HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

デジタル化する店。

2018-05-30 05:17:31 | Weblog
 年毎というべきか、いや日増しというべきか。アパレルビジネス、特に小売業では実店舗の価値が薄れている。先日も知り合いのセレクトショップのオーナーが「ECを本格的に考えないといけない」と、心情を吐露していた。というか、実店舗とECの連動、ラテ(マス)から紙、PCやスマホによるSNSまででお客と接点を持てるところが、個店レベルでも優位に立つのは、間違いなさそうである。

 振り返ると、EC黎明期は「実店舗には人肌を感じさせる接客があり、試着をしたいお客もいるから影響ない」。ECなんて意に介さない論調も少なくなかった。バブル景気が崩壊し、外圧による内需拡大で郊外開発が活発化し始めた時の百貨店にも似ている。経営者は「郊外とはターゲットや客層が違うから」と、どこか上から目線で見ていた。

 ところが、どうだろう。もはやECは小売りの主導権を握ろうとしているし、百貨店はリストラで何とか生き長らえている状態だ。さらに個店の専門店も器(ハード)を作り、商品やサービス(ソフト)を揃えるだけでは、お客を惹き付けるのは限界のようだ。ここまで来てしまうと、小売りの勢力図が再び逆転することは、まずあり得ない。あるのはECに代わる新興勢力が現れた時だが、それにはまだまだ時間がかかる。

 もう少し詳しく見てみよう。小売業が実店舗とECを連動させたり、オムニチャンネルでお客との接点を増やそうというのは、あくまで手段に過ぎないと思う。自社なり、モールなりに通販サイトを設けて、ラテからSNSまででお客にアプローチし、ポイントといった販促を絡めれば、お客を囲い込むことはできるが、その先に何を目指すかなのだ。

 例えば、百貨店系アパレルは売場への集客に苦労しているが、ECと連動し販促を加えると、売上げに変化の兆しが見え始めたところもある。それまでの取り引きの関係から店舗とECは別々の在庫にしていた。だが、EC在庫が売り切れた場合に同じ在庫をもつ店舗から移動させる仕組みまで整備すると、EC売上げはさらに伸びている。

 ただ、実店舗とECの連動、そうした施策の狙いや実践方法が末端の売場まで浸透しているかと言えば、まだまだだろう。本社の経営陣や専門部署は理解していても、それが末端のスタッフにまで徹底されているとは思えない。先日、こんな体験をした。通販サイトを見ていると、大手セレクトショップの商品で気に入ったものが見つかった。特に「EC限定」との表記されてはいなかったので、うちの事務所近くの天神店に在庫があるかを見に出かけた。そこでスタッフに訊ねたところ、「在庫はありません」との返答だった。

 あらかじめ品番を控え、商品の写真(スクリーンショット)まで用意し、店舗スタッフに見せたが、よくわからないような様子。しかも「サイト掲載の商品はEC限定ではなくても、在庫は置いているところとないところがある」とのつれない返事。要は店舗によって投入する商品が違っているのだ。

 ECが整備される前だろうが、後だろうが、店毎に品揃えが違うのはこちらも承知している。ただ、せっかく実店舗とECが連動できる環境が整ってきたのだから、もう少し融通を利かせていいのではないか。たまたまこのスタッフがそうだったのかもしれないが、その態度には「気に入ったのなら、ECで買ってくれ」と、本音が透けて見える。「取り寄せましょうか」というフォローの言葉も、一切無かった。

 大手のセレクトショップはSPA化しているとは言え、完全なグローバルSPAに比べると、品揃えに幅や奥行きがあり、品番や色数も多くなる。だから、お客は万人向けでない個性的な商品にも期待するわけで、たまには訪れてみたい業態でもある。ただ、一スタッフが商品すべての詳細を把握するのは難しい。それは十分に承知している。

 しかし、ECを導入し、店舗と連動させるのであれば、商品部やバイヤーからの指示を朝礼での申し送りを通じて、店舗スタッフまで共有させるべきではないだろうか。

 こちらはサイトを見て買う気が起こり、店舗に在庫があれば試着できるし、そこでアドバイスの一つでもあれば、たぶん購入しただろう。実店舗とECの連動を謳うのなら、店舗ごとの在庫の有無、取り寄せの可否、キャンセルや返品のOKくらいは、店舗とECの両方でしっかり受け答えを徹底してほしいと思う。もっとも、そのやり方として、もはやアナログでは無理だと思う。

 人間には能力差がある。だから、ECの在庫把握ができるスタッフも入れば、苦手なスタッフもいるだろう。しかし、それはお客には関係ないことで、どの店舗、どのスタッフでも、標準的に対応してくれることが企業力を示すのだ。小売業にとって、実店舗とECを連動し、オムニチャンネル化を進めるのは、お客と常に繋がっていられるショップを目指すことだ。だからこそ、実店舗とECの連動から一歩進んで、ショップのデジタル化に踏み込むべきではないかと思う。

 すでにPCやスマホにブランドなり、ショップのアプリをダウンロードしておくと、どの店舗に在庫があるかの確認ができるソフトが開発されている。アプリにチェックインしただけで、ポイントが貯まる機能を付けたものもある。SNSなどを通じて商品情報を告知するだけでなく、お客の「商品を探す」という行為にいかにショップ側がアクセスするかもカギになるのだ。



 これだけ店舗やECがあっても、世界中では「欲しい商品は中々みつからない」と、感じているお客は少なくない。それは商品の品数が多過ぎて、探しきれないこともあるし、欲しいと感じる商品そのものがないこともあるだろう。実際に商品が実在するのなら、お客から求める商品の詳細を聞き出すことも必要だろう。

 素材(生地厚から組織、織り、編み地まで)、色(CMYK/青赤黄黒を10%刻みで掛け合わせた色調)、柄、サイズ(ZOZOSUITなどによるBWH、手持ちのジャケット、シャツ、パンツ、スカートの着丈、身幅、渡り、裾など)を入力してもらい、後は欲しい商品の情報と詳細のサイズなどをAIが分析して、商品在庫があれば提案につなげていく。それが自宅のPCはもちろん、ショップのタブレット端末でも検索が可能になる。

 要は、スタッフがデジタル化したお客情報をいかに使いこなし、活用できる店舗環境にしないといけないのである。それも購買カルテの電子化レベルで、「前回、このジャケットを購入しているから、今回はこのインナーを提案しよう」くらいでは、どの店も対応していくのは目に見えている。

