HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

多寡の訳を売る。

2023-03-29 06:44:32 | Weblog
 三井不動産が4月17日に開業する「ららぽーと門真」。ここは1階と3階がSCの「ららぽーと」、2階が「三井アウトレットパーク」というハイブレッド施設(運営は三井不動産商業マネジメント)になる。同社では初めての試みだが、他社ではすでに存在する。イオンモールは2022年4月、北九州市のイオンモール八幡東の隣にジアウトレット北九州を開業。両施設はデッキでつながり往来を可能にした。こちらもハイブリッド型と言ってもいいと思う。



 こうした併設型について以前なら、デベロッパーの経営者はどう言っただろうか。「アウトレットは常時オフプライスだから、ショッピングセンターのプロパー(正価)商品が影響を受ける」。おそらく、そんなスタイルに違和感を抱き、展開に二の足を踏んだと思われる。しかし、今や郊外SCに出店するテナントは、プロパー販売と言っても商品はローコスト製造によるロープライス。アウトレットにも「アウトレット専用品」が並び、それらと比較すること自体がナンセンスだ。まして、安さ慣れした消費者が分けて見ているとは考えにくい。

 そもそもアウトレットとは、ブランドメーカーや小売店が型落ちや廃番品、生産時のキズ物、売れ残り品などを処分するために作った店舗。それらを集めた施設をアウトレットモールと呼ぶ。日本では三井不動産の三井アウトレットパークと三菱地所・サイモンのプレミアム・アウトレットが先行し、それに新参のイオンモールが加わる構図。以前は都心店への影響(米国では70マイル規制がある)から地方の遠隔地に作られていたが、近年は都心に近い施設も増加。ららぽーと門真の三井アウトレットパークも都市型施設といえる。

 では、ブランドメーカーや小売店に売れ残り品などがどれほど存在するのか。また、次々と開業するアウトレットモールに出店できるほど、絶対量があるのか。正しく言えば、レアな高級ブランドについては絶対量は限られる。なのに次々とアウトレットモールが開業できるのはなぜか。それはアウトレット専用品を作って販売する店舗が多いからだ。これは最初からコストを下げて製造した低価格商品に、メーカーや小売店のブランドタグをつけたに過ぎない。

 デベロッパー側はテナントに対し、なるべくアウトレット専用品を販売しないよう指導している。一方で、次々とアウトレットモールを開業し、メーカーや小売店に出店を依頼している。だから、高級ブランドの在庫処分となるオフプライスの商品、純然たるアウトレット品が足りるわけがない。明らかに矛盾する。開業する三井アウトレットパーク大阪門真も、近郊にはすでに同大阪鶴見があるのだ。

 ブランドメーカーや小売店にとってオフプライス商品が増えるのは、正価品の販売在庫が多いからだ。つまり、景気が良くプロパー商品の売れ行きが良ければ、それだけアウトレットに流れる商品は減っていく。逆に景気が悪ければ、オフプライス品が増えることもあるが、生産自体が調整されると商品も少なくなる。それでも、アウトレット展開する上では売場を埋めなければならないため、どうしてもアウトレット専用品を置かざるを得ないのだ。




 アウトレット先進国の米国も似たようなもので、ラグジュアリーやレアなブランドのアウトレットだけで構成するのは、シカゴとミルウォーキーの中間にある「ガーニーミルズ」やニューヨーク・マンハッタンから車で1時間の「ウッドベリーコモン」くらい。大半のモールは一部の高級ブランドと多数のロープライスブランドをミックスしているに過ぎない。

 もちろん、来店客の多くがアウトレットモールで専用品が販売されていることは、すでに承知している。それでもアウトレットモールに出かけるのは、大半のお客が7割引き、8割引きとなった高級ブランドの購入が目的というより、「何か掘り出し物がないか」「気に入ったものが見つかり、価格が折り合えば買ってもいいか」くらいの感覚だからだ。

 デベロッパー側もアウトレットだけではリーシングげ厳しくなってきている。イオンモールが4月28日に神奈川県平塚市にグランドオープンする「ジ アウトレット湘南平塚」は、「御殿場や横浜の競合アウトレットと差別化するため、アウトレットだけでなく、日常使いの生鮮3品、クリニックモールを充実させ、平日も利用しやすい施設を目指す」という。

 テナント構成は郊外SCとさほど変わらない。家族やカップルで訪れて施設内を見て回り、お腹が空けばレストランで食事し、喉が渇けばカフェで休憩する。別にショッピングだけが目的ではなく、外出したい人間の基本行動そのものだ。もはや郊外SCにアウトレットモールを併設しても、SCのプロパー店が影響を受けることはそれほどないと言ってもいいだろう。


高級ブランドを購入するならプロパー



 日本はバブルが崩壊した後の長引く景気低迷で中産階級が没落。アパレルを含めて物価が下がるデフレが蔓延したため、大半のメーカーはローコスト生産による低価格戦略にシフトした。さらに安くてトレンドを押さえたファストファッションの出現により、ヤング世代を中心に品質をそれほど気にしない消費が浸透した。

 ユニクロやザラ、100円ショップや3coinsでも、各商品は必要で十分な機能と品質を備えており、生活していく上ではこれらでも何ら困らない。だから、ショッピングの中心は郊外SCやネット通販になる。逆に「少し上の生活や消費」は加速度的に縮小した。いちばん影響を受けたのが百貨店で、地方、都市を問わず次々と閉店する状況にある。

