HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

スーツに次ぐ誂え。

2020-12-30 07:08:35 | Weblog
 今年も余すところ後1日となった。アパレル業界は企業倒産が相次いだことで、経済界から「立ち直りは難しいのでは」とのレッテルを貼られる始末。だが、需要を超える商品供給があれば、売れ残るのは当たり前。ファストファッションをはじめ、安いものなら掃いて捨てるほどあるわけで、レナウンや三陽商会までが減価率を下げたもの作りを進めれば、商品が魅力を損なうのは言うまでもない。結果、売上げ不振で経営破綻やリストラの嵐である。

 だからと言って、お洒落で高額なアイテムが求められていないわけではない。ネットを見て気に入った商品を店頭で確かめると、しっかり企画しデザイン、素材とも秀逸なものは、再来店した時にはほとんど売り切れている。多少値段が高くても購入する人は確実にいる。人気ブランドはユーズドでもメルカリなどで買い手が付くし、e-Bayでニューヨーク発のレアブランドを入札したが、価格が釣り上がって落札できなかった。世界中のブランドハンターがWebを通してお値打ち品を狙っているのだ。

 この1年は、端から商売目的で買う「転売ヤー」も目を引いた。セレクトショップはコロナ禍でお客が来店せず試着無しでは買い手がつかなくて在庫を抱えたところも多い。店売りで越境ECに対応していない商品に限って魅力的なのか、海外からの引き合いも多いという。転売ヤーの中にはそんな店舗から商品を買い取って、海外で売り捌くところがある。

 ユニクロが11年ぶりに復活させた「+J」は早朝から長蛇の列ができ、ECにもアクセスが殺到。行列には転売ヤーも混じっていたと思う。でないと10時開店から発売された商品が12時過ぎにYahoo!オークションに出品されるはずはない。近くに店舗がなくて購入できないお客や在庫過多で倒産危機にあった店舗からは、転売ヤーが売ってくれて助かったとの話を聞く。こればかりは救世主とは言えないまでも、もはや必要悪と認めざるを得ない。

 製造業者が直接、お客に商品を販売するD2C(Direct to customer)にも注目が集まった。コロナ禍で小売店の休業が余儀なくされ、卸先がなくなったアパレルメーカーやOEM業者が参入した。ECが主チャンネルだから出店コストがかからず、営業経費も削減できるが、SNSを駆使してコミュニティを作り、お客にいかにアプローチするかも重要になる。

 ただ、お客のことを熟知するバイヤーの助言抜きで、メーカーは商品企画が進められるのか。卸先が見えないままで在庫を抱えられるか、という課題もある。反面、メーカーは商品を一方的にキャンセルされる心配がないなど、小売り側の身勝手さから解放されるメリットがある。新しい仕組みだから、一長一短は付き物。活性化のためには、とにかくやっていきながら、修正していくしかないと思う。

 オーダースーツの世界ではすでにD2Cを超えて、在庫を抱えず受注生産するC2M(Customer to Manufactory)が浸透し始めている。オンワードHDの「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」が代表例だ。お客が生地を選び、採寸して仕上がるまで、わずか1週間。同社はこれにレディスのパンプスを加えた。受注からパターン・仕様設定、生産、納品までをオンラインで繋いでデジタル化すれば、ほぼ在庫を抱えなくて済む。

 団塊世代の大量退職に仕事のIT化が加わり、さらに今年はリモートワークが定着した。ただでさえスーツ離れが進んでいるのだから、品揃えと価格でしか勝負できないスーツ量販店に勝ち目はない。各社の赤字決算が何よりの証左だ。C2Mによるオーダースーツに各社がどこまで本腰で取り組み、オンワードを超えるシステムを築けるか。2021年以降のスーツ販売の勢力図が注目される。



 百貨店のそごう西武は千葉店と池袋店で、ニットのパーソナルオーダー&カスタマイズを始めた。()素材はシルクかカシミア。色やデザインは素材で決まっているが、袖丈や着丈は調整が可能だ。こちらは受注から納品まで約3週間かかるが、サイズなどを自分仕様にできる点がいい。これも編み立て機が進化し、個別対応できるようになったからか。百貨店にとっても、来店の動機付けや差別化の一つになる。



 一方、元祖オーダースーツの専門店は、さらに進んで「ニットの誂え」をスタートした。「銀座サカエヤ」のオフィサーズが手がける「タートルネック」がそれだ。自店がもつクラシコイタリアのノウハウをもとに、仮縫付きでその人のサイズ感にフィットするオーダーニットを仕上げてくれる。

 筆者もタートルネックは好きなアイテムだ。20代の頃からコットン、ウールを問わず秋冬の御用達にしてきたが、これまでオーダーしようという発想はなかった。ただ、お客の中には首の高さを合わせたいとか、体型にフィットするサイズにしたいとかの要望があるそうだ。そこで、既製服ではありえない0.5~1cm単位のサイズ調整(仮縫い)を可能にして、襟の高さや形の指定から胴回りのサイズ調整までに応えることにしたという。

 スーツやシャツをオーダーするエグゼクティブは、それらがいくらジャストフィットでも、インナーに着るニットがタイトやルーズであれば、全体のコーディネートが台無しになるという意識なのだろう。オフィシャルの着こなしを想定すれば、オーダーニットはドレスアップのキーアイテムになるということか。

