これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

虫歯の(元)子どもの誕生日

2023年11月26日 20時39分16秒 | エッセイ
 歯みがきのあとに歯間ブラシを使ったら、歯茎から血が出た。
「あれえ、化膿しているのかな」
 先月のことだ。10月、11月は忙しく、疲れがたまっていたせいと決めつけていた。ちょうど、ゴールデンキウイを食べたせいかもしれない。ひとまず娘に愚痴ってみた。
「ねえねえ、ミキ。お昼にキウイを食べたら、ゴマが歯の間にはさまって、歯茎から血が出ちゃった」
「は? キウイのゴマって何よ。種でしょ」
「そうそう」
「二度と食べちゃダメ」
「やだよ~」
 たわいのない話のあと、何日も出血が続く。痛みも強まり、不安になって歯医者に駆け込んだ。
「痛い? じゃあ、レントゲンを撮ってみましょう」
 出血している場所は治療痕の下で、外から見てもわからない。まずはレントゲン室に向かった。
「虫歯ですね」
 医師が歯の写真を見せながら説明を始める。どうやら、根元まで進行してしまい、神経が腐っているらしい。虫歯の箇所は写真の色が薄くなっていて、明らかに変だった。レントゲンでそんなことまでわかってしまうとは驚きである。その日は詰め物を削って神経を抜き、薬を入れて化膿が治まるのを待つという。銀を詰め直すのは2~3週間後に、歯茎の状態が安定してからと言われた。
「今日は軟らかいフタをかぶせておきましたので、また来週見せて下さい」
「はい」
 不幸なことに、この間、私は誕生日を迎えた。先日アップした美しいレディのケーキは、治療中の歯で食べたわけだ。(関連記事「レディに一目惚れ」はこちらから)食欲はなかったが、一年に一度のお祝いなので、食い意地は衰えない。
 娘からはプレゼントとしてスタバのドリンクチケットを6回分もらった。



 しかし、歯茎の痛みが残っており、さすがに、すぐには使う気になれない。
「ううう、そういえば、NHKのみんなのうたに『虫歯の子どもの誕生日』っていうのがあったよね」
 平成生まれの方は知らないかもしれないが、昭和生まれだったらご存じなのでは……。誕生日の前日から虫歯の痛みに悩まされた男の子の嘆きを歌ったもので、なかなかのインパクトがある。
 初めてこの曲を聞いたときは、何て不幸な子どもなのだろうと同情した。そして、今は自分が同じ状況になっている。もう大人だけど、これを聴いていたときは子どもだった。ちゃんと歯みがきしていたはずの、元子ども。「ぼくは~あ、もうダメだあ~ああああ」というフレーズには苦笑するしかない。
 あれからひと月以上たち、先週、ようやく歯の治療を終えることができた。痛みも出血もなくなって、大きく削られた歯にフィットした銀がはまり、噛み合わせを調節したら、医師からねぎらいの言葉があった。
「大変でしたね。これでもう大丈夫です」
「よかった! ありがとうございました」
 歯茎が元気になると食欲も戻る。一昨日は11月にしては非常に暑く、出先で駅に向かう途中のスターバックスが目に入った。
「おおっ、チケットを使うチャンスだ~」
 コートを脱いでちょうどよい気温なので、キャラメルフラペチーノを注文する。しかし、チケットの使い方をすっかり忘れていた。
「ええと、ウォレットから……これかな?」
「はい、その三角のところを押していただけますか」
 レジのお姉さんに教わってURLにたどり着き、何とかQRコードが表示できた。ホッ。
「お待たせしました~」



 虫歯を乗り越えて味わったフラペチーノは、やさしい甘さで、疲労も寝不足も吹き飛んでしまう格別な味がした。
「おいし~」
 チケットの残りはあと5枚。
 最高気温8度の今日は寒すぎた。
 暖かい日に、別のフラペチーノを頼んでみようっと。

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日本遺産「大山詣り」

2023年11月19日 21時41分23秒 | エッセイ
 貴重な平日休みを利用して、神奈川県伊勢原市の大山に行ってきた。土日は混雑するので月曜を選んでみた。
 2月にも登った山だが、今回は紅葉目当てである。
 しかし、見渡す限り緑一色で、赤や黄色に色づいた葉が見当たらない。
「うーん、まだ早かったか」
 今回は、ケーブルカーに頼らず歩いて登ることにしたが、翌日は仕事なので山頂まで行かず、富士見台で富士山を拝んだら下山する予定だ。
「女坂は左よ。こっちこっち」
 方向音痴の私に代わって、親友の幸枝がナビゲーターをしてくれる。ついていくだけなら楽チン、楽チン。