 一方、新型コロナウィルスはワクチン接種などの感染対策が一巡し、行動制限が緩和されるようになった。さらに2023年は「マスクなし」「5類移行」で、都市型SCを中心に実店舗がどこまでお客を惹きつけるかの一年になる。すでに冬のセールでは、値下げされたセール品より梅春向けのプロパー商品の方が好調だった店舗があるなど、購買の状況が変わりつつある。

 安くても必要で十分な機能と品質を備えた商品はいくらもある。片やデザインが良くなかったり、カラーリングなどセンスを欠く商品は、いくら値下げしても売れない。自分が購入できる価格帯で欲しい商品が見つかったら、プロパーで購入した方が買い逃すリスクがないとの心理が働く。こうした消費行動をさらに盛り上げる施作が打てるかだ。

 多くの勤労者の給与が上がってないとは言え、消費者としてブランド信仰が無くなったわけではない。人気ブランドがアウトレットで正価の半額以下なら購入する人は大勢いる。ナイキのスニーカーなどは代表格だ。さらにラグジュアリーブランドのバッグをプロパーで購入する若い女性も増殖中だ。この春に給与が上がれば、正価でも高級ブランドに手を伸ばす人は確実に増えていくと思われる。

 「アパレル販売」ということに限定して考えると、アウトレットの次には、ブランドの在庫処分品を仕入れて売る「オフプライスストア」併設も出てくるだろう。これこそ、ブランドメーカーとすれば、SC内に同じブランドのプロパー店があれば、影響が避けられないと出店を躊躇うかもしれない。ただ、オフプライスストアの商品はセールでも「売れなかった商品」が主体だけに、業態は違えど両者を同じ施設内に並べることで、売れる条件は価格なのか、それ以外のものか。お客の購買行動を探る実証実験の場にすることもできる。



 もちろん、オフプライスストアの商品が売れなければ、商業施設としては収益が上がらない。そのため、次の段階としてSDGsを意識したリユースというか、「リメイク商品」を展開も考えるべきだと思う。2020年秋、アパレルメーカーのイトキンが発表した「re:mine(リマイン)」のようなアップサイクルなD2Cブランドがそうだ。

 国内ブランドの場合、単に売れ残り商品を消化するモデルでは先細る。売れ残りには売れない理由がある。そこから学び、一歩進化させることが不可欠で、リメイクも対応策の一つになる。多くのメーカーが参入すれば、実店舗やセレクトの展開も考えられる。デベロッパーもSC運営者としてニーズを掘り起こしには積極的に関わるべきだろう。

 お客がSCを訪れる目的はいろいろだし、購買行動も選択肢で変わってくる。実店舗だからこそ、「実際に商品を見て気に入ったから購入した」という衝動買いを生む。そんな商品とは、日頃はお目にかかれないようなもの。倉庫に眠っていた不良在庫をリメイクした数量限定のアイテムもその一つ。ショッピングの幅が広がり、時流にも合致する。

 アパレル業界は中国などでローコスト生産を続けた結果、日本はデフレスパイラルにはまって市場が縮小し、多くの企業が売上げと利益を失った。それでも、デベロッパー側は開発の手を緩めず、郊外SCにはロープライスのテナントが溢れている。原材料コストが上昇している以上、安い商品を売り続けても収益は上がらないし、コロナ禍以前の売上げには戻らない。それを変えようという意見も出始めているが、まだまだ時間がかかりそうだ。

 まずは足元の実店舗を見直す一年にする。商品一点一点にそれなりの意味を持たせなければならない。お客が商品を購入するのは低価格、割引、機能性や使い勝手だけではなくなってきている。店舗側はそれをどう揃え、デベロッパー側はそれらのテナントをどう集め、どう運営していくか。お客に対し価格の多寡の理由をはっきりと示すこと。そうしたお客を迎えるための商品配置、品揃えがますます重要になってくる。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

画は写さず作る。

2023-03-22 07:37:27 | Weblog
 デジタル化の影響を受けた仕事は何か。アパレルやグラフィックのデザインもあるが、コマーシャルフォト、いわゆる商業用の写真撮影はそれ以上ではないかと感じる。

 従来、商業撮影は商品もモデルもまずはポラを打ち、アングルや照明などの確認から始めた。ポジ(リバーサル)フィルムを装填した銀塩カメラで本番の撮影が終わると、ラボに出して現像処理を行い、スリーブ(フイルムを入れた袖状の袋)で納品してもらう。それをライトテーブル(ヴュワー)を使って採用するカットにダーマトグラフで印をつけ、各メディアやDTPスタッフに渡すという流れだった。

 ところが、デジタルカメラが登場すると、撮影するとすぐにパソコンで写真の状態を確認し、露光や絞りを調整しながら撮影を続行できる。フィルムの交換が必要なく、撮影は中断しない。写真は大容量のSDカードいっぱいに撮り溜め、PCにダウンロードしたデータをそのままメールで各メディア、WEBの作業スタッフに送信できる。フィルムがなく現像の必要がないため、スケジュールが短縮できるのだ。

 もちろん、カメラマンに感性や技術が必要なことに変わりはない。しかし、カメラの性能や画像処理ソフトのレベル向上は凄まじい。従来、必要とされた技量はハードやソフトで十分に補える。印刷上がりを良くするために写真を加工・修正する「レタッチ作業」も、以前なら経験がものを言う職人技を必要とした。だが、Photoshopを使えこなせれば、専門学校で学んだ若いスタッフでも対応できるようになった。