 ショップのデジタル化には、刻々とバージョンアップが求められる。とどつまり、デジタルがもつインタラクティブ=双方向性を生かし、店舗からお客へのアプローチだけでなく、お客から積極的に店舗にコンタクトしてもらうことも不可欠だと思う。お客が欲しい商品が見つからなければ、そのデータを蓄積し、分析して次回の品揃えや商品開発の参考にもできる。

 メーカーは盛んに「EC専用のブランド」を開発するという。つまり、流通ルートをネット限定にして、販売エリアを拡大する狙いがあるだろう。一方で、店舗や販売スタッフのコストをカットすることで、利益を上げる思惑もあるのではないか。

 しかし、ここまでECが浸透して来ると、お客からすれば、EC限定の商品は単に購買の利便性だけでなく、実店舗に並ぶ商品以上の価値がなければ、簡単に「ポチッ」とは行かないはずだ。削減したコストを商品づくりに振り向けないと、「所詮、素人騙しの商品じゃんか」って、見透かされてしまう。

 やはりプロダクトアウト的な商品ではなく、デジタルのインタラクティブ特性を生かしながら、「お客の欲しい」にいかに近づき、寄り添えるかがEC開発商品の肝になるのではないか。データを集めるためのひな型くらい作ってもいいと思う。まずは実店舗のデジタル化で、それを実践しても良いし、店舗スタッフは通常業務としてお客がどんな生地や色、どんなデザイン、どれくらいの価格帯等々をヒアリングし、データをストックしていくことも大事だろう。

 究極は、小売りの個店はもちろん、ネットモールさえも超えたマーケットで、お客が欲しい商品に辿り着けるかの機能。いわゆるパーソナルスタイリストの役割まで進化させていかなければならないと思う。それでも、見つからない時は、「お客さんが欲しい商品があいにく見つかりません。下のアイコンをクリックしてください」…

 「そんなあなたに朗報。テキスタイルメーカー、デザイナー、工場をネットつなぐ新たな既成服の提案サイトです」って、ECが登場するのも時間の問題かもしれない。

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T企画が向かう先。

2018-05-23 07:04:23 | Weblog
 ジャケットをレザーからコットンに衣替えしたのはつい先月。ところが、5月も半ばを過ぎると、暑がりにとっては長袖シャツを通りすぎ、Tシャツやポロシャツの方がしっくりくる。

 でも、この手のアイテムの形が決まっており、デザイン面での遊びがほとんどない。Tシャツは襟がUかVでくりの深さが多少違うか、ヘンリー(チュニジアン)くらい。あとはフロントやバッグ、袖にロゴやキャラクターがプリントされているか、刺繍が施されている程度で、ベースの生地は大半が無地一色のメリヤス素材。3オンス台から10オンス程度の生地厚か、オーガニックといった綿花の栽培法か、ブランドかで価格が決まってくる。

 一方、ポロシャツはもともとスポーツウエアから派生したため、デザインにはレギュレーションがあるようだ。色は無地、素材は鹿の子、あとは半袖か、長袖で、なおさら変化に乏しい。妙にデザインするとかえってダサくなるのか、胸元のワンポイントマークでブランド価値が決まり、それが価格に反映されてしまう。

 2年ほど前、流行が太めに揺り戻したせいで、ビッグシルエットがトレンドになり、昨年はポロシャツでも多少その傾向が見られた。変化と言っても、せいぜいそのくらいだから、毎夏、変わり映えしないスタイリングになってしまう。変わり映えがしないプリントTには正直飽き飽きしている。まあ、何を着ても暑いのだからしょうがないのだが。

 ことTシャツに限って言えば、メリヤスをCut(裁断)してSew(縫製)するだけの単純な構造になる。かつてはアンダーウエアだったものが、アウター、特にファッションアイテムとして注目されたのは、1960年代だろうか。米国の若者がジーンズとともに流行らせ、世界中に伝播した。

 うちの祖母なんか、筆者が大学生のなった70年代末に「Tシャツとジーパンとズック(スニーカー)があれば、気軽に海外旅行に行ける時代になったね」と、臆することなく言ってのけた。それだけあらゆる世代が服として認知したということだろう。

 それからさらに40年。吸汗、速乾、快適を謳う機能性素材こそ登場したが、基本パターンやデザイン、縫製加工はほとんど変わらないまま。数年前に「Hanes」がメイドインジャパンの日本企画を売り出したのも、本家Made in USAの3パック赤ラベルが一度洗濯したらヨレヨレになることを知っている世代に向けたものに過ぎない。

 そもそもTシャツは原綿から撚糸、生地、染色、縫製までを途上国で行うので、コストがかからず、そこそこの質をキープするものが五万とある。だから、着る側にはそれほど不満はないはずだ。しかし、作り手がそれに甘んじているのでは先には進めないと思うのだが。 やはり、企画デザインの面で何らかの活性化が必要な時期に来ているではなのか。それとも、考え過ぎだろうか。

 ファッション専門学校の中には、学生獲得のオープンキャンパスで、熱転写機を使い、Tシャツにプリントするワークショップを開催しているところがある。

 この企画もどうなのか。むしろ古着のTシャツを買って来て、一旦解いてパターンや編み地を学び、別の布を縫い合わせるリメイクなんかした方がよほどCut&Sewの勉強になるのではないか。そしたら、「高校生はどんな絵柄をプリントすれば、ファッション性が出せるのか、わかっていない。それを教えることも必要」と言う先生がいた。

 Tシャツごときの構造をそれほど学習しても意味はないってことなのか。だが、プリントする被写体のデザインなら、それはグラフィックの領域だ。縫製技術を熟知した専門学校の講師陣ですら、Tシャツづくりで何を教え、学ばせるのか。正直、ポイントが絞り込めていないとも言える。言い換えれば、アパレルの事業領域に収めない方がユニークなアイデアが生まれるということだ。

 そんなことを考えていると、先日、アパレル製造支援企業の「シタテル」から一通のメールが届いた。ここはインターネットのプラットフォームを駆使して、既存のメーカーやアパレル起業希望者と技術者、工場などをマッチングさせる業務を担っている。また、業界外の人間にもネットワークを広げるために、定期的にワークショップも開催している。

 メールは、見たような記憶があったが、イベント期日を見ると昨年の8月20日付け。「Tシャツの固定概念を解体してデザインされたオリジナルTシャツを創るワークショップ」告知で、すでに終了しているものだ。おそらくスタッフがデータ送信をミスしたのではないかと思う。