 しかし、登りは苦しいなぁ……。



 私の心肺機能はお粗末なので、ゆっくり登ることにした。女坂の途中には大山神社があり、お詣りをして阿夫利神社を目指す。低く垂れこめていた雲も晴れてきて、江の島が見えた。雨女としてはちょっとウレシイ。



「はあはあ、ひいひい、ふうふう」
 無心で斜面を上がっていく。思った通り、すぐに汗が噴き出してきた。タオルでふきふき、1時間ほど登っただろうか。ようやく阿夫利神社の近くまで来た。



「やったぁ! あとちょっと」
 石段を登ると鳥居と下社が見えてくる。



 左に大山獅子が鎮座していた。



 お詣りを済ませて下界を眺めると、赤く色づいた葉が見えた。
「ああっ、紅葉してる! やった!」
「唯一なんじゃない」



 ゼロよりはいいけれど、今月末あたりが見頃とも聞く。休みと合わないところが憎い。
 わずかな紅葉を楽しんだ隣には、男性の像が立っていた。



「スキー板?」
 いやいや、スキーではなく木太刀と書いてある。大山詣りは日本遺産であり、江戸庶民の信仰や行楽の地として親しまれてきたとの説明に「うんうん」と頷いた。
 さて、ここからさらに富士見台まで上がらなければならない。少し休んだら出発だ。コンビニで買ったおにぎりを頬張り、元気をチャージしたところで、もうひと頑張りしなくては。
 目的地の少し手前に、夫婦杉という大きな木があった。



 見ているだけで、エネルギーをもらえるような印象がある。山のパワーはすごい。
「着いたー!」



 ここからは富士山がキレイに見える。



 雪化粧をしているが、これからもっと白くなるのだろう。
 居合わせた方が、山頂にもよいスポットがあると話していたけれど、私たちはここで引き返すことに決めている。山頂から見る富士山はまた今度。
「帰りは男坂から行ってみない?」
 幸枝の提案に「いいよ!」と答え、別のルートで下山する。
 こちらは予想と違って、石段ばかりの道だった。



 しかも急勾配ときている。女坂より所要時間が5分短いことに納得した。
 半分ほど下りてきたところで、年配の男性とすれ違う。急な石段を登ってきた彼は、私たちを見つけてすがるように話しかけてきた。
「いやあ、キツい、キツいよ~! まだまだ?」
「はい。あとしばらく続きますよ」
「うわあ、もっとかぁ~」
 ナビゲーターの幸枝が、慰めるように問いかけた。
「女坂だったら、途中に大山寺があるんですけどね。男坂には何かありますか」
「ないよ、何もない」
「あははは」
 話し相手がいたことに気をよくしたのか、男性はさらに続けた。
「男は男坂を歩くもんだと思って、こっちに来ちゃったんだ」
「えー、まさか」
「女坂に行くには手形がいるんじゃないの、はっはっは」
 LGBTQの時代にどこまで本
気かわからないが、陽気なオジさんだった。あの調子で山頂まで行くのかもしれない。
「着いた~」
 無事、バス停にたどり着き、伊勢原駅から家を目指す。
 スマホを見たら、万歩計は22,000歩を超えていた。結構な運動量だった。



 その夜はぐっすり眠り、翌日は筋肉痛に悩まされながら元気に働いた。
 山のパワーは偉大である。さすがは日本遺産。
 チャンスがあれば、来月あたり、また登りたい。

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イヴ・サンローラン展 人混みとの戦い

2023年11月12日 21時38分38秒 | エッセイ
 素敵なドレスが展示されていると評判の、イヴ・サンローラン展のチケットを買った。



 比較的空いているであろう平日に見ようと、仕事の予定を調整して休みを取る。
「国立新美術館周辺でランチできる店はないかなぁ」
 検索すると、正統派古典料理を提供するレソールというフレンチレストランにピピッときた。最近では、ホームページの写真や雰囲気で、当たりの店を判断できている。
 当日はシャンパーニュを飲みながら、ランチコースを堪能した。





