HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

お上が動き出した。

2024-04-24 06:40:12 | Weblog
 2023年12月、EU(欧州連合)はアパレル事業者が売れ残った衣服の廃棄を禁止することに合意。併せて、再生可能な素材を使わない製品を市場から締め出すことについても検討を始めた。先進7カ国首脳会議(G7)のメンバーである日本が同様の行動を示すのも時間も問題だろうな。と思っていたら、経済産業省はこのほど繊維製品の「環境配慮設計」のガイドライン案を示した。日本としても欧州の環境規制に対応しなければ、世界市場から締め出される恐れがあると判断したようだ。

 素案では、衣料品を製造するあたりリサイクルしやすい設計や、EU同様に再生繊維を活用するなど11項目を設定し、アパレル事業者に対応を促している。対象となるのは、膨大な製品を扱う繊維メーカーやアパレルの製造卸、大手SPAだ。これらの事業者は国のガイドラインに沿った事業計画を策定し、生産から販売までを行わなければならないことになる。

 また、経産省はガイドライン案に合致した製品に専用マークを付けることも検討中だ。2024年度~26年度までにJIS化、27年度~28年度までにISO規格化を目指すという。



 事業者が取り組むべき環境配慮設計とはいかなるものか。項目は以下になる。
 ①環境負荷の少ない原材料を使用する
 ②GHG(温室効果ガス)排出抑制、省エネルギーに取り組む
 ③安全性に配慮する
 ④水資源に配慮する
 ⑤廃棄物を抑制する
 ⑥包装材を抑制する
 ⑦繊維くずの発生を抑制する
 ⑧長期使用できる製品を作る
 ⑨リペア・リユースサービスを活用する
 ⑩リサイクルしやすい易リサイクル設計にする
 ⑪再生資源を使用しているか


 以上について、経産省はアパレル事業者に対し環境に配慮したPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルのもとで事業展開することを求めており、事業者にとってリサイクルへの取り組みは避けて通れないということになる。


全ては自然環境を守ることから




 では、項目をかいつまんで見てみよう。まず、①の「環境負荷の少ない原材料」とは何かである。最近では「Ecological Materials(エコマテリアル)」という用語が使われることが多い。元々は日本の素材研究者が議論を重ねる中で誕生した言葉で、世界的に認知されるようになった。ただ、一口にエコマテリアルと言っても、考え方は色々ある。

 例えば、「環境に負担をかけずに作った材料」だ。自然界から調達できる綿や麻、生糸で作った天然繊維、とうもろこしや芋のでんぷんを原料にしたポリ乳酸繊維、そして羊などの動物からとれる天然の毛、皮革がそうだ。また、これらは「有害物質を含まない」し、製造プロセスが単純で時短化されるほど「省資源、省エネ」につながる。

 多少ニュアンスは異なるが、「環境に負担をかけずに処分できる材料」もある。いわゆるリサイクルが可能で化学物質が含まれていないものだ。土に埋めると生分解され、処分の際に環境に負荷をかけないものもある。オーガニックのコットンやリネンといった天然繊維、レーヨン、リヨセルなどの再生繊維、紙から作った糸、竹を使った繊維、リサイクルで生まれたエコペット・リサイクルナイロン、人工的なフェイクファー、フェイクレザーが該当する。

 ④の「水資源に配慮する」とは、水は決して無尽蔵ではないとして、できるだけ水質を汚さないように健全な水の循環をを心がけること。衣料品の製造・加工でも、染めた布に残る余分な染料や糊を洗い落としたり、ジーンズなどを中古風に仕上げるために洗いをかけたりと、大量の水を使用する。これらが水質汚濁を引き起こす要因とするなら、製造・加工の段階から改善していくことも重要になる。

 TSMC(台湾積体電路製造)の工場が稼働する熊本県では、半導体製造において水を大量に使用するため、「地下水の涵養」に取り組んでいる。これは降水や湧き水、河川や湖沼などの水を地下に浸透させることで、工業用水の需要に対しできるだけ地下水を蓄えておく対策だ。また、森の木々は水資源を蓄え、育み、守ることから、単に水を溜めるだけでなく、中長期的には植林や森林の保全にも目を向けなければならない。

 これを繊維製造に置き換えると、どうだろう。1キロの綿を作るには、約1万リットルの水が必要だと言われている。綿の栽培はエジプトやインドなどで盛んに行われているが、これらの国はもともと水資源に乏しく、綿畑では河川や地下水から大量の水を引く灌漑用水に頼っている。ところが、熱波や干ばつで水不足になると、農作物への干害は避けられず綿製造に影響が出る。植林など長い視野で水源涵養に取り組みながら、再生コットンなどの使用も進めていくことが必要なのだ。


