HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

脱デニムに商機。

2024-04-17 06:44:52 | Weblog
 3月の半ばだったか、繊研PLUSに以下のような見出しが躍った。「実感なきジーンズブーム 中小メーカーの活路は?」である。内容はドクターデニムホンザワの本澤裕治社長がインタビューに答えたものだった。詳細は以下の通りだ。

 ジーンズブームは続いていると言われていますが、中小のメーカーや工場でその実感を得ている企業はあまり多くないでしょう。ジーンズ業界は最盛期には、トップ2ブランド(エドウィンとビッグジョン)だけで、国内で年間約1500万本を製造していました。その頃に比べると激減しています。




 1990年代後半から2000年前半にかけ、アール・ジーンやAG、セブン・フォーオールマンカインドなどプレミアジーンズ、ストレッチの走りとなったシマロン、渋谷109のマウジーが手がけたものがヒットして以降、ジーンズブームは幾分沈静化したような気がする。

 その後も上質なデニムを使ったテーパードジーンズは、アメカジに注力するセレクトショップが定期的に別注やダブルネームで仕掛けることがあった。しかし、購入者の絶対数は限られるわけで、市場が広がることはない。今やガチガチのジーンズに心酔するのは、ドゥニームや桃太郎を好む男性くらいで、残りのジーンズ好きはリーバイスやディーゼル、ヤヌーク、ジースターロゥ、エヴィスなどブランドに手を伸ばす程度だろう。



 A.P.C.はブランドの代名詞、デニムに焦点を当てたイベント「A.P.C. DENIM」を開催中(4月21日まで)だ。同デニムは日本製のオリジナル生地を使用し、外は堅く中はふわっとした肌触りからフランスパンに例えられるほど。履き慣らしていくと脚型に寄り添うように変化する。商品をショップに常時展開するより、催事を仕掛けた方が一見を含めお客の目にふれる公算は高い。言い換えると、ブランドであってもそれだけ成熟しているということだ。


 デザイン面ではレディスではスキニー、ローライズのような美脚ラインは下火になり、ワイドシルエットやハイウエスト、カラーがトレンドになっている。それらもパンツというカテゴリーで捉えられている。そもそも、レディスのボトムにはスカートやショーツもあるので、パンツは穿きやすさといった機能性で選ばれる傾向が強い。なおさらZ世代向けには、ジーンズ以外にも手ごろでお洒落なパンツ類があり、着用アイテムの選択肢は広くなる。

 もっとも、カジュアルアイテムは洗い替えが必要で、数を持たなければならない。だから、ジーンズのような穿き潰すアイテムは、どうしても安いものに目が行ってしまう。SPAが低価格商品を市場に投入したのは、こうした理由もある。それでも、そこそこの質はキープできているので2〜3年の耐用はあり、お客もこの質、この価格なら十分だと流れてしまう。逆に1本数万円のものを何年も洗わずに穿きこんで、”ヴィンテージ臭”を漂わせるのは将来的な投機目的を含めたマニア限定になる。あとは業界で働いているショップスタッフくらいなもので、一般に広がることはないだろう。



 SPAの大手ではユニクロがこの春、Hellow, New Denim.のキャッチコピーでデニムの広告を再開した。ただ、テレビCMやHPのビジュアルは、アイコンとなるようなタレントを起用したものではない。ドレープデニムのタックパンツ、ワイドストレート、ストレッチスリムアンクルジーンズ、スキニータイプのウルトラストレッチが主要アイテムで、トレンドのワイドシルエットやストレッチを打ち出し、ライトメイドなMDを訴える内容になっている。

 つまり、大半の消費者にとってジーンズがワードローブの一アイテムに成り下がったことから、SPA側も爆発的なトレンドが生まれるケースは少ないとの前提で、MDを考えているわけだ。ガチガチのジーンズというより、ライト感覚のデニムパンツとして捉える。売るためにはジーンズ以外の品番を増やすフルアイテムのMDを築く。アメカジライクな着こなしはなくならないにしても、ウエアの選択ではトップからボトムまでバリエーションが必要になる。特にレディスはこうした変化に敏感だ。

 セレクトショップのビームスは海外卸を強化している。レディスカジュアルの「ビームスボーイ」では、1940~60年代半ばの米国の「トラッド」「ワーク」「スポーツ」「ミリタリー」のテイストを軸にしたビームスプラスの人気が高いという。メンズライクなレディスウェアというコンセプトが評価され卸売先が広がっているのだが、ジーンズがキーアイテムになっているわけではない。まさにジーニングカジュアルは過去のものになったようである。


