HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

サスティナブルは幻想か。

2020-01-15 04:59:36 | Weblog
 昨年以来、業界では何かにつけて「サスティナブル」が引き合いに出されている。もともとは2015年の国連総会で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)が始まりだが、その内容は働く人々の平等や成長、ダイバーシティー(多様性)の確保、地域との共生、フェアトレード、地球環境の保全、若い才能への支援、NPOやNGOとの連携など、それらの利害関係者すべてと将来にわたって持続可能な関係を築いていくことを意味する。

 アパレル業界も原料から製造、販売まで行うサプライチェーンを構築しており、その過程ではSDGsに関わる様々な問題点が指摘される。生産コストが安価な海外工場に製造委託するあまり、労働者が不当に扱われたり、雇用環境を著しく悪化させていたのだ。2013年にはバングラデシュのダッカ近郊で縫製工場が入居していたビルが倒壊し、1100人を超える死者を出した。この事故はファストファッションがいかに劣悪な環境で製造されているかを白日のもとにさらし、SDGsやエシカル(倫理的)について考える契機となった。

 以来、国際団体やNGOによって縫製工場の安全のための国際合意が創設され、社会や環境への負荷を軽減し、「サスティナブルアパレル連合」や「テキスタイルエクスチェンジ」などの活動が始まっている。グローバルアパレルにとっては国際的に主導し、認証を受けることがSDGsへの取り組みの第一歩という認識のようだ。だが、売れ残った服の焼却処分や海洋投棄されたプラスティックゴミなど、まだまだアパレル業界の課題は少なくない。

 日本でもサスティナブルが注目され、企業活動に取り組むところが出始めている。具体的には、まず「素材」がある。リサイクルできるものを使用したり、オーガニックコットンやフェイクファーに切り替えたりだ。「資材」では、キャリーバッグを有料化し、再生が可能な紙製に戻すところがある。「サブスク」「シェアリング」といった流れの中では、所有からレンタルに移行。服についても持たずに借りるというスタイルが浸透させ、無駄な商品製造を減らしていこうという発想だ。

 また、店舗や売場でも動きがある。新店では什器や棚などの8割以上でリサイクル可能な素材を使用するところが出始めた。アパレルのブランドや店舗には、成長のサイクルがある。一般的に誕生や出店直後が導入期、それらが成長期に入り、成熟期を経て、やがて衰退期を迎える。成熟や衰退の過程では売上げが鈍化したり、減少したりする。そのため、企業はテコ入れでリブランディングや店舗の改装を施す。この時に不要となった什器や棚などをリサイクルに回せるようにするものである。

 もっとも、ここまでの取り組みでは、SDGsは緒に就いた程度に過ぎない。前にも書いたが、 小島ファッションマーケティングの調査によると、「2017年、衣服の供給量は約28億点だったのに対し、消費量は半分の約14億点。約14億点が余剰在庫となり、過去最高に達した」というデータがある。最大の懸案である「余剰在庫の削減」、つまり「無駄の無いもの作り」に踏み出さない限り、素材のリデュースは進まないし、資材も使われ続けるのだ。

 服が2枚に1枚は消費されず処分されるのは、需要もないのに供給されているからと言える。その要因は止まらない新規出店とネット通販の増加もある。東京では再開発事業が目白押しで、そこでは商業施設が抱き合わせて開発される。当然、器ができれば、物を入れるから店舗は増え、在庫が積まれていく。首都圏ではいくら流入人口が増えていても、消費者の行動パターンは決まっている。新店が集客できるのはあくまで一時的で、店を出したからと無尽蔵にファッション消費が進むとは、考えにくい。結果、14億点もの余剰在庫を生むのである。

 また、需要が減退しているのは、若年人口の減少や高齢者の増加もあるが、海外工場での量産による商品価値の低下もあると思う。大手、中小を問わずアパレルは企画から外部に丸投げし、それによってブランド名は違っても似たような素材、色、デザインが大量に市場に出回る。お客は商品が似通ってくれば、好みのブランドだけで十分だ。そのため、店舗が新たな顧客を開拓できるはずもなく、余剰在庫がどんどん膨れ上がっていく。

