HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

定番Dこそ上質がいい。

2019-03-27 04:51:37 | Weblog
 あの「ワークマンPLUS」が九州初の店舗を福岡県内に出店した。業界では前々から話題になっていたので、現物を見たいと思っていた。初上陸した3店は鳥栖、和白、門司とバランス良く立地させたものの、すべて郊外店だから車利用でないとアクセスしづらい。当分は開業景気の影響で混雑するだろうから、沈静化を待ってチェックしてみようと思う。

 ワークマンPLUSが話題を集めたのは、一般の人も着こなせるようにガテン系の機能性をアウトドア向けのカジュアルに生かしたことだ。従来、ウォーキングや軽いランニング、釣りや山歩き、サイクリング向けといったアイテムは、「Since 18◯◯」とかを売りにする欧米の専門メーカーが主力で、これにスポーツブランドが追随するという構図だった。仕様や機能、素材などがブランド価値を決めるので、ビームスなんかのバイヤーが発掘し、ファッション雑誌が紹介することで、愛好家の間で浸透していた。

 ただ、こうした商品はマニア向けで値段も高く、ポピュラーにはなりにくい。ユニクロがフリースをヒットさせたのは、量産によるコストダウンで価格を下げ、誰でも手が出るようにしたからだ。その後に開発したプロテックシリーズは撥水から防水、防風、透湿、ストレッチまで機能を充実させたものの、今度はワークマンPLUSがそのお株を奪うように高機能なアウターをユニクロの半値くらいで売り出した。一般の人々が着るカジュアルアウターでは、多少のスペックダウンなど全く関係ないから、先発のいいとこ取りができる後発企業には常に優位に働くということだ。

 その意味でデザインが変わり映えしないユニクロに対し、ワークマンPLUSはカラフルで「ストリートデザイン」のテイストをもつのだから、お客が殺到するのもうなずける。しかも、女性が半分を占めるという。ユニクロがしきりに自社の商品を「ライフウエア」なんぞと宣ったところで、目の前にお洒落でコスパのいい商品があれば、お客はそっちに流れることをまざまざと見せつけたわけだ。

 ところで、ノームコアを経てアスレジャーという着こなしがすっかり普段着に浸透したが、歳を取れば取るほど、あのルーミーな着こなしはだらし無く見えてくる。かと言って、アウトドア派でもない筆者には「アークテリクス」のような高級ブランドもそぐわない。流行りの「ノースフェイス」もロゴマークが目立ち過ぎるので、購入にも着用にも二の足を踏んでしまう。その点、ワークマンPLUSの商品は記号を前面に押し出さないから、すんなり入っていけるのではないか。



 筆者がワークマンPLUSのアイテムを着るのは、スポーツをする時になると思う。ランナーの聖地と言われる大濠公園でのランニング、仕事を終えた後のジム通い。両方とも事務所から歩いて行けるが、現地で着替えると荷物になるので、いつもスポーツウエアのまま出かけている。

 ただ、静電気がとても酷いので、ウエアは一年中コットン主体で、できるだけ合繊の配合率を抑えたものを好んで着ている。だが、週末の早朝にランニングをする時は、行き帰りを含めて薄手のパーカーやウインドブレーカーが欲しくなる。しかも、着脱が簡単で嵩張らず、走る時に腰に巻けるようなものが欲しいと、思っていた。

 アウターにちょこっと着るくらいなので、別に有名ブランドでなくてもいい。 公園にベンチに脱いだままにしても、誰も持ってはいかないようなレベル。仮に無くなっても、それほど惜しくない価格帯。アウターが2000円以下なら、シーズン毎に色違いを買い揃えることもできる。それにはワークマンPLUSくらいがちょうど良い。こうしたわがままニーズさえ、同社は上手く捉えてくれたわけだ。

 そこで、ふと思ったのが、スポーツ系カジュアルアイテムの耐用年数である。中高生が着るサッカーのユニフォームのように合繊で薄手のものはすぐに破れると聞く。それに比べると、ウォームアップ用のジャージは長持ちするだろうが、子ども向けは成長もあるから、着てもせいぜい3年程度だろうか。

 一方、オリンピックなどの公式ジャージは、イベント終了後にユーズド市場に流れることから、ストリートアイテムとしてリユースされている。実際、パリで「NIPPON」と表記されたジャージを着た人を見かけたときは、「いったい、いつのものか」と驚いたものだ。モノにもよるが、コットンベースでもポリエステルやポリウレタン(エラスタン)が10〜20%程度混紡されていれば、耐用年数は結構長いのではないかと思う。



