HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

リサイクルSが不要品?

2019-05-29 04:51:12 | Weblog
 先日、ネット記事で、こんな見出しが目を引いた。

 「フリマに押され、リサイクルショップ倒産急増!…」https://netallica.yahoo.co.jp/news/20190525-02582807-jct_kw

 記事はリサイクルショップ全体について書いているので、ブランド古着の次元でみると若干意味合いが違ってくるかもしれない。ただ、中古品売買全体がインターネットに食われているのは紛れもない事実。中古のブランドファッションを販売する業態にも、危機が迫っているのは否定できないと思う。

 昭和の時代は路地裏にあったアングラな「古着屋」が、デフレ禍による高額品の購入減退で表通りに出現して20年余り。ブランドファッションの中古品は、リサイクル業態の隆盛とともに、若者を中心にライフスタイルに溶け込んでいった。

 一方で、90年代後半からはインターネットが普及。このチャンネルを生かしたYahoo!オークションが登場し、不要になったブランドは個人でも気軽に売り捌けるようになった。ネットが「売りたい人間」と「買いたい人間」を時空を超えて結びつけたのだ。それまでの中古品売買に対するネガティブさは完全に払拭され、今日ではe-Bayのように世界規模でのオークションも浸透しつつある。

 売買のハードルが下がったことで、売る側には「せっかくなら少しでも高く売りたい」という心理が働く。だから、まずは居住地近くにリサイクルショップがあれば、そちらに持ち込んで買取査定を受ける。ネットオークションに出品する手間や落札後の梱包、発送など手間が面倒なお客は査定額に満足すれば、そのまま買い取ってもらうはずだ。逆に金額に不満なら、オークションという市場に賭けるのである。

 買う側のお客は欲しいブランドがあると、一応リサイクルショップを見て回るだろうが、端から品揃えや在庫点数が限られるから、「掘り出し物なら購入する」くらいの期待しかない。お目当てのブランドやアイテムが見つからなければ、在庫が豊富なネットオークションを探すのだ。

 売る側と買う側を直接つなぐリサイクルショップは、「何でも買い取る」と謳っている。しかし、実際に査定して値を付けるのは、人気ブランドや旬のアイテムに限られる。ビジネスとしてペイさせるため、再販、二次流通を行うからだ。元値がいくら高い商品であっても、買い手がつかなければ在庫の山と化す。家賃や人件費などのコスト負担もあり、それらを吸収できないものは単なるゴミでしかない。処分するにもリサイクル費用がかかるので、赤字になってしまう。

 だから、売る側は中古品売買を経験するほど、「ショップに値踏みされて買い叩かれ、あるいは買取を拒否されるならネットで売った方がましだし、できるなら少しでもお金にしたい」という学習効果が働いていく。そうした心理変化の最中に登場したのが「メルカリ」だ。ネットオークションのようにいろんな条件や細かなルールがなく、スマートフォンにアプリをダウンロードすれば利用できる。後は売りたい物品の写真を撮り(バーコード出品機能も)、サイトに必要事項を記入すれば、出品は完了する。

 買う側にもメルカリはスマホ一つで購入できる気軽さ、掘り出し物を見つけられる楽しさ、即決できる点がウケている。一応、個人間の売買に限定されるので、業者が入って来ることを排除する「業者認定」を設けたり、公序良俗に反する物品は削除するなど、監視の目も厳しい。

 さらに売る側、買う側双方の保護として、ネットオークションで問題となった詐欺やトラブルを回避する「エスクロー決済」(メルカリが商品代金を仲介して預かり、双方の取引評価完了後に売上金を移すもの)も導入されている。

 昨年7月時点での国内ダウンロード数は7100万、利用者数は月間で1000万人を超えている。1分当たりの出品数は3000件で、このうちブランドファッションはどれくらいを占めるのか。仮に1割としても1日当たり4万点以上が出品されていることになる。買う側からすれば、それだけお目当てのブランドに出会う確率は高くなるのだ。

 先日、知り合いがSNSに投稿していた例では、メルカリに出品したブランドの時計は、ものの10分で買い手がついたとか。それだけ物品の滞留時間が短い、つまり回転が速いという証左だろう。



 メルカリ登場以前から、ブランドを売買するリサイクルショップの中には、自社サイトを開設してECによる直販やオークション出品を進めているところがある。だが、全国チェーンでは商品は各店舗の在庫で、詳細は問い合わせなければならない不便さがある。また、在庫のピッキングから梱包、発送までのフルフィルメントは店舗のスタッフが行うため、買取査定や管理など以外の作業も増えてしまう。

 実店舗はもともと家賃や人件費がかかっており、この他にサイト運営の経費もかかるのだから、それに見合うだけの売上げがなければ成り立たない。正直、厳しい部分もあるのではないか。ブランドファッションの衣料や小物、雑貨に限定しているから、メルカリが扱う中古ファッションよりも売買機会は高いとも考えられるが、顧客が限定されると逆に在庫の回転は鈍ってしまう。

 商品が代わり映えしなければ、お客の期待も薄れるわけだ。それが売買機会を減少させ、収益が上がらないとキャッシュフローが進まず、新規買取の原資が枯渇する。つまり、仕入れができなくなるのである。もちろん、これは実店舗と並行するサイト販売にも共通することだ。こうした悪循環に陥ってしまったリサイクルショップが倒産の憂き目にあっているのではないかと思う。

 記事では、ネットで集められた中古品全般を扱うリサイクルショップの生き残り策を取り上げている。お客目線の意見だから参考になる部分はあるが、経営論としてはどれも本質を欠いている。

 「ショップも、オンラインで買取価格がわかるようにするといい…
▶事前に買取価格を公開しても、店頭で値踏みされる可能性は排除できない。

 「一定数だけの需要がある物や大きい物は、すべて自社倉庫販売にする。そして、防犯カメラなどをつけて人件費を削減し、回転率が高い物や小さい物は通常店舗販売にする
▶自社倉庫、カメラ設置などで省力化しても、設備投資に見合う売上げを得る保証はない。これまで中古品の査定、買取などを人間が行ってきた(マニュアル化とアルバイト起用)のは、それがいちばんコストがかからないからだ。

