HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

接客の原点に帰る。

2020-05-27 06:30:20 | Weblog
 政府は4月8日に発令した緊急事態宣言を5月14日には39県、さらに21日には継続していた8都道府県のうち、京都、大阪、兵庫の3府県については基本的対処方針等諮問委員会が了解したため解除した。そして残る東京、神奈川、埼玉、千葉、北海道についても25日、同様の理由から解除に踏み切った。新型コロナウイルスの感染拡大は収束には向かっているものの、完全に終息したわけではない。

 第二、第三の波も予測される。そこで気になるのが「社会経済活動の再開」と「感染拡大の防止」をどう両立させるかだ。諮問委員会の尾身会長は、5月20日の参議院予算委員会の参考人質疑で、「フィジカル・ディスタンス(身体的距離の確保)で、三密を回避する」ことが両立の条件だと説明した。営業再開した店舗では概ね、すでにそうした対策は取られているようだが、両立の条件を徹底しなければ、冬を待たずに第二波、第三波の感染拡大、クラスターが発生することもあり得ると付け加えた。

 幸いにも日本は米国や欧米、中国に比べ、感染者も死亡者も少ない。それは検査体制が不整備だからとの意見もあるが、日本で感染が始まってすでに2カ月が経過し、ほとんどの日本人が感染症の初期症状について学習し、また同調圧力もあってか手洗いやうがい、三密の回避などの感染防止策を励行してきたと思う。それが感染者の減少につながった部分もあるだろう。

 営業を再開した店舗でも入店時の検温や手の消毒、マスク着用の義務づけ、接触を避けるの座席の配置など、一応は感染拡大の防止策は講じられているように見える。だが、問題はそれらが公衆衛生学上で再び感染を拡大させないために妥当なのか。あるいはもっと厳格なマニュアルのもとで数値化(米国のCDC/疾病対策予防センターではAvoid close contact/密接・接触の回避距離は6feet/about 2arm’s length/約180cmと規定)を徹底し、実施されるべきなのか。尾身会長の答弁では、程度問題がよくわからない。


感染防止対策がアリバイ作りと化す

 そうした曖昧さを指摘するようなリポート「いち早く営業再開し攻める高島屋は百貨店の今後を占う試金石【緊急リポート 百貨店の断末魔】」が5月20日、ネットにアップされた。(https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200520-00000026-nkgendai-bus_all)配信元が何でもケチを付ける日刊ゲンダイで、リポート先が百貨店の髙島屋、リポーターが三越伊勢丹の社員だからかもしれないが、以下の部分は確かに的を射て、なるほどと感心させられた。

 「(コロナ対策として入口でサーモグラフィーによる来客の体温検査を)実施しているのが本館、南館それぞれの正面入口だけなんです。他の入口には係の職員もいないし、何の検査も受けずにフリーパスで入れる。いわばアリバイ的に検査をやっているふりをしているとしか思えず、これでクラスターとか起こったら大変な問題になりますよ」

 確かにテレビ報道では、店舗入口での検温や手の消毒を行う映像を数多く目にする。それだけを見れば、感染防止対策が取られている印象だ。あれだけ三密が批判される中で営業を続けたパチンコ店も、同じような対策を取っていると反論し、店舗によってはメディアに取材までさせている。しかし、公衆衛生学上、あの程度の対策で本当に有効なのか。疑えばきりがないのだが、そう感じているのは筆者だけではないだろう。三越伊勢丹の社員の指摘を見ると、尚更アリバイ工作のようにも思えてならない。

 公衆衛生学からすれば、対策はマニュアルが徹底されて初めて効果を発揮するはずだ。リポートで指摘されるまでもなく、メディア対策でしかない緩慢な防止策ならやはり感染拡大を懸念せざるをえない。ただ、現状ではその程度でも感染が拡大せず、クラスターも発生していないのだから「結果オーライ」で、対策が奏効すればそれでいいと考えることもできる。

 米政府が4月16日に公表した経済活動の再開に向けたガイドラインでは、各地の感染収束の度合いに応じ、州知事が外出禁止や休校などの制限の緩和・解除を3段階で進めるとした。第1段階では企業に在宅勤務を引き続き推奨しつつ、可能なら段階的な出勤を進める。レストランや映画館、スポーツジムの営業再開も認める。第2段階では学校の授業や校外活動を再開し、不要不急の移動も可能に。第3段階では高齢者施設や病院を訪問できるという。