 筆者がこの冬もランニング時に着用したスウェットのパーカーは、今から14〜15年前に購入したadidasの商品だ。当時は今ほどECは普及しておらず、公式通販サイトもなかった。通販会社の「ベルメゾン」がスポーツカテゴリーを設けており、カタログで注文したと記憶している。adidasが契約していた欧州の有名サッカーチームのバージョンで、公式ウエアのレプリカというより、単なるロゴとエンブレムが入ったものだ。

 素材は最近ではあまり見かけなくなった綿100%、リブ部分が綿95%、ポリウレタン(エラスタン)10%。カタログには商品のカットやエンブレムの刺繍まで写した写真が掲載され、ディテールはもちろん、素材感までがしっかりわかった。キャプションにも「ヘビーウエイト」「肉厚の生地」「裏パイル地」で「冬にも暖かい」と記載されいたので、即決した。価格はいくらだったか憶えていないが、それでも5000〜6000円くらいではなかったかと思う。

 届いて見ると、まさにヘビーウエイトで、12ozは超えるであろう肉厚な素材。「米国人は冬でもコットンを着用することが多い」と、何かの雑誌で読んだことがあるが、綿100%でここまで分厚い生地を採用するのは通販向けの企画と言え、コットン志向が強い客層を狙ったものだろう。それはまさに筆者である。

 以来、15年ほど冬場のトレーニングには必ず着ているが、ガンガン洗濯しても生地が伸びることもなく、破れやほつれも見られない。シルクスクリーンで印刷されたチーム名も、精巧な刺繍で表現されたエンブレムもそのままの状態だ。ただ、いい加減、買い替えてもいい時期である。

 現在では軽めの素材が受けているからか、それとも価格ありきで原価率を切り詰めているからか、ここまで厚手のスウェットは巷では見かけなくなった。というか、ECではスウェットアイテムの「オンス表記」はあっても、生地の「厚み」や「こし」について詳細に説明しているものはない。サイトにあふれるスポーツブランドもポリエステルが主体で、コットン70%以上のものにはお目にかかれない。

 そこで、筆者が目を付けたのが、SP(セールスプロモーション)向けのプリント事業者の専門サイトである。こちらの方がトレーナーやスウェットはファッション通販より素材、色、型のバリエーションがはるかに豊富だし、在庫も確実にある。

 筆者にはコットンベースの方が肌に合うし、スポーツ機会ではなおさらしっくり来ると思う。素材が良ければ耐用年数も長いので、コストパフォーマンスも高いだろう。特にスウェットのような定番アイテムはそれほど、デザインが変化するわけではない。現にアスレジャーの影響からか、今はスウェットパーカーがトレンドだ。同じアイテムを15年も着ているといつの間にか流行に乗っかるというか、トレンドに関係ないからずっと着ていられるのだろうが。

 まあ、ファッション性やオリジナリティを出す意味では、ロゴマークやイラストが決め手になるわけだが、こちらもPC(Mac)とソフトウエアがあればどうとでもできる。仕事柄、グラフィック系のIllustratorを使っている身としては、ロゴマークもイラストも簡単にフルカラーで制作できるので、プリントモチーフには事欠かない。

 サイトを検索すると、スウェットのトレーナーは10oz程度の1000円台、パーカーは12oz以上でも3000円程度だ。価格が割高という次元でもない。しかも、ジェットインクのプリント技術がこの数年ではるかに進化し、事業者は1枚からでもフルカラーで印刷対応してくれる。その分、グラフィカルなモチーフ制作に凝れるので、デザインが楽しくなる。

 ワークマンPLUSやSP向けがスポーツ利用できる意外性。上質な定番がクリエイティビティの舞台を広げ、着用目的を豊かにしてくれる。そうした価値観は20代からあまり変わってはいないと、改めて感じている。

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虫が良過ぎる新戦略。

2019-03-20 04:37:45 | Weblog
 繊研PLUSが3月14日、15日に「ゾゾ前澤社長が語るZOZOARIGATOの真相と新戦略」と題して、有料会員サービス導入の真意と今後の方針について取り上げた。

https://senken.co.jp/posts/zozo-president-interview-190313
https://senken.co.jp/posts/zozo-president-interview-190314

 
 前澤社長は「さらに成長していくためには、少なくとも価格面でリアルモールに劣っている状態は芳しくない。『ゾゾタウンで商品を見て店で買う』客を対象にアンケートを取ると、『試着したいから』に次いで多かった理由は『店の方が安いから』でした」と、語っている。