 「機械類等、動作保証、重量があるものなどフリマでは割に合わない物に特化するのが狙いどころ
 ▶重量があり、嵩張るものは場所を取るし、管理が大変だ。商品回転率が鈍いと、家賃や人件費の負担が重くのしかかる。家賃が安い郊外に倉庫を設けると、相当数の在庫、魅力ある品揃えを提供しない限り、集客に影響が出る。

 「田舎にも、リサイクルでもいいから派手な服が着たいという年配者が増えています。そういう人のために品揃えをしてほしい
 ▶筆者の叔母も4年前に中高年向けの高級ブティックを廃業した。元値が数万円もする専門店系アパレルで1年落ち程度の服をリサイクルショップに多数持ち込んだが、ほとんど値はつかなかった。ショップ側が再販したかどうかはわからない。しかし、中高年はネットに二の足を踏むし、ショップで値段がつかないと持ち込むお客はいなくなる。

 ネットによる中古品売買が浸透した今、実店舗をもつリサイクル業態は八方ふさがりのようである。ブランドファッションの中古販売に限っても、生き残るのは質屋系の企業が扱うラグジュアリーブランドのバッグや宝飾品の買取販売店か。後はプレミアがつく人気ブランドに特化したり、インポートのセコハン衣料を扱う古着店くらいではないか。それらにしてもECも並行して行い、市場を拡大しなければならないのは当然だ。

 ただ、欧米のラグジュアリーブランドやコムデ・ギャルソンのような人気ブランドに特化したとしても、サブスクリプションという新たなトレンドが生まれている。「ブランド品もレンタルで十分」「何人かでシェアするのが合理的」と、所有に対する価値感が薄れていく中で、価格が安いからと中古販売ビジネスに先があるのかは全く見通せない。

 純然たるリサイクルショップは、メルカリのように在庫が滞留しないネット業態には太刀打ちできず、自然に淘汰されていく運命かもしれない。逆にコストがかかる中古衣料の売買こそネットに任せ、別の道を模索した方が先は見通せるはずだ。

 それは何か。アパレル業界でも少しずつ言われ始めている「オフプライスストア」ではないかと思う。平成不況の直中にあった1990年後半、その名前がちらほらメディアに登場していた。しかし、「アウトレット」や「ディスカウントストア」などと混同され、正しい解釈が伝わることはなかった。

 ファクトリーアウトレットとは、アパレルメーカーなどが製造した商品の中で、キズものや廃番など正規のルートに出せないものを格安で販売し、現金化する業態。小売業が持ち越した商品を同じように販売するのがリテールアウトレットで、ともに自社で運営。もしくはデベロッパーがアウトレットのテナントを集め、モール化する。ここで敢て言えば、筆者は最初から安く作った専用品を売るのは、アウトレットではないと考える。

 ディスカウントストアは、小売り側がメーカーに対してコストを抑え、商品価格を安くした商品を製造してもらい、仕入れて販売する業態。有名ブランドを大幅に割引するのがアウトレットで、端から安い商品を販売するのがディスカウントストアなのである。



 これに対し、オフプライスストアは、百貨店が取り扱うようなブランドの売れ残り品を「仕入れて」割安で販売する業態を指す。80年代からニューヨークに行き始めた筆者が現地のデパート(たぶん、記憶ではMacy’sだったと思う)を見て驚いたのがオフプライスの売場があったことだ。日本で言うデパ地下は有名ブランドを割引価格で消化するフロアで、商品は天井から吊り下げられていた。

 おそらく商品整理をしなくていいように陳列の乱れを避ける狙いだろう。安くなった有名ブランドを購入するまでには至らなかったが、セール期ではないのにブランドが割引で販売されていることには衝撃を受けた。Macy’sは上層階で同じブランドをプロパーで販売しつつ、並行してオフプライスストアも運営していたのである。

 日本ではセールやアウトレットでも売れ残る商品はバッタ屋に持ち込まれたり、焼却処分されたりする。果てはタグを切られて中古衣料として海外に輸出され、ウエスや再生繊維に加工される。アパレルにとってはブランドのロイヤルティを毀損させない狙いだが、そもそも供給過剰で値引き販売が当たり前になった中、ロイヤルティもクソもない。

 端から原価率を下げて安く作っているものもあるとは言え、価格の高低に関係なく焼却すればCO2を排出するし、すぐに着られる名のあるブランドをウエスや再生繊維にすることも全くバカげている。

 バッタ屋のような買取業者に引き取ってもらえば、現金化できるとは言っても、段ボール箱単位でキロいくらだ。原価割れすれば意味はないし、海外に輸出すればさらに買取額は下がってしまう。だからこそ、取引されなかった商品や売上げ予測をミスった商品などは、買取先が見つからない段階で処分するのがベストだと思う。

 人気ブランドは中古品でも、二次流通が盛んなのだから、「新古品」なら引く手があるのは明らかで、値ごろなブランドならマス市場を作ると思う。ネットに押されて勝ち目がなくなったリサイクルショップが活路を見い出すとすれば、全く発想を変えて過剰在庫を仕入れて売り捌くことではないだろうか。売上げ不振に陥っているしまむらは、思いきってオフプライス業態に舵を切った方が得策との意見もあるくらいだ。

 アパレルが製造した商品在庫は、期末に課税されるからこそバーチカル(垂直)な流通構造のもとで確実に消化し、現金化することがビジネスのセオリー。それがキャッシュフローを円滑にしていくのだ。ならば、それらを仕入れて転売する二次流通の事業者も必要になる。日本でそれをアパレルや百貨店が行えば自らの首を絞めるとメンツを気にするのなら、替わってリサイクル業者が担ってもいいのではないか。

 アパレルメーカーや百貨店がエコやサスティナブル、エシカルといったスローガンを声高に叫びながら、それに貢献するであろうオフプライスショップをタブー視するのは、全くもって自己矛盾と言わざるを得ない。