 どの段階でも職場などで他人と一定の距離を保つ社会的距離を実行するほか、マスク着用などの感染予防措置を講じ、検温や消毒を怠らないよう求めている。米国でも感染拡大のペースは鈍化傾向にあるものの、全面的な営業再開にはまだまだ時間がかかると見られる。日本とはケタ違いに感染者も死亡者も多いのだから、それはしょうがないことだ。ただ、感染者が最も多い米国と言えど、経済活動の再開と感染拡大の抑止を両立させる対策は、日本と大差はない。現状では感染防止の特効薬などないのだから、できることをするしかないのだ。


コロナ禍での来店客を大事に



 米国の売場レベルでの取り組みについては先日、興味深い記事が繊研新聞に掲載された。ニューヨーク通信員の杉本佳子さんが寄稿した「ミッキー・ドレクスラー氏のウェビナー(オンライン上で実施されるセミナー)に学ぶ」である。(https://senken.co.jp/posts/y-sugimoto91)GAPなどでCEOを歴任したドレクスラー氏は「マイクロマネージメント」を自認するが、杉本さんはそこからコロナ禍における接客サービス、販売スタイルのヒントを見いだしている。内容は以下になる。

 「例えば店に着いたらお客はタブレットでチェックインする。あらかじめ、ネットで見つけて試着したい、実物を見たいと思った商品を予約しておき、販売員はその記録を見てお客が要望する商品(消毒済み)を消毒済みの試着室に持参する。お客が他の色やサイズ、異なる商品を試したければもちろんその場で要望できるが、お客と販売員の接触、お客と商品の接触を最低限に減らす必要はある。消毒も含めて細かい対応が必要になってくるが、お客が安心して買い物できる環境をつくるためにはやむを得ない」

 「これが、オンライン販売していない個店だったら、尚更細かい対応が必要になるだろう。販売員がパーソナルスタイリストのようになり、顧客が求めているものを効率よく試着室に持参しなければならない。そのためには、お客の好みや過去に買ったものを熟知していることが必要だ。まさに、『マイクロマネージメント』が求められる」

 「もしそれを実現できたら、お客のその店に対する信頼は絶大になるだろう。いつどこで感染するかわからない状況において、買い物のためにあちこちの店に出入りすることは避けたいに違いない。『あの店なら安心。あの店なら私の好みをわかってくれている。あの店なら欲しいものがたいてい見つかる』と思ってもらえたら、客数は減っても客単価は上がるだろう」

 福岡でも緊急事態宣言が5月14日解除されたことで、岩田屋本店、福岡三越は16日に、大丸福岡天神店は19日に営業を再開した。ただ、どの百貨店も口々に「コロナ禍以前の客足の戻るにはまだまだ時間がかかる」と宣う。このコメントを聞いて、そんな後ろ向きの考えでどうするのかと思った。そんな矢先に杉本氏の記事を目にして、コロナ禍でも来店してくれたお客さんをいかに大事にするのか。現状ではそちらの方が重要であり、消毒などの措置を徹底した上で、懇切丁寧に接客対応していくしかないと思う。


バブル以前の接客術に帰れ

 マイクロマネージメントと言えば小難しく聞こえるが、販売スタッフは顧客が求めているものを効率よく試着室に持参する。そのためには、お客の好みや過去に買ったものを記録顧客管理を徹底しておくこと。今はITの力を借りられるので、事前にネットで見つけて試着したい、実物を見たいと思った商品を予約してもらい、販売員はその記録を見てお客が要望する商品を試着室に持参する。売上げ回復には顧客との接点をいかに増やすかなのである。

 もちろん、コロナ禍という条件で感染拡大を防がなければならないため、お客が色やサイズ、他の商品も試したくても、販売スタッフはお客との接触、お客と商品との接触を最低限に減らすなど、接客の効率性とスピードが求められる。また、消毒に関する店独自の自主マニュアルの設定など細かい対応が必要になる。今は平時ではないのだから、お客が安心して買い物できる環境をつくるには、日本でもそこまで踏み込まなければならないのだ。それが経済活動と感染拡大の防止を両立させることではないかと思う。

 杉本さんの記事で気づいたことがもう一つある。それは記事から「消毒」などコロナ禍対策の文言を除けば、日本でもバブル景気以前まで行われていた「昭和の接客スタイル」そのものだ。筆者がアパレルにいた頃には取引先の有力専門店を何度も見学したが、記事に書かれている内容は、マネージャーを中心にスタッフの間でごく普通に行われていた接客風景と品揃えだ。 消毒の文言を省いてものを以下に列記する。

