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No681『ヒア アフター』~生に向き合う力へと転化する来世観~

タイトルは、死後の世界、あの世、という意味で、
クリント・イーストウッド監督の最新作。
ホール試写で、一足先に見ることができたので
ご紹介したい。

『インビクタス/負けざる者たち』で、
ラグビーチームを率いる主将を華々しく演じたマット・デイモンが
死者と対話できる力、才能ゆえに、暗い過去を持ち、
心を閉ざしてしまったジョージを演じる。
何もかもから逃げて、ロンドンを訪ね、
好きな作家ディケンズの博物館を見学する姿や、
ブックフェアの会場を訪れ、人ごみの中をさまよう姿は
本当にどこにでもいそうな平凡な一青年で、その変わりように驚く。

タイトルから連想されるものとは違い、
描かれるのは、あくまで、今を生きる3人の姿。

霊媒の才能を呪いだと嫌悪する、孤独な青年ジョージ。
津波で体験した臨死体験を突き止め、発表することで
逆に、恋人やキャスターの仕事を失うジャーナリストのマリー。
双子の兄を交通事故で亡くし、死後の世界に引き寄せられる少年マーカス。

マーカスとジョージが出会い、
二人が対話するシーンがすばらしい。
兄に会いたい、僕を一人にしないでと切望するマーカスに
ジョージは、
いつも一緒にいる、離れない、僕はお前であり、お前は僕なんだと
兄の言葉を伝える。
この言葉が、心にしみた。

身近な人、愛する人の、突然の死のショックで
生きることを見失い、
今、自分の周りにいる人たちとも向き合えなくなってしまった人たちが
出会いを通じて、
再び、“生”に目を向けられるようになるすばらしさ。

孤独が深いほど、心の傷が深いほど、
つながること、出会うことの喜びは大きい。

ジョージのように、生き続ける事で、
運命の相手とも、いつか出会うことができるかもしれない。
いや、その相手は、既に自分自身の中にいて
気付かないだけかもしれない。

死後の世界なんて、誰にも決して分からないし、
何を信じるかも、その人の自由。
死後の世界について、考え、発言することで
変な人だと偏見を抱かれる社会も、おかしい。
死は身近だし、
死後のことについて考えることは、生きる力にもつながるはず。

どんな悲しい別れを経験しても、つらい体験をしても
生き続けるためにこそ、来世観があるはず。

冒頭の津波のシーンをのぞいては、派手なシーンもなく、
今までのクリントの
劇的なドラマ性のある作品に比べると、
物語自体の求心力は弱いかもしれない。

でも、地味だけれど、深い余韻が残り、
いろいろ考えさせられるところも多く、
期待を裏切らない。
静かに静かに、打ち寄せる波のような深い感動を呼ぶ。

偏見を受けかねないのも承知のうえで
この大胆なテーマに挑んだクリントはやはりさすが。

実は、この死にまつわる脚本を彼に薦めたのは
スピルバーグ(製作総指揮)で
クリントの感性に訴えるものがあると思ったそうだ。
クリントも、3人のストーリーに奥行きがあり、
つながっているところも気に入ったとか。

音楽をクリントが担当していて、
やっぱりエンドロールの音楽がすばらしかった。

それなのに、
物語が終わるなり、エンドロールは続いているのに、
携帯のスイッチを入れて、しゃべりながら出て行く
試写会場のおばちゃんたち…(涙)
2月19日の公開以後、もう一度、劇場でぜひ再見したい。
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