これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

夫婦対決

2010年03月14日 21時12分49秒 | エッセイ
 ようやく、話題の映画『アバター』を見ることができた。
 3Dということもあり、迫力があってとても面白かった。
 しかし、先日のアカデミー賞では、作品賞や監督賞を逃してしまい、気の毒に思う。ジェームズ・キャメロン監督も、さぞかし無念だったろう。
『アバター』に代わって6部門を受賞したのが、キャメロン監督の元妻であるキャスリン・ビグロー監督の『ハート・ロッカー』だったことは記憶に新しい。
 離婚した元夫婦対決は、女性側に軍配が上がったわけだ。オスカーに輝いた、初の女性監督に敬意を表したい。

 元でも今でも、夫婦で対決するとなると、なかなか辛いものがある。
 教員になってしばらくの間、私は女子バレーボール部の副顧問をしていた。キャリアの長いベテランの男性が正顧問だったから、技術的な指導はからっきしである。
 夫も別の高校で、女子バレーの監督をしていた。彼は、日体大のバレー部卒で、バレーボールの指導歴ウン十年である。
 お互いの高校が近かったこともあり、夫のチームと練習試合をすることも多かった。いつも、こてんぱんに負かされたものだ。
 しかし、あるとき、公式戦で夫の高校と対戦する破目になる。組み合わせが発表になったとき、私も夫も目を疑った。間の悪いことに、正顧問の奥さんが出産を控えており、試合には来られないという。
「笹木先生、大変申し訳ないけれど、代わりに監督をしてください」
 正顧問に頭を下げられ、私がどんなに慌てたか、おわかりになるだろうか。
 ちょうど3年生の引退試合で、ただでさえ責任重大なのに、夫の率いるチームを相手に戦えと言われたのだから。突如、回転性のめまいに見舞われた感じだった。

 勝てっこないよ……。

 夫婦対決がイヤで、どこか遠くに逃げてしまいたかった。
 家では、試合の話題が一切出ない。夫も私も、その話は避けていたのである。
 試合当日も、「じゃあ、あとで」程度のやりとりしかしなかった。しかし、コートの中にはやっぱり夫がいる。予定通り、戦わねばならないのだ。
 試合開始のホイッスルが鳴り、いざ勝負である。こちらの生徒は、その日、やけに調子がよかった。ミスも少なく、よく声を出して動いている。
 対する夫の生徒は、やたらとミスが多い。お見合いしてしまったり、サーブやスパイクが大きくラインを割ってしまったりという具合だ。
 そんなわけで、力の差は大きいのに、点数は僅差でこちらがリードしていた。

 そろそろ夫は、タイムアウトを取るだろう。選手に的確なアドバイスを与え、落ち着かせれば、たちまち逆転される。リードは一時的なものだと思ったほうがよい。
 しかし、夫は腕を組んでベンチに座ったまま、微動だにしない。あれよあれよという間に、波に乗った私のチームが、1セット目を取ってしまった。
 狐につままれた思いでコートチェンジをし、選手に言葉をかける。
「よく頑張ったね! 2セット目もこの調子でいこう!!」
「ハイッ!!」
 私は素人だから、実のところ、何がどうよかったのか、よくわからない。隣のコートをチラリと見ると、夫が選手を集めて、低い声で何やらささやいている。選手は下を向いたまま、「ハイッ」「ハイッ」と元気よく返事をしていた。

 次はやられる……。

 私はビビりながら、2セット目を迎えた。
 案の定、夫のチームが先制した。緊張がほぐれたのか、1セット目とは動きが違う。
 と思ったのはつかの間で、またもやミスが多くなってきた。サーブレシーブが乱れ、思うように攻撃できないようだ。相手チームのミスは、こちらのチームを勢いづける。
 徐々に点差を詰めていき、ついに逆転した。
 夫を見ると、1セット目と同じで、まったく動く気配がない。タイムもメンバーチェンジもなし。いつもだったら、「流れを変えないと」とあれこれ手を打ってくるのに、どうしたことだろう。
 とうとう終了のホイッスルが鳴り、私のチームは夫のチームにストレート勝ちしてしまった……。

 ビグロー監督と違い、私は運と、夫の手加減で勝たせてもらったようだ。
 聞くところによると、後日、夫は同僚に「あのときは、本当にまいった」とこぼしたらしい。
 勝っても負けても、夫婦対決は、神経がすり減るものである。




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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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16 コメント

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う~ん (さくれ)
2010-03-14 22:41:45
これは旦那さんの高校のバレー部員たちがかわいそうだな~。
ま、監督が平常心じゃないときは
自分たちでなんとかしなきゃいけないわけだけど。
旦那さんの高校の3年生たちにとっても引退試合だったろうに・・・と思うとね・・・。
なんてこった! (NAO)
2010-03-14 22:48:53
そんな対決もあるんですね(笑)
でも高校生ぐらいなら何が起きても不思議ではないですよ!!