リサイクルしやすい衣料品とはの基準づくり




 ⑦の「繊維くずの発生を抑制する」とは、どうすればいいのか。そもそも繊維くずとは木綿くずや天然繊維くず、羊毛くずなど繊維でできたゴミの総称を指す。縫製工場など製造現場より排出される端切れや裁ち落としなどは「くず繊維」と呼ばれ、一般廃棄物に分類される。産業廃棄物に分類された繊維くずは、産業廃棄物法に基づき適切に処分しなければならない。ただ、紡績・織布工場から排出されるアクリル繊維やナイロンなどの合成繊維に関しては、「廃プラスチック類」に分類されるため、処分方法が異なってくる。

 以前にも書いたが、リサイクル方法には廃棄物を回収して、新製品の原料や材料として再利用する「マテリアルリサイクル」、廃棄物を焼却した際に発生する熱エネルギーを回収して利用することが「サーマルリサイクル」、廃棄物に薬品による科学的な処理や熱処理を行い、一旦原料に戻してから再利用する「ケミカルリサイクル」がある。

 また、不要になった衣料や布地などをワタ状に戻す「反毛リサイクル」があるが、断裁された繊維が細かくなればなるほど布に戻すのは難しい。結局、再利用が難しいものは、破砕や焼却をした後で埋め立て処分するしかない。となると、CO2が発生するし、土壌汚染も懸念も出てくる。つまり、なるべくならリサイクルや処分を必要としないように繊維くずそのものの発生を抑えていくということだ。

 ⑩の「リサイクルしやすい易リサイクル設計」とは、デザインや製造の過程からリサイクルしやすいものを考えていくこと。ただ、衣料には表地の他に裏や芯、ボタンやホック、ファスナーの副資材があり、染料やプレスなどの溶剤も使われている。また、職人の技によって高度な装飾や加工も施された衣服もある。リサイクルしやすくするにはそうしたものにも手をつけ、解体を容易にすることから考えなくてはならない。

 パタゴニアは製品に使用する素材の90%以上をリサイクル原料で賄っていると宣言する。だが、それは自社による基準、手法で行なっているに過ぎない。同社がペットボトルをフリースの原料に再利用していると言っても、他社が売れ残ったり着古したりしたフリースを新しいフリースの原料に再利用するのと、どこがどう違うのかはよくわからない。

 一方、日本では古来から紙から作った糸で布を折り上げる技術がある。和紙を材料とした着物の「紙衣(かみころも)」だ。製紙最大手の王子HDの子会社王子ファイバーは、エクアドル産のマニラ麻を原料にした「かみのいと OJO+(オージョ)」を開発。ファイブフォックスはギャバジンK.Tにこの素材を使用したブルゾンを開発した。マニラ麻は肥料や薬品を使わずに栽培が可能で環境にやさしい。天然繊維なので燃えても有害物質を出さない。紙だからリサイクルも容易だ。

 つまり、原料の違いやリサイクルのプロセスによっても、環境に対する負荷は異なってくるのだ。まずはリサイクルしやすい製品とはどんなものか。明確な評価基準を設けることが必要だろう。さらにリサイクルされた繊維で製造された衣料品については、消費者に理解してもらう意味でアパレル業界で統一のルールを作らなければならないということだ。

 2015年、温室効果ガス削減に関する「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)」が合意された。これにより、日本は中期目標として2030年度の温室効果ガスの排出を2013年度比で26%削減する目標が課された。ただ、この数値は米国の14~21%、EUの24%に比べると、高い。日本にとっては欧米諸国からの圧力と見られなくもないわけだ。



 穿った見方をすれば、EUが実現を目指す「再生可能な素材を使わない製品を市場から締め出す」ことも、日本をはじめアジアからの製品に対する輸入障壁にもなるだろう。そのためにも国際的な統一ルールが必要なのだが、その一方で、⑧の長期使用できる製品を作ったり、⑨のリペア・リユースサービスを充実するなど、衣料品そのものの価値を見直すという原点に帰ることも重要ではないか。まず隗より始めよである。

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脱デニムに商機。

2024-04-17 06:44:52 | Weblog
 3月の半ばだったか、繊研PLUSに以下のような見出しが躍った。「実感なきジーンズブーム 中小メーカーの活路は?」である。内容はドクターデニムホンザワの本澤裕治社長がインタビューに答えたものだった。詳細は以下の通りだ。

