HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ファッション事業はどこまでディスクローズされるべきか。

2012-05-30 13:53:34 | Weblog
 昨年10月、福岡県商工部の中小企業振興課が「FACoブランド販売力強化事業」を公募した。これは福岡県と福岡商工会議所が中心となった福岡アジアファッション拠点推進会議が主催するファッションイベント、福岡アジアコレクション(FACo)を告知する「紹介パンフレットとDVDの作成」を行なうものだった。
 国から資金が拠出される「雇用創出事業」であったがゆえ、委託事業者は「パンフレット及びDVD制作」のスタッフとして10名を雇用し、制作期間は15日との条件付き。業者にはRKB映画社が選定されている。ここまでは正当な手続きを踏んでいれば、何も問題はない。
 ただ、この事業がその後どうなったかである。新年度に入った5月時点で情報公開されていなかったので関係者にたずねると、担当部署の課長から「(当該事業は)FACoの海外向けの資料になり、英語、中国語、ハングル、タイ語でのみ制作している。海外からの問い合わせあったときや、海外に行ったときに使用するものなのでHPなどで公表をしていない」という回答が返ってきた。
 
 しかし、この回答を含め、事業を見ると二つの問題が浮上する。一つはFACo自体の公共性である。FACoは「福岡のファッションを発信するファッションイベント」という手段の正当性はあるが、企画制作は地元ローカル放送局のRKB毎日が行い、イベントの実施運営は似たような神戸コレクションを行なっているイベント会社のアイグリッツに丸投げ、ショーにメーンで出演するタレントは東京の芸能事務所からやってきている。
 福岡のファッション業界が関わるのは、タレントが着る衣装の提供と残りのモデル、ヘアメイクやフィッターなどの裏方スタッフのみだ。チケット販売やスポンサー料、行政の補助金による収益からはイベント運営の経費が差し引かれ、残りの大半は前出の関係者三社によって利益として按分されている。
 衣装の提供といっても、一部のアパレルやSPA、個人デザイナーの作品のみに限られ、福岡ファッションの大部分を占める小売業者の支援やプロモーションにはなっていない。にも関わらず、昨年までは福岡県と福岡商工会議所が2000万円程度の資金を拠出し、さらに福岡市までもが支援。開始から4年が経過しても、情報発信の能力がいまイチのためか、「パンフレット及びDVD制作」にまで資金が出されたわけである。

 はたして民間の「客寄せ興行」とほとんど変わりないものに、そこまで行政が支援する必要があるのかは甚だ疑問である。またパンフレット及びDVDによって、仮にアジアからオファーがあったにしても、まず最初に行なわれるのはファッションイベントである。
 イベントによって福岡ファッションのプロモーションを行なえると言っても、それから実販に至るまでには相当の時間と営業努力が必要になる。その資金は各ファッション企業持ちなのだ。なのにイベントに携わる三社には行政からの手厚い支援と、収益というメリットが転がり込む。
 つまり、「イベントによって福岡ファッションのプロモーションを行なえる」は大義名分に過ぎず、「イベントは福岡ファッションの情報を発信する手段」というのも、イベントで収益をあげたい業者の思惑や自分たちを正当化する言い訳に思えてならない。
 4年目の今年から福岡商工会議所はFACoに資金を出さなくなっているが、福岡県や福岡市の支援は続いている。一部の民間企業の「事業」収益のためにである。おそらく、福岡商工会議所としては、「早くビジネスモデルを確立し、自分たちの手だけで行なえ」ってスタンスだろう。ならば、FACoそのものに公共性は、それほどないってことになる。

 もう一つは、FACoそのものの情報発信である。県は「海外からの問い合わせあったときや、海外に行ったときに使用するものなのでHPなどで公表をしていない」と回答した。しかし、FACoの母体である福岡アジアファッション拠点推進会議は、発足時に「官民が一体となって福岡ファッションのを積極的に世界に発信する」という役割を公言している。
 なのに、その一つである「イベントによって福岡ファッションのプロモーションを行なう」FACoで、事業資金を拠出している県側が「パンフレット及びDVD制作」を積極的にPRしない意図がわからない。
 在庫に限りがあるから、問い合わせが殺到すると困るというなら、別に現物の「完パケ」や「印刷物」を作る必要はない。推進会議のサイトや同じく国の緊急雇用基金2700万円を使用して制作し、ほとんど活用されていない「Fashion Site Fukuoka」に動画機能を付けたり、ジャンプページは増やせばいいだけの話しである。
 さらに福岡に数多く居住する英語圏、中国、韓国ほかアジア諸国の外国の方々に協力を願えば良い。 この人たちが口コミやツィッター、ブログなどで積極的に福岡ファッションの情報を発信してくれれれば、パンフレットやDVDには負けないPR効果があるはずだ。情報発信でやることはいくらもあるに、なぜか場当たり的で一貫性を欠いている。