 
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製法が生んだ普遍D。

2019-05-22 06:40:23 | Weblog
 だいぶ前、取引先のセレクトショップで、女性スタッフがこんなことを言った。

 「うちの社長、靴が好きなんで」

 ファッション専門店を経営する人間はどこかに、また、何かに拘りがあると思うが、「靴」というのはシャレオツの最たるもの。この社長は自ら声高に主張するタイプではないから、さりげなさの中でスタッフも何となく気づいていたのではないか。

 ただ、経営者としてはスニーカーのように数が売れて、利益が取れる商品がいいだろう。しかし、職人が手塩にかけて作る革靴への思い入れは人一倍強いようで、店頭に並ぶ靴は個性的なデザインや革使いに特長のあるものばかり。それらを見ると、改めてスタッフが語ったことにも頷けた。

 このショップでは創業からDCブランドを扱ってきたおり、ヨウジヤマモトとアディダスがコラボした「Y-3」についても、ブランドデビューから一部を仕入れて展開していた。2005年頃、デビューから5〜6年経っていただろうか、実際にどんな商品なのか試してみたいと思い、何点かピックアップしてもらった。



 ウエアはアディダスのジャージに使用しているものと同じ素材が使われ、シューズもスポーツ系から派生したようなものだった。とは言っても、デザイナーブランドだけにディテールは斬新で、シューズにもヨウジヤマモトの感性が息づいていた。一方で、社長の靴に対する思い入れには陰ながら応援したい気持ちもあった。Y-3についても、どんなブランドなのか、試すなら今だなとシューズの「FOOT BALL TRAINING ENTRAINEMENT」を購入した。

 Y-3のシューズはシリーズで展開されている。今シーズンでは「Runner」とか「Kasabaru」とか「Raito Racer」とかだ。基本的にアディダスの木型を使っているとみられ、形状は外羽根やスリッポン、レースアップのハイテクシューズ等々がある。市販のものの形をアレンジし接ぎのパーツを増やしたり、凝ったカラリングを施したりするなどで、デザイン性を高めている。

 FOOT BALL TRAINING ENTRAINEMENTはそこまでのデザインではなく、その名の通りサッカーのスパイクをベースにしていた。生産はアディダスが請け負っていることから、シューズの用途はあくまで同社のレギュレーションに乗っ取ったもの。添付された「トリセツ」には、以下のような記載があった。

 フットボール(サッカー)シューズ、ラグビーシューズについて
 ・グランド環境に適したアウトソールを選択して着用ください。

 SG(ソフトグラウンド) 長めの芝生で地盤の柔らかいグラウンド用
 FG(ファームグラウンド)短めの芝生で地盤の硬いグラウンド用
 HG(ハードグラウンド)土のグラウンド用
 TF(ターフ)人工芝
 IN(インドア)体育館・全天候等のフラットなグラウンド用


 いくらファッションブランドとは言え、スポーツテイストのシューズでアスリートがパフォーマンスのために使用することも想定し、レギュラー品のソール仕様を踏襲していたようである。購入したFOOT BALL TRAINING ENTRAINEMENTは、底面のスタッドが細く長めだがゴム製で数も少ないため、HG/ハードグラウンド用、または汎用に合わせたものだったと思う。

 筆者は別にサッカー用に購入したわけではないので、通常のタウン履きとして使用した。靴底は一般のスニーカーよりも弾力があって非常に履きやすく、都市部を仕事で歩き回る筆者には足が疲れることもなく、非常に重宝した。

 堅牢度という点では1〜2年はどうもなかったが、3年目くらいにスタッド部分をくり抜いて、ソール上部とヒールの部分に外貼りされた2つの表底が剥がれて来た。なぜ、アウトソールをこんな2重にしたのかは不明だが、たぶん汎用を考えてスタッド高が低くなるように計算し、歩きやすくするためではなかったかと思う。





 ただ、外貼り表底の裏側をみると溶剤の塗布が部分的で、接着が甘いように感じた。一応、アディダスの仕様に則って製造されているものの、量産品であるゆえに経年による劣化で剥がれて来たのだ。アディダスのスニーカーでも5年も履くと、逆にアッパーやインソールが劣化するが、そちらの方は6〜7年経過してもどうもない。だから、剥がれたアウトソールは、市販の接着剤で留めて履き続けた。

 10年くらい履いて、さずがに接着補修が目立ってきたため、自宅での芝刈り用にした。芝刈り機を押す時にグリップが効いてちょうどいい。購入から14年が経過した今でも、まだまだ十分に通用する。インソールはほとんど劣化していない。筆者の足にはアディダスの木型がいちばん合っていることも理由も一つだろうか。購入した時は3万6000円を超える高価なシューズだったが、14年も履けば十分に元は取ったと思う。

 ところで、今でもジムでのトレーニングやランニングの時には、いろんなスポーツシューズに出くわす。ブランドもアシックスからミズノ、ナイキ、ニューバランスまでと様々だ。最近はフルマラソンに挑戦する人も増えてきているので、市民ランナーが履いているシューズでも一歩一歩の蹴り出しをサポートするクッション性を高めたものが多い。

 どのシューズにも共通するのは、製法が「セメント方式」であること。購入したY-3もそうだった。これは中底を木型に仮止めし、アッパーを吊り込んでその底面とソールの「接合面全体」に接着剤を塗って圧着する方法だ。構造上、簡単に製造できて量産に向き、コストが抑えられるので安価になる。デザイン面でも制約が少ないから、いろんな形が企画できるのだ。

 このシューズはランニングの様に一方向への推進、駆動なら問題はないが、縦横、ジャンプなどいろんな方向に動くスポーツでは、ソールが剥がれるリスクがある。現に今年2月、米国ノースカロライナで行われたNCAAバスケットボール男子の試合中に、NBAからドラフト1位指名が確実視されているザイオン・ウィリアムソン選手が踏み込んだ左足のシューズの靴底が剥がれ、転倒してひざを負傷している。

 シューズはナイキ製の「PG2.5」で「ベトナム」で生産されたものだった。負傷直後には3試合連続で同じ靴を履いていたとか、体格にあったものではなかったとか、いろんな報道があり、憶測を呼んだ。プロならケガを防止するために、1試合毎または1週間で靴を新調するという常識論まで飛び出した。