 「試着したい、実物を見たいと思った商品を予約しておき、販売員はその記録を見てお客が要望する商品を試着室に持参する」→専門店の定番接客スタイル1

 「販売員がパーソナルスタイリストのようになり、顧客が求めているものを効率よく試着室に持参しなければならない」専門店の定番接客スタイル2

 「あの店なら安心。あの店なら私の好みをわかってくれている。あの店なら欲しいものがたいてい見つかる」 →顧客管理が生む信頼とバイイング

 別にコロナ禍だから特別なのではない。むしろ、コロナ禍において突きつけられた命題、社会経済活動の再開と感染拡大の抑止の両立は、ファッション業界がすっかり忘れてしまった接客サービスの原点回帰を想起させる。小売りの雄、百貨店がそれに気づき、取り戻さなければ、潰れていくしかないだろう。

 ドレクスラー氏はJクルーをマネーゲームに巻き込み破綻させた加害者とも言えるが、小売業に対する一家言は鋭くて秀逸だ。百貨店についてはウェビナーで「もう必要ない」と吐き捨てている。今はアマゾンが百貨店に代わって幅広い品揃えを提供しているからだ。ならば、お客に行く必要があると感じさせればいい。それは顧客管理、懇切丁寧な接客サービスによると顧客が納得できる品揃えで、顧客との接点を増やしていくしかない。コロナ禍はそれを改めて示すチャンスだと思う。

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OMOに動くセレクト。

2020-05-20 07:16:03 | Weblog
 1976年、米国ロサンゼルス・メルローズアベニュー発祥のセレクトショップ「ロンハーマン」。日本で事業を展開するサザビーリーグは、5月28日からこのロンハーマンでオンラインショッピングをスタートさせる。

 西海岸のビーチハウスをイメージし、カジュアルリラックスにハリウッドセレブ御用達という格式を加えた店が日本初上陸をはたしたのは2009年。セレクトブームがやや落ち着いた時期だっただけに、あのコンフォートでライトなテイストは、日本では新鮮だったと思う。




 以来10年以上が経過し、店舗数は現在12店。サーフボードや子供向けの玩具などを揃え、カフェまで併設した「RHCロンハーマン」も登場し、総数は22店まで拡大した。だが、本家米国ではすでに陳腐化してしまったのか。昨年にはサザビーリーグが米国のロン・ハーマン社から事業を譲り受けている。その日本も少子高齢でファッション市場は縮小傾向だ。ブランドアメカジ主体のセレクトショップがこれ以上伸びる余地はないと言っていいだろう。

 一方で、サザビーリーグとすれば、ロンハーマンの精神、セレクトショップのポジションを守りながら仕入れ主体のMDを貫く上で、荒利益を稼いでいくには販売数量を増やさなければならない。それらを既存の店舗数で按分して捌くにも限界がある。さらに利益を出すには、オリジナルを販売することが必要だ。オンラインショッピングでは店舗在庫を引き当てるかどうかはわからないが、これらの在庫を確実に消化するには新たな販路が求められる。それがオンラインショッピング、いわゆるECに参入した理由と考えられる。

 ロンハーマンの根岸由香里事業部長兼ウィメンズディレクターは、WWDのインタビューでECを始める理由について以下のように語っている。

 「昨年10周年を迎え、この先の10年、そしてもっと先の未来を考えたときに、私たちらしく進化していくために必要だと考えた。どんどんテクノロジーが進化していく中では、実際に体験したい、触れたいという店でしか得られない“特別な体験”と、“利便性”を今まで以上に上手に使い分ける時代がやってくるだろうと話をしていた

 「この出来事によってさらに大きな視野を持つようになった。この先の未来に店を進化させながら守るためには、私たち自身が大切なものを崩さずしなやかに進化する必要があると感じた。いい進化とは大切な人やことを守り、強くしていくことだと思う」(wwdjapan.com 2020/05/11付け記事より抜粋)

 やや遠回しな言い方にはなっているが、「今の時代、セレクトショップと言えど、技術の進化を前提にすれば、お客にとって利便性のある売り方が出来なくはない。店売り以外のECまで視野に入れるのは当然の選択」と、解釈できるだろうか。


在庫を確実に消化し適正利益を出す

 この10年で、ロンハーマンのブランドバリュは日本でほぼ浸透したと思う。ただ、収益の伸長となると、別問題だ。既存店は22店舗もあり、これらを維持、存続させていくには、家賃、仕入れ代金、人件費、販促費などのランニングコストがかかる。それらを店舗売上げで稼ぎなら、余りある利益を出せているとは思えない。おそらく、サザビーリーグ内の優良事業からの持ち出しもあるのではないか。



 雑誌でのプロモーションが奏効し、全国にファン客が拡大したとは言え、どこまでの顧客がショップが提案するライフスタイルを踏襲しているのか。多くはラインナップされているブランドの中から、気に入ったアイテムが見つかれば購入するという「単品買い」ではないか。それはそれで仕方ない。だが、商品の価格は高いし、都市部中心の店舗展開だから、地方に在住する顧客の購入頻度は限られてしまう。