 ただ、「パンフレット及びDVD制作」は、紛れもない公金を使った公共事業である。まずそれを管理掌握する福岡県が物件の完成結果を公に報告しないのは問題である。また、推進会議も事業の企画立案から運営管理、広報までを担っているはずなのに、県のディスクローズ体制に異を唱えないのは、活動に歪みが生じているといわざるを得ない。
 
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百貨店とアパレルに突きつけられた命題。

2012-05-23 17:18:01 | Weblog
 先日、日経ビジネスオンラインに「バーゲン『後ろ倒し』の大博打」という記事が掲載された。百貨店各社は売上げが落ち込む中で、年々セール時期を前倒し。6月下旬から夏物衣料が安売りされるようになった。一方、消費者はシーズンインで商品を購入する傾向が強く、盛夏ものがプロパーで売れる時季に百貨店はバーゲンに入るというおかしな現象となっている。
 そこで、まず三越伊勢丹の大西洋社長がバーゲンのあり方を見直すべきと言い出し、この夏のバーゲンは従来の7月初めから2週間ほど遅らせると決断した。これを受けて駅ビルのルミネもバーゲンは7月中旬から始めるとアパレル各社に通知したため、業界で大きな波紋を呼んだというわけだ。

 ただ、ライバル百貨店の大丸・松坂屋、そごう・西武、ファッションビルのパルコや渋谷109の対応は冷ややかで、「セールを遅らせる予定はない」と言う。また高島屋や東武も一部のブランドは6月末から始めると明言している。
 アパレルメーカーにとっては、不毛な値引き合戦から解放されるのは好ましいようだ。でも、同じブランドで卸先の百貨店によって価格が違うという現象が起きるのは避けなければならない。三越伊勢丹やルミネに合わせれば、他の百貨店が従来通りにバーゲンを始めたとき、他社のブランドはセール対象なのに自社のものはそうならないってことになる。
 そこで三陽商会は、通常よりも2~3割価格を抑えた新商品をバーゲン時期に投入するという。セール品のほぼ同額のプロパー商品だから、バーゲン前の三越伊勢丹やルミネでも売ることができるのだそうだ。
 
 この問題を冷静に見つめると、単なるバーゲン時期の問題ではない。永年続いてきた百貨店と百貨店系アパレルとの蜜月、持たれ合いの構造が引き起こした部分がある。本来、百貨店が商品を完全に買い取っていれば、いくらで売ろうと勝手なはずである。しかし、かつて福岡の岩田屋がそれに踏み切ったにも関わらず、自由に値下げしては売れなかった。こうしたところに問題の本質があるような気がする。
 また、三陽商会が打ち出した「通常よりも2~3割価格を抑えた新商品をバーゲン時期に投入する」という施策もいろんな問題をはらむ。同社婦人服企画部のお偉いさんは「通常商品を値引きして売るよりも、当初から3割安い新商品の方が利益率は高い」と宣っているが、あまりのお客を無視した百貨店やアパレルメーカーのご都合主義が透けて見える。

 論点を整理してみよう。まず、バーゲンには百貨店と百貨店系アパレルメーカーの間で慣習化している委託販売の問題が関わっている。
 百貨店は品揃えや価格の決定権はもつが、アパレルは販売スタッフを派遣し、在庫の最終処分リスクを負うから、派遣スタッフの人件費や処分後の返品経費といったコストが価格に乗せられる。結果として百貨店の商品は「原価率に比べ割高」になっているのだ。
 まず、百貨店はそうした取引慣行について考えるべきだが、その商品を安売りをすると荒利益が少なくなるから、後ろ倒しにすると言うのは本末転倒ではないか。まあ、チェーン専門店や路面のブランドストアは従来通りにバーゲンをスタートするだろうから、実際は大きく変わるとは思えない。
 逆に先にバーゲンをしたところがセール客を奪ってしまえば、後ろ倒しした百貨店やアパレルは売上げが取れなくなるかもしれない。さらに百貨店とアパレルが「申し合わせて価格を下げない」ことになれば、カルテル行為として独占禁止法に抵触する恐れがある。