 それはさておき、このワークショップは「アートディレクター千原徹也氏が『Tシャツと言えばこうでなければならない』などという思い込みや『服は買うものだ』という常識を一度疑い『服を創る楽しさ』や『新たなファッションに対する価値観』という角度から『TシャツではないTシャツ』をパターンからデザイン」との触れ込みだった。

 千原氏自身も「個人的にはこれまで服創りをやったことがない、しかし日々クリエイティブな仕事をしているみなさん、例えば、ウェブデザイナー、コピーライター、プログラマー、グラフィックデザイナー、エンジニア、建築家、編集者、アイドル、その他。とにかくクリエイティブな仕事をされてるみなさんにはとても楽しんでいただけるワークショップだと思います」と、誘っていた。

  アパレルの常識や先入観を捨てることが新しいTシャツデザインを生み出すことになる。そのために門外漢の人々にこそ、ワークショップに参加して欲しいようだった。実際に参加した人々の顔ぶれや制作されたTシャツがどんなものだったかはわからないが、少なくともプリントのレベルを脱するような企画があってもいいと思う。

 Tシャツのパーツは基本、クールネック、袖、胴体(丸胴)からなる。丸編み機で円形状に編み地を作り、それを縫い合わせたシンプルな構造だ。ニット製品で伸縮性があるから、サイズさえ決めれば、洋の東西を問わずあらゆる体型の人間が着ることができる。だから、カジュアルウエアとして浸透したのである。

 製造工程はまず、アメリカや東南アジア、インド、パキスタンで栽培される綿花から穫った原綿を何度も精製しながら丈夫な糸にしていく。それを編み立てて生地を作り、染料で染め上げる。染色は綿や糸、製品の段階でもできるが、大小のロット、生産効率を考えると、生地染めが一般的だ。おそらく今も世界中で天文学的枚数が流通していると思うし、その製造に対応するために同等のメリヤス生地が生産されているはずだ。



 つまり、生地の段階で染め上がっているのだから、縫い合わせでバイカラーやマルチカラーのTシャツを作るのは決してむずかしくないはずだ。市販のTシャツでも、ラグラン袖とクールネック部分のみ色が違うものが販売されているが、セットインスリーブで袖と胴体の色を切り替える企画も面白いのではないかと思う。「カラーブロックT」とでも呼ぼうか。そんな企画がなかなかないのだ。

 ユニクロが2年ほど前にUTの企画で、お客がスマホで自由なデザインをアップロードすると、オリジナルTシャツが作れるキャンペーンを張った。Webとファッションの融合を謳った企画だったと思うが、あまりの注文の多さに対応が後手後手になった。グローバルSPAにはプリントと言えど、受注生産は馴染まないことを露呈したようなものだ。

 だから、SPAは端から既成服と割り切ったカラーブロックTの方が量産に向くのではないか。32色とか、24色とか生産するカラーバリエーションによって無数の組み合わせがあるが、AIを使ってお客の感性にそぐわない配色は除外すればいい。洋の東西や自由に組み合わせたいと考えるオーダー志向のお客への対策にもなる。まあ、白ベースだと小学校の体操服みたいと突っ込まれないようにしないといけないが。

 袖や胴体、さらにクールネットはパーツが既製品としてあるので、あとは縫い合わせるだけで、量産には向くと思う。 シャツではクレイジーパターンを企画していたのだから、別に難しくはないはずである。生地厚を指定して編みたて、染色、検反までを海外で行い、輸入した生地を日本の工場で縫製することだって可能だ。

 それなら、薄手のTシャツとタンクトップの重ね着でも良いじゃいないかとの意見もあるだろう。確かに古着慣れした欧米の若者や自らリメイクできる人ならそれもありだ。ただ、お洒落に見える色、素材合わせは万人には難しいし、組み合わせが少しでも不釣り合いだと、着こなしはダサくなってしまう。

 もちろん、企画として生地厚を3オンスから4オンス程度に下げ、下は半袖のTシャツ、その上にノースリーブのトップをレイヤードするようなMDはあるだろう。また、メッシュ素材やパンチング加工のカットソーといった進化型を開発できればなおさらいい。ただ、ファッションである以上、誰もが着てお洒落に見えることが大前提だから、それらを含めてアパレル側が完成型のアイテムを提案することが重要なのである。

 業界では「OLDNAVY、日本完全撤退』「H&Mの出店が止まった」「6月の入ると五月雨式で夏のセールが始まる」「GAPは値下げ商品をレジでも割引」を等々。夏場の企画でTシャツを量産し過ぎるアパレルやSPAへの批判は枚挙に暇がない。でも、そんな論評に終始するばかりでは結局、生産的なことには繋がらない。

 そうではなくて、中小のアパレルがほんの少し発想と方向を捻るだけで、クリエイティビティが発揮でき、活性化の糸口がつかめるかもしれない。先ずは暇を見て試作品を作ってみようかと思う。

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高利少売の死角。

2018-05-16 05:09:04 | Weblog
 宝石・貴金属、時計、メガネを扱う業界はメーカー、卸販社、小売店の間で長らく共存共栄が成り立ってきた。高級品の代名詞で、高い荒利益が取れるため、三者で分けあって来たのである。しかし、ビジネスである以上、未来永劫で安定成長が続く保証はない。嗜好品は景気の影響を受けやすいし、お客のマインド変化でも市場は縮小する。また、小売店主の経営能力に左右される部分もある。

 メーカーはこうしたリスクを避けるために、卸販社を自社系列に再編して優先的に商品を流通させたり、売上げ実績に裏打ちされる小売店にトップブランドの販売を任せたり。ロイヤルティを守りながら、確実に売掛金を回収するには、当然と言えば当然である。先日、こうしたメーカーの姿勢が物議を醸す一件がネットを駆け巡った。

 事の発端はこうだ。2016年の地震で大きな影響を受けた「老舗宝飾時計店」が売上げ減を理由に、時計メーカーのセイコーから高級ブランド「クレドール」の取り扱いを一方的に停止する通告を受けたのだ。クレドールは最低でも20万円、最高は100万円もの値がつくセイコーを代表する高級ブランドウォッチである。当然、小売店にとっては売上げの核となる重要な商材であったはずだ。

 店主によると今年2月、セイコーの営業担当者からクレドール取り扱い認定を取り消されたという。セイコーに限らず、輸入時計のロレックスやオメガ、コルムやブライトリングも、一定の販売額(販売能力)を条件に取り扱える卸商社や小売店を限定している。そのため、こうしたことは宝飾業界では特別なことではない。