 まあ、まだ学生であるウィリアムソン選手をプロと言えるか、また、仮にナイキと契約していたとしても、シューズの製法がセメント方式である以上、新品であっても絶対にソールが剥がれないという保証はない。

 そこで、どうしても行き着いてしまうのが、バスケットシューズの原点とも言える「コンバース」、そしてその製法の「バルカナイズド」だ。かつて日経MJがスニーカーの特集した時、「コンバースはもともと米国陸軍が訓練のためにバスケットボールを取り入れ、そのシューズとして採用された」と、記していた。

 コンバースについては今さら語る必要もないだろう。バルカナイズド製法とは、アッパーを吊り込んだ後にソールとの間に固まっていないゴムを挟んで底金型にセットし、100度以上の高温で圧力を加えながら硫黄などを加えることで、ゴムを固めて本体とソールを接着する手法だ。

 言い換えれば、コバの部分がゴムで覆われソールとアッパーの結合が非常に強いことが、バスケットボールのようにいろんな動きに対応するには最も理想的なのだ。今やコンバースはスニーカーとしてすっかりクラシカルになってしまったが、スポーツシューズに必要な耐久性を担保する製法が普遍デザインを生んだのだから、因果の巡り合わせとはそんなものなのだろう。

 一方、Y-3についてはその後もジャージを購入して来たが、シューズは高価なために先の経験から二の足を踏んでいた。いくら好きなテイストとは言っても、大枚をはたく上で堅牢度は譲れない。事務所近くにはY-3の直営店があるのだが、靴が好きというセレクトショップの社長には、ご無沙汰している。久々にお店を訪問したい思いもある。

 自分は小売りの人間ではないから、ショップ経営者のキャラに惹かれると、不思議に店頭で購入したい気分になる。Y’sのジャケットの時もそうだったが、欲しい商品は前もって伝えると、ちゃんと仕入れてくれる。「TANGUTSU」シリーズなどバルカナイズド製法を採用したものも発売されているので、秋以降に2足目として試してもいいかと思い始めている。






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欠品Tは諦める。

2019-05-15 06:27:03 | Weblog
 2015年の国連総会で、貧困や飢餓の撲滅、質の高い教育、性差別の廃止、働きがいと経済成長、技術革新の基盤づくり、不平等をなくすなど17項目が「持続可能な開発目標SDGs(Sustainable Development Goals)」として採択された。これを契機にアパレル業界でも「サスティナブル(持続可能性)」という言葉が定着しつつある。

 業界では、原材料生産の川上から製造卸の川中、小売りの川下までにいろんな業者が介在し物品やサービスを供給する。そのため、複雑な「サプライチェーン」が生まれている。そこでは羊毛や綿花の生産で自然との共生が無視されたり、子供たちが学校にも行かずに工場で働いたり、廃棄物が地球環境に大きな負荷をかけるなど、課題は山積する。

 SDGsに掲げられた地球環境の保全や働く人々の平等や成長、製造と消費の責任は、アパレルビジネスに携わるすべての利害関係者が取り組むべき大命題なのだ。そうは言っても、経営のトップが川上から川下までの隅々に目を配り、コントロールするのは不可能に近い。具体的な例を挙げてみよう。ザラやギャップ、ユニクロといったグローバルSPAは典型的だ。

 彼らは企画から販売までを一貫する中で、マーチャンダイザー(MD)は商品製造の中核をなす。経営者が設定した売上げ目標から、カテゴリー別やアイテム別の生産数量を割り出し、素資材の調達から生産までを管理。そこでは原価やコスト、利益、納期を計算して、世界中の工場に商品製造を発注するのだ。

 ただ、生産量は膨大になるため、MDが工場の態勢から商品の1点1点までを細かくチェックすることはできない。本来なら経営者がサプライチェーンをガラス張りにし、管理監督する必要があるのだが、いろんな業者が介在する複雑さがそれを難しくしている。

 こんな事故があった。数年前、バングラデシュのダッカ近郊で縫製工場が入るビルが崩壊し、100人を超える死者を出した。この事故は低コストで仕事を受ける工場の劣悪な環境、労働者の命が蔑ろにされているのを露呈した。個々の経営者が売上げだけを追求し、バランスシートしか見ていなければ、そうなるのは当たり前である。

 以前から企業の社会的責任(CSR)は大企業を中心に謳われていたが、個々のアパレル企業でも構造的な課題に直面したことで、サスティナブルを事業戦略の柱にするところが出始めている。今やアパレル生産の海外シフトは当たり前で、商品価格が下落する状況では高コストの日本生産というわけにもいかない。仕事が来なくなっている国内工場とて労働環境や賃金、人材などで問題を抱えるのは変わりないのだ。

 「ライフスタイルアクセント」は、こうした課題に積極的に取り組んでいる。メイドインジャパンの商品を適正価格で消費者に販売することで国内工場の自立を促し、人材育成や技術伝承への道筋を付けるものだ。商品はインターネットを通じて販売し、「ファクトリエ」ブランドのジーンズやシャツには、ファンもつき始めている。

 先日、同社は種から育てたオーガニックコットンで服を作る「コットンプロジェクト」に取り組むと発表した。https://gunosy.com/articles/aD2Bs山梨県の農地約10アールを管理する農業法人と契約し、無農薬、有機肥料による綿花栽培を委託。収穫を見込む約30キロの木綿と先に調達した70キロの木綿とでTシャツやミニタオルを製造するという。サスティナブルという壮大な目標達成には、まずはできることから取り組む。「隗より始めよ」ということだ。

 同社はすでにオーガニックコットンのTシャツを、メンズで2型、4サイズ(S M L LL)、3カラー(白、黒、紺)で販売している。価格はクールネックが6000円(税抜き)、Vネックが6400円(同)。厚みは薄手というから、4〜5オンスくらいだろうか。

 通販サイトを見ると、5月14日現在で黒のMを除き、在庫はある。国内製造の復活、大量廃棄やCO2発生の解消を両輪で進める企業理念は素晴らしい。でも、消費者はTシャツを1シーズンの消耗品ととらえがち。お客がオーガニックの思想を受け入れて購入し、愛着をもって長く着てくれるかは不確かだ。

