goo

No1018『白夜』~70年代パリの街の空気を吸う~

「なぜ、あなたをとても好きなのかわかる?
私に恋してないからよ」

“痛い”セリフだ…。
片思いの切なさを一言で言い当てたかのごときヒロインの言葉に、
そういうものよね、と少し救われたような気持ちになりつつも、一層切なくなる。
フランスのブレッソン監督の1971年の作品。

恋をする青年と、恋を忘れようとする少女。
二人が、夜のパリの街を歩き回る4日間がメインに描かれる。

少女マルトは、本当にきれい。
白いパフの袖のブラウスに、黒いマントのようなコートがすてき。
きゃしゃな顔と首、整った目鼻立ちで、観ていてうっとりする。

夜半、ポンヌフの橋から飛び降りようとしたマルト。
やめるように止める青年ジャック。
二人は、そんなふうにして出会う。

マルトは一年前に、留学して去って行った恋人のことを想っている。
1年後に、この場所で会おうという約束を忘れず、待っていたが、
恋人は現れず、身を投げようとした、とジャックに語る。
ジャックは、そんなマルトに心ひかれ、
一緒に待とうと、連日会う約束をする。
そうして、4つの夜を重ね、二人の距離が、少しずつ縮まっていくようにみえる…。

白く、きゃしゃなマルトの首に巻かれる赤いスカーフに象徴されるように、
一つひとつの映像が、絵のように美しく、
詩心に満ちている。

二人が、パリの街を歩きまわる時、
あちこちの街の片隅で、見知らぬ若者たちが音楽を演奏している姿がとらえられる。
これがすばらしい。
道端でギターを弾く青年と、歌う女性。
ちょうど、私たち観客も、一緒にそこにしゃがみこんで、音楽を聴いているかのような
気持ちにさせられる。
音楽を奏でる若者たちのあたたかい心が伝わってくるよう。
偶然出会ったように、みずみずしく、街の一端が切り取られる。

なかでも、船上のバンドのシーンは秀逸。
ライトアップした船が、ふいにセーヌ河を滑り降りてくる。
カメラは、その船上の小さなバンドの音楽をアップで映すが、
これがまた、若者たちが演奏している姿もいいし、音楽もいい。
カメラが、いきなり、わけもなく、ぽっとその船上へと移る感じに驚きつつも、
夢心地とは、このことで、ただもう美しいかぎり。

ブレッソン監督は、難解なイメージがあったが、これは大丈夫。
なんといっても、映っているのは、「恋する男」と「恋する女」だから。

でも、ただの恋の映画じゃあない。
街の空気が映っている。
恋する想い、切なさが映っている。

街を歩く人々の足音、街の気配。
70年代で、フィルム上映というせいもあるのだろうか、
少しざらざらした感じが心地よい。

人の顔よりも、人が持っている物、靴、カバンや、ドアノブと、
人より、物にカメラがいくのが、ブレッソン監督のおもしろさ。

恋に恋する感じの孤独な青年ジャックもいい。
街のあちこちに、「マルト」の名前の店や船を探し、
「マルト、マルト」とつぶやいてみる。

何度でも観たい、味わい深い作品。
フィルム上映が実現したことに、心から感謝。

家に帰って、鞄を整理していたら、前売券が見つかった。
以前買ったのをすっかり忘れていた。
もう1回観に行くつもりだったので、
いい映画なら、こういうポカも歓迎。

大阪は、空中庭園ビルの梅田ガーデンシネマで上映中。
来年には、京都シネマ、神戸KAVCと上映が続きますが、
これは、フィルムで必見です。

『白夜』公式サイト(船上の音楽の解説、予告編あり。でも、本編の方が断然美しいです。当たり前ですが)

 

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« コメディ学入... No1019『永遠... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。