 つまり、ZOZOARIGATOを導入した背景には、多くのお客をECに誘導するには、やはり「価格」抜きにはなし得ないということ。お客からすれば、マスマーケットに流れる商品はバーチャルだろうと、リアルだろうと100円でも安いところで買いたい。少なくとも、ZOZOTOWNはそう判断した模様だ。

 ここで気になるのはアンケート結果で価格より上位にあった「試着したいから」である。これについての施策は、記事では何も語られてはいない。繊研のインタビュアーが問い質さなかったのか。それとも質問したが、活字にするほど明確な答えが返って来なかったのか。それとも、施策として今のところ取り組む考えがないのか。

 どれにしても、前澤社長はECという決まったバーチャルなフォーマットからはズレたくないようである。それは「業界全体のEC比率を加速度的に上げていく」と、首尾一貫していることからもわかる。ZOZOTOWNは単独の実店舗、リアルSCよりはるかに品揃えは多いので、お客の「欲しい商品が見つかる」との期待感は高く、それが集客にもつながりやすい。

 さらにECにおけるお客の買い物行動はモールでブランドを検索し、購入したい商品のサイズ、スペックを確認、価格(ARIGATO会員の場合は割引も)をチェックすれば、後は購入を決めるとカートに入れて決済するだけ。この一連の流れは今後も大きく変わることはないだろう。

 ECでもお客の購買心理がAIDMAの法則(注意、興味、欲求、比較検討、行動)に沿って動くのは一緒のはずだが、売る側はリアル店舗で行うような棚やラックからの品出し、選び直し、試着落ち後の畳み直し、棚やラックへの戻し、整理整頓などの一連の作業は必要でなくなる。注文を受け、倉庫からピッキング、梱包、発送という別作業は発生するにしても、リアル店舗にあるような不規則で、ムダと思える作業は発生しない。

 つまり、ECでは商品提案から購買までがシステマチックに進む。売上げになるまでの勝負が非常に速いので、小売りビジネスとしては非常に効率が良いのだ。商品を受け取ってサイズが合わないとか、イメージしたものと実際の商品が違ったなどで返品に至るケースもあるが、これについてZOZOTOWNは細かく条件を付け、返却要領という手間をお客に課すことで、低減できるとの腹づもりなのだろう。「EC比率を加速度的に上げていく」という言葉に前澤社長の自信が漲る。

 まあ、返品が面倒なお客は、ZOZOUSEDやメルカリ、ネットオークションといった二次流通があるのだから、「気に入らなければ売っぱらえばいい」と、「試着なし」でのEC購入はハードルが格段に低くなっている。逆に「試着あり」はECではわからないフィット感や着心地、バーチャルでは絶対に不可能な「触感」、いわゆる生地感や肌触りが確かめられる。それはリアル店舗ではお客を購入に誘う決め手になる。

 しかし、ZOZOTOWNが「試着もできる(お試し拠点の開設など)」のサービスを付加すると、かえってお客に購入を躊躇わせたり、会計上で売上げが上がらないのに(取り寄せるのみでキャンセルの場合)返却コストが発生するというマイナス要因を生む。筆者には前澤社長が顧客アンケートで挙がった試着への取り組みに触れなかったのは、「そんなに試着をしたければ、リアル店舗に行けばいい」が本音だからのような気がする。ZOZOTOWNが追求するECは、あくまで効率重視、非効率無視なのだ。



 そして、もう一つがPBの失敗から学んで掲げる新戦略である。前澤社長は「ゾゾスーツで得た『100万件以上の体形データを活用』。ユーザーの体形に応じた多サイズ展開での販売プラットフォームをブランドに開放し、ブランド企画のアイテムを開発・販売し、顧客ニーズの多様化に応えます」という。

 「物作り・MD支援なども提供できる新しいプラットフォームへ進化します。ブランドには定番品やシーズンアイテムを30~50サイズの多サイズで作ってもらい、1品番で1万~10万枚売ることを目標とします」とのことだが、果たしてそれが可能なのだろうか。

 確かに100万件以上の体型データは貴重なものだ。それがあったからこそ、PBのスリムテーパードデニムパンツは約21万本、無地Tシャツ約7万枚が販売できたと言えば、そうかもしれない。しかし、実際に0.5cm刻みのような細かいサイズが売れたかどうかはわからない。中には既成服のサイズ展開ではフィットするものがないイレギュラーサイズのお客もいたと思うが、その絶対数はそれほど多くないと思う。