 それ以上に問題なのは三陽商会が打ち出した「通常よりも2~3割価格を抑えた新商品」だ。これは最初から百貨店の値入れ率を確保しておき、プロパー販売で確実に荒利益を取ろうという魂胆が見えてしかたない。だが、販売価格を下げているわけだから、コストダウンして製造した商品である。それは「アウトレット専用品」と、何ら変わらないのではないか。
 三陽商会は「エポカ ラ ファブリカ」というアウトレット業態を展開している。当然のことながら、売れ残り在庫やキズものだけで売場は編集できないから、 アウトレット専用品も生産せざるを得ない。
 ただ、低価格にするには量産止むなしだから、MD担当者なら「まずは百貨店に流して、売れ残ればアウトレットで消化すればいい」と逆転の発想をするのは当たり前。メーカーだから同じルートの商品とわからないようにタグを変えたり、デザインをいじくったりといった小細工はいくらでもできるだろう。
 結果として、値下げされた他ブランドのレギュラー商品と、最初からコストダウンしたアウトレットライクのプロパー商品が同じフロアに並ぶという“いびつな構造”になってしまう。

 1999年、東急百貨店日本橋店の閉店セールは大盛況を博した。開始当初はセール商品に百貨店系アパレルの在庫を投入したが、売れに売れて商品が足りなくなり、最後は通常は百貨店には並ばない「量販店系商品」まで投入して凌いだと言われている。
 百貨店にはどうもこの閉店セールの成功体験が染み付いていて、とどのつまりが三陽商会が考えるような商品に行き着いたのではないかと思えてしかたない。今は見てくれが良くて、価格が安い商品がいくらでも開発できるのだから、なおさらだ。
 しかし、当時とは違い、お客の目も肥えて来ている。値下げされたブランドのレギュラー商品とアウトレットライクのプロパー商品を見比べれば、すぐに気づくはずである。こんな姑息な手段がいつまでも通じるとは思えない。
 百貨店と百貨店系アパレルは、バーゲン時期の後先といった場当たり的な政策に一喜一憂するのではなく、委託販売や買い取り、商品の原価率や値入れといった構造的な問題に踏み込まなければ、何の解決にもならないと思う。
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郊外セレクトのカギを握るbingoの威力。

2012-05-15 07:37:08 | Weblog
 08年、ユナイテッド・アローズは、「値ごろ感のトレンド業態」と銘打った「COEN(コーエン)」をスタートした。これはマーケットをハイプライスのトレンド型と、ロープライスのボリューム型に分けてセレクトショップ展開してきた同社にとって、不況の影響で「高い金は出したくないが、トレンドの商品はほしい」という顧客が増え、そうしたマーケットを攻める業態開発が不可欠になったからである。
 当然、商品の価格を下げるにはコストダウンを図らなければならず、メーカーからの仕入れでは賄えない。リスク覚悟である程度大量の商品を生産し、それを捌ける店舗数が必要だ。また、家賃が高い都心部の駅ビルやファッションビルではコスト高でペイしない。

 そこで別会社(コーエン)を設立し三菱商事と組んで、商品生産は商社にアウトソーシングしてコストの安いアジアで生産し、ショップはショッピングセンター中心に展開したのである。
 これがセレクトショップかというと否である。それは置いとくとして、生産の手法をODM(UAブランドによる企画・生産)で行なうと、開発期間は短くて企画頻度も高いから市場対応のスピードが速くなるが、他社と似たようなデザイン、素材になり、UAらしさが無くなってしまう。
 一方、OEM(UAブランドによる生産)なら、企画デザインを自社で行えば、UAらしく商品の感度とレベルは高められるが、開発期間が長くなって企画の頻度が落ち、シーズン中にショップのすべてを埋める商品を手配できなくなる。