 通常、撮影にはカメラの他に照明&ストロボ、ジェネレーター、露出計、三脚や脚立、レフ板やパラソル、バック紙や遮光板などの機材や道具が不可欠だ。また、屋内撮影を行うスタジオは壁と床の繋ぎ目に影を出さないホリゾントを装備し、モデル撮影のメイク室、料理撮影用の簡易厨房、真俯瞰での置き撮りには天井にカメラを固定する設備が必要になる。デジタル化してもこれらにそれほどの変化はない。



 撮影ではカメラマンがカメラを操作しながら、露出計で反射した光を測り、ジェネレーターで露光を調整し、レフ板で明暗差を減らし、バック紙を取り替えることは不可能だ。そのため、アシスタントを1〜2名を起用する。モデルや料理の撮影になると、さらに専門のスタッフが携わる。ところが、デジタルカメラの進化とそれに合わせた簡易機材の登場で、撮影の負担は軽減され、省力化が図られるようになった。いわゆる「ワンオペ化」である。

 ポスターなどインパクトのあるビジュアルを除き、通販サイトに掲載するようなコマ写真は、カメラマンがカメラと簡易機材を並行で使用しながら、別のスタッフがモデルを兼ねればオフィスでも簡単に撮影できるようになった。さらにカメラマンはもとより社内スタッフがPhotoshopで画像を加工し、そのままサイトにアップする「ささげ業務」までこなすのは当たり前になっている。

 風景やイメージカットなどわざわざ撮影するまでもないものは、プロのカメラマンが撮り溜めた既撮写真を有償で借りる(レンタルフォト)サービスを利用していた。今では無償でロイヤリティーフリーの画像がネットに転がっているし、レンタルフォトを使用するのは権利侵害が問題となる場合くらいだ。それもゲッティイメージズなど大手事業者が押さえている。



 筆者もスタジオからロケまで、物撮りからモデル撮影、置き撮りまでにタッチし、いろんなカメラマンと仕事をしてきた。今ではカメラの性能が上がったことで、撮影のテクニックや感性よりも画像処理までこなせる能力の方が重要と、語るものもいる。Instagramは別にプロのカメラマンが撮影した写真ではなくても、世界中の多くが反響することを証明した。

 コマーシャルフォトの仕事が奪われると、残った仕事を取り合うため、撮影料金は押し下げられていく。フリー素材の蔓延で権利収入の道にも期待はできない。経営の厳しさから撮影時だけスタジオを借り、臨時スタッフを雇うのは当たり前になった。撮影の仕事から足を洗い、別の仕事に転職したものもいる。仕事を待っているだけでは、食っていけなくなったからだ。


AIが画像を作るとスタイリストも不要

 デジタル化はさらに進化した。AI(人工知能)の登場である。以前なら商品撮影では事前にアシスタントがシワを伸ばしたり、ハレーションなどをチェックしたり。モデルで撮影ではスタイリストがフィッティングに携わり、ヘアメイクが化粧や髪型を整える。ところが、画像がデジタル化されたことで、商品撮影では事後修正が可能になり、モデル撮影ではモデルそのものが人工的に作れるようになった。



 東京の「AIモデル」は人工知能技術を活用しモデル自体を生成した。メタバースではリアルな自分のアバターを作って自由に活用できるのだから、男女、体型・人種、年齢の別でデジタルモデルを生成することは容易いと思っていたら、ついに実現してしまった。これが何を意味するか。以下のようなフローとなり、モデル撮影の概念を完全に変えてしまうことになる。

 この仕組みは事前に商品のみを撮影しておき、仮装試着技術を使用してデジタルモデルにコーディネート着用させた画像を作成するもの。つまり、商品を着た生身のモデルを撮影する必要がなく、商品の写真とデジタルモデルを合体させて、いかにもモデルが商品を着ているような写真に合成するのである。

 おそらく、商品は正面、側面、斜め、背後、俯瞰などあらゆる角度で撮影しておくだろう。だから、人工モデルが仮装試着しても全てのアングルで画像が生成でき、身体へのフィット性、生地の伸びや張り感まで再現されるのではないか。リアルな写真で生じる光沢やしわ、よれもあえて起こしたり、逆にカットしたりすることも可能になると思われる。

 つまり、生身のモデルをエージェントのカタログをもとにピックアップし、選定する必要がなくなる。男女、容姿、人種、体型、年齢の別にあらゆるモデルが媒体やターゲットに合わせて起用できるのだ。3月20日、多くのファッション雑誌に起用されていた有名モデルが合成麻薬所持の疑いで逮捕された。俳優やタレントの不祥事と同様にモデルも契約条項に違反する行為があれば、事務所側が責任を負うことになる。

 さらに採用したクライアントにも、再撮や制作のやり直しなどの負担が生じる。デジタルモデルならそうしたリスクもなくなる。また、スタイリストやヘアメイクといった撮影スタッフも不要になり、商品、モデルやスタッフをスタジオに集めての事前打ち合わせなどもカットできる。大量の商品撮影が短時間でできるから、手間やコストが削減されるし、カタログなどのDTP作業、通販サイトの制作の過程でいろんなコーディネートや着せ替えも可能になる。



 三越伊勢丹の「イセタンスタジオ」は、この撮影サービスをBtoB(企業間取引)向けにスタートさせた。モデル撮影の手間やコスト削減、メディア制作のリードタイム短縮を売りにするものだ。同社は3月22日~24日に東京・恵比寿のEBiS303で開催される合同展「プラグイン/エディトリアル」で撮影会サービスを実施する。