 アパレルがSDGsへの取り組みを声高に叫ぶのなら、まずは無駄な在庫を生まないもの作りをするのが先決ではないか。そうでなくて、素資材の手当てや所有しない価値創造のレベルに甘んじているのなら片手落ちというか、焦点がぼけているように思えてならない。さらに言うなら、サスティナブルへの取り組みを単に企業価値やブランドの向上=お客の目を引く手段に利用しているだけではと、突っ込みたくなる。

 やはり売れる商品を必要とされるだけ作るという意味では、「今のブランドを半分に削減する」「AIを活用して需要予測を徹底」「C2M、完全受注生産に切り替える」くらいのドラスティックな施策を公言しなければ、信憑性はない。というか、SDGsはそれだけ劇的な変化をしなければ、なし得ないのではないだろうか。オンワードHDは、子会社のオンワードパーソナルスタイルを通じ「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」を手がけている。SDGsを宣言しなくても、在庫を持たないビジネスに踏み込んだ点では、こちらの方が評価されるべきと思う。

 もちろん、売れる商品づくりに従来のような企画スタイルやマーケティング手法は通じない。服の2枚に1枚は売れていないという市場環境をより詳細なデータに置き換えて考えることが必要だ。そして、デジタル技術を活用してお客や市場のニーズを分析し、必要とされるだけの商品を作っていく。そのために経営者には業務フローはもちろん、組織体制や仕事のプロセス、企業文化や風土までのすべてを変えていく覚悟が求められる。

 「衣料品はもう、そんな求められていない」ということを前提に、販売ロス、機会ロスを封印し、残るほどの商品を作らない。完全売り切り、受注生産へ舵を切らなければ、アパレルにとってのSDGsなんて幻想に過ぎなくなってしまう。

 アパレル以外の業種を見てみよう。昨年はセブンイレブンが何かと話題になったが、24時間営業はそれだけエネルギーを使用し、CO2を排出する。地球環境に負荷をかける点で、店ごとに営業時間の選別は重要な課題かもしれない。それ以上に問題なのは食品の廃棄だ。セブンイレブンジャパンでは会計上、同社の売上げにつなげるため、本部のスーパーバイザー(SV)が店舗オーナーに断りも無く勝手に商品を発注していたことが発覚した。本部が見切り販売を認めても、売れなければ廃棄されることに変わりない。端から廃棄ロス分を価格に乗せて、売価を決定しているとの指摘もある。それだけ売価が高ければ、値引きしても売れない可能性は高いのだ。

 先日、ファミリーマートでも、同じことが行われていたと報道された。それまで澤田貴司社長は「私が経営している中では、無断発注は起きていない」と豪語していたが、経済誌ダイヤモンドが店舗コーナーに取材をして明るみに出たのだ。しかも、このオーナーによれば、17年の開業当初から、SVが商品の発注方法を詳しく教えないまま、無断発注を繰り返していたというから、悪辣さは極まりない。澤田社長はどう弁明するのだろうか。売上げのために廃棄を承知で仕入れさせているのだから、コンビニはアパレルよりもSDGsにはほど遠いということになる。

 アパレルやコンビニに限らず、スーパーでも大量に陳列されていた年末年始向けの食品は完売することはなく、売れ残りは廃棄処分されたと思う。筆者も料理をするので、廃棄には胸が痛む。肥料などにリサイクルされるとは言っても、SDGsに照らせば飢餓に苦しむ人々もいるわけだから、食べられずに捨てられる食品がこれほど多いのは、あまりに不平等と言わざるを得ない。

 せめて服くらいは大切に長く着ていこうと年頭に誓う。自分がとことん気に入るには既成服では限界があるので、オリジナルで作るようになった。もちろん、既成服も2〜3シーズンで着古すものには手を出さず、オリジナルと同様に長く着つづけられるものを探したい。手持ちのアイテムでも購入から20年以上のニット、15年を超えたジャケットやパンツもある。まだまだ十分着れるし、穿ける。SDGsこそ、まず隗より始めよだ。微力ながら、お気に入りの服は死ぬまで着ることで、余剰在庫の削減に貢献したい。

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