 結局、同社は開発期間の短縮、企画頻度のアップを優先し、ODMを選択したようだった。ところが、いざ商品が完成し売場に並んだのを見ると、素材やデザインはもちろん、感度も完成度も低い。UAのイメージとは大きくかけ離れてしまい、全く売れずに生産方法の修正を余儀なくされたのである。
 ブランド力があるから商社に丸投げして、あとは店を出すだけ。その程度の発想で高い金は出したくないが、トレンドの商品はほしいという「わがままなお客」を攻略できると考えるのは、浅はかだったのだ。
 ブージュ・ルードを展開するJACトレーディングの森健太郎社長は、初期のコーエンを見て「地方をバカにしている」と切り捨てたが、筆者もどこか東京目線、大手論理でものを考えているように思った。 その後、コーエンはOEMで自社企画を取り入れてQR体制による商品供給体制を確立し、出店先もショッピングセンターだけでなく、都市部にも展開してショップロイヤルティを高めていった。5月22日にはスカイツリータウンの東京ソラマチにも出店する。


郊外店でもセンスが高いマーケットは攻略

 もっとも、大手だから商社と組んでODMで商品を開発することができたわけだ。これが店舗数が少ない中小以下のセレクトショップならそうはいかない。
 では、どうすれば良いのか。そのヒントが熊本に本社を構え、福岡などにセレクトショップを展開するベイブルックのSC業態「ビンゴ」である。ここは郊外だからといって、コーエンのようにギリギリまで価格を下げた商品を販売していない。
 MDは基本的に仕入れによる構成で、あくまで都市型セレクトショップで培った商品感度と編集方針を貫く。 どうしても郊外マーケットは、「高い金は出したくない」という顧客ニーズがあるが、だからと言って商品のキャラクターや完成度が落ちて良いということではない。 つまり、結論は「値ごろ感がありつつ、センスが高いマーケット」 をいかに攻略していくかなのだ。
 もともと、ベイブルックは大手のようにバイヤーがアパレルをまわって、一括して商品を買い付けるセントラルバイイング制は採ってはいない。店舗スタッフがそれぞれ店ごとに仕入れを行なっている。それは効率的ではない、コストダウンが図れない、というのはあくまで大手の論理だ。
 それより、むしろお客に直に接してマーケットニーズを嗅ぎ取り、スタッフのフィルターを通して専門店系アパレルから探して、買い付けるのである。それはヴィンテージのジーンズであったり、上質なコットンのシャツであったりだ。だから、接客でも自信を持ってお客に勧めることができる。
 ビンゴでもこうしたポリシーを踏襲している。郊外店にしては商品の価格は高いが、そこを高い接客能力で補い、見事に提案力、販売力を発揮して、他社の追随を許さないのだ。08年秋にイオンモール筑紫野で初めて見たが、同じく出店するコーエンとは桁違いのレベルだった。
 4月末にオープンしたイオンモール福津店は、売場面積40坪ほどでメンズ、ウィメンズの複合業態。シャツやパンツといったデイリーカジュアルだけでなく、同社が得意とするインポートウエア、バッグや小物などの雑貨も揃える。まさにショップ力は企業ブランドじゃないって思わせる店舗である。
 また、広島のスーパーイズミが展開するゆめタウン光の森店は、さらにお客の入りが良い。たまの熊本出張時に寄ってチェックしているが、同社のルーツ「上通りのベイブルック」で育った目の肥えた顧客が家庭を持っても、引きつけられている。
 6000円~7000円といった値ごろ感のあるが、十分に上質な商品が揃うからだろう。 ヤング業態を卒業した顧客の受け皿がちゃんとできている。大手セレクトショップだから業態開発力はすごく、中小だからそのノウハウは参考にならない。そんなことは決してないようだ。
 
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東京は日本のトレンド発信地なのだろうか。

2012-05-10 19:16:02 | Weblog
 連休明けを利用して東京に出張。仕事が片付いた夕方、話題の商業施設2店を訪れた。百聞は一見にしかずだし、また「福岡の人ならそう思うよね」なんて偏見的なコメントが寄せられるのも心外だから、この目でじっくり確かめて来た上で評論する。

