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マンチェスター・バイ・ザ・シー

2017年05月16日 | 映画

ケイシー・アフレック主演、ボストン近郊の小さな海辺の町を舞台にしたヒューマンドラマ。「ギャング・オブ・ニューヨーク」の脚本を手掛けたケネス・ロナーガンが監督・脚本を務め、マット・デイモンが製作に名を連ねています。

マンチェスター・バイ・ザ・シー(Manchester by the Sea)

ボストンでアパートの便利屋として働いているリー(ケイシー・アフレック)は、兄が持病の心臓病で亡くなったとの知らせを受け、故郷の海辺の町マンチェスターに駆け付けます。遺族としての務めに奔走する彼は、弁護士に会い、自分が兄の残したひとり息子パトリック(ルーカス・ヘッジス)の後見人に指定されていることを知ります。

いきなり16歳の少年の父親代わりを任せられ、困惑するリー。ボストンの自分の元に引き取ろうとするも、学校生活を満喫していて青春まっただ中のパトリックは、故郷を離れるつもりはなく、リーがここにきて一緒に住むべきだと主張します。しかしリーにはどうしてもこの町にもどれない理由があったのでした...。

きっと重苦しい映画だろうなと思う一方で、きっと私好みの作品に違いないという直感がありました。それに久しぶりに、ニューイングランドの灰色の海の風景も見たかった。マンチェスター・バイ・ザ・シーというのはマサチューセッツ州の北東部、ボストンから車で1時間半のところにある海辺の町です。

そういえば「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ」も町の名前だったと、ふと思い出しました。この映画はテイストとしては「君が生きた証」(Rudderless・2014)に似ている...つまり、取返しのつかない過去と向き合う一人の男の物語。現在と過去を行きつ戻りつしながら明らかになる、事実の重さに打ちのめされました。

全編を通して死が色濃く支配している作品ですが、物語の本質を失わないほどのさりげないユーモアがそこここに散りばめられていて、そのたびに何度も救われました。特にパトリックの存在は生きる希望そのもの。2人の彼女とのドタバタやバンドの練習風景など、彼のはじける若さと明るさがまぶしかった。

笑顔の下に最愛の父を失った悲しみを秘めながら、叔父であるリーを気遣うパトリック。そして、パトリックにとってどうすることが一番いいか、自問し、苦しみ悶え、考え抜いて最後にひとつの結論を出すリー。そんな彼らを気にかけながらそっと見守る、まわりの心優しい人たち。

登場人物たちの心の動きや、小さなエピソードをひとつひとつていねいにすくいとりながら、まるで水彩画のように描かれていく繊細な物語に心を動かされました。

ケイシー・アフレックの出演している映画はこれまでにもいくつか見ていますが、失礼ながらベン・アフレックの弟さんというだけで今ひとつ印象が薄かったので、こんなに繊細で骨太の演技のできる役者さんだったんだ、ということに正直驚きました。ベンやマットと同じくボストン近郊で生まれ育った彼だから、この役どころもすごく自然に感じられました。

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