 先日もこのコラムで書いたが、Tシャツは色やプリントを施してファッションアイテムとしての価値をなす。ただ、メリヤス生地を染色する時点で、すでに染料や助剤には化学物質が使われているし、プリントはインクジェットでこれも石油由来の顔料だ。地球環境への負荷を取り除くには、この行程から見直さなければならない。

 ファクトリエのオーガニックTシャツでは、国内製造で地球環境への配慮した染料が使われていると思う。ただ、オーガニックとは言え、売れ残って在庫を抱えてしまうと、物理的にはそれらの処分やリサイクルも必要になる。サスティナブルは製造から販売までのすべての行程で考えなければならないのだ。

 すでにアパレル業界では大量廃棄対策として、AIを使って需要予測を立てる手法をベンチャー企業と組んで開発したところもある。ある企業ではAIで需要予測を立て、「仕入れた在庫で売れた商品の割合」、いわゆる的中率が5ポイント、利益率で10ポイントも改善したという。

 これだけ見ると、AIがアパレルの難題を解決してくれる救世主のように思える。しかし、ことはそんなに簡単ではない。なぜなら、小売りの段階になると、AIで需要を予測できたとしても、供給量が抑えられることにはならないからだ。アパレル商品を販売する小売店は誰でもできるし、店舗数が増えれば仕入れる商品は量産される。それらが売れなければ、バッタ屋ルートに流れ、そこでも消化できないものは廃棄される。店が出店される限り、決して廃棄が減ることはないのである。

 アパレルの場合、商品が売れない店舗は潰れるが、食品を扱うスーパーやコンビニは潰れなくても廃棄ロスを出し続けている。セブンイレブンのように売上げ拡大のために加盟店に大量に仕入れさせるケースは、大量廃棄を生む原因でもある。結局、経営者が売上げや利益でしか判断しないのなら、廃棄ロスの解消なんて進みようがない。

 やはり、改めて商品を作る側、売る側だけでなく、お客というか購買時点でものを考えるべきではないかと思う。話は少しそれるが、昨年、雑誌のレオンが「白T、白スニがあれば「上下おソロ」はキマるのです」という特集を組んだ。そこで、肉厚のプレーンな「Tシャツ」を取り上げていたので、似たものをネットで探し購入した。

 オーガニックではなく、USAコットンのようなシャリ感もないが、10オンスの分厚い生地が使用されており、洗濯しても襟ぐりは伸びなかった。汗かきの筆者にとっては吸湿性もよく、汗染みもほとんどわからない。10月の東京出張で歩き回った時も、快適に過ごせてたいへん重宝した。今年も追加購入しようと、サイトの在庫を見ると、別表のように5月中旬時点で、白(15)、黒(16)はXS、Sを除き、すべて完売している。



 カラーは他に杢グレー(2)、 紺(8)、ナチュラル(115)がある。杢グレーと紺が全サイズで在庫があるが、XSは900枚以上、700枚以上残り、XLでは100枚台と少ない。白はXSは2000枚以上、Sは700枚近く、ブラックもXSは1800枚台、Sは1100枚台と在庫を残す。ナチュラルはXSを除いて完売だ。

 実需の夏を前に欠品しているもの、大量に売れ残っているものがあるのは、どうなのだろうか。 おそらく前年度からも持ち越し在庫で、発注量がカラー、サイズで違うと思われるので一概には言えないが、ヘビーウエイトのTシャツの売れ筋傾向を知ることはできる。この在庫データをAIにインプットすると、どう判断するかである。

 人間の頭でも数値だけ見れば、以下のようなことが考えられる。

Tシャツへのニーズが高まる時期を前に、完売、欠品しているアイテムがある

ヘビーウエイトなのに男性ウケの色やサイズでは適正な在庫量が積まれていない

ヘビーウエイトだから売れ筋の白や黒でも女性向けのスモールサイズは受け入れられない

等々だ。

 こうした傾向からいかに「解」を導き出すか。これについてはMDの専門家、マサ佐藤氏の領域なので多言は避ける。ただ、夏向けの白、ナチュラルは在庫量を厚くしても、スモールサイズはカットするか、発注量を絞り込む。男性ウケするビッグサイズは逆に増やす。杢グレーや紺は全体的に発注量を抑える。これらは素人でも考えられることだ。

 アパレルの経営手法では、かつてからPOSやクイックレスポンスが導入されて来た。しかし、一方で、どこのメーカーも売れ筋は量産して大量の在庫を抱え、小売り側も欠品や機会ロスを恐れるあまり商品を多めに仕入れるから、供給量は一向に減っていない。それが大量廃棄を生み出し続ける元凶なのだ。AIを導入してもこれが変わらなければ、サスティナブルはスローガンで終わってしまう。

 やはり在庫が残る、在庫を残すのなら、端から作らない。また、思いきってアイテム、サイズ、色を絞り込み売り切れご免とする。追加生産もこれらに準じる。これがサスティナブルの原点になるのではないだろうか。そこで筆者が個人的にできるサスティナブルは、プロパーで売り切れる人気アイテムは、欠品のままなら諦める。1シーズンの消耗品は購入しない。今着ているものは破れてウエスしかならない段階まで着続ける。ただ、そうすると、この夏も買い物することは、なさそうである。

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わざわざ行く難しさ。

2019-05-08 06:35:12 | Weblog
 先日、アパレルメーカーの「ジュン」グループが福岡市の中心部、天神から西へ1kmほどの国体道路沿いに「ビオトープ福岡」をオープンした。1階がカフェ&レストラン、2階がセレクトショップ、さらに右手にはボタニカルショップを併設し、観葉植物やガーデニング用品なども揃える複合業態だ。

 裏手に福岡城趾、前に護国神社と緑に囲まれる立地。少し手前はけやき並木にマンションが建ち並ぶ瀟酒な通り(通称:けやき通り)で、店舗の先を右に折れると市民の憩いの場「大濠公園」がある。東京で言えば、さながら皇居と広尾と井の頭公園を合体させたようなロケーションだろうか。