 まず、渋谷ヒカリエは土地の広さからして高層は止むなしだから、外観から大してインパクトを受けることはない。東急文化会館時代にはたまに映画を見に行っていた。むしろその時の思い出の方が脳裏にはくっきりと焼き付いている。
 商業施設の「シンクス」は地下鉄駅から地下3階に入れ、いきなり和洋惣菜や生鮮が並ぶデパ地下が出現。地下2階も同じ様にスウィーツやベーカーリーの売場が軒を並べる。さらに地下1階と1階は自然派&ブランドコスメと雑貨の売場で、まるで“東急百貨店?”と見まごうばかりだ。
 コスメの最高級ブランド「クレ・ド・ポー・ボーテ」や「クリニーク」があるかと思えば、OL御用達の「RMK」もリーシング。個人的に興味があった「天衣無縫」は、品揃えも手薄で日暮里の生地屋レベルにも及ばない。

 陳腐化してしまった道玄坂の東急本店ならこんな構成でも納得できるが、渋谷のランドマークでいったいどんな客層を狙っているのか、非常に理解に苦しむ。 「少しは工夫しろよ」と思わず突っ込んでやりたくなった。 この4フロアを見ただけで、東京トレンドへの期待は脆くも崩れ去ったのである。
 ただ、探せば何かレアなショップがあるだろうと2階に上がっても、自主編集の「パーツジョイス」も通常百貨店の1階にあるような洋品売場で、「マーク・ジェイコブズ」や「シー・バイ・クロエ」などの雑貨を組み合わせて体裁を整えているに過ぎない。

 3階、4階はセレクトとブランドを集めたファッションビル的フロア。愛用のtheoが少しくたびれてきたので、「リュネット・ジュラ」でメガネフレームを探すも、あまりに奇抜すぎて逆にドン引きした。百貨店ライクで大人を狙うならアン・バレンタインやアイ・ワークスくらいがちょうどいいのではないか。
 5階はライフスタイルフロアを標榜しているが、これもどこかで見たことあるような雑貨が並ぶだけ。「ザ・コンランショップ」なんて、キッチングッズの品揃えはよっぽど福岡岩田屋の方が充実している。以前に書いた福岡発の「オクタホテル」は大きめのフロアで結構人の入りは多かったが、「九州のど田舎のショッピングセンターでも、全く同じ商品が買えますよ」と言うと、東京の人はどう思うだろうか。

 シンクスの地下3階から5階までのフロア構成を見る限り、百貨店に近いファッションビルのようで、中途半端な商業施設としか言いようがない。
 特にテナントが多数集められている割に百貨店のハコのような作りでは、店舗がフラットに見えてしまう。せっかくの渋谷なんだから、何で店づくりやテナントでもっと冒険しなかったのかって思う。非常に期待外れの施設である。
 だから、キャッチコピーの「ショッピングが変わる。あなたの行きたい渋谷、シンクスはじまる。」には全く裏切られた感じだ。Bunkamuraの時代ならともかく、あれから20年以上たった今、この程度の表現力でプレゼンが通ったのかと思うと、販促担当者やクリエーターのイージーさに呆れかえる。

 総括すると、渋谷ヒカリエはコストをかけても出店できる限られたテナントの集積に甘んじたようだ。それが東京でしかお目にかかれないショップや商品ならともかく、地方でも同じものがいくらでも買えることを考えると、都市と地方のテナント格差がなくなりつつあるという皮肉な状況を露呈している。


もう、古き良き神宮前では無くなった。


 一方、「東急プラザ原宿表参道」は表参道を歩いていくと、まずトミー・ヒルフィガーのエントランスが現れる。1階は古き良きトラッドショップの雰囲気で、2階は一転スポーツカジュアルのコーナー。プレッピーな米国スタイルより、カジュアルの方がトミーらしい。地下1階にはコレクションラインを揃えるが、ビビットでコントラストの利いたカラーコーディネートを日本人が着こなせるかは疑問だ。
 97年、ニューヨークで取材した時、トミー・ヒルフィガーは「MTVで歌うヒップポップのミュージシャンがオーバーサイズのウエアを着ていた」ことで、火がついたとのことだった。その後、ストリートの衰退とともにキレイ目のアメカジ&スポーツスタイルとしてブランドポジションを確立した。
 奇しくも原宿に旗艦店がオープンしたのは、日本も同じ流れということだろうか。ただ、米国では郊外のショッピングセンターにも出店されており、この辺はブランド崇拝の日本とは違うところだ。

