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No1128『女っ気なし』~シルヴァンに会いたくて~

先週の土曜日、ちょっと風邪っぽいなあと思いながらも
シルヴァンにもう一度会いたくて、
空中庭園ビルのドイツクリスマスでにぎわう人混みをすり抜けて
ガーデンシネマに足を運んだ。

およそ映画の主人公にはなりそうにないシルヴァン。
太っちょで、ちょっとはげてて、たれ目で、内気そうで、自信なげで、
ルックスはいまいち。
でも、とっても優しくて、気立てのよい青年。
お菓子が大好き。

シルヴァンが、フランスの田舎の町で
女の子との出会いもないまま、ひとり暮らしをしていたある夏、
バカンスにやってきた母娘と知り合う。

明るくて陽気で美人の母と
おとなしくて、きゃしゃで、繊細で、傷つきやすい感じの娘。
この娘役の女優さんコンスタンス・ルソーがとてもすてきで、
大ファンになりました。
これからの活躍が注目です。
彼女を観るために映画館に駆け付けてもらってもいいほどの魅力。

内気な彼女がパリに帰る最終日の夜、
やっとのことで勇気を振り絞って、
別荘の管理人のシルヴァンの家に、
インターネットを使わせてと言って、一人でやってきます。
でも、パソコンなんて、ほとんど使ってなくて、
実は、シルヴァンに会いたくて、とわかってくる。

シルヴァンが、会話に詰まって、いちごを薦める。
次のシーンが映る一瞬手前に、ジュルジュルという音が聞こえてくる。
何かと思えば、
マヨネーズのようなプラスチックの容器から、生クリームを絞り出すシーン。
シルヴァンは甘いものが大好きなのでしょう。
いちごが埋まってしまうほど、たっぷりと生クリームをかけて、
娘にあきれられる。
おまけに、砂糖までたっぷりかけて、
優しい娘は、おいしそうかもと、言って微笑んでいる。

こんなふうに、シルヴァンはシルヴァンらしく、
このあと、二人は一夜をともに迎えるのですが、
二人のぎごちない会話といい、娘のありったけの勇気といい
とても初々しくて、いい感じです。

朝を迎え、娘はそっと出ていく。
パリに帰るためですが、前夜、ちゃんと娘はシルヴァンのメアドを聞いているから
きっと二人の絆は続くはずと、観客は安心して
見守ることができます。

シルヴァンは寝たふりをしながらも、彼女が部屋を出ていくと、
彼女の眠っていた枕に頭をのせ、
その残り香を深く吸い込むようにして
つぶらな瞳をきらきら輝かせ、とても幸せそうな笑顔をみせます。

娘は母とともに、バスに乗って、街を去って行きますが
車中で、母の肩によりかかりながら、娘の見せる切ない表情もすてきで、
シルヴァンに突然舞い降りた幸せに、
思わず心から拍手したくなりました。

併映の『遭難者』でのシルヴァンもいい感じです。
最初の登場シーンからして楽しく、
サイクリストのリュックが自転車がパンクして、道端で修理していると
車が止まり、大丈夫かと、運転していたシルヴァンが声をかける。
彼はお菓子を食べていて、リュックに、差し出す。
初対面の見ず知らずの男にお菓子を薦めるのもおかしいですが、
一切れとったリュックに、
もっととってくれ、あると食べ過ぎてしまうから、と
シルヴァンはさらに薦めます。
このセリフがなんとも味があって、シルヴァンの性格を伝えて楽しい。

結局パンクした自転車をひいて、リュックは街でシルヴァンに再会します。
飲み屋で一緒に飲んで、最終列車でパリに帰るという彼を
シルヴァンは駅まで送るからと言いながら、
なんとビールを飲んでいるのです。

次のシーンは、いきなり、車の検問で、
風船に息をはいているシルヴァンの姿。
もちろん、結果はクロ。
リュックは最終電車に間に合わないと警官に文句をいいますが
警官は聞く耳を持たず、車ごと没収。
この省略具合には、思わず笑ってしまいます。

ささやかな出会いは、ちょっとした波乱万丈を経て、
再び、2人は、いっしょに飲んだり食べることになるのですが、
その展開は、とてもゆるりとしているものの、いい感じです。
こんなふうに人と人がつながっていけたら、すてきとも思います。

おせっかいなシルヴァンは、勝手にリュックの携帯電話を見て、
恋人あてに、早く来てくれなんてメールを打ち、再びリュックに激怒され、
事態は混迷を極めますが、
最後は、リュックと恋人とがなんとなく、関係を修復していく可能性を示唆するシーンで
終わります。

パン屋の太っちょのおばあちゃんといい、親しみの持てる脇役さんばかりで、
観終わって、なんだか、あったかい気分を分けてもらえるのは、
シルヴァンの性格のよさのせいでしょう。
私も、あんなふうに、ほんわかした、寛容で、あったかい人になりたーいと
思いました。

と、やっと風邪が治りかけて喜んで夜更かししながら
シルヴァンの想い出にふけりつつ、
風邪なんて治ったと思いこめば、治るはずと信じて。

(C) Annee Zero - Nonon Films - Emmanuelle Michaka

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