 老舗宝飾時計店は、地震で入居していたビルが全壊。仮店舗での営業を余儀なくされた。そのため、震災から2年目の17年には、クレドールの販売額がセイコー側との間で取り決めていた目標を達成しなかったのである。おそらく、店舗販売はもちろん、外商も十分に機能していなかったと思う。

 店主は地震による災害状況をセイコーに伝え、クレドールの取引継続を願い出たが、セイコー側は首を縦には振らなかった。老舗宝飾時計店からすれば、セイコーとは創業から120年の長きにわたりずっと取り引きして来ている。にも関わらず、温情の余地もないドライな仕打ちにも見える。

 しかし、事はそれだけで終わらなかった。店主はセイコーから送られて来た取り引き停止の「確認書」をTwitterに公開したことで、一気にフォロワーが反応。さらにシェアされてたちまち全国から書き込みが殺到したのである。そのほとんどが同店を擁護し、セイコーを非難するものだった。

 一方で、SNSで業務書類を公開することに対する懐疑的な意見、またセイコー側は震災で経営が困難に陥った小売店に対し、翌年の契約は解除していないなどの書き込みもあり、賛否は交錯した。

 その後、セイコーは事の重大さを鑑み「和解した」と、メディアに回答。老舗宝飾時計店は書面を公開した投稿を削除し、店主は配慮のない行動を反省。セイコーにも謝罪し、自社HPでは「今回の騒動に対する謝罪」(http://sophy.otemo-yan.net/)を発表し、何とか無事に収まったようである。

 一般論で考えると、今回の一件は一大メーカーと小売店の立場の違い、力関係における強弱を露呈したと言える。メーカーとしては、いくら創業120年の老舗であろうが、高級ブランドを長年販売して来た実績があろうが、いま現実の売上げ数字を見て商品を卸すか卸さないかを判断する。それがSNSによって物議を醸すとは想像すらしていない。

 公開された確認書の書面には、「セイコーウォッチ株式会社 取締役・専務執行役員 国内営業本部長」の名前があった。おそらく、担当者は経営計画に基づいて設定されている内規に従い、粛々と取り扱い停止を通達したのだろう。いたって実務的である。経営幹部ではあるものの、サラリーマンとして当然のことをしたまでだ。

 しかし、小売店は釈然としない。創業からセイコーの時計を売って来た。クレドールも40年の販売実績がある。しかも、地震で被災した異常事態なのに、何でここ1〜2年の売上げ減で、取り扱いが停止されるのか。うちがクレドールを販売しなくて、どこが売りきれるというのか。老舗としてのプライドもあるだろう。それゆえ、立場の弱さからSNSという手段を用いて、世論に訴えるしかなかったとも考えられる。

 セイコーは世界に誇れる大企業に躍進した結果、小売店のこうしたエモーショナルな感情の揺れがわからない。ブランドを売っていきたいのは、メーカー、小売り双方に共有するはずだ。しかし、立場の違いから得てして異なったベクトルに進んでしまう。ある意味、それはしかたないことかもしれない。

 和解とは、どんな落としどころだったのか。取り扱いがそのまま継続されるのか。扱えるが、絶対数や価格帯などが限定されるのか。他にも何らかの条件が付けられたのか。どちらにせよ、双方が歩み寄ったからこそ、和解できたのだ。クレドールの件に関しては、第三者がこれ以上言うべきものでもないだろう。


組合加盟の意味を見直す

 今回は高級ブランドウォッチをめぐるメーカーと小売店の問題だった。では、宝石・貴金属についてはどうなのか。ここでも力を付けて伸びる店、あるいはジリ貧になっていく店、メーカーや商社に擦り寄りたかる店と様々ある。

 でも、多くは何とか成長したいと願っている。そのために活動する団体がある。この老舗宝飾時計店を含む、全国の宝石・貴金属専門店が加盟する「日本ゴールドチェーン(NGC)」(http://www.sophy.co.jp/)がそれだ。こちらの動向を見ると、老舗宝飾時計店の課題も浮き彫りになる。

 NGCは、いわゆるボランタリーチェーンと呼ばれる。これは多くの独立した小売店が連携して協同組合をつくり、仕入れ・物流などを共同化しながら、統一した商標の使用も可能にするものだ。老舗宝飾時計店の店名につく冠の「ソフィ」は、確かNGCが統一する商標だったと思う。

 NGCは1966年の設立で、加盟店は宝飾品専門店のほか、時計、メガネを並行して販売するお店といろいろあるが、共通するのはみな中小の個店でバイイングパワー(商品仕入れ)やプロモーション企画などに限界があること。そのため、加盟店は協同組合として外部の協力を得ながら、一致団結して手がけていこうということだ。




 具体的には、コンサルタントや専門商社が経営指南、商品検討会を実施する一方、店頭の状況や売れ筋を分析しながら、品揃えや販売計画を考え、自店の収益拡大を目指すもの。他にも共同のセールスイベントの企画・展開、各種プロモーションツールの共同制作、クレジットカード決済と低い利率の導入、動産保険の加入がある。

 実を言うと、筆者は1986、87年頃に、このボランタリーチェーンのプロモーション企画にタッチしている。勤務先に仕事のオファーがあり、販売企画から参画し、ジュエリーや貴金属の撮影、販促ツールの企画・デザイン、印刷まで一括で携わった。確か宝石・貴金属の問屋が集まる東京・御徒町に事務局、品川にも事務所があり、打ち合わせに行っている。

 時はまさに空前の好景気。加盟店からは品川の事務所があるビルは組合所有で、地価が高騰して組合の莫大な資産が形成され、財務基盤も安定する…という羨ましい話も聞かれた。バブル景気の真っただ中らしく、宝飾業界はホクホクだったのである。

 さらに記憶を手繰ってみると、加盟店の中で比較的、経営力のある店舗がリーダーとなり、他のお店を主導していくこともあった。関東地区では栃木のT店とか、九州地区では長崎のS店とかがそれだったように感じる。 当然、老舗宝飾時計店も加盟店だったので、販促ツールの注文があり、何度か制作に携わった。

 こうした手法はその後に日経MJ(流通新聞)にも1面で取り上げられたのではなかったかと思う。仕事を受注してから数年後、ファッション業界誌に執筆するようになり、「NGCの仕事をしていたことがある」と、出版社の編集長に告げると、「NGCはうちの出版社がボランタリーチェーンの立ち上げを指導したんだよ」との返答。この時ばかりは不思議な縁を感じた。

