つばた徒然@つれづれ津幡

いつか、失われた風景の標となれば本望。
私的津幡町見聞録と旅の記録。
時々イラスト、度々ボート。

枯れない花の物語。~ 椿姫。

2019年06月24日 22時59分49秒 | 手すさびにて候。
ほんの手すさび、手慰み。
不定期イラスト連載、第百十二弾は「椿姫」。

王侯貴族が、ダンスや会食の合間に、
外交、経済、政治などの話をする所。
中世フランスにおいて「社交界」とは、重要な会議場でもあった。

時は流れて19世紀半ば。
産業革命により経済構造が変化し、裕福な市民階級~ブルジョワが誕生。
事実上、新興勢力が社会の中核を担うようになる。
身分の壁に阻まれ、社交界への参画を許されない彼等が興したのが「裏社交界」。

男女同数が基本の社交界に対し、
男性だけが寄り合う「DEМI-МONDE」(ドゥミ・モンド/半分の世界)。
そこには、貴族も顔を出したという。
男たちの目当ては、サロンを彩る女たち。
優れた美貌、教養、知性、話術を兼ね備えた、最高ランクの娼婦たち。
取り分け「マリー・デュピプレシ」は、裏社交界に咲いた大輪の花だった。

濡れたような黒髪。
深く透き通った黒い瞳。
少女のような面立ち。
滑らかな肌。
細く華奢な身体。
上品な物腰で誘う胸元には、一輪の白椿。

“天使のよう”と囁かれた「マリー」に魅せられた男の一人が、
「アレクサンドル・デュマ・フィス(小デュマ)」。
そして、自身の体験談をベースに書かれたのが、かの「椿姫」である。

主人公は、一人の高級娼婦。
夜毎着飾りパーティーに明け暮れる毎日に疲れた彼女が、
偶然出会った青年と恋に落ち、足を洗ってパトロンと別れた。
好いた男と、貧しくも幸福な暮らしを営むが、次第に困窮し、生活は不安定に。
やがて、青年の父親から、息子と離別して欲しいと懇願される。
思い悩み苦しんだ末、彼の将来を慮って袂を分かち、元の稼業に復帰した。
自分の為に身を引いたと知らない男は、可愛さ余って憎さ百倍。
酷い仕打ちを繰り返すようになる。
失意のうちにパリを去った女は、結核を患い、独りで死んだ。
青年が真相を知るには、
恋人の遺した日記を開くまで待たねばならなかった・・・。

小説が出版された2年後、
「デュマ・フィス」自身が書いた戯曲が大ヒット。
「ヴェルディ」がスコアをつけたオペラ「椿姫」は、
今も人気ランキング入り確実なスタンダード。
映画、舞台、バレエ、ドラマと、何度もリメイクされ、
エッセンスを組み入れたキャラクター、演出は枚挙に暇がない。

「椿姫」の主人公も、モデルとなった「マリー・デュピプレシ」も、
共に結核に蝕まれ、若くして夭折した。
名花の命は長くなかったが、名作は永く受け継がれている。

【風も吹くなり 雲も光るなり
 生きてゐる幸福は 波間の鴎のごとく漂渺とたゞよひ
 生きてゐる幸福は あなたも知ってゐる 私もよく知ってゐる
 花のいのちはみじかくて 苦しきことのみ多かれど
 風も吹くなり 雲も光るなり。】
                    (作:林芙美子)
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