 ニューヨークから福岡に戻り、天神界隈を仕事の拠点にしたのが20数年前。福岡城趾、大濠公園一帯は仕事後のランニングコースにしていて、店舗前は公園への行き帰りに必ず通る。以前は「青山」というレストラン喫茶があり、食事や打ち合わせで何度か利用したこともある。だいぶ前から仮囲いがしてあったが、まさかジュンが出店するとは思ってもみなかった。

 この辺りは筆者の生活圏の一部であり、マーケット特性を熟知しているので、東京メディアとは違う視点で論評をしてみたい。まずはビオトープ福岡の一帯をやや広域にとらえて見てみよう。



 福岡市は天神と博多駅を中心に繁華街を形成する。90年代終わりから2000年代初頭にかけ、天神の西隣の「大名」に次々と若者向けのショップが出店。裏原のようなファッションストリートと化した。当然、人気エリアとなれば、不動産価値が高まるので、家賃は高騰。個人では店舗経営が厳しくなったため、国体道路を挟んだ南側の今泉や警固にもショップが増えたが、ブームの終焉とともに賑わいは沈静化した。

 一方、大名のさらに西側、国道202号線(一部は国体道路とけやき通り)が突き抜ける赤坂エリアは、もともと福岡城下の武家屋敷があったことから住宅地となり、昭和40年代後半から企業の社宅アパートや分譲マンションが建ち始めた。大名がストリートブームに沸いた時もけやき通り一帯は何ら影響を受けることなく、住宅地の佇まいを保ち続けた。

 もう少し歴史を後戻りしてみると、けやき通りはすでに昭和50年代に全国メディアが取り上げている。ファッション雑誌のMoreか、Withかがわざわざ取材とモデル撮影まで行い、「天神に勤めるOLが一度は住んでみたい街」と紹介した記事を読んだことがある。ちょうど筆者が福岡を離れていた時期で、「へえ、小学生の時に通っていたけど、ずいぶんお洒落になったんだ」と、思ったものだ。

 時代がバブルに突入すると、今度は不動産業者が注目した。通り沿いの北側では民家や空地が買収され、大型のマンションが建設された。さらにバブルが崩壊すると、不良債権を抱える銀行やゼネコンの社宅用地が売却され、マンションやビルに建て替わった。ただ、通りはわずか500m程度でスペースも限られるため、乱開発には至っていない。

 それでも、けやき並木の瀟酒な住宅地は東京のアパレルから見れば、ブランドの路面出店にかられるようだ。現に「アンダーカバー」が一時、警固側の雑居ビル2階に福岡店を出店していた。確か東京で裏原ブームに火が付き、本店を青山にリロケートした少し後だったか。九州でも顧客が増え始めていたから、出店にも自信があったのだろう。だが、天神からわずか数百メートル離れただけなのに思うような売上げが見込めず、大名の天神西通り近くに移転した。

 現在でも、けやき通り沿いでは何軒かのファッション系店舗が営業している。ずっと続いているのは天神寄りの店舗で、アパレルメーカーのアンテナショップ、イレギュラーサイズの専門店、デイリーカジュアル&生活雑貨店くらいだ。詳細なところはわからないが、マンション建設にあたってオーナーに地主還元された店舗もあるかもしれない。

 護国神社近くにあった神戸アパレルのミセスショップは、逆に30年以上の長きにわたって営業を続けていた。往年のDCブランドファンが好みそうな素材感やデザインで、天神や博多駅の店舗にはないテイストから顧客がついていた。しかし、それも高齢化により何年か前に閉店を余儀なくされた。けやき通り沿いでは退店はあっても出店は簡単にいかない。出店しても経営を維持するのは容易ではない。ビオトープ福岡は通りの外れとは言え、ファッション業態では久々の登場。まさに冒険だ。



 ジュンとしてはロケーションを生かし、飲食やグリーンを合体させることで、集客を図る狙いのようだ。開発にあたった関係者もメディアに「わざわざ訪れる立地だからこそ意味がある」「多くのお客さまがECに流れる中、リアル店舗は利便性とは別軸の価値を提供しなくてはならない。わざわざ来店していただき、極端にいえば2〜3時間くらい滞在して、買い物をしたり、お茶や食事でくつろいでほしい」と、語っている。

 けやき通り、福岡城趾、大濠公園というエリア特性を考えれば、確かに食事やお茶を楽しむニーズは強い。ビオトープ福岡の前にあったレストラン喫茶青山は、1967年の創業というから50年近く営業していたことになる。閉店理由はおそらくオーナーの加齢と思われるが、1階に6〜7台の駐車スペースがあり、ドライブインの機能をもったことも長く続いた要因と考えられる。隣には自家焙煎の珈琲豆を販売する喫茶店があり、通りを散策する人々には根強い人気だ。

 福岡市は福岡城趾、大濠公園一帯を観光地化しており、中国人の団体旅行客はバスで直接訪れている。一方、韓国の若者などの個人旅行者は、大濠公園には天神から徒歩で向かう。その一つが天神西通り、国体道路、けやき通りを歩くコースで、ビオトープ福岡はその途中にある。カフェは季節の果物を使ったパフェを目玉にし、静岡の紅茶会社と協業したオリジナルティはテイクアウトもできるという。外国人、日本人を問わず若い女性を集客できる要素ではあると思う。

 ただ、ウエアはどうかと言えば、やはり厳しいだろう。先日、ランニングの後にチラっと覗いてみたが、業態はセレクトショップで国内外のブランド(個性的なデザインもあった)や生活雑貨、化粧品などをチョイスして編集したに過ぎない。立地が「わざわざ訪れる」場所でありながら、品揃えは至って限定的で深堀りされておらず、「わざわざ買いに行く」理由にはならないのだ。

 また、「これから顧客を作っていく」と言っても、地域住民は古くから住んいる高齢者か、転勤などで2〜3年で新陳代謝するマンション族だ。天神にはあらゆるエージやマインドに対応するブランドがピンキリで揃う。逆に住民はそんな天神に歩いて行けるのだから、ターゲットにはならない。まさに広尾に住む住民なら、何でも揃う渋谷に行く。それと同じ感覚である。

