高野秀行『放っておいても明日は来る 就職しないで生きる9つの方法』を読む。
「辺境ライター」と称する高野秀行氏が、会社員ではない、いわゆる「自由業」、その中でもかなり一般ルートからそれたフリーダムな人々に話を聞くというもの。
この対談相手というのが、なかなか一筋縄ではいかない人々で、
「タイで無国籍バンドを結成」
「アジア旅行中、なぜかムエタイ選手になったOL」
「島に移住して、廃材集めて自力で家を建てる人」
「死者上等、デンジャラス辺境ツアーのコーディネーター」
などなど箇条書きにするだけでも、自由というか、自由すぎる人ばかり。
わけても剛毅なのが、Kさんという人。
Kさんは、ミャンマーに旅行代理店を立ち上げたものの、事務所も車もなく、従業員もいないという体たらく。
さらには金もコネもないという、社長とは名ばかりの開店休業状態。
アジアの片隅で、ひねもす時を過ごすだけというのでは、ただミャンマーに沈没してるだけのボンクラバックパッカーと、ほとんど変わらない。
そうやって仕事もなくフラフラしていたところ、たまたま見つけたのが極真会館のミャンマー支部。
ヒマだったKさんは、なにげなく入ってみることにした。
実はKさん、極真の使い手で、黒帯の実力者だったのである。
ヒマつぶし以上のふくむところはなかったKさんだったが、中からなぜか、20人以上の道場生がお出迎え。
ずいぶんと仰々しいが、彼らは真剣な顔で、
「お前は何者だ、名を名乗れ」
そこから、なし崩し的に「お手合わせ願おう」と、1対20数人の変則デスマッチに突入することに。
冷やかしのはずが、とんだ大バトル。
なぜそうなるのかは意味不明だが、男と男は言葉よりも拳で語り合うということかもしれない。
どうも、Kさんはその圧倒的「ただ者でない感」から、道場破りかなにかと間違えられたようなのだ。
とんでもない誤解だが、あにはからんや、なんとこの突発的激突で、Kさんは圧倒的な数的不利をものともせず、ミャンマー支部の道場生全員を吹っ飛ばしてしまうのだ!
たったひとりで、20人以上の空手使いを撃破!
すごいぞKさん、強すぎる。マス大山みたいだ。リアル空手バカ一代。
そんな熊と戦わせたくなるようなストロングKさんだが、なぜか次の日も道場へ。
空手対決によりなにかが覚醒したのか、それとも単にヒマだったからかはわからないが、そこには前日ボコボコにされた道場生たちのうち、まだ動けた3人が待ちかまえていた。
「昨日は不覚を取った、もう一度勝負だ!」
なんだか少年マンガみたいな展開だが、Kさんはここでも焦ることもなく、
「受けて立とう!」
自慢の空手技を駆使して、鎧袖一触。
リベンジを誓う3人を、またたくまにノックアウトしてしまうのだった。
強い、強すぎるぞKさん。
そらまあ、20人がかりで勝てないのを、3人では勝負にならへんですわな。
流れ的に、話は「Kさんすげー」という、ちょっとした武勇伝で終わるのかと思いきや、ここからがまた豪快なのが、KさんはKOされて、畳の上にうずくまる3人の男たちに、
「昨日あれだけやられたのに、また向かってくるとは、お前たちは根性がある」
と言い放つや、とんでもない宣言をここに行うのである。
(続く→こちら)