 三越伊勢丹と言えば、伊勢丹単体の時代に同社のプロモーションに起用した外国人モデルが夜の街でアルバイトをしていたとの情報が流れ、社内でイメージ悪化が問題視されたことがある。その影響は他の百貨店にも及び、広告制作の仕事を受ける代理店やモデル事務所に対し、モデルの管理や契約条項の遵守が厳命された。



 イセタンスタジオは、人工モデルの撮影サービスを自店以外にも広げ、採寸・計量、撮影、キャッチコピーなどの原稿作成といったECのささげ業務まで代行していくという。従来は代理店などに委託していた業務を内製化するのは、デジタルやAIの技術が身近になったからこそできること。併せて新たな収益源にしていこうという狙いも読み取れる。おそらく他の百貨店や流通・小売業でも、こうした仕組みを導入されていくのは時間の問題だろう。

 一方、これまでプロモーションの業務の一翼を担ってきた代理店、デザイン会社、カメラマン、モデル事務所、各制作スタッフは、こうした劇的な変化を受け入れざるを得ない。イノベーションを起こさないと生き残れないのを知りながら、自らはイノベーションに飲み込まれ食い扶持を失うことになる。時代の変化はかくも無常ということだが、自らも変わらなければならないということである。
 
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

直して売る意義。

2023-03-15 07:47:56 | Weblog
 オンワードホールディングスは、2023年3月から顧客が着なくなった自社製の古着などを回収し、修繕後に再販売する「オンワード・グリーン・キャンペーン」をスタートさせた。(https://www.onward.co.jp/green_campaign/information/index.html)



 「クローゼットに眠っているオンワード製品をお引き取りし、リサイクル・リユースに努めます」と銘打ち、百貨店やショッピングセンターに展開する同社の常設店で、356日常時受け付ける。引き取り対象品は同社のレディス、メンズ、子供、ゴルフのウエアのほか、バッグ、ネクタイ、ストールやマフラー、手袋、帽子で、引き取り点数は1回につき10点まで。

 持ち込んだお客がオンワードメンバーズの会員であれば、衣料1点につき500ptのグリーンポイントが付与され、通常のメンバーズポイントとの併用(買い上げ金額2500円ごとに500pt利用)が可能になる。ただ、オンラインストアのオンワード・クローゼットでは利用できないので、実店舗における環境・社会貢献と販促という側面をもつ。



 回収したものは、1オンワード・リユースパークで再販するリユース2繊維製品の原料に再生するリサイクル3ボタンなどリユース・リサイクルが不可能なものは廃棄処分、の三通りで処理される。2のリサイクルでは、RPF(固形燃料)に再生して大手製紙工場の代替エネルギーに利用するか、リサイクル糸に加工して毛布や軍手を生産することで、収益をリユースのものを含め環境・社会貢献活動に活用するという流れだ。

 また、中小工場の協力を得ながら、服の形のままで生地を染め直したり、つなぎ合わせたりしたアップサイクル品も製造する。この秋にも第1弾が発表されるが、環境・社会貢献の一環ということから、ビジネスモデルにすることはないようだ。



 海外ブランドでは「リペア再販」が動き出している。米バッグブランドの「コーチ」は、2023年1月、自社の中古品を回収して修繕し、オンラインストアで再販する「COACH (Re)Loved(コーチ リラブド)」を開始した。(https://japan.coach.com/shop/coach-reloved)

 HPでは「“より良いものづくりが、より良い未来につながる” というブランドの信念にインスパイアされ、過去に愛用されていたコーチのバッグを新たに生まれ変わらせました。使い込まれたアイテムもリデザインすることで次のオーナーへ受け継がれていくこの循環型プログラムは、地球環境にも配慮した社会的意義をお客様と共有します」と、語られている。

 リペア再販の仕組みは以下になる。過去にコーチの店舗で購入、情報登録した顧客が対象店舗に同ブランドの中古バッグを持ち込むと、店側がその状態と型番から金額査定して引き取り、修繕してオンラインで販売するというもの。対象店舗は札幌から金沢、関東、愛知、大阪、福岡、沖縄までの全国17店。持ち込んだ顧客は、上記の店舗でのみで利用可能な査定金額分のクーポンチケットを受け取れる。



 リペア・再販のスタイルは、職人の熟練した技術を活かした1点物である「Upcrafted/アップクラフテッド」、丁寧なケアと修繕を施して本来の美しさを取り戻した「Restored/リストアド」、分解してパーツを再構築し別のデザインに作り替えた「Remade/リメイド」の3タイプ。再販価格は10数万円から1万円台と幅があるが、すでに在庫切れの商品が出るなど、元々のブランド人気がリペア商品の売れ行きにも直結している。

 SDGsなどに関心がある世代に対し、地球環境にも配慮するブランド側の取り組みをアピールする一方、買い替え需要も喚起するダブル効果が狙いと見てとれる。


ブランドリペアは新たな価値を生む

 スウェーデンのH&Mや中国のシーインといったファストファッションは、大量生産、大量販売の一方、大量の売れ残りも出しており、地球環境に負荷をかけるとの批判が絶えない。それは他のブランドにとっても他人事ではなく、環境を意識しながら売上げも維持していくサーキュラーエコノミー(循環型経済)へのシフトがカギになっている。