 また、観光や散策の途中に訪れ、たまたま好きな商品が見つかったから、購入するというケースも極めて希だろう。サザビーリーグが新潮社の倉庫を改装して出店した「ラガク」も、神楽坂というわざわざ行くエリアだった。しかし、飲食は旅行客などに受けたが、ウエアや雑貨は苦戦が続き、MDの変更を余儀なくされた。それと同じような状況が想像される。

 「このブランドだから」「ここにしかないテイスト」「フルオーダーできるスーツ」でもない限り、購入の動機付けにはならず、リピーターにもなりにくい。 神戸アパレルの店舗が30年も続いたのが何よりの証左である。

 ジュンというブランドは60代以上では懐かしむ人は多いが、ファッションに関心がある40代以下ではそれほど認知されてはいない。A.P.C.を失ってからは魅力的なブランドはなく、単体ではロペやヴィス、セレクトでロペ・ピクニックやアダム・エ・ロペがグループ傘下で知られる程度だ。

 ジュングループとしてもアパレルオンリーでは限界があることから、飲食やフィットネス、コスメ、グリーンやガーデニングにも進出し、シナジー効果を目指している。しかし、そうしたピースを組み合わせたビオトープが必ずしも福岡で集客力を発揮できるとは言えない。天神や博多駅が九州全域から集客できているのは、お客にとって百貨店やファッションビルの方がいろんなブランドを見比べて安心して買い物できるからだ。

 つまり、ブランド専門店が集積しているので、そこで完結してしまうのである。福岡の市場を過信してはダメなのだ。あのビームスでさえ、ファッションストリートの大名に旗艦店を出店していたが、ネット通販が浸透する中で店売りは苦戦を続け、パルコ新館に店舗を移したほどだ。天神からわずか200mという距離でも客足は鈍る。福岡では「わざわざ訪れる」ほどの距離感は、集客にもろに影響するということである。

 グリーンにしてもウエアとは同等の扱いにはならない。店舗立地が住宅地だから足下商圏ではガーデニングやマンションに飾るプランター、観葉植物のニーズもありそうだ。それは間違ってはいない。けやき通りから大濠地区かけての高級住宅街は、花卉業者にとってはドル箱エリアで、宅配の車輌が頻繁に走っている。かつては「大濠花壇」というグリーン専門店もあったが、今はない。つまり、ニーズはあるのだが、お客が持って帰ることはあり得ず、固定家賃が高いので店売りだけでは難しいのだ。

 カフェやレストランは最初は物珍しさもあって集客できると思うが、天神に近い今泉や大名にはメニューや味で勝負するところがひしめき合っている。九州の地元野食材を使っているところはいくらもあり、時間が経てば集客の決め手にはならない。ただ、天神には紅茶専門のカフェがないから、紅茶好きの筆者にとってオリジナルティには惹かれる。テイクアウトできるのは、通りを歩く人々にとって大きなメリットだ。

 もっとも、筆者はランニング中はホルダーに入れたペットボトルを携帯している。スマホも入れるアームバンドも走るとズレてくるので、最近はすっかり使わなくなった。現金も小銭はもちろん、札さえ持たないので買い物どころか、飲食もできない。それもすぐに事務所に戻れるから、一向に困らないのである。

 結局、西方面に用事があった時に訪れるしかない。 生活圏にあり週一で必ず店舗前を通りながら、立ち寄る動機が生まれない。わざわざ行く根本的な理由を作ってもらはないと、訪れないまま時間だけが過ぎてしまいそうである。
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創るならこんな店。

2019-05-01 06:29:50 | Weblog
 令和元年、最初のコラム。と言っても、構成や内容は平成をそのまま引き継いでいくつもりだ。ところで、EC、ネット通販の隆盛は新時代も衰えを知らないだろうから、実店舗の役割がますます問われていくと思う。いろんな識者の言説を見ると、いかにしてお客に来てもらうか。それにはネットにはない「リアルな購買を含めた体験」がカギになるという点でほぼ共通する。ただ、現状ではそんな方向性しか見出せていないようだ。

 筆者のように「現物の商品に触れて、色、素材、質感を確認したい」。そして、「試着をしてフィット感や肌触りを確かめたい」「服だけでなく、身につけるものはすべてで」は、もはや少数派。お客がサイトで商品を見つけ、実店舗などで受け取って試着しても、「やはり何か違う」「これじゃ、買う気になれない」となれば、EC部門も店舗も経費は発生するのに売上げがつかず、全くの徒労に終わってしまう。

 ネットビジネスはそれをいちばん嫌うだろうし、そうしないためにはどうするか。事業者はそこに頭を使っているはずだ。ただ、実店舗しかなかった時代にもお客が店頭で商品を確かめ、接客、試着後に気に入らないので、購入しなかったケースはあった。商品は店舗まで配送しているわけだから、当然コストはかかっていたことになる。

 ECは商品が売れないのに店舗、人にコストがかかっているのは、「無駄」として極力排除したい。流通させる商品はできる限り消化する。そのためにAIまで活用してデータを洗い出し市場に流す在庫量を最適化して、利益を最大化したい。そう考えると、ECは、リアルな店でしかい味わえないこと、そして、お客のマインドに訴えるサービスといった数字に表れないものは、重視しないということか。

 ECを主力販路とすれば、企業にとって実店舗とは試着する場や注文の受け取り、他店売り切れの場合の引き当て、宅配出荷という拠点でしかなくなってくる。言い換えれば、実店舗はECにはない体験をいかに提供するかにかかってくるわけだ。では、この「体験」とは何かである。すぐに思いつくのはテーマパークのようなアトラクションだろうか。まあ、ストアレベルで大がかりな仕掛けは無理だから、まずはハード面でお客を魅了する店を作り、楽しい空間で体験を演出するか。そんな店舗が先日、出現した。

 あのティファニーが渋谷にオープンした「ティファニー@キャットストリート」がそれだ。高級宝飾店の敷居を下げ、誰もが気軽に入れるようにし、これまでにはない購買体験を提供することで、ティファニーを知らなかった人々にも商品に触れて買い物してもらうのが狙いのようだ。