 そもそも、ZOZOTOWNはPBのオーダースーツもデニムパンツもTシャツも、予めのサイズバリエーションで、ある程度の在庫を抱えていたのが事実だろう。お客の注文サイズと合致するものについては、手持ち在庫をそのまま発送し、計測したデータのサイズがないものは既製パターンに沿って新たに縫製したわけだ。だが、スーツに限っては、計測データがお客の体型サイズを正確に表していなかったり、中国の生産工場から商品到着まで最大5カ月も遅れたりと、失態が続いている。

 結局、オーダーメイドという触れ込みで、膨大なサイズバリエーションの在庫を準備した割にそこまで細かな注文が来なかったことなどから、PB事業は最終的に125億円の赤字に陥ったのではないのか。

 しかも、ゾゾスーツとスマホアプリで計測したサイズデータでは、正確さを欠いている。きちんと測ったにも関わらず、スーツのパンツ丈が実寸より短い仕上げで送られて来たなどのクレームがSNSに投稿されている。ここまで来れば、オーダー以前に生産管理すら杜撰ということになる。前澤社長はアプリケーションソフトに修正を加えるようなことを語っていたが、どこまで計測精度、サイズ把握が向上するかは未知数だ。

 しかも、新戦略ではZOZOTOWNがサイズデータを提供する代わりに、ブランド側に生産と在庫リスクを負ってくれという意味ではないのか。 いくら定番デザインで「1品番で1万~10万枚売る」ことを目標にしたからと言って、サイズバリエーションのみでそこまで売れるアイテムが本当にあるのだろうか。

 中国の文化大革命時代のように国民のほとんどが「人民服」を着るならいざ知らずだが。フィット感が重要なスーツにしても、パターンオーダーを含めてウール系既成服の需要は格段に下がっている。サイズ面でフレキシブルなストレッチ系が急速に伸びていることを考えると、サイズバリエーションにそこまでの実需があるとは考えにくい。

 まして、ZOZOTOWNがとる「受託ショップ事業」は、数を売ればそれだけ自社に歩率が入るので収益は上昇する。しかし、今度の新戦略では「ブランドには定番品やシーズンアイテムを30~50サイズの多サイズで作ってもらい」ということから、ZOZOTOWN側は「生産」も「在庫リスク」も負わないと受け取れる。「商品はすべて買い取る」という意思表示はどこにもない。出店するアパレルメーカーにしてみると、単に「売る目標」をちらつかせるだけでは、「あまりに虫が良過ぎるのでは」との印象は拭えない。

 一般的に、メーカーが展開するサイズバリエーションは、メンズ、レディスともXS、S、M、L、XL、XXLくらいか。多くても欧米表記の28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48だろう。これでも、生産枚数は各サイズ均等ではない。日本ではどうしてもMやL、 36〜40のレギュラーサイズが多く売れるので、枚数は多めに生産する。それが30~50サイズまで広がっただけでも、どこまで生産量や負担在庫が増えるのか。しかも、定番デザインと言っても色や型のあるのだから、メーカーとしても想像がつかないと思う。

 そもそも、ZOZOTOWNに出店するブランドの多くは、企画やデザインで勝負したいところが大半だろう。ターゲットは比較的若い層と幅が狭くなるから生産ロットは少ないが、確実に在庫を消化したいために市場を広げられるモール出店をしているわけだ。そんなメーカーが定番デザインで、多サイズ展開というMDスタイルに馴染むとは思えない。それが可能なら、ZOZOTOWNなどに頼らず、自社で販売ノウハウを構築しているはずである。

 前澤社長は自らツィッターを休止すると宣言し、それが投資家の関心を引いたのか、株価はやや回復している。今回の新戦略ついても企業経営者としては語るのは当然だが、その内容はアパレル音痴の投資家に忖度したようにも感じる。しかし、メーカーにはあまりに荒唐無稽と受け取られかねない。「シーズンアイテムを50サイズ」「1品番で10万枚売る目標」を真に受けるところがあるとすれば、「正気の沙汰」とは思えないのである。


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人間技が生かされる卸営業。

2019-03-13 04:52:22 | Weblog
 3月1日、来春に卒業する大学生の就職活動が解禁された。この時期になると、業界メディアでもリクルートを意識した記事がチラホラと目立つ。