 リーダー的存在だったT店やS店はチェーン加盟で、さらに経営力をつけて収益を拡大し、ともに退会したと見られる。現在、T店は全国に171店を展開し、年商170億円を超える東証一部の上場企業に上り詰めた。また、S店は宝石・貴金属の完全SPAに成長し、オリジナルブランドを企画販売している。店舗は国内82店、海外6店を展開し、この春にスタートしたストライプデパートメント(EC)にも出店したほどだ。

 ところが、老舗宝飾時計店はどうだろう。同店の沿革を見ると、1994年から2000年にかけて県内に新店2店舗、市内の別の商店街に1店舗を展開し、一応多店舗化を目指したかに見える。04年にはそれらをジュエリー工房に統合し、物販は本店のみに戻っている。県内で新店を軌道に乗せるのは容易ではなかったようだ。

 「商店街で地道に愚直に宝石貴金属・時計の商売を続けている」と言えば、聞こえはいい。しかし、T店のように売上げ拡大のための多店舗化も厳しく、かといってS店のようにSPA化でオリジナルや利益率向上で競争力を付けることもままならない。だから、荒利益が取れる高級ブランドを扱えなくなると、経営危機が店主の頭をよぎるわけだ。

 筆者がNGCの仕事を受けていた時、加盟店は経営力の向上に対し非常に前向きだった。好景気で高額な宝飾品が売れる環境ではあったが、誰もが手に入る中価格帯にも商売の裾野を広げていこうとしていた。宝飾マーケットはまだまだ伸びシロがあると感じ、ビジネスチャンスと捉えていたのだ。加盟店の合い言葉は「勉強になります」「勉強させてください」だった。でも、全ての加盟店がそのチャンスをモノにできたわけではない。

 高級ブランドのジュエリーやウォッチは、諸刃の剣でもある。荒利益が高いので売れると収益がアップするから、小売店としてはどうしてもしがみつきたくなる。しかし、それにはメーカーや卸販社から一定額の「ノルマ」を課され、有無を言わさず「結果」で判断される。扱いを失うとになると、今回のようにあたふたせざるを得ない。

 ブランド、高荒利といった商材に頼れば頼るほど、営業面でのリスクはより大きくなるのだ。日本はすべての業界でマーケットが縮小しているわけだから、高利少売についても考える余地はあるのではないか。これまでのビジネススタイルを全面的に改めるという意味ではなく、リスクヘッジのためのも一考しなければならないということである。

 震災の爪痕は少しずつ癒え、商店街に人通りが戻って来たとは言え、長期的には先は見えている。それを外商がどこまでフォローできるかは、お客の購買スタイルの変化もあり未知数だ。しかも、宝飾マーケットの規模は、「バブル期の3兆円から昨今は7000億円と3分の1以下に縮小した」とのデータがある。高級ブランドを失うリスク、商店街の限界、宝飾市場の縮小等々。今回のSNS騒動は、宝飾業界を取り巻く様々な課題が店主の脳裏でない交ぜになり、常識では考えられない行動に駆り立てたのかもしれない。

 しかし、経営者はビジネスにおいて情緒的になることは許されない。プロは結果がすべてだからだ。宝飾品に限らずファッション衣料やバッグ・靴と、商店街で営業する小売店も、みな少なからず課題を抱えている。NGCは宝飾業界の課題をみんなで背負いあって克服し、経営力を付けていこうという団体である。

 筆者が仕事を受けていた頃は、老舗宝飾時計店の経営者は先代だったと思うが、今の店主は40代と若い。加盟店の成功事例から再度勉強し直して、逆境にも負けない新しい経営スタイルを確立してもらいたい。

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掘り出し物がある。

2018-05-09 05:23:11 | Weblog
 今年もGWが過ぎた。福岡は5月3日、4日と博多どんたくが約200万人の人出で賑わったが、ファッション業界では都市部で観光イベントが開催されると、流入客は多くても服はそれほど売れないと言われている。冷静に考えると、帰省や旅行などで都市部から出ていく人も多い。目新しいショップや業態を集めた商業施設なんかが直前にオープンしない限り、買い物行動が起きにくいのは当然だろう。

 全国的に注目される施設では3月末、「東京ミッドタウン日比谷」が開業している。ここの商業エリアは1万8000㎡しかないそうだ。ストアと呼べるのは、カフェと雑貨のセレクト、 車のショールームを合体した「LEXAS MEETS」、昭和レトロを提案する「HIBIYA CENTRAL MARKET」、インポートを集めた「TATRAS&STRADA EST」くらいで、それぞれを1階から3階に分散展開したかたちだ。

 プレスリリースに書かれているのを見ただけだが、実際に行ったという友人の話を聞いても「一等地なのに開発にかけた投資と月々の家賃を考えると、まず採算は合わないのでは」で共通する。東京では再開発の名のもとに次々と器ができているが、どれも収益をあげるためのコンテンツが不足し、商業テナント集めには苦労しているようである。

 というか、ブランドにしても、業態にしても、売れそうなものは出尽くしているわけで、あとは新しくデビューする店舗か、実験的な業態を試すかしかない。デベロッパーもリスクを考えるだろうし、器は作ってもリーシングは頭打ちということだろう。

 地方都市に住む人間が情報発信都市・東京の最新物件に口を挟むのは憚れるが、あえて言うなら東京ミッドタウン日比谷は、福岡天神の再開発事業(公共施設:天神ファイブの跡地)で誕生したイムズ(インターメディアステーションの略)の時代から、開発の方向性はそれほど進化を遂げていないような気がする。

 イムズはバブル期の計画で、情報発信をコンセプトに当初は、企業のショールームを充実させていた。計画時点の仮称は天神MMビルで、オーナーである明治生命(1989年開発当時)と三菱地所のアルファベットをとったものだ。福岡の場合、都心部は航空法の関係で、東京のような高層ビルが建設できなかったが、それも徐々に緩和されてきている。

 ミッドタウン開発の先駆けとなった六本木の物件は、防衛庁跡地の再開発で、三井不動産、大同、富国、安田の生命保険会社などがコンソーシアムを作って落札した。イムズとは不動産事業者、生命保険会社の顔ぶれこそ異なるが、保険会社が保険マネーをビル事業に投資して不動産事業者とともに運用益を上げていくビジネスモデルは共通する。