 店内はティファニーブルーで統一され、香水が購入できる自動販売機があり、ティファニーTやホームウエアも揃う。宝飾品しか扱っていないというイメージをここで完全に覆している。もちろん、ネックレスやペンダントにつけるチャームには、iPadで書いたメッセージを刻印できるサービスも導入。ジュエリーを手に取って試着できるスタジオまで完備する。さらにカフェまで併設して、コーヒーやドーナツを楽しめるというから、「ティファニーで朝食を」ならぬ、Coffee break at Tiffany’sを地で行く店と言ってもいいだろう。まさにカジュアルで、時流に合わせたショップだ。



 筆者は1980年に初めてニューヨークを訪れて以来、5番街57丁目南東角のティファニー本店は何度となく覗いて来た。店舗は映画に出て来るあの格式ある作りだが、1、2階に並ぶショーケースをくまなく見ると、低価格のシルバーアクセやガラス器もラインナップされていた。その中から「三色三連リング」や「オープンハート」が日本でもリプロされ、免税上限の39800円でヒットアイテムになった。ティファニーは80年代にカジュアルライクなジュエリーのトレンドも創っていたのだ。

 高級宝飾店のブランドを維持しながら、MDとプライシングでは幅を広げて市場を攻略する。90年代半ば、現地にいた時は日本はバブル経済が崩壊し、宝飾品の売上げが下降していた。それでもティファニーは小規模店を百貨店に開設して、さらなるブランド浸透の手を緩めることはなかった。おかげで、知り合いから日本に売っていないアイテムを買って来て頼まれたこともある。まさにグローバルブランドの目ざとさがある。

 すっかりニューヨーク慣れし、ティファニー本店の構造もレイアウトも頭には入ったつもりで店内を回っていると、誤って奥の従業員用エレベーターに乗ってしまった。上がった先にあったのはスタッフが作業する工房。恥ずかしまぎれに「I was lost . Sales floor ?」と告げながらも、 ジュエリーの加工やリフォームに当たる現場の様子を確かめられたのは、実にいい経験となった。



 一方、エンポリオアルマーニは期間限定ながら、いろんなゲームができるイベント「エンポリオ・アルマーニ・イーグルアーケード」を開催した。店舗ではアルマーニのアイコンでもあるイーグル柄のキャンディーがもらえたり、バイクの乗った感覚でタイムトライアルが楽しめたりするゲーム機を設置。缶バッジが入ったカラフルな容器が出て来るカプセルトイマシンまで据付けられたのである。

 イベントは参加者のタイムを記録し男女の優勝者を決定。賞品として時計などが贈られたという。ゴールデンウィーク中には博多阪急、連休明けには高島屋新宿店、5月末には高島屋日本橋店、6月には高島屋大阪店でキャラバン開催されるとか。筆者が住む福岡の岩田屋では4月末に開催されたが、デパ地下以外ほとんど百貨店に行かなくなっていたので、こんな体験型のイベントがあるとブランドショップのみならず、百貨店にも足を伸ばすきっかけになる。

 アルマーニはハイエンドのジョルジオ・アルマーニからバジェットのアルマーニ・エクスチェンジまで、グレードによる多ブランド構成になっている。ただ、店舗は大都市を中心にした展開だ。オフプライスストアでは並行輸入品が出回っているし、偽物をネット通販で販売し商標権を侵害する業者は後を絶たない。昨年も熊本の業者がエンポリオ・アルマーニなどの偽時計を販売し1億円以上を荒稼ぎしたとして、熊本県警に逮捕された。

 ウエアはディフュージョンラインのエンポリオとは言え、高額ゆえに現物確認なしでEC購入とはいかないだろう。しかし、精巧に作られた偽時計になると、ネット画像を見たくらいでは真贋がわからず、価格が手頃ならつい手が出てしまう。実店舗がない地方在住のブランド好きは、悪徳事業者の餌食になりやすいのだ。
 
 だからこそ、アルマーニ側にも「実店舗で現物の商品に触れてもらわないと」という危機感があると思う。そのためには高級ブランド然とした店舗のハードルを下げ、地方の若者でも気軽に立ち寄れるギミックが必要になる。それが若者が取っ付きやすいゲームだったわけだ。商品がアルマーニグッズならインスタ映えし、話題にもなる。



 もっとも、ゲーム機はそこらのゲーセンにあるようなしろものではない。機器全体をアルマーニのアイコンであるイーグル柄で覆うなど演出にも手が込んでいる。カプセルトイマシンに至っては、スタイルだけをみると単なるガチャガチャだが、縦2m横1mのアクリルケースにはほぼ満杯でカプセルが詰め込まれている。お客に「何が当たるんだろう」という気にさせ、インパクトは絶大だ。

 ECはすでに重要な販路で、ますます進化していくと思う。大手アパレルはECを主力販路に位置付ける中で店舗には試着、受け取り、在庫引き当て、宅配出荷などの役割を持たせようとしている。顧客に対してショッピングの利便性を追求しながら在庫の効率を高め、宅配外注費を圧縮するC&C(クリック&コレクト)の機能を充実させる狙いだ。また、ZOZOTOWNもPB事業、ZOZOARIGATOの失敗を受け、アパレルや小売りから在庫を預かり欠品した時の引き当てにする事業を秋から始めるという。

 ECがこれまで店舗で発生していた売り逃しという機会損失から脱却する役割をより強めていくなら、実店舗はますます商品を売る場、買う場だけでは成立しなくなる。ただ、日本企業では経営者がB2C、C2C、B2Bといった販路拡大、市場攻略に傾倒し過ぎることが、クリエイティブな店舗観を盲目にしているような気がする。

 米国ではECに押され、廃墟と化すショッピングモールが続出している。でも、単に小売店を集めただけなら、当然と言えば当然だ。そうは言っても、映画や音楽、スポーツなどお客を楽しませる術では、米国はまだまだ世界をリードする。ティファニー@キャットストリートは、まさにエンタメの本家、米国のなせる技と言える。エンポリオ・アルマーニ・イーグルアーケードにしても、イタリア人的というよりアングロサクソンのマーケティング&クリエイティブ発想のように感じる。

 実店舗だからこそ、実現できる店づくり。少なくとも旗艦店には、それが求められると思う。そこに行かないと味わえない体験。お客のド肝を抜くような思いきったアトラクションこそ、EC時代の店舗には必要なのかもしれない。

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