 ただ、正直言って、今のアパレル業界に明るい話題はない。グローバル化による競争激化、コスト削減によるクオリティの低下、EC普及による店舗の減少、少子高齢化による市場のシュリンク、購入・所有からレンタルやシェアに替わるサブスクリプション等々。じっくりものを作り、地道に売って、お客も喜ぶという旧来のかたちが求められるような状況ではないのだ。

 業界で本当に楽しい仕事ができると、大学生が思うだろうか。そんなことを考えていると、先日、WWD Japanが最近すっかり日の目を浴びていなかった「卸営業」を取り上げていた。https://www.wwdjapan.com/823023?fbclid=IwAR2lPme9q7iZGs84XVbJBajtF-UpcJGkls05_CFG4HM5rA1Q7VUvfugLP5Y

 就職活動を行う大学生からすれば、アパレル業界は製造も小売りも一緒くたで、クリエーションの行きつく先がブランド、それを販売するのがショップくらいのイメージしかないだろう。だからなのか、記事はワールドの子会社「ワールドアンバー」に勤務する25歳の営業マンへのインタビューを通じて、卸売りのリアルな現場をクローズアップしたものだ。就活生がWWDをどこまで読んでいるかはわからないが、アパレル業界に少しでも興味があれば、ネット配信に触れる機会もあると思う。

 この記事を読むと、ワールドでさえ未だに住宅地の一角にある小売り専門店が販売する商品を卸売りしているのがわかる。序でに言うと、こうしたお店の中には近隣に直営店がないことで、「コムデ・ギャルソン」や「サカイ」なんかを扱っているところもある。世界的な有名ブランドであっても、全国各地の隅々にまで商品を行き渡らせるには、卸の力と小売り専門店の存在が不可欠なのである。


 この営業マンは神奈川、埼玉、一部西東京にある「ブティック」(仏語で小さな店の意。特定デザイナーの商品、ハイセンスな服や装飾品を扱う。高級専門店とも解釈される)を中心に、個人経営の専門店70店を担当している。1店舗あたりではワールドが卸す商品のシェアはそれほどないため、いかに高めるかが当面の目標だ。

 街のブティックとは言っても、高齢のオーナーや中高年のお客が少なくなく、営業マンは商売がジリ貧になのを目の当たりにしている。今後もお店を続けてもらうには、商品を仕入れてもらう前段階の関係づくりが重要なようで、売場の電球を替えたり、安い備品を遠くまで買いに出かけたりと、ご用聞き役もこなしている。これは地方銀行の渉外担当も似たようなもので、日本特有の泥臭い営業のスタイルだ。

 こうしたアパレルの卸営業にスポットが当たるのは、ECのようなシステム、AIといった機械に置き換えられない部分をいかに人間が担うかが重要だからだと思う。まして全国どこでも同じブランド、同じ商品が手に入る中、それを面白くないと感じるお客は少なくない。どんな地方に行こうと、洋服に拘るお洒落な人は、必ずいる。絶対数は少なくなっているが、素材、デザイン、色でファッションを選び、いいものならカネに糸目は付けないお客は存在するのだ。

 そうした人々が今も地域のブティックを支えている。店舗ごとでは点にしかならないが、エリア規模なら線にでき、全国レベルでは面になり、一定のマーケットを構成する。営業マンはショップオーナーやお客との何気ない会話の中から、商品ニーズを嗅ぎ取って企画部門にフィードバックしたり、会議の題材を整理して商品づくりのヒントに生かしていくのも、卸営業としての役割なのである。



 ただ、オーナーも顧客も高齢化し、個人専門店の経営は厳しい。中には小売りとメーカーとの主従関係をいい事に、横柄な態度を取るオーナーもいる。こんな実例があった。ある営業マンが期日に卸し代金の入金がないため店舗を訪れると、オーナーはレジを開け、「今、お金ないんだ」と、語ったという。

 店舗を経営するには家賃、スタッフの給料、光熱費などの経費がかかり、オーナーの報酬も必要になる。それらは商品を売って稼いだ利益で賄わなければならない。ただ、地域の専門店の場合、毎日、次々とお客さんが訪れ、生活必需品ではないファッション衣料を買っていくとは限らない。購買動機が新シーズンの到来やハレの日に集中すれば、コンスタントな売上げは立ちにくいのだ。待ちの態勢ではなく顧客のもとに売りにいくケースもあるが、「長年の付き合いがある常連客には、代金をもらわず商品をお客に渡す」店もある。ある時払いの催促なし、いわゆる「掛け売り」って奴だ。個人専門店では長年来行われて来た商慣習でもある。