 GINZA SIXのように運営者に百貨店グループが入ると、商業フロアを拡充してブランドショップを集める狙いで、売上げ重視の意識統一はしやすい。しかし、他の運営主体では物販の他にオフィスや文化施設、飲食、行政サービスまで集めた総合型を選択するケースだ。どちらが収益を上げやすいかは一概には言えないが、このスタイルも30年以上変わっていない。

 都市の再開発事業で建設されるSCは、その開発資金の原資を何で賄うかもテーマになる。古くはテナントからの保証金でイニシャルコストを稼ぐやり方だった。でも、これではテナントが撤退する度に保証金を返還しなければならず、初期投資分の回収が後手になってしまう。

 そこで、投資家から開発資金を集めてSPC(特別目的会社)を設立するやり方が登場したが、こちらはSCの収益から投資家に配当していくため、売上げを取れる有力テナントがリーシングの条件になる。当然、SC間でテナントは取り合いが必至なわけで、そう簡単にはいかないのだ。

 それでも、東京は金融機関に堪った潤沢な資金が運用先を待っている状態だから、地方からすれば非常に羨ましい限りだ。もちろん、ビル開発に投資して運用益を上げられるかは別物である。東京ミッドタウン日比谷がいかにしてイニシャルコストを回収し、ランニングコストを捻出していくか。オープン直後の今は静観するしかない。秋に東京出張した時、その辺もじっくり見て来たいと思う。

 一方、地方の大型商業開発は、やはり郊外が主体となる。九州こそJRが駅ビル開発に積極的だが、シャッター商店街に投資して再開発しようなんて計画は微塵もない。人口が増えている福岡市を除けば、ほとんどの地域がクルマ社会だから、SC開発は駐車場を含めた用地を確保しやすい郊外になる。では、どんな商業施設を開発し、テナントを誘致するかだが、GW直前の4月27日に開業した「ジアウトレット広島」からヒントを探ってみたい。

 開発主体はイオンモールで、アウトレット空白地帯に進出した本格アウトレットという触れ込みだ。ただ、郊外SCもフォーマットは出尽くした感があり、リニューアルや増床で何とか運営しているところがほとんどで、イオンモールとしてはアウトレットくらいしかコマがなかったとも言える。それでも、ジアウトレット広島は飲食の充実、地域の情報発信、体験型エンターテインメントの導入もあり、「地域創生型商業施設」との冠が付く。いったいアウトレット単体の可能性はどうなのかである。

 イオンは「ラグジュアリーブランドのバリー、エルメネジルド・ゼニア、ジョルジオ・アルマーニ、フェラガモ、コーチなどを揃え、山陰や四国からの広域集客も可能」と胸を張るが、果たしてそう簡単にいくのだろうか。確かに地方百貨店が売上げ不振に陥っており、ブランドが気軽に買い物できる環境ではなくなっている。ブランドを購入したい一定の客層(マチュア、シニア)は地方にもいるわけで、そうしたお客の受け皿になるという考えもあるだろう。

 しかし、それが「アウトレット品」なのかである。アウトレット本来の意味でいけば、そこに並ぶ商品は「売れ残り」「余剰在庫」「廃番品」「キズもの」である。 20万円を超える値札が付くジョルジオ・アルマーニのスーツは、仮に75%オフであっても5万円以上する。売れ残りや流行遅れに目をつぶっても、今のお客がそれらにどれほどの価値を見出し、買いたいと思うのか。

 もはや日本の消費者は富裕層だろうが、中流層だろうが、ブランド品にも低価格品にも目新しさは感じなくなっている。完全に成熟してしまったのだ。ラグジュアリーブランドが安いから一度は見に行っても良いが、リピーターになって何度も訪れるとは考えにくい。イオンモールもそれを想定し、物販の「なみのわガレージ」「よりみちマルシェ」、 飲食では「にしかぜダイナー」と、地元店のプロパー業態を誘致せざるを得なかったわけだ。しかし、それらに加えて、アミューズメント施設を集客の動機付けにするのなら、アウトレットの役目はいったい何なのかということになる。

 アウトレットと言えば、有名なアパレルやスポーツのブランドが格安で手に入るイメージだが、本家米国のモールでは日用品の在庫処分店もあり、掘り出し物に出会えるわくわく感がお客を呼んでいる。日本でもせっかく地産地消を目的に野菜や果物、精肉、魚介類を揃える道の駅的な業態を組み合わせるのなら、それを使って料理をするための道具や食器、食品のアウトレットをもっと充実させてもいいのではと考える。

 その意味でジアウトレット広島には、食器の「たち吉」「ゾーリンゲン・ヘンケル」くらいしかないのは、やはり片手落ちだろう。また、プロパー業態として瀬戸内・広島のもの作りを発信する「サッカザッカ」が誘致されている。そこでは刃物専門店の商品も扱われるが、それが掘り出し物かと言えば、ショールーム的で完結する公算が高く、関連性は乏しい。

 筆者が90年代初めに米国のアウトレット視察に行った時、オハイオ州に本社を置く「le gourmet chef」やダイニング用品を扱う「Book Warehouse」、食器類を格安で販売する「DANSK」、白磁食器の「Mikasa」など個性豊かな店舗が目を惹いた。これらの中には加工食品やシーズニングを揃えているところもあり、実際にニューヨーク郊外のウッドベリーコモン・アウトレットでは、料理の使うオレガノや木製のペッパーミルを購入したほどだ。

 まあ、日本の食材は消費期限があるから簡単にはいかないし、商社が買い付けている輸入食材は結構、ディスカウンタールートにも流れている。ただ、加工食品の3分の1ルールを見直す動きもあるし、小売店としては在庫を消化しなければ、新たに商品を仕入れる原資も入って来ない。それゆえ場所を変え、業態を変えて売り捌く拠点があってもいいのではないかと思う。

 伊藤忠商事が本場米国から日本に持って来た某有名グロサリーストアがある。ロゴマークがプリントされたエコバッグばかりが露出しているが、店舗で販売されている食品がどこまで消化できているか、不振在庫がかなりあるのではないかと、店を訪れる度に思ってしまう。ブランドを守るためにアウトレットとはいかないだろうが、一般論として食品全体を見れば、やはり消費期限が近づいたものをどうするかは課題である。

 それを小売りがやるのか、 メーカーがやるのか、回収コストなどいろんな問題が絡む。でも、アウトレット本来の目的は、バーチカルなシステムで在庫を消化し、現金化することだ。最初からコストを抑えて安く作った「専用品」を集めて見せかけ、モールとしての体裁を整えることではない。すでに安いファッション衣料は巷に掃いて捨てるほどあり、わざわざアウトレットに買いに行くまでもない。やはり流通システムにまで踏み込んで、開発コンセプトを考え直す時期に来ているのではないかと思う。