 かといって、ショップロイヤルティの維持、加えてディレクターが全店をくまなく回ってコントロールするには、これ以上店舗が増えると難しくなる。デザイナーのブランドにはエクスクルーシブ(独占販売権)もあるし、仕入れには最低ロットが課されているだろう。また、RHCロンハーマンにはサーフボードなどマニア向けの商品もあり、回転率は鈍くなる。

 そうした中で、ショップトータルで仕入れた在庫などを確実に消化しながら、店舗体制を維持していくには適正な利益を確保しなければならない。ならば、全国どこからでもロンハーマンのセレクションが、またそれが単品買いであっても、購入できるECに舵を切るのは、当然の判断と言える。

 サザビーリーグには、苦い経験がある。同社が日本で運営してきた「アメリカンラグシー」が2018年に事業を終了し、20年の歴史に幕を閉じた。本国では1店舗のみの運営だったが、日本では全盛期の2011年には15店舗まで増えた。 アメリカンラグシーのショップコンセプトは、「真性のヴィンテージクローズをセレクトする」だったが、店舗が増えるに従ってそれらしく見せたオリジナルも増えていった。

 オリジナル商品を生産する場合、ある程度のロットが必要になってくる。生産数が少ないと製造コストが嵩んで、販売価格が高騰するからだ。それでも有り余りヴィンテージ性が出せて、ショップが価格応分に足る販売力を持てば言うことはない。しかし、1店舗に生産した商品在庫を積めば、確実にヴィンテージ性は薄れてしまう。結局、生産ロット分を消化するには展開エリアを拡大し、店数を増やして商品を分散しなければならなくなる。

 そうした商品展開が仇になったかどうかはわからないが、2016年には新ディレクター2人が招聘されてブランド力の再強化に注力したものの、浮上することはできなかった。ヴィンテージ&オリジナリティと、在庫消化&多店舗化という二律相反の課題を抱えた運営スタイルが限界点に達していたのは、どうやら間違いない。


セレクトこそ、店舗とECの融合

 ロンハーマンはセレクトショップというポジションを守り、あくまでブランド仕入れでMDを維持するなら、適性利益を出すためにも在庫を確実に消化しなければならない。さらに荒利益を稼ぐにはオリジナルの投入も必要だから、アメリカンラグシーでの経験を生かすとすれば、ローコストで販売できる販路≒無店舗≒ECが必要との判断だったと思う。

 結果として店舗での販売にECによるセールスを加えて、スマートフォンなどで気軽に商品が探せるOMO(Online Merges with Offline)は避けて通れないということだ。ロンハーマンのブランドは揺るがないとの前提でショップ体制を維持していくには、商品面ではブランド仕入れとオリジナルをシンクロさせ、販売面でECを整備強化することで、収益拡大を図ると見て間違いないだろう。

 日本で産声を上げたユナイテッドアローズも、先日発表した新中期経営計画では展開する3つのマーケットのうち、「トレンド」「ミッドトレンド」の2つで「ネット通販」の成長拡大に言及した。新規事業でも既存のアパレル事業を主体に中国市場への本格進出を狙いながら全事業の「越境EC」を開設し、出店を開始するタイミングで順次「ローカルEC」に切り替えていくということだ。
 
 また、 OMOの推進では、商品取り寄せや購入決済などでのオンラインとオフラインを融合したさまざまな購買パターンを実現させる。スマホアプリを刷新して、モバイル購買体験を活性化させ、店舗・EC相互のデータを活用した店舗接客アプリの導入なども予定しているという。販売技術の進化とはそこまでを指すのだろう。

 対して、ようやくECも販売手段と位置付けたロンハーマン。後発のECだけに他社のいろんな利点を取り入れながら、自社なりのOMOに軸足を移していくと思う。スマホのショールーミングで注文した商品を店舗で試着したり、受け取ったりできるC&C(クリック&コレクト)も導入すれば、より優位に立てるのは間違いない。将来的にはアジアへの進出や越境ECもあるだろう。

 その分、実店舗はロイヤルティの維持と広告塔的な立ち位置になると思われるが、根岸ディレクターが語る「便利で快適で、機械的じゃない温度を感じられること――つくっている、関わっている人の情熱や思いが伝わるようなECにしたい」が果たしてどんなものか。