 ジーンズブームは続いていると言われていますが、中小のメーカーや工場でその実感を得ている企業はあまり多くないでしょう。ジーンズ業界は最盛期には、トップ2ブランド(エドウィンとビッグジョン)だけで、国内で年間約1500万本を製造していました。その頃に比べると激減しています。




 1990年代後半から2000年前半にかけ、アール・ジーンやAG、セブン・フォーオールマンカインドなどプレミアジーンズ、ストレッチの走りとなったシマロン、渋谷109のマウジーが手がけたものがヒットして以降、ジーンズブームは幾分沈静化したような気がする。

 その後も上質なデニムを使ったテーパードジーンズは、アメカジに注力するセレクトショップが定期的に別注やダブルネームで仕掛けることがあった。しかし、購入者の絶対数は限られるわけで、市場が広がることはない。今やガチガチのジーンズに心酔するのは、ドゥニームや桃太郎を好む男性くらいで、残りのジーンズ好きはリーバイスやディーゼル、ヤヌーク、ジースターロゥ、エヴィスなどブランドに手を伸ばす程度だろう。



 A.P.C.はブランドの代名詞、デニムに焦点を当てたイベント「A.P.C. DENIM」を開催中(4月21日まで)だ。同デニムは日本製のオリジナル生地を使用し、外は堅く中はふわっとした肌触りからフランスパンに例えられるほど。履き慣らしていくと脚型に寄り添うように変化する。商品をショップに常時展開するより、催事を仕掛けた方が一見を含めお客の目にふれる公算は高い。言い換えると、ブランドであってもそれだけ成熟しているということだ。


 デザイン面ではレディスではスキニー、ローライズのような美脚ラインは下火になり、ワイドシルエットやハイウエスト、カラーがトレンドになっている。それらもパンツというカテゴリーで捉えられている。そもそも、レディスのボトムにはスカートやショーツもあるので、パンツは穿きやすさといった機能性で選ばれる傾向が強い。なおさらZ世代向けには、ジーンズ以外にも手ごろでお洒落なパンツ類があり、着用アイテムの選択肢は広くなる。

 もっとも、カジュアルアイテムは洗い替えが必要で、数を持たなければならない。だから、ジーンズのような穿き潰すアイテムは、どうしても安いものに目が行ってしまう。SPAが低価格商品を市場に投入したのは、こうした理由もある。それでも、そこそこの質はキープできているので2〜3年の耐用はあり、お客もこの質、この価格なら十分だと流れてしまう。逆に1本数万円のものを何年も洗わずに穿きこんで、”ヴィンテージ臭”を漂わせるのは将来的な投機目的を含めたマニア限定になる。あとは業界で働いているショップスタッフくらいなもので、一般に広がることはないだろう。



 SPAの大手ではユニクロがこの春、Hellow, New Denim.のキャッチコピーでデニムの広告を再開した。ただ、テレビCMやHPのビジュアルは、アイコンとなるようなタレントを起用したものではない。ドレープデニムのタックパンツ、ワイドストレート、ストレッチスリムアンクルジーンズ、スキニータイプのウルトラストレッチが主要アイテムで、トレンドのワイドシルエットやストレッチを打ち出し、ライトメイドなMDを訴える内容になっている。

 つまり、大半の消費者にとってジーンズがワードローブの一アイテムに成り下がったことから、SPA側も爆発的なトレンドが生まれるケースは少ないとの前提で、MDを考えているわけだ。ガチガチのジーンズというより、ライト感覚のデニムパンツとして捉える。売るためにはジーンズ以外の品番を増やすフルアイテムのMDを築く。アメカジライクな着こなしはなくならないにしても、ウエアの選択ではトップからボトムまでバリエーションが必要になる。特にレディスはこうした変化に敏感だ。

 セレクトショップのビームスは海外卸を強化している。レディスカジュアルの「ビームスボーイ」では、1940~60年代半ばの米国の「トラッド」「ワーク」「スポーツ」「ミリタリー」のテイストを軸にしたビームスプラスの人気が高いという。メンズライクなレディスウェアというコンセプトが評価され卸売先が広がっているのだが、ジーンズがキーアイテムになっているわけではない。まさにジーニングカジュアルは過去のものになったようである。


市場にないものをいかに作るか

 記事ではこんなことも語られている。
 (中小のジーンズメーカーが)今まで通りのやり方では落ちていく一方です。何か新しい商品やブランドを企画しなくてはいけない。そのヒントは売り場にあると思います。
 先日、とあるカジュアルチェーンの店舗の中で、一番パンツを売るという店を視察しました。ジーンズ売り場はNB数ブランドで埋まっており、小さなブランドが入り込む余地はないと思い知りました。


