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『グロテスク』(桐野夏生)

2006-12-16 22:32:40 | 読書日記
 桐野さんの作品を初めて読みました。
 
 昼は一流企業のエリートキャリアウーマンが、夜は売春婦という一面を持ち、渋谷のアパートで絞殺死体として発見された「東電OL殺人事件」を素材としています。
 この事件はワイドショーネタとして随分世間を賑わしましたが、逮捕された被疑者が犯行を否認するなど、その真相が不明なままです。
 そこで、著者が小説という形で、被疑者の心の闇を描いてみせてくれています。

 不思議な作品である。事件に関わる登場人物が、章ごとに独白するという形式で物語が構成されています。したがって、それぞれの登場人物が、それぞれの視点で話をするので、相反する話もでてきます。それがこの作品が妙に”すわりの悪い”印象を与える原因かもしれません。

 「だけど、あの人の懸命さがイジメの対象になった。夢中で追いかけて来るのが見え見えだったからよ。思春期の女の子って残酷だから、それがださく見えたのね。」
 「皆で虚しいことに心を囚われていたのよ。他人からどう見られるかってこと。あたしもあなたも和恵さんも、マインドコントロールされていたのかもしれないわね。その意味で言えば、誰よりも一番自由だったのは、ユリコさんよ。あの人は違う星から来たのではないかと思うほど、解放されていたし、自由な鳥のようだった。だから、日本でははみ出さざるを得なかった。あの人が男の人にあれだけもてたのは、美貌だけではないかもしれない。男の人がユリコさんの本質を本能的に見抜いたせいかもしれないわね。」

 一人の女性が”怪物”になり、破滅へと突き進んでいく姿が痛々しい。どこかで自分を納得させて、競争からいち早く降りてしまっている自分には、この和恵という登場人物のように、社会のルール・ヒエラルキーなどにとことん戦いを挑むその不器用な生き方は、息がつまりそうです。

 そんな重苦しい小説でありながら、不思議と一気に読んでしまいました。