 熊本の「菊鹿」という白ワインも美味しかった。



 この白は、豊かで深い味がして、口の中いっぱいにブドウが広がっていくところが素晴らしい。フレンチによく合う一杯だった。



 デザートもいただき、満足して国立新美術館に向かうと、予想以上に混雑している。平日でこの人出では、土日はどうなってしまうのだろう。壁の説明文も、人の背中に阻まれてスムーズに読めない有様だった。デザイン画などのこまごまとした作品には、順番待ちの行列ができている。
「もういいや。ドレスだけ見られれば」
 幸い、マネキンが着ているドレスやスーツは行列のすき間から見ることができた。パーティーに着ていけそうなもの、普段使いに近いもの、防寒できそうなもの、マニッシュなものなど、実に多様な衣装が展示されている。
 アルコールが入り、眠気に負けそうなことも理由のひとつだが、もっと大きな要因は人混みが苦手だからであろう。ランチの満足感があった分、展覧会への期待度が下がったこともよくなかった。自分のペースで動けず、行列に並んでノロノロと見て回るのが苦痛で、私はさっさと歩き始めた。少々離れた場所から、衣装の全体像がつかめればよい。
 以前、アドベンチャーワールドのパンダたちを見に行ったとき、ブロ友さんから「そんなにあっさり見終わるなんて信じられない」と驚かれたことがある。パンダもドレスもじっくり鑑賞したいと思っているが、人垣ができていると、とたんに面倒になってしまうらしい。ひと目見たあとは、とっととその場を離れることしか考えられない。さすがに撮影可のエリアでは写真を撮ったが、館内には30分もいなかったと思う。





 展示の顔となったワンピースもあった。








 こんな雑な見方をしても、目の保養になるし、心に残る言葉も見つかった。
「私の目標は巨匠たちと自分を比較することではなく、最大限彼らに近づき、その才能から学ぶことだった」
 21歳で鮮烈なデビューを果たし、4年後には自身のブランドを発表したイヴ・サンローラン。その40年後に引退するまで、世界のファッションシーンをリードしていたというのに、何と謙虚な姿勢だろう。
 アルコールと人に酔い、ボーッとした頭でも、氏の偉大さは伝わってきた。
 展示は12月11日までだ。
 私のように混雑した場所が苦手な方は、18時以降20時まで開館している金曜・土曜を狙うことをオススメしたい。

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『ミステリと言う勿れ』原作を読む

2023年11月05日 20時57分26秒 | エッセイ
 田村由美さんは大好きな漫画家のお一人だ。『巴がゆく!』でファンになり、『BASARA』はリアルタイムに楽しませていただいたが、就職やら育児やらですっかり疎遠になっていた。
『ミステリと言う勿れ』が映画化されたことで、今はこの作品を描かれていると知り、読みたくなってオンラインで取り寄せた。



 ページを開いたところで違和感に気づく。
「そうか、今まで読んだ作品は、女の子が主役だったからかな」
 この久能 整(くのう ととのう)君が、驚異的な記憶力と観察力で、いくつもの事件を解決しちゃうのだからビックリする。特に便利な暮らしに慣れている現代人は、記憶の代わりにデジタルを使った記録ですませ、対面から得られる情報に疎くなっているので、スーパーマンに見えるのかもしれない。
 1巻は「ふむふむ、なるほど」と軽く読めた。整君のすごいところは、自分の思考を余すところなく言語化できる能力だ。私も結構勘の働く方だが、どうしてそうなるかを上手く説明できなくて、「何となく」とか「適当に」などとお茶を濁すこともある。整君にはそういうところがなくて、バッサバッサと謎をぶった切って進んでいくところに憧れる。
 だが、2巻、3巻と進むにつれ、登場人物が増えて人間関係を理解するのに手間取り始めた。
「ああ、今日はもうやめておこう。頭がついていかない」
 整君の理路整然とした謎解きを堪能するには、自分の頭も整理しないといけないのだ。髪型だけ整えたって、頭の中がグチャグチャだと面白さが半減してしまう。いや、髪型だって乱れていると家族に指摘されたのだっけ……。
 ひとまず、昼間からスパークリングワインを飲んで、理解力が低下しているときはやめておこう。次は最初に読むであろう5巻を一番上にして、私は全巻を届いたときの段ボールにしまい始めた。続きは、アルコールが入っておらず、頭が働くときに読むことにする。
 うれしかったのが、巻末の「たむたむタイム」である。



 田村センセイのお人柄なのだろうが、仕事中の裏話などが描かれていて、いつもクスッと笑ってしまう内容になっている。久しぶりに再会して、独身時代に戻った気分になった。読み終わったら娘がこの漫画を読むので、母子2代で楽しませていただこう。

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