 素材はスーパー120のウール、シルク、ウールシルク。カラーは色々と選択できる。昔あったピエール・バルマンのカシミアシリーズに近いバリエーションだろうか。価格は3万9000円〜、5万9000円〜、7万9000円〜と、素材別に3タイプ(仮縫い代別途1万円)。かなり高額で、納品まで約2ヶ月もかかるというから、どこまで人気を集めるかはわからない。ただ、既成服ではなかなか良い商品に巡り会えない中で、選択肢の一つにはなり得る。

 個人的には、ファッションのカジュアル化が進んで以降、インナーに着る布帛のシャツとニットカットソーの比率は、2:8くらいになった。着用時にボタンを留めるより、被った方が簡単だからということもある。さらに最近はプルオーバーも面倒になり、ジレー(前あきタイプ)型のフルジップセーターを好んで着ている。

 先日、このコラムで+Jの「ミドルゲージダブルジップセーター」を取り上げたが、このようなアイテムを企画している国内ブランドはあまりない。ボタン留めのカーディガンほど売れないからだろうか。だが、インナーは布帛のシャツからカットソーのタートルまでと着こなしを選ばないから汎用性は高いのではないか。身頃を中綿に切り替えてもいいと思う。特に腕を上げるのが辛くなる中高年ほど、ジレー型のジップアップへのニーズは高いと思う。

 欧州のメーカーはこのジップセーターでタートルネック、編み上げネック、クールネックといろんなバリエーションを企画しているが、素材はほとんどがコットンか、細番手の糸を使った梳毛タイプになる。価格が安いものは、アクリルにポリエステルなどを混紡した合繊オンリーだ。




 あるレディスブランドが1アイテムを企画している。素材はビスコース81%、パリエステル19%の合繊オンリー。素材はサラっとしていても、冬物としては保温力を欠き、静電気も気になる。できればウールが90%以上で、やや肉厚のミドルゲージとか。襟や袖はニットでも身頃を中綿に切り替えたりとか。+Jの2〜3倍の価格帯でもいいから、どこかが企画してくれないだろうか。

 まあ、こうしたアイテムで高額のオーダーが求められるかどうかは不明だが、襟付きのシャツに重ね着できることも考えると、エグゼクティの人たちがゴルフウエアとして着ることは十分に考えられる。ニッターの中には異素材を含めて高度なリンキング技術を持つところもあるし、前あきをフルジップ仕様にすることはそれほど難しくはないと思う。オーダー専門店がメニューの一つに加えてもいいかもしれない。

 そんなこんな考えながら、今年も終わりそうだ。来年は量産不振の中でD2C、C2M、そしてオーダーメイドがどう進化していくか。その是非は置いといても、新しいビジネスモデルが魅力的なアイテムを生み出してくれることに期待したい。

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焦りの見切り発車。

2020-12-23 07:07:19 | Weblog
 関西コレクション実行委員会は12月12日、来年の3月7日に「KANSAI COLLECTION(以下、関コレ)」をリアルイベント形式で開催すると発表した。(https://www.kansai-collection.net)コロナ禍の収束が見えない中での開催は、万全な感染対策などを示す上で試金石となり、他都市での開催にも影響を与えそうだ。

 関コレの開催は1年半ぶり。事実上、実行委員会を取り仕切るイベント事業者とすれば、これ以上は待てないのが本音だろう。東京ガールズコレクション(TGC)は無観客開催で、ステージの模様を動画配信する苦肉の策に打って出た。だが、ガールズコレクションのような「客寄せ興行」は、お客が集まってなんぼのものだ。イベント事業者はチケットが売れなければ身入りはないし、自治体の支援やスポンサー収入がないと収益は上がらない。

 また、タレントを派遣する芸能事務所は、ガールズコレクションのような営業は重要な食い扶持で、ステージはタレント人気のバロメーターでもある。ある意味、「芸能エコノミー」という構図ができ上がっており、それが回らないと施設運営者から舞台関係、映像&音響・照明、衣装提供のアパレル、ヘアメイクやフィッター、そして地元メディア、果ては出入りの弁当屋にまで影響が及ぶ。




 一応、関コレ実行委員会は公式HPには「新型コロナウイルス発生に伴う、KANSAI COLLECTION 2021 SPRING & SUMMERへ ご来場の皆様へお願いとご注意」を掲示。また、「公演当日のご入場に際して」と、来場客に感染対策を呼びかけている。(http://www.kansai-collection.net/attention/index.html)だが、「同居家族や身近な知人に感染が疑われる方がいないこと」「だるさ・鼻水・下痢・嘔吐・味や匂いを感じない等の症状がないこと」は、来場者の自己申告になるから、関係者は調べようもない。

 まずは「万全な対策のもとで行います」という姿勢で開催し、一人の感染者を出すこともなく終えて、他地域での開催にも弾みをつけようという思惑ではないのか。しかし、会場の大阪ドームには数万人が集結して三密状態になり、ランウエイを歩くタレントに向かって絶叫すれば、フェイスシールドをしても飛沫の充満は避けられない。こうした状況が想像される中で、これまで支援をしてきた行政やスポンサーの反応はどうなのだろう。



 公式HPを見ると、協力会社としてエフエム大阪や大阪シティドームが名前を連ねているだけで、大阪府や大阪市、経済産業省、文化庁などが後援する様子はない。通常の開催では付くはずの「〇〇PRESENTS」、いわゆる「冠スポンサー」が12月22日の時点でまだ決まっていない。公式スポンサーにあたる「パートナーシップ」も、「公開までお待ちください」とあるだけだ。(https://www.kansai-collection.net/partner/index.html)