 ブランドメーカーが中古品を引き取ることは、新品の売上げに影響する懸念からこれまでは多くが二の足を踏んできた。だが、前出のように環境問題への取り組みを先送りにすれば、かえって消費者の反発を招きかねない。だから、引き取りから修繕、再販までの仕組みを整備することで、ビジネス化に踏み出したと言える。

 ウエアやバッグがファッションアイテムである以上、流行がありそれが終わると消費者には着用、使用しづらい心理が働く。それでも、上質なブランドなら中古品としてもまだまだ十分に流通する。これまでそうした単なるリユースは、質屋を母体とする買取業者や中古品のリサイクル業者が担ってきた。

 そこで、ブランド自体がコストをかけた上質なものであれば、多少の劣化があっても修繕することで再販できるのではないか。それが環境負荷の低減と売り上げ維持の両立につながると、ブランドメーカーも考えるようになったということ。もちろん、修繕を施すには専門のノウハウや材料、付属品などが不可欠だから、メーカーとしての強みが発揮できる。

 さらにブランドにとって買い取り・修繕し、再販することは、自社が真贋を証明することにもなり、模造品の流通や商標権の侵害を抑止する効果もある。お客にとっても、劣化で使用しなくなったブランドを少額でも買い取ってくれるなら、それを原資に別のアイテムを購入しようというきっかけになる。また、リペア・リイメイクされた1点ものを目にすれば、購買意欲をそそられる。新たな価値を生み、商機にも繋がるわけだ。



 エルメスのバッグ「バーキン」のように、職人が一つ一つを手作りするため生産個数が限られ、途轍もないブランド価値を有するものは、修繕をしても使い続ける顧客は少なくない。(https://www.hermes.com/jp/ja/maintenance-repair/)ブランドメーカーにとって今後、こうしたアイテムに続くものを生み出していくこともカギになるだろう。

 アパレルにおいても、まずは高級ブランドが先陣を切ってリペア再販に取り組むべきではないか。デザイナーズ系ではすでにリメイクに取り組むところがあるが、こちらは色・素材・柄合わせ、パターン調整といったクリエイティビティや技術力が発揮できる面で、参入するデザイナーがもっと増えてほしい。コレクションなどのイベント開催も期待される。

 話が横道に逸れるが、新型コロナウイルスの感染者数は減少傾向にあり、行動制限が緩和されている。東京ガールズコレクション(TGC)や関西コレクションといったファッションイベントも一部では再開されており、北九州市も2022年秋にTGC KITAKYUSHU 2022を3年ぶりに開催した。



 TGC北九州の再開は北橋健治前市長時代の決定事項だった。だが、この2月の市長選で新人で無所属、元厚生労働省室長の武内和久氏が初当選を果たし、新たに北九州市制の舵取りを担うことになった。過去、TGCの開催が決定すると、市長は福岡県知事とツーショットで記者発表に臨むのが恒例だったが、武内新市長が開催を継続するかが注目される。

 北九州市は1960年代に大気汚染や水質汚濁などの公害をもたらした。そのため、市は70年代から公害対策に取り組み、2000年以降は環境・リサイクルにも注力し廃棄物をゼロにするゼロエミッション事業も推進している。22年のTGC北九州でも会場内で古着回収を実施。主催者側は「約98kgの古着を回収し、地域循環型のリサイクルを実現」と発表したが、他会場でもイオンクレジットサービス、帝人、繊維商社のチクマが衣料品回収を実施している。

 ただ、TGCでタレント陣が纏うウエアは大半が大量生産、大量販売で、トレンドが過ぎれば廃棄されるのも事実だ。北九州市は廃棄物ゼロを目指す政策ともっと連動させるべきではなかったのか。SDGsを意識したブランドとのコラボやリメイクファッションの披露などに踏み込んでこそ、地球環境を守る市政にも合致し、環境への取り組みに敏感な若い世代にも訴求が可能だ。イベントに税金を投入する大義も生まれる。武内新市長の判断はどうだろうか。

 せっかく気に入って購入し着こなしを楽しんだ服。それを着なくなったからと簡単に捨てるのはどうなのか。補修をしてみると、意外に違った魅力を発するかもしれない。自分以外の人には特に。ならば、売る意義もあるだろうし、それが多方面に及ぼす影響は大きいはず。新たな価値を創造するものとして、多くの人々が取り組むことに期待をしたい。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

進化をデザインする。

2023-03-08 07:50:23 | Weblog
 先月、渋谷ヒカリエで東京ニットファッション工業組合(TKF)による「TOKYO KNIT CROSSOVER EXIBITION 2023」が開催された。参加メーカーは産地ブランディング事業に取り組んでおり、今回は認証企業27社がサスティナブルなもの作りを前進させるため、持てる技術を生かして開発したアイテムを公開した。



 展示会場に並ぶのはリサイクル素材やオーガニックコットン、古着などを使用したフーディと⻑袖Tシャツ24体。中でも筆者が注目したのは、丸和繊維工業のスウェット。生地をできるだけ無駄にしないパターン設計に挑戦し、生地使用率99.8%を実現した。

 生地は全プロセスにおける生産者の顔を開示することで、国際機関が認証を与える100%のオーガニックコットンだ。ミシン調整もより繊細に行って製造し、縫製に使う糸も綿糸にするというこだわりよう。着古した後もより再利用しやすいようとの配慮が伺える。また、染色には土から生まれた自然素材の環境循環型のベンガラ染料を使用。バケツー杯の水で染められる環境にやさしい染色方法を内外にアピールした。