 明治通り沿いにはバロックジャパンリミテッドの旗艦店「ザ・シェルター東京」が派手なビジュアルと控えめのエントランスで構え、その横に「アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ」が軒を並べる。
 シェルターは新ブランド「エンフォルド」「アヴァンリリィ」に加え、コスメやスウィーツ、雑貨まで揃える。同社は仏系ファンドCLSAの投資先であるがゆえ、短期に収益を上げなければならないせいか、ウエアの企画デザインは頭打ちで多少の焦りを感じている様に見える。その穴を埋めるのが周辺商材ということだろうが、コスメや雑貨にそれほどの力は感じられないという印象だ。

 アメリカン・イーグル・アウトフィッターズはさほど報道されなかったが、本社直轄のジャパン社ではなく、洋服の青山が90%、住金物産が10%を出資した会社がFCで運営する。住金物産は小売りの素人だし、出資比率から見ても青山商事が運営の実権を握ると見て間違いない。
 商品はギャップよりもトレンド性を持っていて、価格も手頃。姉妹ブランドでインナーウェアの「エアリ」もこれまで日本にないブランドだけに期待はできるだろう。
 場所柄、じっとしていてもお客は集まる。あとは他の低価格ブランドとの差別化をいかにスタッフが接客で強調できるか。成功は店長のマネジメント能力や売れ筋商品の適時配置にかかっていると思われる。

 3階にはレディスフロアで、リオーネ デュラス、スパイラルガールなどを揃えた「ルーミーズ」があるが、渋谷109では店舗スペースに限界があり、こちらにリーシングされたように思える。
 マークスタイラーが手がける「チュージーチュー」の「エリアーヌジジ」や古着、エイ・ネットの「ユーモア・ショップ バイ エイ・ネット」のウェアやファッション雑貨に、多少原宿らしさを感じさせる。 
 コンセプトショップの「オモハラステーション」がカラージーンズを提案していたが、この程度ではMDの手詰まり感は否めない。また、「トーキョーズ・トーキョー」もレアなアイテムを一カ所に集めたことは評価できるが、大抵の商品が他でも購入できることを考えると、わざわざ行く気にはならない。
 飲食テナントも今や地方都市でさえ出くわすメニュー、業態ばかり。場所が原宿ということを除けば、ステレオタイプなリーシングに落ちてしまったようだ。

 筆者は高校生の頃から表参道、原宿には人一倍思い入れが強い。 いわゆる業界人が闊歩するエリアだったからだ。一早く「Do! Family」を買った時は、学校で友人に「原宿帰り」を自称した。
 この前の前のビルは「原宿セントラルアパート」で、イラストレーターやコピーライターなどのクリエーターが事務所を構えていた。糸井重里のオフィスもあって、西武百貨店の名コピー「不思議大好き」はここで生まれた。2、3軒東隣のビルには中華料理店があって、業界人になってから何度か打ち合わせに使ったけど、料理がまずかったことしか憶えていない。
 大学に入った70年代の終わり頃、この並びに繁る緑はとても鮮やかだった記憶がある。平日の昼間にマンションメーカーのスタッフとすれ違い、日曜日の朝に雑誌の撮影隊なんかと出くわすと、すいぶんお洒落な気分になれたものだ。 幾度の開発によってそうした古き良き神宮前が失われてしまったのが、残念でならない。

 今回、渋谷、原宿の両施設を見てみて、商業ビルの域を出ないという印象だ。だからトレンド発信という機能を有するかは甚だ疑問だ。ニューヨークのようにカルチャーやムーブメントを起こすようなものは、もう東京からは発信されないってことだろうか。
 両施設に限らず東京における商業ビル開発の背景を見ると、銀行がダブついた資金を地主企業に融資し、再開発事業の名の下でゼネコンがハコを作って、デベロッパーがテナントを集めるビジネスモデルだから、「モノを売って、家賃を払ってもらう」ことしか能がないのだろう。
 ただ、そんな利回り事業では、カルチャーもムーブメントも醸成されないことだけは事実である。それでも、若者は刺激的と感じるようだが、居住コストや生活不安のリスクを考えると、地方で起業するか、直接海外に出て行った方がよほど夢があると、両施設を見て改めて感じた次第である。

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