 クレジットが導入されても、伝票の購入日を空欄にして信販会社には締め日に送付せず、お客の支払いを先延べさるケースもあったくらいだ(現在では不可能)。店側がお客の懐具合を慮ってか、それともお客が購買意欲を抑えきれないからか。どちらにしても、店舗に入って来るキャッシュが少なければ、メーカーに支払えるはずもない。手形を振り出していれば、不渡りになるわけだ。

 商売人のプライドがあれば、何とか金策に走り回るだろうが、中にはメーカーとの主従関係を盾に取って開き直るオーナーもいる。ワールドが寺井秀藏社長の時代に卸営業を縮小し、SPAによる直営店事業に舵を切った背景には、企画から生産、販売までを一体化して売り上げ効率を上げる目的があった。しかし、もう一つの理由として「卸先である小規模専門店から売掛金の回収が難しくなった」こともあると、言われている。

 今回のインタビューで記事を書いたWWD Japanのライターは、前出のようなアパレル独特の商習慣というか、いやらしい部分までは知らないだろう。仮に知っていて営業マンに質問したとしても、相手の反応を聞き出し記事にするにはあまりに生々しいことだ。大学生が実情を知ると、ますますアパレル業界を敬遠するかもしれない。

 まあ、就職活動が解禁されて説明会に参加する学生は、企業からすれば就職への意識が低いと映るようだ。企業側はすでに昨年の6月から3年生に向けたインターシップを開催。それに参加する学生が意識が高いと見なされて水面下で面接を受けるかたちとなり、内々定をもらう学生すらいるという。国や経団連の取決めを真に受けた学生にはずいぶん理不尽なことだが、「今や就活のルールなんて形骸化している」を前提に行動することが大人、社会人の第一歩なのかもしれない。企業社会の最前線では、ビジネスは杓子定規に行かないことの方が多いし、いろんな試練が待ち受けいるわけで、学生にはそれを乗り越えられるタフさ=狡猾さが求められるという点では、アパレルのことも少しは知っていても損はないと思う。

 記事に登場した25歳の若者も、こうしたアパレル独特の悪習に直面した時、会社のコンプライアンスと店とのアカウント維持というジレンマに苛まれるかもしれない。その時にどう対応し、その経験を自分のキャリア形成にどういかしていくかが大切なのである。

 アパレル小売りの仕組みは大きく変わっている。BtoC(企業対消費者)の取引は、無店舗、EC、キャッシュレス、即時決済と進化している。商品の動きを管理する電子タグもコストダウンが進んでいる。それが個人専門店向けの商品にも導入されると、おそらくスキャンしてレジを通さない限り、商品は店の外には持ち出せなくなるだろう。

 メカの発達がBtoB(企業対企業)/卸しと小売りの関係に即時決済をもたらすとはいかないだろうが、悪習の是正には一役買ってくれると思う。小規模な卸先との関係からアパレルメーカーの経営者は声高に叫ばないにしても、掛け売りの防止を念頭に電子タグを導入してもおかしくない。商品の委託、買取は抜きにしてもだ。

 ただ、卸売りの現場では「長年のつきあいじゃんか、そこを何とか」「メーカーさんとの関係も、ドライな時代になったよね」と、言い出す老練オーナーもいるだろう。その時、この若手営業マンが人間にしかできない技でどう切り返すのか。成長した姿を追ったインタビュー記事も読んでみたいものである。



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地方消費の核心とは。

2019-03-06 06:27:19 | Weblog
 業界メディアもすぐに取り上げたことを考えると、注目度は高いようだ。当の熊本ではトップニュースになったのではないだろうか。「熊本パルコ閉店」の報道である。https://www.wwdjapan.com/810414?fbclid=IwAR1ycdoDTzNJ1qkVXe4cOGrhWg_eqU8OIuJM6JJiMrVgPM0z_7whGz6e8OA

 第一報はNHKだった。2月25日、「ファッションビル『熊本パルコ』が来年にも営業を終了する方向で調整に入った」と、配信した。 筆者はこのニュースに接し「やっぱりな」という印象だった。すでに東京・渋谷の「本丸」でさえ、はるか以前から上層階にホビーショップを誘致するなど、ファッションビルとしての体を成さなくなっていた。

 パルコ側は小規模なテナントビルの「ゼロゲート」、大人向けの業態を集めた「パルコヤ」を開発して売上げ回復と復権を目指しているが、それらも時代をリードしているようには見えない。今秋には渋谷に新しいパルコが登場するが、パルコの地方店がありふれたテナント集積で競争力を持てるはずがないのだ。その結果が相次ぐ閉店であり、熊本も例外ではないだろう。

