突然の不幸はさておき、人生も終盤に近づいてくると、とてつもない大きな忘れ物を残しているように思うときがあります。
普通の中に珍しさや不思議、感動を忘れ淡々と時を過ごしてしまう。そんな時に我を啓発するかのように、機械はおとずれます。
NHKで8月16日(土)の深夜「君が僕の息子について教えてくれたこと」という番組が放送されていました。現在22歳になられるそうですが自閉症の東田直樹さんが7年前に書いた『自閉症の僕が飛び跳ねる理由』という本が今は『THE REASON I JUMP』という本がアイルランド在住の作家デイビット・ミッチェルさんの翻訳により世界でたくさん読まれつつあるようです。
自閉症の親ばかりではなく、私自身も多くを学ばしてくれる本であり、番組でした。再放送も来週あるようで、私には人間の本質に迫る打ち震えるような感動がありました。
自閉症者について何を知っていたのか。飛び跳ね、突然何かをし始める。コミュニケーションが取れない変わり者。現象のみを私は見ていました。
思いを伝えることのできないジレンマ、それがストレスとなる。脳が勝手に何かに動かされる。自分というもの自体をコントロールできない。
そんな世界に生きているなどとは全く知りませんでした。これこそ「我」をもって他人を見ている私がそこにありました。自閉症者とはそういうものだというレッテル、私はそう言うレッテルを貼るだけでいました。
私にとっては、とても大切な啓発番組でした。
自閉症者の東田直樹さんはパソコンを使い自分の思いを文章にでき、他人と紙のキーボードを使いコミュニケーションをはかることができます。会話ができないほどの重度の自閉症を抱えている人が他界表現力をもつのは世界でも珍しいとのこと。番組冒頭に「これは、一冊の本から生まれた希望の物語」と語られ、自閉症の子を持つ親、自閉症の少年が東田直樹さんの次の言葉を朗読します。
僕がピョンピョン跳ねる時
一体どんな気持ちだと思いますか?
すごく興奮しているから
何もわかってないと思われるでしょう
僕は飛び跳ねている時
気持ちは空に向かっています
空に吸い込まれてしまいたい思いが
僕の心を揺さぶるのです
空に向かって体が揺れ動くのは
そのまま鳥になって
どこか遠くへ飛んで行きたい
気持ちになるからだと思います
どこか遠くの青い空の下で
僕は思いっきり羽ばたきたいのです
翻訳者のミッチェルさんには重度の自閉症の息子がいます。息子が何を考えているのか分からず、どう愛せばよいのか途方に暮れていたミッチェルさんは、東田さんのこの『自閉症の僕が飛び跳ねる理由』に出会います
【ミッチェル】『自閉症の僕が飛び跳ねる理由』を読んだ時にナオキの言葉を借りて息子が話しかけてくれるのを感じたのです。ナオキは私の感情を揺さぶります、泣かせられるのです。
東田さんは幼いころから文字に強い興味を示し、キーボードを使う練習を母親とくり返し、意思を伝えることができるようになったとのこと。お母さんの理解と努力、そして思いは子に伝わるものです。
番組の中で東田さんが自閉症の「記憶」について語っていました。一般の健常者と言われる人は記憶が線でつながっており、自分の記憶はそのような時系列ではなく、点と点で現われるというようなことを言われていました。
執筆中も突然数日前の記憶がよみがえり、自分の意思とは関係なく言葉が飛び出します。
「重度の自閉症者の場合には、発語があってもあっても自分が見たものは何かを、そのまま答えることが多いと思います。思いを伝えられない自閉症者にとってのせい一杯は、自分の目の前にある物の名前を答えることだからです。僕も目からの記憶は鮮明で次から次へと写真のようにストックされます。」
という執筆中の文章が紹介されます。
はじめにも書きましたが東田さんはキーボードによりコミュニケーションをはかることができます。なぜできるのか、
「自分の忘れてしまいそうになる言葉を思い出せるからです。」
と答えていました。
9月13日(土)午後3時05分~4時05分に再放送されます。