 すでにECでは「G-SHOCK」やWTAPSのデザイナーらが手がける「DESCENDANT」の別注品が先行発売されるという。別注品と言っても、ベースの商品をダブルネームで仕掛けたりするのは、本当にロンハーマンらしさなのか、ビームスなんかとどこが違うのかって一抹の不安もよぎる。サザビーグループが事業を受け継いだので、すべて日本流のやり方でできるわけだが、売り上げ効率を追求するあまり、ロンハーマン本来の西海岸テイストが失われると、名前だけのセレクトショップに堕してしまう。これでは本末転倒だろう。

 「関わっている人の情熱や思いが伝わるようなEC」で、実店舗にはない魅力的な商品や利便性まで揃えてくれるのか。事務所近くの福岡店と完成後のECラインナップを見比べながら、今後のロンハーマンを見ていきたい。

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売って出る覚悟。

2020-05-13 04:17:34 | Weblog
 コロナ禍によりアパレル企業の倒産が相次いでいる。4月1日から5月1日までの一月でアパレル関連は10社に及んだ。それを受けてだろうか、ここ数日のメディア報道を見ても、「春商戦壊滅のアパレル業界 残るブランド、消えるブランド」「コロナ倒産はパチンコ店やアパレルにも。広い業界で破綻が相次ぐ」「アパレル業界は「コロナ禍」で、いよいよトドメを刺されるかもしれない」「新型コロナの影響 ファッション・高級品小売には最悪な時期に」等々、業界の先行きを憂える見出しが躍っている。

 ただ、アパレル業界の疲弊は、今に始まったことではない。バブル景気が崩壊した1991年以降、中間層の没落で高級品が売れず、多くのメーカーが低価格品にシフトした。それにより、競争が激化してデフレ禍がまん延しコスト削減圧力を増して、業界を蝕んでいった。低価格品製造のためにコストの安いアジア生産を進めた結果、ロットが増大して製造や輸送に時間を要してしまった。アパレルはリードタイムが長くなるほど、お客の嗜好を外すリスクも増える。トレンドデザインを追いかけても、売れなければ在庫を抱えてしまうのだ。

 また、百貨店が荒利益を確保したい一方で、メーカーは値引きと残品のロスを卸し価格に上乗せなければ利益を出せなくなった。当然、その分の原価を切り下げざるを得ず、商品価値の低下を招いた。クイックレスポンスだの、POS管理だのを声高に叫んだところで、OEMやODMで企画から外部に丸投げすれば、でき上がるのは右に倣えの売れ筋ばかり。目の肥えた顧客からすれば、百貨店のハコに並ぶ商品は陳腐で安っぽい。離れていくのは当然だ。

 活路を見いだすとされたECも、すでに成熟の域に達しようとしている。コロナ禍で4月は一時的に需要が伸びたものの、ユナイテッドアローズは店舗にECを合わせた売上げは62.4%も減少。ユニクロも店舗とECの合計売上げが対前年同月比で56.5%減となった。アダストリアはECの売上が約20%増加したが、既存店の売上高は前年同月比で67.8%減。Amazonや楽天、ZOZOTOWNに出店する中小他社も似たような状況ではないか。

 これまで大半のアパレルがECへの注力や強化を掲げてきた。コロナ禍による巣ごもり消費は絶好の試金石になったわけだが、店舗売上げを補完することはできても、主販路にするのは容易ではない。多くの企業がECに参入すれば、差別化は不可欠になる。舞台はC&C(クリック&コレクト)に移行しており、試着や返品などのサービスを充実しなければ、賢くなったお客はついて来ない。

 さらに物流コストの上昇で、送料負担が重みになれば、増え続けていくとは考えにくい。お客は商品を購入する際に「送料を払うか」「店まで買いに行くか」。商品価値と照らして、どちらが得かを両天秤にかける。一方、アパレル側は送料を負担すれば、コスト増になってしまう。EC専用のブランドと言っても、ローコスト生産で衝動買いを誘う意図しかないのなら、見透かされてしまうだろう。やはりしっかり商品を企画した上で、ECは実店舗との一体運用、オムニチャンネル戦略の中での活用することが重要になる。コロナ禍が終息した後、お客の外出が正常に戻れば、それがますます鮮明になっていくのではないかと思う。

 アパレルにとっては、今後も大量生産によるコスト削減の低価格帯で、マスマーケット攻略を続けるのか。原価率アップによる中高価格帯、適量生産、ミニマム市場の身の丈消費で、手堅くいくか。それともカスタマイズなど全く新しいビジネスモデルに活路を見出すか。どれにしても、これまでのやり方では生き残っていきづらくなると思われる。


稼ぐ手段を広げることも視野に

 コロナ禍は物販や接客サービス業に、「お客さんが来てくれなければ、商売そのものがやっていけない」という「当たり前のこと」をまざまざと見せつけた。飲食店の中には日銭を稼ぐためにテイクアウトに乗り出したところもある。待ちの姿勢だけでなく、お客にアプローチする。それが稼ぐ間口を広げることになる。ただ、家賃負担にはほど遠いので、休業要請に応じたところには、自治体からの「家賃支援」や「協力金」の支給がある。