 メーカーとのコラボ企画には、「TENDER PERSON」「YUKI HASHIMOTO」などが参加。デザイナーズブランドらしく、若々しい感性でヴィヴィッドな色使いのニットクリエーション15点を発表した。

 最近のトレンドであるバーチャル技術を駆使したアトラクションも用意された。今回はAR(拡張現実)を利用したもので、スマートフォンをかざしたり、専用のゴーグルをつけると会場に山積みされた裁断クズの周りをモデルがウォーキングする様子が見られる。イベントのメッセージ性をより強力アピールするには大掛かりな仕掛けが必須だが、それをバーチャル化することでできるだけ手間とコストを省く工夫もなされている。

 イベントやコラボはニット業界の課題解決にどこまで繋がるのか。展示物やアトラクションに触れながらも、ついついそちらを考えてしまう。すでに日本で流通するニット製品は98%が海外製。糸の調達から糸の撚りや紡績、加工、編み地や編み方まで、製造ノウハウが海外に浸透し、コスト競争力を持つようになった。近年は中国に代わりバングラデシュの台頭がめざましい。当日、筆者が着ていたスウェットも同国製だった。

 少し前の資料になるが、外務省が2017年に発表したデータによれば、バングラデシュの主要輸出品目でニットウェアは46.8%で、布帛製品(36.2%)を加えるとアパレルが占める割合は全体の約8割にものぼる。人件費が安く、製造が中国に偏りすぎたことや中国の賃金上昇でローコストメリットが薄れてきたことから、世界中のニットアパレルが製造拠点として注目し始めた。労働コストは中国の3分の1ほどと言われ、圧倒的に人口が多いためにミャンマーやカンボジアに比べると、働き手が集まりやすいこともある。

 筆者が着用するバングラデシュ製のフーディーやトレーナーは、ヨーロッパのマイナーブランドだが、生地が厚手でコットンの比率が高いのと、フードや襟ぐりにジップ仕様、グラフィカルなプリントが気に入ってリピートした。縫製も隅々まできちんとしているので、申し分ない。ここまでのレベルと国内勢はどう戦っていくのか、である。

 今回の展示会でも、TKFが産地ブランディングにかける思いは理解できる。海外製品に対し、国内のメーカーとしてこう戦っていく、こんな差別化で臨むという姿勢を示す場にはなっている。取り組みとしても時節柄、サスティナブルは妥当な内容だろう。

 ただ、会場に展示されたフーディと⻑袖Tシャツは、リサイクル素材やオーガニックコットン、古着などを利用したとは言え、お客の側が欲しくなるか、今すぐ着てみたいかと言うと、それも違う。逆にデザイナーとのコラボ企画は、色使いもデザインもいいのだが、クリエーションを追求するがあまり、ファッションアイテムとして着るには腰が引けてしまう。


デザインのバリエーションと進化が欲しい
 
 毎回、展示会を訪れて直に見たり、ネットを通じてその情報に触れると、日本の素材生産者や工場が自社の持ち味を出し、何とかメーカーやブランドと組みたいという思いがひしひしと伝わってくる。ただ、日本の最大のニット産地、新潟の五泉をはじめ、産業のインフラをどう残していくか。紡績では利益が少ない横網用の糸を生産することを止めるところがあるなど、課題は山積みだ。 

 7〜8年前、知り合いのニッターにローゲージの綿糸による編み立てを相談した時、「日本製の糸はありませんから、あとは中国製を探すかないでしょう」との返答が如実に表していた。それでも、カットソー系では横編みの天竺やリブ、裏毛は、糸から一貫して製品を作ってしまうので、QR対応などが可能なら国内でもやりやすい面はあると思う。

 そんな状況下で、TKFの取り組みを見ると、お客さんにアイテムを手に取ってもらい、購入したい気にさせるアイテム作りに注力するというか、デザイン面の目新しさがもっと必要ではないかと感じる。これは産地や製造工場が抱える構造的な問題でもあるのだが、クリエイティビティやマーケティング力を持つところの手を借りないと難しいだろう。

 若者の間でもSDGsへの関心が高まっているとのデータはある。だが、ファッションである以上、お客が購入の選択肢としてはデザイン、色目が先に来る。展示会で公開されたフーディーやクルーネックのTシャツは、巷にブランドからノンブランドまで溢れている。あくまでサスティナブルをテーマにしたサンプルと言い訳できても、購入の動機づけを欠くのだ。

 スウェットのフーディーはここ数年、トレンドになっている。ラグジュアリーブランドも参入し、有名プロ野球選手がホームゲームの行き帰りに着ている姿も見かける。価格を調べると、最高で30万円以上、最低でも10万円台後半になる。ならば3分の1程度の原価率かと言えば、そんなことはないだろう。もちろん、中国製やバングラデシュ製とは比べるとはるかに上質とは思うが、ブランド、ノンブランドに関わらずもっといろんなデザインのバリエーションがあってもいいのではないかと感じる。

 スニーカーショップの「atmos(アトモス)」が数シーズン前にオリジナルで企画していたフーディーは、フードとボディの色を切り替えていた。この程度のアレンジなら斬新さを感じるが、今シーズンはマルチカラーはあるものの、共地のプリントものに戻っている。やはり、別注企画程度では、切り替えと言ってもコスト増になり、粗利が減るからだろうか。

 クルーネックの⻑袖Tシャツでは、ファクトリエが「上質コットン100%のドレスTシャツ」「シルク100%のような着心地」を謳って企画している。こちらは汗かき専用Tシャツを手掛ける和歌山の森下メリヤスと提携したもの。ただ、購入者のレビューを見ると、「生地が薄くて透けてしまう為、インナー無しでは恥ずかしくて着れません」といった意見もある。素材や縫製を超える商品企画とまでには至っていない状況だ。