そういえば、もう一つ師弟対決ってのもありますよね!自分が育てた卒業生が別のチームの監督っていう・・・

先生のチームに大差で勝ったのでアクシデントでもあったと思い先生のとこにいったら「すまん。俺は素人だったんだ。」といわれたそうです。その先生は何事も信じることが大切と教えていたそうです(笑)
キャメロン… (Yano)
2010-03-15 05:22:18
キャメロン監督が、ファンを軽視した発言をした事は記憶に新しいけど、映画ファンの心を掴むのは天下一品だね。一方、ビグロー監督作品では「K-19」が良かった。
同じ職業の夫婦だと、競争意識も強いもんなのかねぇ…。
たしかに (砂希)
2010-03-15 05:23:06
>さくれさん

さすがに、バレーをやっている方の目線ですね。
そうなんですよ、夫の学校の3年生は、有終の美を飾れなかったわけです。
監督の様子がいつもと違うので、戸惑ったのかもしれません。
夫いわく、「いつも注意していることが直ってなかったから黙っていた」そうですが…。
こちらの生徒も「えっ、いいの??」って感じだったし。
互角に戦える夫婦だったらよかったのに。
師弟でも… (砂希)
2010-03-15 05:29:18
>NAOさん

いや~、本当にやりづらかったです。
夫は多くを語りませんが、本気を出して家で気まずくなるのがイヤだったのではないかしら。
それとも、弱い者イジメと思ったのかも??
師弟対決では、師に勝てば「恩返し」って言うのかな?
「恩を仇返し」って気がしないでもないけど。
いずれにせよ、手加減するわけにいきませんね。
もう、私はバレーボールを10年以上やってません。
減点… (砂希)
2010-03-15 05:34:25
>Yanoさん

たしか、キャメロン監督の問題発言は、Yanoさんも日記に書いていたよね?
多少はアカデミー賞にも反映されたのかな???
昨日、『ハートロッカー』の予告を見たけど、何か重そう…。
見ようか、やめようか、迷っちゃう。
元夫妻は趣味が同じだったから結婚したのかな。
で、ぶつかることも多くて離婚したのではないかしら。
「あいつにだけは負けたくない」と思っていたら不幸だね…。
謎監督vs迷監督 (陽水)
2010-03-15 05:38:42
なかなか楽しそうな試合ですね(笑)
家の娘達は二人共バレーボールをやってたから試合は何回か観戦した事があります。
周りの観客はお二人が夫婦だと知ってたのかな?選手達は当然知ってたんだろうと思いますが…(笑)

監督の采配も大切ですが、今回は平素の練習での差が出たようで良かったですね(笑)

あっ、ところで二回戦は…(笑)
凄い(笑) (ジョバンニ)
2010-03-15 05:57:05

夫婦対決勝ったんですね
わからないものです

アバターは興行成績一位でしたが
最下位のハートロッカーにやられました

勝負は不思議です
二回戦(笑) (砂希)
2010-03-15 06:03:08
>陽水さん

観客は夫婦対決を知らないけど、選手は知っていたね。
夫は大会運営者の一人だったから、仲間の先生も興味深々で見ていたよ。
私は回りを見るゆとりがなかったな。
赤くなったり青くなったり、ハラハラドキドキもんでした。
2回戦?
次の試合はボロ負けよ(笑)
あとは好み? (砂希)
2010-03-15 06:07:35
>ジョバンニさん

ハートロッカーは、アカデミー賞に好かれそうな作品ですね。
キャメロン監督ばかりがとっても面白くないし。
今回の結果は、妥当な線かと(笑)
私の勝利は、予想外と受け止められました。
「えっ勝ったの?」なんて言われたりして。
勝たせてもらったってことは、ちゃ~んとわかってますよ。

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