 ガールズコレクションはこれまでいろんな大義(地域おこしや災害復興など)を設け、行政や企業の支援を取り付けてきた。しかし、来春の関コレには地元自治体も中央省庁も現時点では後援に名乗りを上げていない。一業種一社のスポンサードがあるかも不透明だ。こうなると、関コレ実行委員会は開催を決定したものの、各方面への地ならし=調整をしないまま、イベントができなかった焦りから見切り発車したのではないかと、受け取られても仕方ない。

 関コレ実行委員会は、開催日までに詳細を詰めればいいと考えても、自治体側はコロナ禍で医療崩壊のリスクを抱えており、年が明けてもイベントどころではないはずだ。関コレの開催が3ヶ月先とは言え、コロナ禍が収束しない中で開催し観客が三密となってクラスター感染が発生すれば、行政は責任を追及される。そんな状況で支援などできるとは思えない。

 スポンサーにしてもエステや美容、旅行、飲食など若い女性をターゲットにする業種はコロナ禍で業績を落としているから、支援は容易くないだろう。アパレルは春夏物のプロモーションという意味で、衣装の貸し出しや一部支援は吝かではないと思われる。しかし、感染拡大が収束しない中での全面バックアップには、やはり二の足を踏むはずだ。


収束がない状況で、見合わせられる公算大



 こうした関コレの状況を固唾を飲んで見守っているのが、他のコレクションの実行委員会ではないだろうか。筆者が生活する福岡市でも、今年3月の「ファッションマンス福岡アジア」が新型コロナウィルスの感染拡大で中止となり、「福岡アジアコレクション(FACo)」を含めすべての関連イベントが未開催となった。(https://f-month.com)

 では、来春の開催はどうなるのか。12月21日現在、福岡市のコロナウィルス感染症の陽性者数は4348人(福岡県の7459人の58.2%)で、九州で最多だ。高島宗一郎福岡市長の感染対策には一定の評価もあるが、感染が収束する見通しは立っていない。FACoについては例年なら11月の初めにショーに出展したい地元ブランドが募集されるが、今年はそれもない。
(http://www.fa-fashion.jp/index.php?action_listing_correct_index=true)

 開催するのであれば、出演タレントのブッキングなど企画の詳細を年内には詰めておかなければならず、3ヶ月先の3月に開催されるかは全くの不透明だ。しかも、感染拡大の第2波では、20代の「コロナ慣れ」が指摘されている。この年代はガールズコレクションの客層とシンクロする。これが何を意味するか。高島市長がいちばんわかっているはずだ。コロナ禍の収束がない状況では、今年も見合わせられる公算は大きい。



 一方、北九州市は、毎年10月に開催しているTGCを今年は見送った。(https://www.city.kitakyushu.lg.jp/san-kei/29200059.html)中止決定が発表されたのは、7月15日。緊急事態宣言が5月25日に解除されたとは言え、北九州市は福岡市に次いで陽性者が多く(12月21日現在、1089人)、大規模なイベントを中止することで「他都市からの来客を避ける」ことも、感染防止策の一つと判断したとみられる。



 昨年からTGCを開催している熊本市は、今年4月25日の開催を「延期」した。(https://tgc.girlswalker.com/kumamoto/2020/news-archives/2801/)中止ではなく、延期にしたのは感染収束後の開催に含みを残したわけだ。しかし、熊本県もまた新型コロナウィルスの感染者が拡大傾向にあることから、12月14日には感染リスクを最高クラスの「レベル5厳戒警報」に引き上げた。12月21日現在の感染者数は1469人、うち半分以上の820人(55.8%)が熊本市分になる。

 北九州市が中止を発表したのが開催日の約3ヶ月前。昨年のチケット発売が2月ということなどから、熊本市が判断するリミットは来年1月中か。こちらも実行委員会が水面下で関係者と協議をしているだろうが、年が明けても感染拡大が収まらなければ、豪雨災害の復興を優先したい熊本県が支援するとは考えにくい。しかも、同市で毎年2月中旬に行われている「熊本城マラソン」は、7月3日に早々と中止が発表された。このような状況で、熊本市は開催に踏み切れるのか。


無観客開催、動画配信では経済波及効果はほぼ0 

 熊本市はTGCに補助金を拠出する理由に「経済波及効果」を掲げ、昨年の効果を4億6500万円(目標額の5億円を下回る)と算定した。観客、タレントやスタッフから一切感染者を出さないようにするには、リモートによる無観客開催、動画配信があるが、それでは効果はほぼゼロになる。つまり、税金を使って支援する理由がなくなるわけだ。北九州市が他都市からの来場が減って効果が下がるために中止したとすれば、熊本市も同様の判断になるではないか。

 また、スポンサーは無観客開催、動画配信では、広告効果が落ちることを懸念する。冠スポンサーの鶴屋百貨店はじめ、支援企業はTGCが延期になったことで、スポンサードしたままの状態だから、リアル開催でないとこれまでの投資を回収できない。ただ、イベントの予算規模が脆弱な地方開催では、自治体が支援せずにスポンサーだけで開催することは、まず不可能だ。そう考えると、2年連続の延期もありうるかもしれない。

 国内では2月からコロナワクチンの接種が始まるというが、外国ではアレルギー反応も出ているし、それによって本当に感染拡大は封じ込められるのか。ガールズコレクションの熱狂は、密な空間を必要とする。しかも、観客1万人以上が三密となって飛沫が充満する。そうした状態では確実に実効性を持つ感染対策が証明されない限り、地方自治体はイベント開催はもちろん、支援にも及び腰だろう。

 東日本大震災の時はイベント自粛で「ジッとしても前に進まない」という反論が起きた。ただ、コロナ禍の今は全く事情が異なる。12月21日には、日本医師会などの9団体が記者会見で、感染が収束するどころか拡大している状況に、このままでは通常の医療を提供できなくなると、医療緊急事態宣言を発表した。

 任意団体に過ぎない各TGC実行委員会は、こうした医療現場の逼迫を考えた時に開催に踏み切れるのか。それとも、イベント事業者に押し切られてしまうのか。はっきり言ってコロナ禍の脅威が無くなるまで感染しない、させたくないならリアル開催は不可能である。まさに自治体やスポンサーの良識が問われている。

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都市に近くて遠い島。

2020-12-16 07:01:40 | Weblog
 ウィズコロナによるリモートワークにも飽きが来て、そろそろロケでもやりたいなと思っていたら、久々に全国誌からグラビアページの仕事が入ってきた。博多湾に浮かぶ「能古島」でドローンを使った配送実験を撮影し、全貌をまとめるというもの。同島に渡るのは、カイワレ大根の先駆者で島民の前田滝郎さんが栽培する「ピーナッツもやし」の仕事以来、十数年ぶりとなった。



 能古島は博多湾の中央に位置し、対岸の西区愛宕浜まで渡船でわずか3km、10分程度だが、船便は朝5時から夜11時まで1時間に1本しかない。昨年1月には島で唯一の小売店が店を閉じ、日々の買い物では島外に出かけるか、週に1度の移動販売や宅配に頼らざるを得なくなった。大東建託が実施する「住みたい街ランキング」で、昨年に次いで今年も全国第1位に輝いた福岡市にありながら、島民は非常に不便な生活を強いられている。

 もっとも、こうした状況は全国の離島で起きており、買い物難民、物流課題の解決には官民挙げての取り組みがある。今回の実験もANAホールディングスが中心となって、コンビニのセブンイレブンや調剤薬局のアインホールディングスが商品を、NTTドコモがドローン飛行用にLTEのモバイル通信ネットワークを提供。福岡市も住民への事前説明、実験への参加呼びかけなどで協力している。実験は島民が予め服薬指導を受けていた処方箋薬品やネットで注文したコンビニの商品をドローンで島まで運んでもらうものだ。



 ドローンは、福岡市西区の小戸ヨットハーバーに開設されたオペレーション・マネジメント・センター(OMC)を離陸し、博多湾の上空約3km飛行、能古島の公民館グランドに着陸する。1回目の飛行では、島民がかかりつけ医から処方され、薬局が調剤した医薬品を積んでセンターのポートからグランドのポートまで配送した。

 2回目は、島民がセブンイレブンの「ネットコンビニ」を利用し、商品をスマートフォンで注文。小戸地区にあるお店が商品を宅配専用車でセンターまで運んで引き渡し、ドローンに搭載して離陸。ポートに着陸後、島民はグランド上で商品を受け取った。商品を注文して届くまで20分もかからない。両ドローンとも飛行時間はわずか3分程度で、あっという間だった。



 能古島から見ると、対岸のヨットハーバーは南向きだ。実験の時刻はちょうど昼頃で、ピーカンだと逆光になる。上空を飛ぶドローンを撮ると被写体が暗くなり、機体の詳細がわかりづらくなる。また、ドローンは高速で飛んでくるため、シャッタースピードを調整しなければならない。遠景や機体のアップなどのカット割りもあるので、ズームレンズをうまく使うことも必要になる。物撮りやモデル撮影のようにはいかないことが予測された。



 そこで、事前に知り合いのカメラマンからレクチャーを受け、撮り方のテクニックや露出調整を教わってロケに臨んだ。まあ、当方が所有するSONYの一眼レフα7。日本で初めてAFを採用したミノルタの系譜だから何とかなるだろうと思っていたら、実験の時刻にはちょうど上空に雲が張り詰め、運よく逆光は抑えられた。あとはシャッタースピードとズームだが、これは1回目の飛行では苦労したが、2回目では何とか使うことができた。曇りで青空バックにはならなかったが、飛行する機体の外観や参加企業のロゴマークははっきり押さえられた。

 実験も撮影も無事に終わり、あとは原稿をまとめるだけ。ただ、個人的に気になるのは実用化の見通しが立つのかである。ANAホールディングスは2016年に低高度で人やモノを運ぶドローン、高高度の宇宙輸送、超高速の地点間輸送といった将来の自社事業を創出する「デジタル・デザイン・ラボ/DD-Lab」を発足。今回の実験もこの部署が主導し、ドローン・プロジェクトの保理江裕己氏が中心に実施していた。

 奇しくもANAホールディングスはコロナ禍の影響で経営環境が悪化。10月27日には、グループ社員を出向させてコールセンターやホテルのコンシェルジェ、企業の受付・事務などに従事させると発表した。これを受けて家電量販店のノジマが出向者100名程度を11月16日から順次受け入れると表明したが、出向は広報部などのスタッフも例外ではないという。


無人、省力化の実現で、陸送と同等の料金に

 海外ではコロナワクチンの摂取が始まったが、感染が終息する保証はなく、旅客輸送が回復する見通しは立たない。デジタル・デザイン・ラボは、2022年に緩和される飛行規制(レベル4/目視外飛行)に合わせてドローンの実用化に取り組んでいるが、ウィズコロナではFSC(フルサービスキャリア)やLCCに次ぐ事業の柱に育てることが急務と言える。すでに機体は自律飛行が可能のレベルに達しており、部品の全てが国産で量産化も進んでいる。

 あとは航空機のパイロットにあたるフライトディレクターが遠隔で運航管理する態勢を省力化し、いかに運用コストを下げるかである。一方、セブンイレブンやアインホールディングスは、ANAホールディングスから提供される機体や管理運用の態勢とネットコンビニや調剤薬局の受注エリアをリンクさせ、お客に確実に配送する仕組みを整えなければならない。ドローンの物流サービスはANAホールディングスから有償で提供されるわけで、その費用は最終的に商品を注文したお客が負担することになる。

 現状、セブンイレブンが北海道や首都圏、広島県の一部で実験中のネットコンビニは、お客がスマートフォンでセブンイレブンが販売している商品を注文すると、在庫があれば最短30分でエリア内の自宅や職場に届けられる。注文商品の合計金額が1000円以上が宅配の条件で、配送料は1回の注文につき110円〜550円(時間帯で変動)。ドローン配送を実用化するには、この料金体系に近づけることが必須だ。

 トラック輸送でもドライバー不足で配送料は高止まりしている。無人機のドローンで輸送コストが削減できるなら、料金を陸送と同等にできるかもしれない。おそらくセブンイレブンは、実用化では店舗の駐車場から客宅の庭先まで配送することを想定していると思う。




 処方箋医薬品も島民は渡船、さらにバスに乗って医療機関に行き、医師から薬を処方された後、薬局で調剤をしてもらって島に帰るのが現状だ。ドローン配送はこうした手間を少しでも解消しようというものだ。遠隔診療の是非、対面による服薬指導などの課題はあるにしても、配送料が陸送と同程度になれば、サービスを利用する島民は増えていくと思われる。

 現状のドローンは、最新機種でも最大積載量は5kgまでだ。医薬品は重くてもせいぜい100g程度だが、コンビニなどの商品になれば5kgを超えることも考えられる。効率性を考えると、離島は一度に数名分とか、積載量を20kgくらいまで増やすとかが理想だろう。機体開発が進んで自律飛行、重心制御も可能というから、大型化して積載量がアップする日はそう遠くないはずだ。

 日本は島嶼国家で離島も多い。ネット通販が浸透しても、離島に住む方々にとっては配送料が割高であったり、配送頻度が少なかったりといった課題がある。その意味で、能古島は都市に近くて遠い島なのだ。ドローン配送はそんな物流課題を解決し、離島生活者が都市生活者と同等にネット社会の利便性を享受できるようにする。将来的にはアマゾンなどの通販商品をセブンイレブンで受け取って、商品と一緒に配送してもらうことも可能になるだろう。

 突風を受けて途中で落ちるのではないか。天候不順で飛べないのではないか。利用者にはそうした不安もまだまだある。ただ、陸路輸送でも台風など災害の影響を受けるのだから、条件はさほど変わらない。ドローンによる物流サービスが、さまざまな地域課題の解決する新たなインフラとして、社会実装する日は確実に近づいている。アパレル業界が物流倉庫から離島や遠隔地に配送することも、当たり前になるのではないかと思う。
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反アマゾンの功罪。

2020-12-09 06:50:03 | Weblog
 ブラックフライデーが終了して10日ほど経った。各店の今年の売れ行きはどうだったのか。おそらく世界的なコロナ禍の影響で、ECのみが活況を呈したのではないだろうか。

 実店舗はその煽りを一気に受けたようで、倒産に追い込まれたところも少なくない。未曾有の感染症拡大で、小売業の優勝劣敗が鮮明になった状況だ。そんな中、フランスでは政治家や経済学者、環境保護団体、書店や出版社などの代表や文化人ら100人以上が「STOP AMAZON」運動をスタートさせている。(https://theconversation.com/le-mouvement-anti-amazon-de-retour-avec-la-crise-de-la-covid-19-150000)

 これには、フランスが5月と11月に発令した外出禁止令が関わっている。この間、スーパーマーケットなどの小売店舗の閉鎖を余儀なくされた一方、アマゾンは期間中には倉庫を閉鎖することもなく、感染拡大でも従業員の保護を十分に行なわなかったという。なのに禁止令の最大の受益者となり、莫大な利益を上げたことが槍玉に挙げられているのだ。

 しかも、アマゾンはオンライン広告やマーケットプレイスなどが総売上げの50%を占めているにも関わらず、課税を免れている。他のディスカウントストアなどとは異なり、税制上で優遇され、フランス経済に何ら貢献していないというのも理由のようだ。そのため、反アマゾン運動の主宰者は「特別税を課税する法律」の制定を要求し、メディアに公開した書状の中で、以下のような問題点を指摘した。

 「新型コロナウイルス禍では、アマゾンが増収を果たす一方、個人経営の店舗の倒産や失業を増加させている」「コロナ禍は消費スタイルと社会生活を根本的に考え直す機会となった。(アマゾン)消費をさらに促進させてはいけない

 フランスにおけるECでアマゾンのシェアはわずか20%。EC事業者は他にもいるのに、なぜアマゾンだけが攻撃されるのか。一つは、弱者である個人商店を保護すること。もう一つは外出禁止令による個店の売上げ減少に対する州ごとの支援が低すぎること。それらへの反発の矛先がお上にではなく、アマゾンに向けられたのだ。しかし、反アマゾン運動で市場を社会的に規制しようとしたところで、アマゾンが売上げを伸ばしているのは紛れもない事実だ。 

 弱者と言っても、既得権益を守りたい連中もいるわけで、お上に対して法規制を望むのは、日本の〇〇団体も同じ。洋の東西を問わず、権益団体のやることは似たようなものだ。今回、運動に参加した「書店」もそうだろう。個人経営の書店は外出禁止による来店客の激減でモロにあおりを食った。しかし、規制強化で本当に競争力を持てるかは甚だ疑問だ。現にフランスのメディアも、アマゾンが提供する商品の選択肢、実用性、有利な価格、配達のスピードは、消費者にとっては利益になっていると、「アマゾンパラドクス」という言葉で反論する。

 ならば、小さな書店はそれにどう対抗していくか。待っていてもお客は来ないのなら、書店側も動き出すしかない。これは日本の書店にも言えることだ。法規制が必要かは別にして、小規模な書店はコロナ禍を契機に古い商慣習を打ち破り、経営改革に踏み出すべきなのだ。


生き残りには取次や返本の見直しが必須

 では、書店はどう変わるべきか。筆者が長年にわたり懇意にする出版社の関係者から聞いた話では、日本の書店は雑誌の収益で成り立つ「取次システム」に支えられている。つまり、そのスタイルを変えなければならないのだ。米国はアマゾンのお膝元でありながら、独立系=個店の書店が急増している。街の小さな本屋がカフェなどを併設してお客を集める一方、スタッフが独自の品揃えを生み出し読書会などのイベントを展開して、地域住民を引き寄せている。それができるのも書籍の価格と荒利益の高さに他ならない。



 例えば、筆者も知るニューヨークの「Greenlight Bookstore」は、客単価が約30ドル、荒利益は40%以上と日本の2倍におよぶ。年商は約2億円で、約1億円もの荒利益を稼ぎ出している。好調な背景には米国の本屋が雑誌を扱っておらず、書籍だけで経営が成り立つ構造にある。大手書店チェーンがアマゾンとの競争で店舗を減らしている一方、街の小さな本屋が新たに開業し、成長できるのはこうした理由があるのだ。

 日本がいきなり米国と同じ流通構造になるのは難しいが、小売業界の問屋介在と同じで少しでも収益を上げるには取次を介さない=出版社直の取引に踏み出すことは重要。奇しくもアマゾンジャパンは、2017年に取次へのバックオーダーを取りやめ、出版社との直接取引を拡大している。その条件は出版社の卸値6割、アマゾンの荒利4割と言うから、何とも強気だ。

 また、アマゾンジャパンは今年2月、自社が仕入れた本を小規模書店に卸す仲間卸を開始すると発表した。バイイング力で限界がある小規模書店にベストセラーなどを卸すことで、読者のニーズに幅広く応えていこうというもの。アマゾンが日本の書籍流通に風穴を空けようとしている点は評価されるべきで、小規模書店としても自店にメリットがあると判断できれば乗っかってもいいのではないか。

 もちろん、それらを可能にするのは、書籍を返品せずに買い取ること。出版社としても買い取ってくれれば、6掛けで卸してくれる。日本には「配本制度」という長年の商慣習があり、それが書店の自由で個性的な品揃えを奪い、30%という高い返本率を生んでいた。言い換えれば、この返本率を引き下げることができれば、本屋独自の仕入れが可能となる。さしずめセレクトブックストアとでも言おうか。個性があって魅力的な本屋が経営できるのだ。

 ビジネス界にあまたある「規制」は、弱者保護のためのものが多い。大規模小売店法は最たるもので、大型店の進出を規制することで中小零細の小売店を保護してきたのだ。ところが、商店主はそれを自分たちの経営力によるものと勘違いして、メーカー接待のゴルフに興じ、研修という海外旅行に明け暮れ、次第に競争力を失って行った。商店街がシャッター通りになったのは、まさに経営努力を怠った結果なのだ。

 方や、フランスも書店や出版社などの代表がストップアマゾンの示威運動に出て、弱者保護の目的で法規制を望む。果たしてそれが小規模書店の救済につながるのか。少なくとも規制で保護されるだけでは競争力を生まないし、何より消費者にとって本当に必要とする書店になれるかは疑問だ。アマゾンが量と規模を追うのなら、小さな書店は質と個性を追求するのが本来の姿ではないのか。ネットはあくまで手段にすぎない。



 このコラムをアップする3日前の12月6日は、筆者が住む福岡で「福岡国際マラソン」が開催された。レースは福岡の中心部で展開されるが、選手が17km過ぎのけやき通りを走るシーンでは、テレビ映像に一瞬だが書店の「BOOKS KUBRICK」が映し出された。設立は2001年、わずか15坪の小さな店舗だが、スタイリッシュなロゴマーク、木の床に白熱灯というインテリアが高級マンションが立ち並ぶ瀟酒な通りとシンクロする。

 近隣の菓子工房が製造する「BOOK COOKIE」も併せて販売するなど、独立独歩のスタイルで読書ファンを惹きつけて止まない。筆者も大濠公園に行った帰りには必ず覗き、気に入った新刊本や雑誌を購入している。目的買いというよりは、フラッと立ち寄ってみたくなる本屋だから、20年もの長きに渡って存続できているのではないか。

 書店1店でできることはたかが知れている。でも、多くの書店が結集することで、取引条件の改善を訴えていくことはできるだろう。それは示威運動なんかではなく、多くの読者にも共感を呼ぶ活動にする。シュプレヒコールで社会を扇動するより、英知を注いでビジネスモデルを構築する方が重要。現状を打破するエネルギーこそが改革の道筋を広げるのである。

 出版社の新刊本や書評を紹介したいろんなポータルサイトも出現するだろう。それをもとに気に止まった書籍をネットで取り寄せ、街の書店で受け取って店主とお茶でも飲みながら、会話する。昔の銀座にあったよう風景を取り戻し、書店文化の新しい形を創造すること。フランスのメディアも、店舗スタッフとの親密さやまめなアドバイス、本を通じたコミュニケーションづくりがお客に身近なお店の利点と強調する。

 法規制で個店の倒産や失業者増が防げても、競争力を無くせば生き残ることは難しい。小さな書店がやることはまだまだあるはずである。



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自ら助くる者が助かる。

2020-12-02 06:55:54 | Weblog
 米国では11月の第4木曜日(26日)はThanksgiving Day、いわゆる感謝祭だ。と言っても、ユダヤ教徒の多いニューヨークでは神への感謝より、コマーシャリズムを煽る休日という性格が強い。さらに翌日の金曜日(27日)はBlack Fridayで、百貨店をはじめとした主要小売店では大掛かりなセールを実施し、12月のクリスマス商戦に弾みをつける。ブラックフライデーはもともと黒山の人だかりを表すものだったが、次第に店舗が儲かって黒字になる意味に解釈されるようになった。



 近年はAmazonをはじめとしたオンラインショッピングがブラックフライデーに続き、Cyber Monday(今年は11月30日〜12月1日)と銘打ってセールを始めるようになった。そのため、店舗での賑わいは筆者がいた90年代半ばに比べると幾分かは落ち着いている。ただ、今年は友人が撮った写真のようにコロナ禍が輪をかけて、マンハッタンへの人出はかなり閑散としていた。各店が例年のような混乱を避けようとセールを分散させたり、店頭展開の目玉商品をオンラインでも販売したことが奏効したかたちだ。


コロナ禍における感謝祭は束の間のガス抜きか



 老舗百貨店の「Macy’s」は例年、感謝祭の午前中にパレードを行い、夜からセールを実施していた。今年のパレードは規模を縮小して行なったが店舗は休みで、ブラックフライデー早朝に開ける異例の営業にシフトした。ただ、オンラインサイトでは一足先にセールを始めており、事前に注文したお客のために受け取りコーナーを開設。それでも現物を確かめたいとか、試着をしたいお客が店舗を訪れたが、早朝から長蛇の行列になることはなく、買い物客が我先にお目当てのフロアに突っ走る光景は見られなかった。



 他の百貨店で注目は、昨年の11月にウィメンズ館がオープンしたNORDSTROM。「マンハッタン中心部の大型百貨店がオープンするのは、ほぼ100年ぶり」というニュースが流れたほどの注目店だ。同店は高級店の魅力を打ち出し、「Cyber Deals」というセールで〜50%OFFの展開。ナイキやバーバリー、クリスチャン・ルブタンなど、この店限定の商品もあるので、それを目当てのお客が集まった。洋の東西を問わず、ブランドフリークにとって高級百貨店のセールは、コロナ禍だろうとマストバイなのだ。


 
 米国の百貨店がここまでセールを行うのはなぜか。それは日本のような消化仕入れではなく、商品を買い取るのが基本だからだ。在庫はできる限り販売して現金化しなければならないので、バーチカルな商品消化のシステムを持つ。それが傘下に置く「リテイルアウトレット」だ。ノードストロムでは「NORDSTROM rack」という業態を展開している。マンハッタンではユニオンスクエア店の他に、Ave. of Americanと31丁目に囲まれたGreeley Squareにも新店がオープンした。

 ノードストロムラックでは高級百貨店のノードストロムで売れ残った商品を安く販売するのだが、ブラックフライデー期間中には、通常のディスカウント価格よりさらに割引されていた。これから真冬に入るニューヨークでは欠かせなくなるコートやブーツ、乾燥による肌荒れを防止するコスメ、買い物の定番であるバッグやアクセサリーは人気アイテム。ただ、賢いニューヨーカーの間では、ブラックフライデーは安いから飛びつくのではなく、シーズンの必需品を低価格で購入する価値観に変化している。
 


 グリーレイスクエアと反対側のヘラルドスクエアは1ブロックをメイシーズが占め、マンハッタンでは最も賑やかな一画と言われてきた。最近はかつてほどの勢いはなく、ブラックフライデーの集客も新参のノードストロムラックに奪われてしまった。筆者もメイシーズはサックスやブルーミングデールズと並んでよく覗いたが、実際に買い物したのは真向かいにあったスーパーの「F.W. Woolworth」だ。それも帰国後の1997年には全店が廃業し、スポーツ用品店のに「Foot Locker」転業した。



 現在、ウールワースがあった場所にはフットロッカーと並んでディスカウントストアの「Target」が進出。そのターゲットですら「Cyber Monday Deals」というオンラインセールを展開中で、ビデオゲームから家電品までが30〜50%オフで購入できる。ターゲットはチープな生活必需品を揃えるので実店舗は集客力を発揮するが、衣料品、服飾雑貨しか扱わないForever21は2015年の約44億ドルをピークに売上げ減少の一途を辿っている。高額な家賃負担に耐えきれず、ヘラルドスクエアから撤退する日もそう遠くないと思う。

 その他、ソーホーやグリニッジビレッジといったダウンタウンにも買い物客は訪れている。サンクスギビングデーは日本で言うお盆の感覚で、仕事や学校で各地に移り住んでいる人々が休暇を利用して帰省し、家族や友人と一緒に過ごす。今年はコロナ禍が全米に拡大しているため、政府は旅行やパーティを自粛するように呼びかけているが、そこはコマーシャリズムの街ニューヨークだ。マンハッタンに繰り出す人出は例年より少なかったものの、感謝祭〜ブラックフライデーは消費者にとって束の間のガス抜きになったのも確かだろう。


日本はオンラインとリアルを融合させたサービスを



 一方、オンラインショッピングは、実店舗とは違ってコロナウィルスに感染するリスクもないため、ネット事業者は一気呵成に出ている。有名ブランド各社が出店するサイト(https://www.rakuten.com/r/MIKIUS?eeid=28187)では「Cash Back」を採用。代表的なところでは、ケートスペードが20%、ブルーミングデールズやナイキ、ニューバランスが15%、GAPやメイシーズが10%をPaypal経由でキャッシュバック。ディスカウントストアでも、あのウォルマートが6%で、前出のターゲットでさえ1%を還元している。



 しかも、サイトのFirst Purchase(新規登録者)には、40ドルのWelcome Bonusまで付けている。米国ではワクチンが急ピッチで開発製造されているとは言え、一般消費者の投与されるまでにはまだまだ時間がかかる。日頃はマンハッタンはじめ各地のショッピンセンターに買い物に行く人々も、多くがオンラインショッピングに切り替えていくと思われる。だが、その影響で破綻に追い込まれたところもあるだけに、景気の回復にはむしろ足かせだ。

 ニューヨークのある経営者が語った「人は必ず外に出たくなる」が脳裏に浮かぶ。この言葉からすると、人々が巣ごもり消費やワーケーションだけでどこまで過ごせるかは不透明だ。しかも、これからクリスマスホリデーに突入する。商店は煌びやかにデコレーションされ、イルミネーション輝く街は浮き足立つ。人々のテンションが上がれば、衝動買いの誘発にも繋がる。だから、感染対策と実店舗への集客をいかに両立させるかがクリスマス商戦では最大の課題となる。これは日本の商業にも言えることだ。

 11月以降、再び感染者が増加して、菅首相はGo toトラベルでは札幌発や大阪発の旅行を控えるよう要請した。コロナ禍はあと2年くらいは続くという専門家もいる。第三波の襲来は感染対策が中だるみしたからとの見方があり、密集、密接、密閉の回避やソーシャルディスタンスを再び徹底しなければならなくなった。景気の減速で失業や所得減の影響は非正規雇用や低所得層に集中するが、長期化、深刻化すれば雇用・所得格差はさらに広がっていくだろう。

 なおさら、景気が後退すれば正規雇用や中所得者も安泰とは言えず、心理的な不安から消費は下振れする。そうなると、オンラインショッピングとて盤石ではなくなるかもしれない。もう国や自治体の施策頼みでは限界があり、自ら生き残るためのビジネスモデルを作り上げることが不可欠になる。非接触、ディスタンスを維持しながら、いかにお客にアプローチするか。難しいが、やるしかない。

 アパレル小売業はオンラインとリアルの融合など販売面のサービスにもっと磨きをかけるべきだ。百貨店や駅ビルなどはノードストロムが行っているエクスプレスサービスこそ、導入すべきではないのか。密集や密接を避けるために店舗入口からすぐにアクセスできる地階にブランド横断のピックアップコーナーを設け、ECで購入した商品を受け取れたり、完全密室、抗菌のフィッテングルームでの試着を可能にする。その場で返品・交換の受付も行う。

 人が介在すれば、それだけ感染リスクは高くなるから、その仕事はITに代行してもらう。買い物に時間をかけないサービスが感染対策では重要になるということだ。奇しくもブラックフライデーの当日、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は衆院厚生労働委員会で、感染防止対策について「人々の個人の努力に頼るステージは過ぎた」と述べた。政府や自治体が対策をもっと強化すべきとの要望と取れるが、強権を発動すればするほど雇用や所得が回復する足取りは鈍り、日本経済はますます厳しさを増していく。

 サンクスギビングデーは、神に感謝する日だが、今年は全ての小売業が神にも縋る思いではないか。しかし、神は自ら助くるものを助くるのだ。ネガティブ、深刻に考えても活路は見出せない。むしろ、ウィズコロナは続くと考え、新しいモデルを構築する好機ととらえるべきだ。それができたところが新しい時代を切り開くと言ってもいいと思う。
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