 やはり、あくまで下着なのか、アウターライクのTシャツでもいけるのか。商品コンセプトが製造に偏ったことで、ファッションとしての着用目的が希薄なった感は否めない。アウターを意識すれば、素材のバリエーション、アイテムのデザインがものを言う。そのためには商品の企画力を高めなければならない。それはファクトリもそうだが、TKFにも言えると思う。





 筆者はトレーニングやタウンに裏毛で厚手のトレーナーやフーディー、端境期や秋冬用には極厚の⻑袖Tシャツを多用する。だが、アイテムデザインがワンパターンになので、展示会のたびに新しい企画に期待するのだが、なかなか巡り会えない。それでなくても、裏毛やカットソーはデザインでのバリエーションが少ない。

 だから、サスティナブルなもの作りを考えるなら、無理なく自然に返せるコットン100%を前提に⻑袖Tシャツなら10oz、裏毛なら12oz以上など厚さのバリエーションを広げ、デザイン面でも「Col Montant」、いわゆるタートルネック、また、「Gilet」、前あきのジップ仕様など、新たなトレンドを起こすような仕掛けにしても良かったのではないか。

 タートルネックは襟が詰まった分、フーディーより冬場の寒さを遮断できる。カンガルーポケットも手を温めるに過ぎないのなら、スマートフォンや財布を入れることができる脇ポケット仕様にした方がいい。さらにタートルをプルオーバーではなくジップ仕様にすれば、着脱が簡単でトレーニングにもタウンにも着れるユーティリティなアイテムになる。その辺りの企画がニットにおけるデザインの肝になるのではないか。

 また、裏毛についても、厚手で上質なものはそのままニットジャケットに仕立てられる。それにベンガラ染めを使用すれば、生分解性などの手を借りずに自然に戻せるアウターにも位置付けられる。海外と棲み分けして紡績や糸生産を残し、糸染業者も踏みとどまる。

 三方がウィンウィンの関係になるのは難しいが、活性化につながるチャンスは絶対にある。それがアイテム企画のブラッシュアップ、進化をデザインすることではないだろうか。まずは戦略をデザインの進化に統一させることで、お客に着てみようと買う気にさせることだ。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

姑息さは続かない。

2023-03-01 07:38:12 | Weblog
 ステルスマーケティング、通称ステマが今年の夏以降、法律で規制されることになった。SNS上で影響力を持つインフルエンサーなどの間で、実際は広告であることを隠したステマが横行している。ところが、現行の「景品表示法(正式には、不当景品類及び不当表示防止法)」では、禁じる項目がないためだ。

 昨年12月、消費者庁の有識者検討会は報告書で「広告と分からなければ自主的で合理的な商品の選択が妨げられる恐れがある」と強調。ステマを「事業者の表示だと判別するのが困難なもの」と定義し、景品表示法が禁止する「不当表示」に加えるよう求めた。今後は法案が国会で審議され可決されると、景品表示法に追加されて施行、運用されることになる。

 では、どこまでがステマに当たり、規制されるのだろうか。以下がそれにあたる。

 1.広告主が商品やサービスをタダで提供し、第三者に広告目的に沿った投稿をしてもらう
   →投稿者へのハッキリした依頼が無くてもステマに当たる

 2.広告主が投稿を条件に今後の取引の可能性などを言い出し、それにより第三者が投稿
   →投稿者へのハッキリした依頼が無くてもステマに当たる

 3.広告主がインフルエンサーなどに金銭を支払いSNSで宣伝させる
   →投稿内容についてハッキリした依頼や指示があればステマに当たる

 4.広告主が仲介事業者や商品購入者に頼み、ECサイトに都合のいいレビューを書かせる
   →投稿内容についてハッキリした依頼や指示があればステマに当たる




 当たり前のことだが、投稿者が特定の商品やサービスを宣伝しても、自分が商品やサービスを購入したり体験したことで、その良さを自分の意思で書き込んだ場合は、ステマには当たらない。また、新聞の15段や雑誌の企画枠、ネットのバナーなど企業側が「広告」や「PR」といった「表示」を行なっている場合も、ステマには該当しない。

 つまり、違反とされるのは、広告主がSNS投稿者やインフルエンサー、Youtuberに広告、PRであることを「隠した」上で、「特定の内容で投稿を依頼、指示」したり、「金銭などを提供」したりする場合になる。ハッキリした依頼がなくても、投稿者にとって「経済的なメリット=商品やサービスがタダで受けられる」があるように仕向けると、これも規制の対象になる。

 ただ、規制対象はあくまで「広告主」だ。違反した場合は再発防止の措置命令が出され、事業者名が公表される。それでも、命令に従わなければ「刑事罰(2年以下の懲役又は300万円以下の罰金、あるいはその両方。法人(企業)に対しても3億円以下の罰金)」の対象となる。だが、投稿者は処分の対象にはならない。

 では、どうやってステマを判断し、違反と断定するのか。これには調査に携わる消費者庁の能力や本気度が問われることになる。一方、今回の法改正ではSNS投稿者やインフルエンサー、Youtuberといった投稿者は処罰の対象になっていない。ステマには以前から広告主と投稿者を仲介する「ブローカー」の存在が指摘されており、投稿者が仲介者から依頼されただけと言い訳することもできる。広告主にたどり着けなければ、違反の認定は難しい。

