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No771『奇跡』~こどもたちのエネルギーが漲る~

金曜の晩、1週間分の疲労がまるで奇跡のように薄れ、
スクリーンを前に、目も冴え、
子どもに戻った気分で、最初から最後まで釘付けになった。

主人公に“まえだまえだ”という子どものお笑いコンビを迎える。
映画初出演の二人の奮闘ぶりがすてきだ。
この頃のおしょうゆ顔の子どもと違って、
兄はむっちりした体格で、田舎の朴訥な少年というふうの顔。
弟は、落ち着きがなく、始終テンションが高く、前歯も抜けている感じがいい。

両親が離婚し、鹿児島の母のところに兄が、福岡の父のところに弟が引き取られ、
別れて住む二人。
九州では、折りしも九州新幹線の開通を直前にひかえ、
兄は、北からと南からと双方の一番列車がすれちがう瞬間に奇跡が起き、
願い事がかなうという噂を聞く。

兄は、家族4人がそろって生活できるよう願うため、
新幹線の中間地点に行こうと弟に言い出し、
それぞれが仲間たちと旅の計画を練る。

子どもたちが何よりすばらしい。
弟の友達は女の子ばかりで、女優を目指す少女や絵を描くのが大好きな少女と、
夢を追いかける姿がいい。
小学6年生の兄には、犬を大切に飼う友達、少し育児放棄ぎみの家庭らしき友達がいるが、
映画は、それぞれの家庭の事情に深入りはしない。
なんとなくいつもつるんでいる感じがおもしろく、
どこか孤独を抱えた少年たちがそこにいる。

映画は、兄弟の家族の物語を軸に、
さ迷える子どもたちの心情に寄り添う。
子どもたちが思い思いに、奇跡について語る場面は生き生きしていて、
ドキュメンタリーのようで、最も印象に残るシーン。

むこうみずな鉄道の旅は、まさにロードムービーで、
見知らぬ老夫婦の存在と、軽トラックで送ってもらうロングショットといい、
現実的な部分とファンタジックな部分との混ざり具合がいい。

兄弟の父役のオダギリ・ジョーはミュージシャンを目指しながら働いており、
母役の大塚寧々は、離れて住む息子を思って泣いたり、
菓子職人の祖父、フラダンスを習う祖母と、
大人たちも試行錯誤しながら生きている姿が描かれる。

新しい生活にすっかり慣れた弟のちゃらんぽらんさ、明るさと対照的に、
兄は、鹿児島の火山灰に慣れることができず、
こんな噴火する山のすぐそばに住むこと自体、理解できず、
「わけ、わかんねえ」と繰り返す。
一刻も早く、家族一緒に大阪で暮らしたいと願い、
弟の明るさに苛立つ。
この兄の不機嫌さ、憂鬱が、クライマックスではじける。
旅を終え、自宅に帰って、いつものようにベランダに出て、
火山灰を感じた時、
兄の憂鬱が薄れていることに気付く。
大人になりかけの前夜のような悩み多き年頃の、素直でまっすぐな心。
悩みながら懸命に生きる姿が心にしみる。

新幹線が通り過ぎる前の無音の時間や、一斉に叫ぶ姿がすてきで、
目頭が熱くなる。
そうして、帰途に着く子どもたちの足取りを伝えるカメラ。

是枝監督は、児童虐待を描いた『誰も知らない』に比べれば、
自然体で、肩肘張らずに撮っているようで、まっすぐ心に入ってくるように感じた。

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