 ではどうするか。それについても語られている。
 市場にないものを開拓するべきです。例えば、コーデュロイの5ポケットパンツは、最近は売り場にほとんど見当たらない。そういった、大手があまり作っていない商品に勝機があると思います。
 24年は準備の年だと捉えています。市場を分析し、新しい企画を練り、来年こそは攻勢に出たいです。


 なるほどである。小手先のモノづくりでは、マーケットは拓けないということだ。市場をじっくりリサーチして企画に時間をかけ、大手にないアイテムを作り出す。ジーンズ自体が成熟している中、少々の仕掛けぐらいではブーム再来は難しい。ただ、パンツというカテゴリーに広げて見ると、決してなくなるアイテムではない。レディスではシルエット重視で脚が長く、細く見えるというニーズは永遠だからだ。

 メンズでもトップに着るジャケットやブルゾンとのトレンド相性で、どんなシルエットにするか。いろんなモデリングを考えればいいだろう。次は使用する素材、生地のこしや厚み。四季を通じて素材使いを変えていく必要がある。コットンを主体に使うにしても、気温に合わせて薄手から厚手のバリエーションが欲しい。秋冬は肉厚の起毛系で防寒仕様、年明けから梅春は同素材でブライトカラー。春以降は生地を薄くして、綿、綿麻、麻で清涼感を出していく。

 少なくとも、色は重要な決め手になると思う。デニムの自然な色落ちに拘るのは、一部のシーズンファンだけだ。それに昨今は洗濯排水が環境に負荷をかけると言われる。天然の藍染めならベストなのだが、それを多くのお客が求めているかと言えば、否だ。逆に化学染料を使用すれば、染めにしても洗い加工にしても環境保全には逆行する。サスティナブルに対し市場はそこまでの関心はないにしても、作る側は決して無視できない。

 むしろパンツというカテゴリーなら、原反カラーのままでいいのではないか。ボトムは汚れやすい。だから、洗濯がきいて色落ちや大きく型崩れしない素材を使う。本澤社長が取り上げていたコーデュロイパンツは、毛羽が縦方向に畝になった起毛素材で防寒に向き、耐久性、保湿性に優れる。もちろんコットン100%なら洗濯がきくし、色落ちもせず環境にも優しかったはずだ。

 そんなコーデュロイパンツも、いつの間にかポリウレタン混でストレッチをきかせ、履きやすさのみが追求されるようになった。そちらの方が売れるからだ。ところが、各社が参入して、市場には似たような商品が溢れ、価格競争が激しくなった。大手が作らなくなったのは、そうした理由もあると思う。

 ただ、単にコーデュロイパンツをそのまま復活させるだけでは、市場の開拓は難しいだろう。ピケやモールなどにしても生地感を進化さていくことが必要ではないか。その点では専業メーカーとしてのスタンスを貫くにしても、目先を変えた商品を開発するには素材メーカーの手も借りなくてはならない。要は生地から開発していく必要があるのではないだろうか。



 Y’sは、服の型紙をあてたように制作過程がプリント柄に表現されたデニムコレクションを4月3日より伊勢丹新宿店での先行販売し、国内9箇所のストアでも期間限定で展開した。ユーズドのデニム生地を使用して継ぎはぎに仕立てたパッチワークジーンズの他、山本耀司が描いたドローイングが配された紙タグが仮留めのように付けられたデニムシャツ、トートバッグやポーチもある。デザイナーズブランドだからここまでの企画ができると言えばそれまでだが、目先を変えるにはパンツだけでも作り込むことが必要かもしれない。




 海外にはパンツ専業のメーカーがある。イタリアの「INCOTEX」もその一つだ。専門的な技術と品質の高さには定評があり、確かな素材選び、巧みな縫製裁断技術、細部にまで配慮が行き届いたディテールにより、高級品としての地位を確かなものにしている。また、同国の「CRESPI」は1797年創業の素材メーカーで、生地にはこしがあってメンズ向けのボトムに向くことから、ユナテッドアローズやトゥモローランドでは別注のパンツに使用されていたこともある。

 INCOTEXのパンツやCRESPIの生地をチェックしたことがあるが、確かにシルエットが綺麗で、素材の質も高い。この辺のパンツ作りや素材が参考になるだろうが、日本のパンツ専業メーカーならもっといいものを開発できるのではないかと思う。中小のジーンズメーカーが生き残りをかけ、市場にないものをいかに作り出すか。ボトムにこだわりを持つ層からすれば、穿いてみたいと感じさせてくれるものの登場に期待したい。