 消費者庁は広告主を調査するのが困難なのは、十分に想定しているだろう。だから、まずはステマに加担するSNS投稿者やインフルエンサー、Youtuberなどに対し、ステマは「法律違反である」ことを告知し、地道に啓蒙していくことを優先するのではないか。投稿者がいなくなれば、広告主が依頼することもできなくなるからだ。

 もちろん、投稿者は違反にならないから、啓蒙だけではステマを抑制できない。次の段階はブローカー、そして広告主を摘発していくしかない。消費者庁は景品表示法違反について「通報制度」を設け、消費者から情報提供を受け付けている。SNSやYoutubeなどの投稿を見て商品やサービスを利用したが、投稿者が言うところの「状態が改善される、素晴らしい効果が得られるものではなかった」と、感じた利用者から提供される情報がカギになるわけだ。


海外のステマ制裁金は最大4万ドル

 これだけステマが問題になっているのだから、利用者が間違って優良と認識してしまう「大げさな広告」や「嘘の表示」はかなり露出している。アパレルのケースは一時、インフルエンサーの投稿がブランドの売上げに影響していたが、今ではそれも幾分か沈静化した。代わって各ショップではスタッフがSNS投稿に注力している。これなら自社ブランド、自店アイテムを投稿しているので問題ないし、プロのアドバイスとしても信頼度は高い。



 消費者庁に寄せられた商品・サービスでの相談件数を見ると、15歳から19歳まででは、男女共に脱毛剤や健康食品など美容に関する商品が目立ち、中には「広告を見てダイエットサプリメントのお試し品を購入したら、2回目の商品が届いて驚いた」 など定期購入のトラブルもあった。 やはり「理美容(化粧品)」「ダイエット」「健康食品」は、広告で謳われたほどの効能や成果がなかったものの筆頭のようだ。




 これらの商品やサービスは、「純広告」では実際の効能や成果を盛って表現することは規制されている。だから、広告主はステマに依存し、販促に力を入れるのだ。利用者から「使ってみたけど、投稿者が言うような効果はなかった」との通報が多ければ、ステマの可能性は高いと見られる。消費者庁としては、こうした広告主を調査していくしかない。

 もっとも、景表法は行政法規(平成21年、消費者庁の発足により、主務官庁は公正取引委員会から移管)の一つで、違反したからすぐに処罰されるわけではない。まずは再発防止の措置命令が下され、事業者名が公表される。それでも命令に従わない場合に初めて刑事罰が課されるのだ。その段階に入ると、広告主は家宅捜索を受け、裁判所に提訴するための証拠としてステマの関係書類やデータなどがすべて押収されることになる。

 となると、ステマに加担したSNS投稿者やインフルエンサー、Youtuberの氏名や住所、銀行口座などの情報も関係機関に握られてしまう。違反者として処罰されることはないが、広告主の社名が公になれば、必然的にそこの商品やサービスを宣伝していた投稿者も、ネット社会では炙り出されて多くの目に触れる。利用者の中には効果がなかった証拠として、投稿のスクリーンショットなどを保存している人もいるはずだ。結果は火を見るより明らかである。

 違反とされた広告主の商品やサービスを宣伝していたSNS投稿者やインフルエンサー、Youtuberについても、「この人の投稿は全くの嘘だったのか」「あのインフルエンサーはステマしていたらしい」という情報が凄まじい勢いでネット上に拡散されていくだろう。誹謗中傷がエスカレートすることも考えられ、ネット社会の途轍もない制裁を受けることになる。

 海外では金銭を受け取って消費者や専門家を装い、商品などを推奨する投稿者も、ステマ規制の対象となっている。米国の連邦取引員会は指針でどんな広告が違反かを示し、経済活動を阻害しすぎないように配慮する一方、違反した投稿者にはステマに該当する表示1日あたり最大「4万ドル(約530万円)」超の制裁金を課している。額だけ見てもかなり重罪だ。

 欧米が投稿者まで制裁するのはなぜか。それは結果や影響の重大さを鑑みて、事前に違反を抑止しようという狙いからだ。莫大な制裁金は、経済的利益に目がくらみ「見つからなければいい」「分かりっこない」「騙される方が〇〇だ」と、違法なステマに手を染める投稿者を一人でも出さない救済措置とも言える。

 ステマの次の段階という逃げ道もある。検索結果の上位にランキングされる手法がそうだ。ネットではSEO専門のライター募集が盛んだが、SEOだけでは違法ではないからだ。

 さらに広告主が自社の商品やサービスの大げさや嘘をAIに学習させておき、それを「チャットGPT」と連動していれば、どうなるのか。消費者が「お肌が白くなる化粧品は」「手軽にダイエットできるサービスを教えて」と、質問すれば即座に広告主の商品やサービスの情報が提供されないとも限らない。理屈としてはそうなることが十分に考えられる。

 ただ、上位で紹介される商品やサービス、そしてAIが提供するソリューションは、消費者がそれだけ注目するから、それを人為的、意図的に操作するのは公平性、独立性の観点から外れるという見方もできる。

 最後は各消費者が商品やサービスを見極める目を磨くこと、そして、店舗での買い物や体験を通じて実感していくしかない。その意味で、今年は実店舗、専門スタッフといったリアルが見直される1年になるのなるだろう。はっきり言えるのは、その場しのぎの姑息さは、決して信頼されないということ。これはデジタル、ネットに突きつけられた命題でもある。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする