バーンスタイン指揮イスラエル・フィル(vibrato)1985/9/8東京live
モノラル膝録。歪み、情報量の少なさからリバーブをかけてもつらい音質。環境雑音は仕方ないが高音が弱く、弦楽器、肝心のヴァイオリンの音が遠く薄霧がかかったようで、音量変化すらとらえづらいのは残念。そんな状態なので細部は聴き取れないし音色も評価不能である。基本解釈は他の同時期の正規非正規盤と同じなので、それら幾分音のましなものを聴いたうえで、脳内補完できる人向けの音盤。この実演を聴いてバンスタにハマった知人が確かにいたが、ここで聴こえるものは実演とは程遠いと思われる。変な「伝説」に惑わされないほうがいい(この夜バンスタの枕元にマーラーが立ち「ありがとう」と言ったというが~当時そのての作文は多かった~アルマの枕元にすら立った記録がないのにありえない)。1楽章冒頭はそれでも迫力がある。物理的な迫力ではなく異様な音楽の始まる緊張感だ。マーラー9番としてはさすがのこなれっぷりでオケも演奏瑕疵のない点は晩年のバンスタの達していた境地を察して余りあるが、、、解釈は他と同じなので新味を感じず私は次第に飽きてきた。この時期にバンスタの導入していた(これは譜面改変なのだろうか)ヴァイオリンへの一部スルタスト奏法はここでも一応聴こえるが、ほとんどの人にはこの音では差がわからないと思われる。これ自体意味不明の「ミョ~ン」という効果を狙ったもので導入しないこともあったから、まあ聴こえなくても問題はない。細部はともかく、解釈はこなれており起伏に富んでなお自然な流れの寸断されない大きく有機的な演奏で、印象的には他の記録より激情に駆られて急激なテンポ変化など行う率が高く、しかしながらオケに一切乱れがないのは迫力の源である。三楽章でパチン系ではない音飛びがある。そしてこの後半楽章になると音質が一層不明瞭で、アンサンブルが明快には聴こえない。音楽そのものの力で押し通す前半楽章と違って構造的な魅力をみせる後半楽章は録音状態の影響を強く受ける。四楽章になるとさらに弦主体なので正直きつい。伸び縮みと流れを追うことしかできないが、その点でいうと異常に清澄で異常に引き延ばされた結部近くは印象に残る。余韻を無音部分含め全ておさめてからでいいのに、音は一応なくなってはいるが、あっさり切れて拍手カットなのは勿体ない(元のテープが足りなかったのだろうか、四楽章だけで30分超は長すぎではある)。以上、やはり既出盤で十分な録音であり、海外っぽくしておきながら国内焼き臭いこの盤の、そらぞらしい浮世絵ジャケを眺めながら、どこぞの音楽評論家の檄文でも読み返し、なんとなくその場にいたような気分になるくらいのものである。その場にいたのであれば、終演後に当日のライヴ盤を手売りされた気分で、あくまで思い出の記録としてとっておくのもよい。
<参考>バーンスタイン最後のマーラー9番記録について(現時点でのデータ)
NYP(65/12/16)、VPO(71/3live映像)、VPO(71/5/9live)、BPO(79/10live)、BSO(live)盤を承前として(一部疑義・編集・無編集版あり、以下含めまとめブログ参照)
1985年
・5/29-6/3ACO live編集版(stereo):DG
・8/25IPO テルアビブ、マン・オーディトリアムlive(stereo):Helicon(IPO) ☆これを聴きましょう
・9/3IPO大阪フェスティバルホールlive(stereo):LANNE、ETERNITIES※
・9/5IPO名古屋市民会館大ホールlive(stereo):LANNE、ETERNITIES※
・9/8IPO東京NHKホールlive(mono):VIBRATO(本盤)※
・9/12IPO東京NHKホールlive(mono):VIBRATO(2017/4発売)※
※来日公演(CD-R)。M9については4公演行われ、うち5,8日が評判となった。同曲は大阪万博時1970/8/29(大阪フェスティバルホール)9/7(東京文化会館)NYPとも来日公演を行っている。