市場にないものをいかに作るか

 記事ではこんなことも語られている。
 (中小のジーンズメーカーが)今まで通りのやり方では落ちていく一方です。何か新しい商品やブランドを企画しなくてはいけない。そのヒントは売り場にあると思います。
 先日、とあるカジュアルチェーンの店舗の中で、一番パンツを売るという店を視察しました。ジーンズ売り場はNB数ブランドで埋まっており、小さなブランドが入り込む余地はないと思い知りました。


 ではどうするか。それについても語られている。
 市場にないものを開拓するべきです。例えば、コーデュロイの5ポケットパンツは、最近は売り場にほとんど見当たらない。そういった、大手があまり作っていない商品に勝機があると思います。
 24年は準備の年だと捉えています。市場を分析し、新しい企画を練り、来年こそは攻勢に出たいです。


 なるほどである。小手先のモノづくりでは、マーケットは拓けないということだ。市場をじっくりリサーチして企画に時間をかけ、大手にないアイテムを作り出す。ジーンズ自体が成熟している中、少々の仕掛けぐらいではブーム再来は難しい。ただ、パンツというカテゴリーに広げて見ると、決してなくなるアイテムではない。レディスではシルエット重視で脚が長く、細く見えるというニーズは永遠だからだ。

 メンズでもトップに着るジャケットやブルゾンとのトレンド相性で、どんなシルエットにするか。いろんなモデリングを考えればいいだろう。次は使用する素材、生地のこしや厚み。四季を通じて素材使いを変えていく必要がある。コットンを主体に使うにしても、気温に合わせて薄手から厚手のバリエーションが欲しい。秋冬は肉厚の起毛系で防寒仕様、年明けから梅春は同素材でブライトカラー。春以降は生地を薄くして、綿、綿麻、麻で清涼感を出していく。

 少なくとも、色は重要な決め手になると思う。デニムの自然な色落ちに拘るのは、一部のシーズンファンだけだ。それに昨今は洗濯排水が環境に負荷をかけると言われる。天然の藍染めならベストなのだが、それを多くのお客が求めているかと言えば、否だ。逆に化学染料を使用すれば、染めにしても洗い加工にしても環境保全には逆行する。サスティナブルに対し市場はそこまでの関心はないにしても、作る側は決して無視できない。

 むしろパンツというカテゴリーなら、原反カラーのままでいいのではないか。ボトムは汚れやすい。だから、洗濯がきいて色落ちや大きく型崩れしない素材を使う。本澤社長が取り上げていたコーデュロイパンツは、毛羽が縦方向に畝になった起毛素材で防寒に向き、耐久性、保湿性に優れる。もちろんコットン100%なら洗濯がきくし、色落ちもせず環境にも優しかったはずだ。

 そんなコーデュロイパンツも、いつの間にかポリウレタン混でストレッチをきかせ、履きやすさのみが追求されるようになった。そちらの方が売れるからだ。ところが、各社が参入して、市場には似たような商品が溢れ、価格競争が激しくなった。大手が作らなくなったのは、そうした理由もあると思う。

 ただ、単にコーデュロイパンツをそのまま復活させるだけでは、市場の開拓は難しいだろう。ピケやモールなどにしても生地感を進化さていくことが必要ではないか。その点では専業メーカーとしてのスタンスを貫くにしても、目先を変えた商品を開発するには素材メーカーの手も借りなくてはならない。要は生地から開発していく必要があるのではないだろうか。



 Y’sは、服の型紙をあてたように制作過程がプリント柄に表現されたデニムコレクションを4月3日より伊勢丹新宿店での先行販売し、国内9箇所のストアでも期間限定で展開した。ユーズドのデニム生地を使用して継ぎはぎに仕立てたパッチワークジーンズの他、山本耀司が描いたドローイングが配された紙タグが仮留めのように付けられたデニムシャツ、トートバッグやポーチもある。デザイナーズブランドだからここまでの企画ができると言えばそれまでだが、目先を変えるにはパンツだけでも作り込むことが必要かもしれない。




 海外にはパンツ専業のメーカーがある。イタリアの「INCOTEX」もその一つだ。専門的な技術と品質の高さには定評があり、確かな素材選び、巧みな縫製裁断技術、細部にまで配慮が行き届いたディテールにより、高級品としての地位を確かなものにしている。また、同国の「CRESPI」は1797年創業の素材メーカーで、生地にはこしがあってメンズ向けのボトムに向くことから、ユナテッドアローズやトゥモローランドでは別注のパンツに使用されていたこともある。

 INCOTEXのパンツやCRESPIの生地をチェックしたことがあるが、確かにシルエットが綺麗で、素材の質も高い。この辺のパンツ作りや素材が参考になるだろうが、日本のパンツ専業メーカーならもっといいものを開発できるのではないかと思う。中小のジーンズメーカーが生き残りをかけ、市場にないものをいかに作り出すか。ボトムにこだわりを持つ層からすれば、穿いてみたいと感じさせてくれるものの登場に期待したい。


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