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ファストが古着を売る。

2024-04-10 06:51:29 | Weblog
 H&M(へネス・アンド・マウリッツ)がブランド古着を売る。先月、そんな情報がニューヨークから飛び込んできた。マンハッタンのダウンタウン、ソーホー地区の店舗に、ラグジュアリーブランドの古着を販売するコーナーが開設されたというのだ。その名も「PRE-LOVED」。目的はいったい何なのだろうか。



 PRE-LOVEDにラインナップするブランド古着は、コムデギャルソン、ジルサンダー、ヴィヴィアンウエストウッド、プラダ、グッチ、イヴサンローラン、エルメス、ジャンポールゴルチェ、クリスチャンラクロワと錚々たる顔ぶれ。現地でも人気のあるものばかりだから、ブランド好きのニューヨーカーが持ち込んだものかと思いきや、そうではないようだ。

 PRE-LOVEDはすでにロンドンやバルセロナの店舗にも開設されており、米国ではソーホー店が第1号になる。扱う古着はH&Mが顧客から買い取ったものではなく、社内でヴィンテージの服と小物類を扱う部門が集めて、売場で編集したもの。また、お客は着なくなった服を「寄付」という形で、H&Mの店舗に持ち込むことができる。米国内ではH&Mに古着を寄付したお客は、店舗で買い物した時に15%の割引を受けられるそうだ。

 では、H&Mがブランド古着を販売する目的は何なのか。あくまで私見として、以下のような理由を考えてみた。

 1. 旗艦店の発信力を高める
 H&Mは世界中に店舗を展開するが、大量在庫が重荷になって、家賃が高い都市部の路面店や商業施設では不採算に陥るリスクをはらむ。日本でも2008年9月、なり物入りで東京銀座の松坂屋にテナント進出したが、市場の変化や出店先の事情などから退店を余儀なくされた。店舗展開は拡大路線だけでは通用せず、その時の状況において、店作りは常に見直さなければならない。

 一方で、既存店の稼ぐ力を引き上げることも重要で、主要都市の旗艦店は特にそうだ。活性化策として定期的にコラボ商品が投入されているが、ラグジュアリーブランドの古着なら新規で企画生産などの手間がかからず、話題性を生む。高い売上げにつながるとは言い切れないが、店舗の発信力が高まり付加価値が増すのは確かだ。

 2. 商品購入の選択肢を増やす 
 H&Mはトレンドファッションを低価格で販売する。毎週のように新しい商品を売場に並べ、顧客を飽きさせないMDを構築する。デザインさえ気に入れば、品質は二の次というお洒落な若者を惹きつけるが、大人になるとそうはいかず、低価格の商品しか置いていないと素通りするお客もいる。ただ、ラグジュアリーブランドなら古着でも上質だろうとのイメージが刷り込まれているため、来店の動機につながる。

 顧客は店頭で低価格のトレンドファッションとラグジュアリーの古着を比べた時、どちらに触手を伸ばすのか。これは消費者の購買行動を示すAISCEASでは、Comparison(比較)、Examination(検討)の段階を示すわけだが、それも顧客が売場にどんな商品が並んでいるかを知っていることが前提になる。つまり、商品を購入してもらうには、選択肢を増やすことが肝心なのだ。

 3. 脱炭素への関心を示す
 アパレル事業者は大量生産した結果、市場規模を超える商品が出回り多量の在庫が余って、廃棄を余儀なくされている。責任の一端はファストファッションにあると、批判の的になったこともある。そこで、H&Mは意識的な回収とリサイクルプログラムに注力し、「DON’T LET FASHION GO TO WASTE.(ファッションを無駄にしないでください)」を宣言。コンシャスコレクションを打ち出して、2014年にはGlobal100のサステナビリティリストにも選出された。

 さらに2023年末、H&MはCO2削減の設備投資(太陽光発電や節水)を促すため、シンガポールの銀行と連携してサプライチェーンに資金援助するファンドを設立した。ただ、ファッションを無駄にしないスローガンも、新規で低価格商品の販売を続けていては説得性を欠く。やはり「ものを大事にする」姿勢を見せることが重要で、ラグジュアリーブランドとは言え旗艦店に古着コーナーを展開すれば、脱炭素への強力なアピールになる。

 4. 不要衣料の寄付活動に参加
 EU(欧州連合)は2023年12月、アパレル事業者が売れ残った衣服や付属品などの廃棄を禁じることについて暫定合意した。20年2月にはすでにフランスが売れ残った衣類について、企業が「焼却」や「埋め立て」によって廃棄することを禁止している。こうした法整備や施策により、欧州では衣類などの売れ残り品は、原則として「リサイクル」するか、「寄付」しなければならなくなる。

 寄付といっても慈善団体や社会福祉法人が受け取ってくれるかは不確定で、海外の途上国を対象にすると輸送費がかかるほか、CO2を排出する懸念がついて回る。アパレル事業者が寄付を受け入れた方が、リユースやリサイクルにも回せるのでベストなのだ。事業者側も買い取るわけではないため、収益への影響を最低限に抑えられる。こうした世界の潮流にH&Mが参加したと考えることはできる。

 5. 寄付を販促に結びつける
 毎週のように新しいトレンドファッションを投入するH&Mだが、売場には膨大な在庫が積まれており、商品が高回転しているという話は聞かない。実際のところ、回転率は年間4回程度と言われ、5.7回を超えている日本国内のユニクロと比べても、在庫の捌けはそれほど良くない。欧米モードのファストファッションはお客の好き嫌いが激しいため、在庫の6割以上が値引きされ、さらに安く販売されているのが実情だ。

 旗艦店にラグジュアリーブランドの古着を展開することで、H&Mは企業としてサスティナブル&脱炭素に取り組む姿勢をアピールする。並行してお客には不要衣料の寄付を促すことで、店舗での買い物に割引特典を付ける。実質は販促策の一環であることに変わりはない。


持続可能なビジネスも模索



 ワンナイト・パーティ・ドレス。直訳すると、一夜限りのパーティドレス。それだけで役割を終える衣服でしかないと、H&Mをはじめとしたファストファッションを揶揄する言葉だ。

 それとは対照的にアパレル業界にはコストアップの波が押し寄せている。世界的なインフレ傾向で原材料の価格は高騰。糸や繊維を作る川上、衣料品の企画、製造、卸を担う川中、そして商品を販売する川下と、各段階で価格転嫁は待ったなしの状況にある。しかし、ファストファッションが低価格販売を続ける限り、サプライチェーンへの皺寄せは続いていく。

 「貧困層がいる限り低価格はなくならない」と息巻く識者がいらっしゃる。フランスは貧困対策ではないものの、売れ残り品の廃棄を減らすために寄付を法制化した。キリスト教圏らしい考え方で、着るものにも困る人々には福音となる。もっとも、小売りビジネスとしてみれば、単価が低い商品を売れば売るほど収益を高めるのは難しく、人手不足の折に従業員の給与も上げられず人材獲得でも遅れをとる。安売り競争の激化や市場規模を超える供給過剰で、体力消耗の持久戦を続けていても勝ち目どころか存続も危うい。

 消費者は学習する。激安、プチプラといったフレーズに踊らされ低価格品を購入しても、着ているとそれほどコストパフォーマンスは良くないと気づく。それに長く続いたデフレ疲れが追い打ちをかけ、もっといい商品も着てみたいと消費意欲を掻き立てる。今年は賃上げトレンドが中小企業にまで波及するかが焦点だが、生活必需品の物価上昇が続いており、仮に給与が増えても実質賃金の目減りは避けられない。



 だが、消費者は賢くなっている。衣料品にそれほどの投資はできないから、安いだけの低品質から高品質で割安なものへと着眼点を変える。リユースやフリマアプリといった二次流通に目をむけるのがそうだ。その分、少しでも衣料品の廃棄が減ると、世界的なサスティナブルの潮流にも合致する。リサイクル専門メディアの最新推計によると、2022年の日本の市場規模は2兆9000億円で前年比7.4%増。そのうち店舗販売は1兆円を超えているという。

 リユースでは世界の方がはるか前から市場が形成されており、その規模は計り知れない。欧州のラグジュアリーブランドでは1970年代の古着に人気が集まっており、仕入れ競争の激化から価格が高騰している。米国製でもレザージャケットやジーンズ、カットソーなどのヴィンテージ古着にはプレミア価格が付く。これらを扱う事業者も増えているため、今後も古着市場の拡大は続くと見て間違いない。

 こうした状況を俯瞰すると、H&Mはリユースが軸にはならないものの、親和性はなくもないと見たようだ。新品ではないが、割安であること。そのスタンスを変えなくて済むこと。お客は商品と価格に合理性を求めること、からだ。ただ、違うのはお客が商品の質を追求し始めたこと。そして、欧米モードへの反動からローカルに回帰していることだ。

 これに対し、H&Mはどう対応していくのか。経営の大転換を迫られると言えば大袈裟だが、市場によってはノーを突きつけられ、撤退せざるを得ないところも出ている。小手先の施策で戦えないのは確かだ。
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粗さは目をつぶる。

2024-04-03 06:56:55 | Weblog
 すっかり定番の企画と化したグローバルSPAと著名ブランドのコラボレーション。さる3月にはファーストリテイリング(以下、ファストリ)傘下のGUが「アンダーカバー」との協業商品を発売した。2021年の春夏と秋冬にも協業しており、今回で3回目となった。

 GUは2023年9月から事業のグローバル化に着手した。ニューヨークにも商品の開発拠点を設け、世界市場で売れる商品作りを本格化させた。ブランドのクリエイティブディレクションにデザインスタジオのYAR(ヤール)を起用し、イメージキャストやモデルも刷新して、グローバル市場で通用するコミュニケーションを強化している。

 また、GUはファッション性を追求している。そのため、デザインに注力するが、品質や実用性、低価格を両立させた上で、グローバルマーケットを攻略する狙いをもつ。積極化するブランドコラボはその手段の一つだと見ていいだろう。近年では2023年11月に大人の女性向けブランド「ビューティフルピープル」と、2回目の協業を果たしている。



 さらに2023年12月にはニューヨークの直営店で、市内在住のビジュアルアーティスト兼アニメーションディレクター兼アートディレクターのファンタジスタ歌麿呂氏とも協業ラインを発売した。そして、今年はアンダーカバーと3度目の協業である。世界市場を攻略するには捕捉できていない客層へのアプローチが不可欠だ。矢継ぎのコラボ企画は、多面的なターゲット射程、企画ベクトルの多様化がカギになるとの判断ではないか。



 また、ニューヨークに商品開発拠点を設けているとはいえ、そこで立案される企画が日本やアジアの市場に通用するかと言えば、必ずしもそうとは言えない。ファッション性を追うほど、好みはお客のエージやマインドでも分かれる=ファッションはローカルだからだ。例えば、大人の女性の嗜好は、その層に支持されるブランドの方が熟知している。ビューティフルピープルとの協業はそうした層の好みを知ることで、デザインセンスなど企画ノウハウを蓄積する狙いもあると見て取れる。

 では、アンダーカバー側が協業する目的は何か。ファストリは「世界で売れることを目的にGUでヒットしているアイテムや素材に、アンダーカバーのデザインを組み合わせた」という。アンダーカバーは1994年秋冬から東京コレクションに参加し、2003年春夏にパリコレクションにデビューを果たした。ただ、ブランド自身のビジネスはパリコレを通じて世界にクリエーションを発信しつつ、主に日本のマーケットで稼ぐスタンスだ。



 そこで経営基盤をさらに安定させるために取った手法がコラボレーションだったのではないか。すでに2012年には「UU」という名称で、ユニクロと協業している。この企画では、ファミリー(メンズ、ウィメンズ、キッズ、ベビー)向けの商品を新しい家族の洋服というテーマを、アンダーカバーのクリエーションで再現した。12年の春夏コレクションに限ると、メンズ43型、ウィメンズ34型、キッズ23型、ベビー5型の合計105型の展開が計画されている。

 当時、アンダーカバーは日本で人気を博していたこともあり、ユニクロの売場を見てみると発売直後に完売したアイテムもかなりあった。アンダーカバーのコアなファン層が店舗に押しかけて購入したと思われる。一方で、コラボ商品は色柄、形ともモードブランドらしくユニークなものが多く価格も安かったため、ベーシックでプレーンなユニクロのレギュラー商品では飽き足らないファミリー層までを、惹きつけたのではないか。

 ユニクロとしては、アンダーカバーとのコラボ企画は成功したと手応えを感じたはず。それがさらにコアなファンを開拓するためにファッション性を追求するGUとの協業に引き継がれたと思われる。これまでに取り込めていなかった客層へのアプローチというより、トレンドファッションに敏感な層を積極的に捕捉していく狙いと見られる。日本で売れるためには日本のデザイナーとコラボした方がいい。これもローカル発想と言える。

 協業第3弾のウェアはXSから3XLまで7サイズ、全21型のユニセックス展開。ベーシックなアイテムでも、着る人の好みでカスタマイズできるように工夫を凝らしている。プレスプレビューでお披露目された「モッズコート」は、価格が7990円(税込)と手頃。ウエストとその下部はジップで切り替えられており、着脱が可能。寒い日にはコート、暖かい日はブルゾンとしても着用できるなど、デザインと実用性が共存する。

 この手法は、GUでヒットアイテムとなったスーパーワイドカーゴパンツを下敷きにした「ヘリクルーパンツ」(税込3990円)や「ライダーズジャケット」(税込7990円)にも踏襲されている。ヘリクルーパンツは膝下部分が着脱可能で、ショートパンツになる。また、ライダーズジャケットは袖を外してベストとしても着ることができる。これらは気温が高い日の着用も想定した企画、仕様と言える。