 2月28日、パルコは正式に「熊本パルコは2020年2月29日で、賃貸契約の満了に伴い営業を終了する」と、発表した。それだけでは終わらず、翌1日には牧山浩三社長がわざわざ熊本まで出向き、会見を行った。入居するビルは老朽化のために取り壊され、新たに「複合ビル」が建設される。牧山社長は「この1年で新たな業態のイメージを示したい」と述べ、撤退ではないことを強調した。

 デベロッパーとしてパルコブランドを築いたプライドからか、 それとも自治体や地元から圧力がかかったのか、とにかく火消しに躍起のようだった。新ビル構想では「エンターテインメント機能を持たせたい」とのことだが、テナント頼みでどこまで斬新さや集客力を発揮できるかは全く不透明である。

 大西一史熊本市長は地域経済への影響を懸念することから牧山社長と面談し、まずは従業員の雇用について最大限の配慮を求めている。市長自らが一商業施設の閉店に口を挟むのは異例のこと。地方都市の中心市街地が地盤沈下していることを考えると、熊本がそうなるのを避けたいとの思いが滲む。

 パルコが概況を報告する「FACTBOOK」の2017年版を見ると、熊本パルコの売上げは12年度こそ52億5800万円で、前年同期比103.2%だったが、13年度から15年度までは3年連続で前年割れとなっている。16年度は54億8200万円で、前年同期比で106.3%をマークしたが、これは熊本地震で郊外にある「イオンモール」や「ゆめタウン」が休業を余儀なくされたため、一時的にパルコが潤ったに過ぎない。

 郊外のSCが再開した2017年度は、年商48億8900万円、前年同期比79.9%(FACT BOOK 2018版より)と震災前の状況に逆戻りしている。復興需要の反動をもろに受けたと言い訳したところで、実質は5年間も売上げ減が続いたのだから、テナントビルとして危機的な状況と言うしかない。地下1階から地上9階の10フロアに69のテナントを抱えても、年間で50億円も稼げないのだ。株主総会で投資家から突っ込まれる前に、経営陣が「閉店」を決断してもおかしくないということである。

 もっとも、こうしたニュースが駆け巡ると、地元メディアが拾い上げるのが「惜しむ声」だ。「よく買い物したのに残念」「街の魅力がなくなってしまう」「待ち合わせ場所だったのに」等々。挙げ句の果てには商店街の関係者からは「中心部から客足が遠のき、活気を失ってしまう」なんて声まで挙がる。おそらく熊本も似たようなものだろう。

 しかし、テナントビルが閉店するいちばんの理由は、売上げ不振である。言うなれば、お客がカネを落とさなくなっているのだ。しかし、お客が服や小物を全く買っていないわけではない。若者ほどネット通販を利用したり、メルカリなどで中古品を購入している。欲しい商品がパルコでは揃わないにしても、自らがパルコ離れの一因でありながら、閉店を惜しむのは筋違いの気もする。というか、メディアがそう誘導しているふしがある。

 まあ、経済部と社会部で記者の報道姿勢が違うから、全国とローカルのテレビニュースや新聞紙面で伝えられる内容が違うのは当然だ。しかし、曲がりなりにもメディアなら熊本パルコが閉店に追い込まれた根本原因を取材して、冷静かつ客観的に報道する必要はあると思う。感傷を煽ったところで、地方経済は活性化しないのである。

 熊本では2017年に同じ下通商店街にファッションビルの「COCOSA」がオープンした。今秋には桜町地区の再開発事業で商業施設が開業するし、中心部から少し離れた熊本駅でも2021年のオープンに向けてJR九州の駅ビル(アミュプラザを含む)の開発が進んでいる。

 以前にこのコラムでも書いたが、商業施設を開発するにはコンテンツであるテナントを誘致することになるが、アパレル業態は既存店とのバッティングやエリア指定などから、リーシングは容易ではない。COCOSAのケースでも、予想通りに出店したのは熊本に既存店がない「ジャーナルスタンダード」「フリークスストア」「アーバンリサーチ・ドアーズ」等々と、他にはセカンドブランド群である。




 桜町の商業施設は福岡のスーパーが入居することが決まったが、他のテナントについての詳細は公表されていない。バスターミナルやホテル、住宅、文化施設が併設されるので、おそらく中高年を意識して、テナントは雑貨や飲食が主体になると思われる。それより気になるのはJR熊本駅ビルの動向だ。