 お客は郊外SCはクルマで訪れるわけだから、嵩張る食器や調理器具も難なく購入し持ち帰ることができる。ならば、陶磁器のメーカーも年1回の陶器市だけでなく、常時余剰在庫を消化するような業態をもって、キャッシュフローを改善していくことも必要ではないか。

 そうすれば、消耗品である食器類と食材を一緒に購入でき、料理する楽しさも享受できる。 陶器類ばかりは破損のリスクがあり、ECでの購入に不安に感じるお客は少なくない。テナントになる可能性は十分にあるはずだ。要はバラエティさを欠くアウトレットは、お客の集めきれないということである。

 そうした意味で、郊外SCにアウトレットを誘致するなら、プロパー含めてすべての業態がリンクするようなコンセプトが必要になる。でないと、「今さら、アウトレットでもないだろう」と、冷めた見方をされてしまう。ジアウトレットの次の開発予定地は、福岡・北九州市のスペースワールド跡地が有力視されている。

 やはり成熟したお客と消費環境のことをもっと考えるべきではないか。それにはお客が掘り出し物に出会えて、また買いに行ってみようと思えるテナント集積と今のライフスタイルを見通した開発思想が不可欠。でなければ、ECがこれだけ消費に浸透している中で、実店舗が存在する意義は見出せない。果たして、イオンモールのような量販店系デベロッパーがそこまで踏み込めるかである。

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ファッション統計学。

2018-05-02 06:55:11 | Weblog
 大風呂敷を広げたもののZOZOSUITの配布遅延で、鼎の軽重を問うネット書き込みを続出させたスタートトゥデイ。先日の2018年3月期決算発表では、マーケットがGW休暇に入るタイミングを見計らったように3カ年中期経営計画と、採寸用ボディースーツ「新ZOZOSUIT」1000万着を配布する旨を発表した。これも株価対策を考えての周到な計画と言えば、言い過ぎただろうか。

 それにしても、ZOZOSUITの初期型は無料配布にしたため、あまりに多くの注文があって生産が追い付かなかった。その反省から生産体制や技術面の課題を解決すべく改良を重ねて仕様を大幅に変更し、ようやく顧客のもとへ届けられる見通しが立ったという。詳細については、決算発表の直後にメールが配信された。

 新ZOZOSUITは、真っ黒なボディーにピッチを広げたコインドットのような「マーカー」がプリントされている。 これをスマートフォンで写真に撮ることにより、人体の形状を3Dモデルとして浮かび上がらせ、計測する。スマホを固定し、自分がその前で一周して、なるべく多くのマーカーを読み取らさせれば、カラダの形状やヌードサイズがより詳細にわかり、データとして蓄積できるという。

 まあ、システム自体は大学のスポーツ科学部で、選手の動作解析(モーションキャプチャー)などの研究に使われているものを、サイズ計測用にアレンジしたものと思われる。自分のスタイリングを360度撮影して、フィット感やコーディネートの良し悪しを判断するカメラシステムも、昨年のファッションウィーク福岡でお披露目されている。だから、スタートトゥデイ側は「技術改革と研究開発による大幅な仕様改良」を強調するが、メカ的には別段、新しいものではない。

 言ってみれば、新スーツはもじもじクンの衣装にドットをプリントしたようなシロ物だから、コストはそれほどかかっていないはずだ。プロトタイプの初期型はあまりに高度なメカで、希望者全員に無料配布する大盤振る舞いが話題をさらった。上場企業としてはマーケットの反応や株価操作の狙いもあるだろうから、それくらいの打ち上げ花火が必要だったのは理解できる。

 ただ、ファッションビジネスで考えると、スタートトゥデイが言う「生産体制や技術面の課題」を抱えたまま無料配布を謳ったのは、いささか勇み足ではなかったのか。プロトタイプのメカレベルと単なるドットプリントの新スーツ。この格差はあまりに大きい。ここまでダウンスペックにしたことを見れば、すでに大企業の仲間入りを果たしているファッションカンパニーとしては、非常にお粗末と言わざるを得ない。

 今後は入手した顧客のサイズデータをサイトの販売やPBの開発にどう生かしていくかである。プロ野球の元監督でID野球を推し進めた野村克也氏の言葉に「データはゴミにも薬にもなる」というのがある。つまり、データは取る側、受ける側の考え方一つでどうとでもなるのである。集めたデータを本当に生かしきれる能力が必要なのだ。

 ZOZOTOWNはすでに購入データをもとに顧客の体形から、その日のスケジュールや天気、顔、髪形、所有する服といったあらゆるデータを解析し、最適コーディネートを完璧に提案でする「リコメンドサービス」を進めている。だが、現時点で過去に蓄積したデータを生かし、リコメンドへの到達できているのはわずか1%という。ZOZOTOWNが扱うブランド、またPBを拡販するには、まだまだデータ不足というわけだ。



 新スーツでどこまでの顧客のサイズデータを入手できるかはわからないが、実際にどれほどのお客がスーツを着てスマホの前でクルクル回るのだろうか。適当に撮影した場合、専用アプリと言えど、詳細なデータを測定できるのか。でも、恰好を想像しただけで滑稽に思える。その面白さを逆手に取って、顧客がYou-Tubeにアップしないとも限らない。それに釣られて次々とスーツの注文が殺到するようなら、ZOZOTOWNにとっては笑えないオチが付いてしまう。ヤフオクやメルカリに出品されると、噴飯ものである。

 データが欲しいのはZOZOTOWNの方で、顧客の協力次第ということからしても、はたしてビッグデータになりうるのかとの懸念もある。決算発表時で前澤友作社長は「初期型では、実際に配布した顧客のうち、使用した人の割合は60%。そのうち50%がPB商品を2.5点購入した」(既報)と、述べている。

 この数値も分母まで発表されてはいないので、どれくらいの実数かは不明だ。顧客がPBを購入した理由も、詳細なサイズデータが判明したからなのか、単にTシャツやジーンズが気に入ったからなのか、ハッキリしていない。どこまでデータを収集して解析し、そこから最適化したリコメンドができるか。とにもかくにも、1000万着という新スーツが、サイズ計測に活用されるかどうかにかかっている。

 スタートトゥデイは先日、子会社の「スタートトゥデイ工務店」「ヴァシリー」「カラクル」の3社を合併して新会社「スタートトゥデイテクノロジーズ」を設立した。この3社に在籍しているプログラマーなどがWeb、アプリ、AI(人工知能)など持てる技術ノウハウを駆使して、ファッションに関するデータを収集解析して数値化し、機械学習によって、その日に着ていく「リコメンド提案」に取り組んでいくそうだ。

 ファッションの数値化により、「きれいに見える着こなしの黄金比」が割り出せ、現状では1%しかなしえていないリコメンドを完璧にすることは不可能ではないと踏んでいる。ファッションが似合うか否かはフェイスやルックスが絶対条件である一方、従来から売場で行われてきた販売スタッフによる「外し崩し」という意外性の着こなし提案もある。それについてもAIがデータをもとに学習しているから難なくできるという。

 ただ、ここまではZOZOTOWN側が考える、自社に好都合なシステムに過ぎない。一方的にリコメンドの商品情報が提供されても、購入するか否かや商品の選択肢には顧客の「主観」や「心理」「感性」も反映される。人間は未だに自分の感覚に頼るアナログな部分はあるし、実際に試着しないと購入に二の足を踏むケースも少なくない。

 筆者はせっかくデジタル技術というインタラクティブなシステムを使うのなら、顧客の側がサイズデータを購入に生かせる仕組みがあってもいいのではないかと考える。ZOZOTOWNのリコメンドに対し、顧客側がジャッジ、ディサイドする技術を加味する。つまり、双方向のシステムを作るということである。
 
 顧客は自分のサイズデータだけでなく、ZOZOTOWNが取り扱う全商品について「詳細なサイズガイド」が知りたいはずだ。それがわかれば、購入には一気に結びつくのではないかと思う。




 筆者が考えるシステムはこうだ。まず、顧客の体型や足型のサイズを計測したデータを、平面、正面、俯瞰でシルエット表示できるようにする。レオナルド・ダ・ビンチが描いたウィトルウィウス的人体図のデフォルメ版をイメージすればいい。

 一方、販売する商品についても肩幅、バスト、ウエスト、ヒップ、袖幅、手首周り、アームホール、股下、わたり幅、膝周り、裾(ヘム)周り、足型(木型のサイズはメーカーが公開しないと思うから)は全長、幅、甲高などの「内寸」(生地厚があるので外寸ではなく)を記した絵図を公開する。

 服の内寸の計測は、センサーを付けたボディに服を着せるとサイズ計測ができるようなものか、レザー光線距離計を活用して、ボディに着せた服や靴の内部に照射して計測するとか。商品サイズを計測するメカの開発が必要になるが、今のIT技術なら決して不可能ではないと思う。

 顧客は欲しいブランドや買いたい商品が見つかると、サイト上で自分のサイズシルエットと商品のサイズシルエットを重ね合わせて、どこがキツメで、どこがゆるいなどフィット感が想像できるという流れだ。どうだろうか。せっかくスタートトゥデイテクノロジーズを設立したのだから、そのくらいの開発投資を行ってもいいのではないのか。

 これなら、全体的にはジャストフィット、部分的にはゆるめ、きつめの目安が試着しなくてもわかる。服の着丈、肩幅、身幅、袖丈、ウエストなどを表記する現状の「サイズ詳細」よりも圧倒的に購入に結びつくケース、いわゆる購買率がアップするのではないかと思う。

 特に靴は、ソール全長なんかを表記しても、足型のサイズ確認にはあまり関係ない。しかし、自分の足の詳細な長さ、幅、甲高と、靴の内寸のサイズがわかれば、試着なしのバーチャルフィットでも確認できるわけだから、購入に結びつくケースは今より増えるはずである。当然、返品率も下がって来ると思う。

 ZOZOTOWNが進めようとしているリコメンドは、顧客データを詳細に分析することで、顧客個々で異なる購買行動につなげる提案をしていこうものだ。「自分に似合うのなら買う」「カッコ良く見える着こなし」「わざと外し崩しのテクニックをしたい」等々。今の顧客に何らかのメリット(情報)を訴えて、購買率を上げる狙いだと思う。しかし、それはあくまでZOZOTOWNが主導権を握る一方的なものに過ぎない。

 これだけインターネットが発達しているわけだから、消費者は「情報強者」になっていることも考えられる。情強はそれだけ商品に対する審美眼や選り抜き術、見抜き・気づき力も鋭いから、ZOZOTOWNのリコメンドに躍らされるとは考えにくい。やはり、顧客側が購入する主導権を握りたいケースもあるわけで、それに即応するには前出のような服や靴の詳細なサイズデータを公開することも必要ではないか。あくまでインタラクティブなシステムが必要と思うのである。

 マンションアパレル時代、取引先のチーフバイヤーさんが言っていた言葉が今も印象に残っている。このバイヤーさんは都内の有名大学を卒業後、チェーンストアに就職しレディスのバイイングに携わっていた方だ。大学での専攻は筆者と同じ法律だった。

 ある時、「俺は法学部出だから、取引先との契約問題や債権債務、商品の瑕疵なんかの知識はあるんだけど、仕入れの仕事にはほとんど役に立たない。できれば、統計学なんかを勉強しておけば良かったとつくづく思うよ」と、仰っていた。

 当時、チェーンストアでは、本部で一括仕入れするセントラルバイイング制が導入されており、店頭のPOS(購買時点管理)レジと本部のPCは電話回線でつながり、売上げや在庫の管理から売れ筋のフォロー、新規のデリバリーまでが効率的に行われていた。

 もちろん、バイヤーは服種別、アイテム別のトータルな品揃え計画を立てて、商品を調達しなければならない。品揃え計画には適品、適量、適時、適所、適価の5適商品を確保が不可欠で、これには売上げ情報から読む商品データの蓄積とその解析によってオンシーズン(次シーズンも)の計画が立てられるのである。バイヤーはカンに頼る仕事ではない。これには統計学の知識が重要だという意味に解釈できる。

 今から30年以上前にそうだったことが、ITの発達とAIの技術が加わって蓄積したデータから統計値に近いリアルなリコメンドが割り出せる。それが浸透していけばファッションの生産から小売りまでが激変するというか、最適化されていくということである。

 ZOZOTOWNはじめ、ガリバーのAmazonは、ビッグデータに基づく統計的見地でどこまでファッションの消費環境を変えることができるか。また、お客はそれにどこまで反応するのか。現状では完璧な仕組みなどあり得ないと思うので、進化のプロセスを注意深く見つめていきたい。

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