 筆者が生活する福岡市では5月8日、「緊急事態宣言に伴う事業継続に向けた店舗への家賃支援(新型コロナウイルス感染症対策)」が更新された。この取決めでは、「福岡県から出された協力要請等を受け休業した施設又は時間短縮営業した食事提供施設の賃料の8割」を支給するとある。但し、①令和2年4月7日〜5月6日までの分は上限50万円、②令和2年5月7日〜31日までの分は上限30万円となる。(https://www.city.fukuoka.lg.jp/keizai/kokusaikeizai/business/cotenpo.html)

 対象施設は遊興施設、運動施設、劇場、商業施設などが入り、営業時間を短縮した飲食店も家賃支援の対象になる。(https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/attachment/110211.pdf)①については、定休日を含む15日以上休業した施設又は時間短縮営業した食事提供施設。県指定の「基本的に休止を要請する施設」「基本的には休止を要請しない施設のうち食事提供施設(営業時間の短縮については、朝5時から夜8時までの間の営業を要請し、酒類の提供は夜7時までとすることを要請)」。②については、①と対象施設は同じだが、詳細は現在検討中とのことだ。




 アパレル関係の店舗については、「福岡県の新型コロナウイルス感染症一般相談窓口」によると、「基本的に休止を要請する施設」には、「⑴特措法による協力要請を行う施設」があり、これには「百貨店やショッピングセンターなど、床面積の合計が1000㎡を超えるものに限る」とある。つまり、これらの商業施設が直接の家賃支援の対象になる。だから、テナント出店していても個別には家賃支援はなく、デベロッパー側の家賃減額などを待つしかない。

 また、「⑵特措法によらない協力依頼を行う施設」には、床面積の合計が1000㎡以下の商業施設と規定されている。これには300坪以下、30坪以上の大型、中型店舗が該当する。これらも福岡市の家賃支援の対象となる。但し書きには、「床面積の合計が100㎡以下については、適切な感染防止対策を施した上で営業」となっているが、福岡市に確認すると「福岡県が指定した基本的に休止を要請する施設」は、すべて家賃支援の対象となるとの解答を得た。小規模のアパレル小売業にとってはありがたいことだ。

 ただ、自治体頼みだけでは限界があるだろう。今さら言ってもしょうがないが、1カ月先の家賃が払えない商売がはたして健全と言えるのか、である。コロナ禍を契機として自店の近い将来を見渡して、少しでも稼げる術をつけること。店舗やEC以外にも販売チャンネルを持つしかない。それには「外商」「外販」も視野に入れるべきではないか。今後は店舗でお客を待っていても「それほど多くは来ない」「買ってくれる保証もない」ことを前提に小売り側から「売りに出ていく」ということである。


モバイルブティックという業態、販売方法



 だいぶ前、大手アパレルが展開するブランドショップの店長から聞いた話がある。その方は都外に住んで頻繁に買い物に来れない顧客に対し、「外販」に出かけていたという。もちろん、会社の了解も得てのことだ。店舗を夜の8時に閉めると会社のトラックを借りて商品を積み込み、渋滞のない道路を走る。 一言で言えば、「モバイルブティック」とでも言おうか。出張販売のアパレル版である。

 顧客には友人を誘ってもらい、顧客宅がコレクションのバックステージに。スタッフも修学旅行気分でついてきてくれ、夜中まで思い思いのスタイリングを提案するので、テンションが上がって眠気もすっ飛んだとか。それで店売りとは別にそこそこの売上げをオンしていたというから、店長としての数字への執念と、ブランドの良さを顧客に伝えたい気持ちがあれば、そこまでの行動に駆り立てるということだ。

 このモバイルブティックはネット通販などない頃の話だが、平成に入って聞いたのでそんなに昔のことではない。今はPCでクレジット支払いもできるし、スマホ決済も普及しつつある。販売を取り巻くIT整備が増しているからこそ、外販のような人間臭い売り方が逆に顧客との接点を増やし、プラスαの売上げをもたらすのではないか。また、コロナ禍後には、家賃負担を嫌って、こちらにシフトするところが出て来ることも想像される。

 店を昼前に開けてお客を待ち、夜の8時を回ったらレジを締め、終礼をして1日が終わる。楽天やAmazonなどにも出店し、ECでも販売する。しかし、ここまでは多くがやっている当たり前のこと。それでも、大して売上げが積めない中でのコロナ禍である。いつ何時、お客が来てくれなくなるかもしれないから、常に売りに出かける覚悟をもっておく必要があるのだ。飲食業界では多くの店舗が家賃負担の重圧を感じ、コロナ禍後には固定費の削減を念頭に移動販売に舵を切るところも出て来るのではないかと思う。

 アパレル業界も遠からじだろう。幸い、アパレルには食中毒の心配はない。これまではECばかりが注目されてきたが、お客側にお店が売りに行くことも、リスクヘッジの一つになるのは間違いない。コロナ禍後にお客の購買に対する意識変化はあるのか。それに小売り側はどう対応するのか。有事に備えて多面的な販売方法の確立がますます重要になっている。

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テレコ投入の勝算は。

2020-05-06 04:15:55 | Weblog
 4月はコロナウイルス禍で巣ごもり消費が増え、アパレルではECの比率の高い企業が全体売上げの減少をカバーする傾向だった。

 若年層に支持されているセレクトショップのユナイテッドアローズは、ZOZOTOWNから自社ECに移行しても顧客がついているようで、コロナウイルス禍による売上げ減少をカバーしたようだ。既存店の売上げは40%以上減ったが、ECが25%以上伸びたため、全体の売上げ減少は24%程度に止まっている。

 百貨店系アパレルのオンワードや三陽商会もコロナウイルス禍ではEC売上げが伸び、全体の売上げ減少をそれぞれ30%程度(3月)と、44%に抑えている。だが、両社は主販路である百貨店売上げが激減し、その回復策を打ち出せない中、今回のような有事においてEC販売が健闘したことで、主販路に位置付ける手応えをつかんだのではないかと思われる。

 一方、ZOZOTOWNは2020年3月期決算で、商品取扱高が前期比6.6%増の3450億8500万円だったと発表した。消費増税や天候不順、暖冬の影響で下期の販売が低調に推移し、商品取扱高は予算対比で94%と目標を下回った。実店舗をもつアパレルが軒並み業績を下降させているが、ECを主力する同社に期待は禁物だろう。アパレルからの在庫を預かり、フルフィルメントで発送処理する千葉や茨城の物流センターが「三密」で通常通りの稼働をしていない。人海戦術では自ずと限界があり、コロナウイルス禍で一人勝ちするとは思えない。もちろん、終息後に起きるであろう消費変化も影響する。今期の業績が注目されるところだ。


売上げ減で秋物が作れない

 もっとも、問題はコロナ禍の影響がどこまで続くかである。国は5月4日、6日を期限としていた緊急事態宣言を31日まで延長すると発表した。4月7日の宣言発出から5月4日で約1カ月を経過したが、依然として感染者が出続けており、医療現場の逼迫を見れば已むを得ない措置だ。しかし、企業に対する休業要請や市民への外出自粛も継続される。国が打ち出す緊急経済対策だけでは経済損失には歯止めがかからず、多くの国民の消費マインドは冷え込み、家計支出を控えると見られる。

 アパレル業界にとってもいくらECが好調とは言え、春物のすべてが消化できるとはいかない。そこで余った在庫をどう捌くか。また、資金がショートする場合、秋冬物製造の原資をいかに捻出するか、が問われ始めている。緊急事態宣言が5月31日で解除されたにしても、店頭への客足が通常に戻る保証はない。暫定的に、春物在庫は夏物と入れ替える形でECルートに回してできる限り処分し、残った分はバッタ屋ルートやオフプライスストアに流して現金化せざるを得ないと言われている。

 メーカーが何とか資金繰りがついたところで、小売り側の売上げが激減していることを考えると、今度は秋冬物が例年通りに受注される公算は低い。大手アパレルでは展示会をWebに切り替えるところもあるが、小売り側が発注に二の足を踏んでしまうと、受注が取れず製造には移れない。だが、秋冬シーズンに入った時、店頭やECの品揃えをスカスカにするわけにもいかないだろう。アパレルの悲しい性か、売れなくても商品だけは置きたい。おそらく、多くがジレンマに苛まれるのではないか。

 そこで、試みようとされているのが、春物在庫を秋物とミックスして何とかMDの体裁を整える“奥の手”だ。業界では過剰生産が慢性的なため、前シーズンの持ち越し在庫を新品として、または一部修正を加えて次シーズンに投入されることがある。以前にこのコラムでも書いたが、洋服の青山などの紳士服量販チェーンでは、前シーズンの在庫に新商品を足して品揃えするのは、恒常的に行われているのだ。


春秋両シーズン企画に挑む

 こうした手法はこれまで面と向かってオープンにはされてこなかったが、この秋は苦肉の策として、春物ミキシングを行わざるを得なくなると言われている。というか、筆者はこのコラムでも何度も指摘してきたが、毎年のように春物と秋物が苦戦を強いられているのだから、この際、「肌寒い春」「残暑の秋」に向けた商品を揃えるべきだと思う。そのためには「春秋両シーズンに通用する商品を統一して企画・調達しては」という考え。つまり、春が寒ければ秋物、秋が暑ければ春物と、それぞれの在庫をテレコで当てがえるようにするのだ。

 12月から冬物のセールが始まり、1月に入ると店頭には春物が並ぶ。だが、ニット&カットソーは細番手、布帛は打ち込みが弱く、どちらも軽めで薄い。特に低価格品はコストを下げていることから、薄っぺらで質感に乏しい。ダウンやコートのインナーに着ればいいからという考え方なのだろうが、気温が低く天候不順が続くと必ず苦戦を強いられ、売上げは低迷する。逆に秋物は薄手でもウォーム素材のウールや合繊ものを8月下旬から並べたところで、台風などによる高温、多湿が続くとこちらも全く売れない。

 だから、カットソー(10〜12オンス、裏毛のトレーナー地も)、ニットではコットンやそれをベースにしてウール&麻混のミドルやローゲージ。布帛は中厚コットンで、ピケや起毛したドビークロス、ベロア、コーティングした厚手のデニム、コットンまたは麻を混ぜたギャバ等々。この際、春向け素材は薄手で清涼、秋向け素材は厚手でウォームという固定観念は捨てもいいと思う。むしろ、春秋両シーズンに通用させる統一の素材企画にしてはどうか。好みもあるので無地を基調として、織り地や編みたてで差別化すれば、外れが抑えられるのではないか。

 アイテムはTシャツやパーカー、セーター(ニットジャケット)、布帛はシャツ、テーラージャケットやブルゾン、コート。レディスではレイヤードを想定し、アウターにもなる羽織ものや前開きでジップアップかボタン留めのカバーオールを組み込めば、だいたいラインナップする。

 肝心なのは色。オフホワイト、生成り、ベージュ、ピンク、オレンジ、ネイビー、ワインレッド、ブラウン、ダークグリーン、グレイメランジュ(霜降り) 、ブラック。両シーズンで全色揃えるか、絞り込むか。秋に投入した生成りやオレンジは売れなくても、春には再度消化に向けて投入できるからだ。2シーズン兼用で少量多色を準備し、「買い逃した方は次シーズンまでお待ちを」とすればいい。

 毎年のように異常気象が続いている。地球環境の変化を見れば、春が低温、秋が高温という状態はもう変わらないのではないかと思う。企業の四半期レポートで語られる「気温が低く(高く)て、春物(秋物)が計画通りに消化できなかった」という同じ反省をいつまで言い続けるつもりなのか。いい加減、気づけよである。

 だから、春秋どちらのシーズンにも向くというか、気候不順で気温が逆転しても対応できる統一素材&アイテムを企画した方が対処しやすく、在庫が捌ける確率は高くなると思う。昨今はお客さんも1シーズンで終了するようなトレンドデザインは避け、着回しが利くアイテムをできる限り長く着る傾向になっている。これはコロナ禍による巣ごもり消費とは関係無しに、終息しても続いていくと思う。

 相変わらずネットでの二次流通は盛んだし、オークションでも有名ブランドはデザインに関係なく買い手がついている。春秋両シーズン統一企画なら多めに生産しても消化しやすいし、在庫が余ったにしてもオフプライスストアに流せば、なおさら売れる可能性は高いと思う。素材はコットンベースで着る人のすべてにフィットし、ベーシックアイテムでミニマルデザインならトレンド左右されず着回しが利く。無印良品のアップグレードという感覚でいけば、二次流通でも確実で捌けるのではないだろうか。

 こと消費の変わり目には、いつもエポックがあった。かつて百貨店の経営者は郊外SCが登場した時、「うちとは客層が違うから、影響ない」と豪語していた。だが、違っても利用するお客が増えて、結果的に食われていった。ECも「試着できないから、ファッションは売れない」という見方もあったが、ここまで定着した。まあ、全取引の半分程度が限界だろうが、それでも凄いことだ。

 コロナウイルス禍が去った後には、ウイルスと共存しなければならない消費者は賢くなり、良いものを長く着る傾向にはなるはずだ。まあ、変わらない部分と変わる部分がより先鋭化すると思う。ならば、大量生産、過剰在庫、低価格販売も潮目にしてもいいわけで、それらと決別する勇気も必要だ。お客の変化を先取りするのがアパレルなのだから、終息後の価値観を転換させていくべく、思いきった企画に乗り出すのもありかと思う。
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