 JR九州は2011年に開業したJR博多シティの「アミュプラザ博多」で、同じ福岡の天神にある有名ブランドをほとんど誘致した。市場規模が熊本の数倍はあるため、ブランドによっては福岡2店舗態勢が可能となり、開業からずっと前年同期比で増収を続けている。実はアミュプラザを運営する㈱博多ステーションビルは、パルコのノウハウを採り入れているのだ。当然、親会社のJR九州としては鉄道事業以外を強化していることから、熊本駅ビルの開発でもテナント誘致を強力に推し進めていくのは間違いない。

 少子高齢化による市場縮小やネット通販の浸透を考えると、熊本では福岡のようなブランド2店態勢は考えにくい。となると、鶴屋百貨店の東館からNew-S館、WING館、通町筋、下通商店街、COCOSAまでに店舗を構えるブランドが「アミュプラザ熊本」に引き抜かれないとも限らない。パルコやビルのオーナーが「複合ビル」を検討するのは、今後JR九州との間でブランド争奪が激化するのを想定したからとも考えられる。

 むしろ、鶴屋百貨店や下通繁栄会、COCOSAの方が、テナント引き抜きで中心部の集客力が落ちるのを懸念しているのではないか。だからこそ、どういう形であれ、パルコに残ってほしいのだ。大西市長が牧山社長を市役所に呼びつけ、コメントさせたのもパルコ閉店による市民の消費減退をストップさせたい意図があるだろう。

 ただ、複合ビルにエンタメ機能を持たせると言っても、地下アイドルの舞台小屋なら多少の集客にも期待できるが、eスポーツを中心としたゲーセンの寄せ集めでは、中高生の溜り場にならないとも限らない。それに複合ビルを建設するにしても旧パルコと建坪は変わらないわけで、33年の顧客蓄積とマーケット浸透が本当に競争力になるのだろうか。

 実際には熊本の中心市街地は、非常に厳しい状況が続いている。下通商店街ではパルコより150mほど先に店舗を構えていたZARAが昨年8月に撤退した。ZARAは地方ではEC購入がますます加速していくのを念頭に、実店舗を閉店してもEC拡大を図る戦略に転換している。そのため、郊外SCの大型店は残しても、都市部の小型店舗を閉じるのは吝かではないのだ。

 同時期には鶴屋百貨店の子会社が運営していた食品専門店「ラン・マルシェ」が、売上げが目標を届かないことから下通商店街の店舗を閉鎖している。加えて、COCOSA地下に出店したイオンの高級スーパー「Food Style Store」も、開店から売上げ低迷が続き、ものの1年でMD修正を余儀なくされた。ZARAは別にしても、他の業態が閉店や政策変更に追い込まれるのは、あまりに「背伸び」し過ぎて、増え続ける高齢者に目を向けず、市場ニーズと乖離した商品政策をとった結果ではないのか。

 背景には、熊本が自称する「ファッションの街」があると思う。アパレル業界では以前からそう言われていたので、筆者も聞いたことはあるのだが、時代が完全に変わったのに未だに持ち出すのは自惚れでしかない。筆者が住む福岡もそうだが、熊本とてウエアや雑貨、食品などを小売りする術しかなく、お洒落を創造する土壌もシステムもないのに、ファッションの街が成り立つわけがない。

 これまでも単にブランドを消費してきただけに過ぎず、オリジナリティのある商品を創り出す人間もインフラも皆無に近い。それをファッションの街と呼ぶにはあまりに想像力を欠いた物言いだ。これには地元メディアの責任もあると思う。まさに熊本パルコが閉店に追い込まれたのは、ブランド消費しかしてこなかったツケで、陳腐化すれば消費は一気に減退することを如実に表している。

 来月20日に開催される「東京ガールズコレクションin熊本」も然り。ファッションの街を標榜するのなら、パッケージイベントの客寄せ興行くらいでは満足できないと思うのだが。これについてはイベント期日前に書くことにする。

 まあ、熊本パルコの閉店でリストラされる従業員が一番思っているだろう。「私たちがクビになれば、COCOSAの商品も売れなくなるかも」「エンタメって、そんなに人を雇ってくれるの?」。GAFAという巨大勢力が世界中の隅々まで入り込んで収奪し、リアルな業態が次々と駆逐されていく中で、これから地域、ローカル消費の核心とは何か。熊本のような地方都市こそ、街を退化させないためにも考えていくべきではないかと思う。

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