フェイクレザーの始末に問題が

 ユニクロは、2023年秋冬シーズンが暖冬で日本や中国大陸では9、10月の防寒衣料の売れ行きが鈍化した。ファストリは2024年の年頭、23年秋冬商戦の苦戦から、実際の気温推移にそった品揃えにシフトし、気温に関係なく売れるニュース性の高い商品も増やすと発表した。

 GUはユニクロに比べるとデザイン性の自由度が高く、その分柔軟な発想で商品企画を立案できる。今回のコラボ商品は早速、こうした方向性を実践し市場の反応を確かめようとしているのではないかと、見るのは早計だろうか。

 ファストリは近い将来、グループ全体で売上高10兆円達成を目標とする。そのためには世界戦略においてマス市場を攻略していく上で、GUをユニクロに次ぐ第2の柱にしなければならない。ベーシックなユニクロに対し、ファッション性を追求するGU。ただ、GUのものづくりやコスト構造では、どこも優れるという全天候型は難しいだろう。ユニクロとの違いを明確にしていくにはどこに注力し、どこをブラッシュアップしていくかだ。



 GUが「お洒落はしたいが、それほどお金はかけたくない」というマス層を捉えるには、どこにコストをかけどこを削るかで価格を決めなければならない。つまり、著名、人気ブランドとの協業では、自社企画の限界を補いつつブランドのニュアンス、ディテールでのデザインセンスを重視=契約条件に落とし込みながら、素資材などのコストはできるだけ抑えて買いやすい価格を実現していくことになる。

 もちろん、コラボ契約するブランドによっても、落とし所の条件は違ってくるはずだ。ただ、アンダーカバーとの協業では、らしさ追求というか、デザイン性を重視するがあまりに、品質の面はかなり削ぎ落とされてされているように感じる。それはある意味、仕方ない面もあるが、アイテムによってはブランド側の世界観がローコスト仕様によって多少おざなりになっているのではと感じる。

 この点はすでに2012年にユニクロと協業したUUでも見られた。この時はフェイクレザーでヘムなどのステッチ仕様、始末でかなり粗雑さが目立った。フェイクレザーは基布にポリ塩化ビニル・ポリウレタン等の合成樹脂を貼り付けているため、本革のような柔軟な伸びがあるわけではない。そのため、工場ではレザーの見返し部分の縫い合わせが難しかったのか、本縫いが従分でなく折り畳みが剥れ上がっている箇所があった。

 UUでは作り上げたサンプルに対し、アンダーカバーのデザイナーとユニクロの企画担当が膝を突き合わせて、「どこまでのレベルなら売場に出せるか」検討を重ねたはずだ。当然、前出のような問題点は生産管理はもちろん、ファストリの幹部が気づかないわけはない。それでも、本生産にゴーを出したということは、コストダウンの面から縫製仕様では目を瞑った部分もあったのだろう。それでも完売したのだから、御の字と見たのか。

 GU・アンダーカバーのコラボ第3弾でも、フェイクレザーのライダーズジャケットが投入されている。UUからすでに12年が経っており、こうした点が改善されたのか確認してみたかったが、発売直後に完売したようでできなかった。公式サイトには「GU × UNDERCOVERコレクションについて、店舗・オンラインストアともご好評につき品薄となっております」とお詫びの旨が告知されている。



 アンダーカバー側もコラボレーションには前向きのようだから、今後も契約が継続されれば経営がより安定するのは間違いないだろう。そのため、コラボ商品についてはコスト圧縮による品質の削ぎ落としは十分許容しているのではないか。本家ブランドへもそれほど影響はないとの判断なのだろう。ファストリとしても自社企画の限界を埋めるには、他の著名ブランドとの協業には積極的に取り組んでいくと思われる。

 欧米のラグジュアリーブランドでは、ライセンス生産を認めるところはあまり見られない。むしろ、LVMHやケリングといったコングロマリットは、株式を上場して市場から資金を調達できるため、ブランド戦略では商品を製造・直販し、商標も一括管理している。ライセンス契約に代わるものとして低価格を売り物にするグローバルSPAの力を借り、手に入れやすい価格の商品を売り出すコラボレーションを採用するようになったと考えられる。

 低価格のグローバルSPAでは、ギャップのオールドネイビー、ザラのベルシュカが日本から撤退した。残存者利益を得たいGUとしては、残るH&Mや再上陸したForever 21の商品企画やコスト構造、それに伴う縫製仕様と相対的にやや上回る程度で十分との腹づもりなのだろうか。最後は世界の市場がどう判断するかになるのだが、SDGsが叫ばれる中で売れれば粗雑でもいいという考えは少し違うような気もするが。

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