以前から「ほっともっと」などの業態が存在していた。だが、新規出店は厨房設備などのイニシャルコストが嵩む上、多店舗化にはオペレーションを構築せざるを得ない。コンビニの弁当や惣菜の店内調理が進まないのも、同じ理由からだ。倒産した飲食事業者が中食で復活を賭けるのも厳しいだろう。外食店が減ったからと、急増する環境だとは言い難い。


食材を購入して調理する内食の可能性




 となると、食材を購入して自宅などで調理する内食の方が、ビジネスが広がる可能性は高い。時間的な余裕できたことで、その分を調理に割こうという意識の高まりだ。まず、テレワーク下において規則正しい生活を送るにはセルフコントロールが重要で、それはそのまま健康管理に直結する。そのためには運動とバランスのいい食生活が欠かせない。

 また、国が抱える懸案の一つに膨れ上がる社会保障費をいかに抑えるかがある。そのためには一億総健康社会の実現を考えていかなければならない。その一歩がバランスのいい食生活を心がけること。内食はそうした社会的ウォッチワードを後押しする。

 企業や産地も動き始めている。これまで外食向けに食材を供給していたところが内食向けのメニューやミールキットを開発している。ネット通販の環境も十分に整備されサブスクが定着したことで、日本各地が自慢の食材を定額プランで直販すれば、地域の活性化につながる。購入する側は自腹だから、食べて元を取りたい意識が働く。スーパーやコンビニの中食のように予めロス分を価格に載せるわけではないから、フードロスにも向き合える。

 中食では持ち帰りが厳しかった汁物のラーメンやちゃんぽんも、トッピングや具材を含めてキットにすれば、店舗と遜色ない味が気軽に楽しめる。今後は健康に配慮して野菜を多めにしたメニューも増えていくだろう。調理をする人が増えれば、調味料や器など周辺の消費も拡大する。これまで料理をしなかった人でも、気軽に作れる調理器具も開発されていくはずだ。



 Uber Eatsなどにはある宅配エリアの制約もない。SNSが浸透したことも大きい。自分で調理したメニューを投稿する人は、今でも枚挙にいとまがない。高額な媒体料を掛けなくても、SNSがプロモーションしてくれる。内食のマーケットは限りなく広がるポテンシャルを持っているのだ。

 話はズレるが、東京五輪組織委員会の森喜朗会長が女性蔑視発言で辞任した。過去にもインスタントラーメンのCMで、「私作る人、僕食べる人」というコピーが物議を醸した。「女性が調理し、男性が食べる」ようなイメージが森発言と同様に性差別と受け取られたのだ。ジェンダーに関する問題は、昭和の時代から令和の現在までずっと燻り続けている。

 ただ、メディアは森発言ばかりを槍玉にあげたが、ジェンダーフリーの根底では何が必要かには踏み込んでいない。それもおかしな気がする。我が子をそっちのけで、男性の弁護士とイタ飯を楽しんだ既婚の女性議員がいた。では、父親は子供にきちんとご飯を食べさせたのか。また、子供も両親が仕事で忙しいなら、自分も料理を覚えようという意識になったのか、である。要はそこなのだ。


食育の大切さが問われるきっかけに




 本来、料理なんて誰がやってもいいわけだ。コロナ終息後にライフスタイルが変わり、新しい生活習慣が浸透すれば、老弱男女が料理に触れる機会は確実に増していく。それは産業構造の変化やビジネスの活性化、さらに長寿健康社会での暮らし方にとってもいいことだ。

 ピエトロの村田邦彦社長は生前、以下のような夢を語っていた。「(ピエトロを)上場して創業者利益を手にしたら、お洒落なバスでも買って保育園や幼稚園を廻り、食育をしたい」。家業が食堂を経営していて両親が多忙だったにも関わらず、母親は子供にお金を渡して買い食いさせることを嫌い、忙しい合間をぬっておやつまで手作りしてくれたという。

 子供の味覚は4〜5歳くらいまでには確立されるので、食育がいかに大事かが身に染みたわけだ。そうした体験がピエトロの創業やドレッシングの開発につながった。そして、きちんと食育を受けていけば、自ら料理をしようという意識が生まれ、行動が伴って習慣化される。外食の経営者として大局的視野に立った考え方。売上高1兆円を達成すればいいというわけではないのだ。

 料理をすることが楽しくなれば、自分で工夫してバランスが良く、美味しいメニューを考えていく。その先には技術を身につけるとか、食材にこだわるとか、内食の可能性を広げる要素がある。村田社長の夢からは、食育とはクリエイティビティの醸成であり、人間形成の根源でもあることが読み取れる。

 アパレル業界もかつて銀行がキャッシュフロー経営を奨励し融資をしてくれたため、レストラン事業に参入したところが相次いだ。だが、事業を軌道に乗せて今も存続できているところがどれほどあるのか。外食は参入障壁が低そうに見えるが、いざ入るとレッドオーシャンで継続は容易ではない。コロナウィルス感染のような災禍には意外に脆いこともわかった。

 洋服の青山はビジネスマンが顧客であるため、店舗の一部をシェアオフィスに改装して再建を進めようとしている。在宅ワークを含め、そこには食のニーズが必ず付いてくる。アパレルが産地などとコラボして「おしゃれな内食」をプロデュースするのも一考ではないか。こちらは既存の販路やデザイン感性が生かせるし、初期投資もそれほどかからない。農業や漁業といった「産地」の支援にもなる。

 筆者がニューヨークにいた90年代の米国では、HMRホームミールリプレイスメント)なるマーケティング手法が提唱されていた。「家庭料理の代用品」として食品スーパーやレストランが自宅やオフィスなどですぐに食べられるように総菜などに注力したのだ。これは今日の日本でもすっかり定着している。



 そして、コロナ禍の只中にある現在の米国では、レストラン側が積極的にミールキットを販売し、シェフがその調理方法をオンラインで教えるというビジネスが動き出している。シアトルに本拠を置く「ファンワイド・テクノロジース」はスポーツ中継専門のネット配信会社だが、イベントの激減でレストランのシェフとユーザーをつないで料理コンテンツを配信する。(https://www.fanwide.com/host/overview/)

 NHKも夕方の番組で、一流シェフなどのカンタン調理法を紹介していたが、ネットの方が時空を超えて内食を広げるのは間違いなさそうだ。コロナ禍の終息で、新しい暮らし方に必須なものは何かとなれば、自ずと求められるビジネスのコンセプトも定まってくる。
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