湯・つれづれ雑記録(旧20世紀ウラ・クラシック!)

※旧ブログの一部コラム・記事、全画像は移植していません。こちらのコンテンツとして残します。

ディーリアス:別れの歌

2017年01月12日 | Weblog
サージェント指揮ロイヤル・フィル、王立合唱ソサエティ(EMI)1965版・CD

何度も何度も復刻されている名盤、ディーリアス晩年の大規模な合唱曲である。米国詩人ホイットマンの草の葉から「告別の歌」5曲、原文を読まずとも内容はそのものズバリ、大地と自然すべてのものへの惜別であるから、ググれば一部訳文も出ては来るが、曲だけ聴いてもよくわかるし、正直歌詞が聞き取れなくても気持ちがわかるくらいに詠嘆しっぱなしで、むしろ詩は曲に合わせて作られたのではないかとすら思うかもしれない。特定の人間との生々しい別離ではなく自然の中に自ずとあらわれた別れのことばを描写したホイットマン、これは船出の姿でディーリアス自身も海を好んだと言われるが、英語で書けばマーラーの大地の歌「告別」とおんなじになってしまうものの、自己憐憫だの陶酔だのとは隔絶している。唯一諦念を感じさせるピアニッシモは共通するかもしれないが、ディーリアスの半音階は決して諦めを示してはいない。その人生の中に現れて消えたドビュッシーの語法をすら取り込むスケールの大きな世界の中で、ひたすらに眼前にあふれる美と、それとの別れを惜しむのみだ。眼前に見えている「はず」の美。当然作曲はフェンビーが手伝っていると思われるが、他の晩年作と比べて幾分まだ壮年期の力が残っているというか、ただただ旋律、ただただ和声のずれ落ちていくだけ、というわけではない。一時期おなじく晩年作の「夏の歌」にハマった私だが、あれはかなり単純化された音楽で規模も小さく演奏次第というところもある。こちらは原詩の存在によりディーリアス自身に残る強い「あこがれ」の意志が具体性を帯びてフェンビーに伝わり、ダイレクトに音となっているのだ。そうして、誰が聴いても感傷を負うことを余儀なくされる、そういったものではないか。サージェントは手際の良さというよりも合唱団やオケの持つ輝かしい響きが既に曲の性向に合っているとしてそのまま丁寧にまとめ上げている。今や古びた音かもしれないが初演者であるという感情もそこはかとなく感じられる演奏である(サージェントにそのての感傷は似合わないが)。
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スクリアビン:ピアノ・ソナタ第5番

2017年01月12日 | Weblog
ヤコブ・ギンペル(P)(meloclassic)1956/2/22シュツットガルト南ドイツ放送スタジオ録音・CD

オカルトな世界へいっちゃう寸前のスクリアビンの魅力の詰まった単一楽章。冒頭から悪魔的な和音の迫力の求められる効果的な「ソナタ」だが、妖しい響き、蠢き、そのすべてが明らかな音でさほどスケール感を出さずにあっけらかんと出てきているのがポーランドの奏者というかアメリカで活躍した奏者というか、そんな感じがする。残響が繊細な音響の邪魔になる箇所もあるが、逆に残響を大仰に利用した起伏ある演出を施さずはっきり言えば即物的解釈のため、技術的不足はなく軽く聴けるものの物足りなさがある。娯楽映画のピアノを担当していたわりに抽象度が高く、陶酔表現も醒めたかんじで確信犯的で、クライマックスも作らない。登り詰めて断ち切れる、という迫力もなく、ちょっとフランス風だな、とも思った。
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フランク:ヴァイオリン・ソナタ

2017年01月12日 | Weblog
カルミレッリ(Vn)シュヌール(P)(melociassic)1966/1/10北ドイツ放送スタジオ録音・CD

さすが、冒頭から喫驚させていただける。いきなりの変な運指でフラジオ入れてくるとか、弦を選び音色にこだわるかと思ったら旋律は普通の現代ふうな明るい標準的な音(僅か不安定なヴィヴラートが艶にはなるが低いほうの倍音が出なくて何か軽い)、左手指が柔らかくて時にブレもあるがそれは表現手段のうち、また、運弓も面白くて、音の切り方が別に奏法都合というのではなかろう箇所でタッと、独特。普通はこう持っていくと盛り上がるだろう、というところは無視してさっさと通り過ぎるのに。オールドスタイルな感情表現ではなく、現代的な感情表現とでも言おうか、作曲家演奏家の演奏のようだ。ひょっとしたら録音のせいかもしれない、低い響きの無さが一寸気にはなるものの、言葉で物語るように進むレシタチーボ・ファンタジアは特徴的な音色をひけらかさない分、丁寧に聴かせていく力が強い。激性を示さずに高潔な表現をなそうとし、まあ高潔とまではいかないがじっくり聴かせる演奏に仕上げてくる。技術に胡座をかかず、何かを聴かせにかかってくるのがカルミレッリだ。さらっと、気軽な感じで終楽章の躍動、軽やかな春の陽気を感じさせる、意味性を敢えて込めず、そこから三楽章の暗いエコーが浮かび上がり、高らかな主題によって「成仏」する。こういうサラッと流れる四楽章もいいのではないか。明るい音色が活きてくる。一寸クライマックスを前に持ってきすぎて音量がマックスになりっぱなしに続くから、音色表現の幅のなさが一回性の録音特有の瑕疵とともに気になるところもあるが、一貫して速いインテンポで暗がりを作らないのは、フランクという作曲家の作品としてはアリなんじゃないか。肯定的な演奏…ラスト高音の音外しはご愛嬌。
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☆バルトーク:弦楽合奏のためのディヴェルティメント

2017年01月12日 | 北欧・東欧
◎タファネル・アンサンブル(ducretet thomson)

素晴らしい音なのである。この音はこの時代の演奏でしか聞けない。厚みのある、人の肌の温もりのある音。この太い音の艶だけでも飯一杯いける。弦楽合奏はこうでなくては。もちろんソリストが圧倒的な表現力を発揮しているがそれだけではない、合奏メンバー全員がその主張をあわせてスリリングな饗宴を繰り広げる。まさにディヴェルティメントだ。ぞっとする演奏というのがたまにはある。これはその一つだった。裏面のランドスキが目的だったのだが、この演奏でバルトークのローカリズムと前衛の融合という独特の世界が、けして我々の今生きている世界からかけはなれたものではないと感じた。面白い。◎。
Comments (2)
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ミヨー:2台のピアノと管弦楽のための協奏曲第1番

2017年01月12日 | Weblog
ジョワ、ロビン(P)ロザンタール指揮ORTF(ina配信)1972/1/31放送

最近思うところがあって聴いてないが、アイヴズを聴く私は「音の洪水」が好きである。音の奔流に有無を言わさず押し流されていくところに岩があって必死でしがみつく。洪水には秩序が無い。ミヨーをよく聴くのもそういう側面がある。アイヴズにせよミヨーにせよある程度独自の方法論に従って作曲してはいるが、聴く者に意図が伝わらない、伝えようとしていないところもある。この曲も相変わらず小洒落た細かい装飾音をなぜか「合奏」させてごちゃっと潰れて結局ノイズ化するようなところが多々見られるが、これはロザンタールの指揮技術とかオケの技巧的問題というものではなく書法的問題で、しかもミヨーはそういった無理のあるスコアを細部まで徹底しようとしていたのか、全オケが鳴る部分での豊満な不協和音にはミヨー特有の複調性が、一般人にはただの不協和音としか聴こえない、そういう事象は多作家のミヨーの作品の「多く」に共通する「問題」でもある。ただ、私にはなぜかそのノイズが心地いい。この作品もそういったわけで、ミヨー後年の凡作群の中では演奏機会のある方の佳作だが、その長さを耐えきれるか、唯一の「すがる岩」としての明確なメロディが(いつものような1楽章冒頭だけでなく)3楽章にも表れるので、爆ぜるように奏でる二台(二台必要なのか?)のピアノの美音とともに楽しめる要素はある。ロザンタールなので発散的で色彩的なのが逆にミヨーの(普通の耳からすると)悪いところを助長することになっているが、そこはそれ、各楽器のはなつ美音でなんとか。良好なステレオ。
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ドヴォルザーク:チェロ協奏曲

2017年01月12日 | Weblog
◎マキュラ(Vc)ローター指揮ベルリン交響楽団(opera/richthofen)1958

名演。冒頭から掴まれた。このソリストの全てにおける安定感、オケの高潔で見事な出来栄え、すべてが調和し、確信に満ちた奇跡的なステレオ録音だ。ドイツ臭さもロシア臭さもない、万人に勧められる。良好な状態の原盤であろうが板起こしでパチパチが入るのはいかにも惜しい。解釈は三楽章前半までサラサラあっさりめだが、表情付けはけして譜面をなぞるだけではなく、音量、音色の変化によってテンポ変化に頼らない表現をなしている(テンポ感自体は素晴らしく良くリズムが切れている)。音が太いだけで押し切るのもいいが、細い音は細い音なりの繊細な魅力がある。
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